世論調査「自民圧勝」につきまとう「違和感」の正体

「泣きっ面に蜂」の中道が絶対に譲れない選挙区, 代表が「8億円借金」でも勢いに欠ける国民民主党, なおも健在なれいわ新選組・山本代表の熱量, 世論調査の数字と乖離する現場の体感

世論調査の結果を見る限り、「高市旋風」が吹き荒れている衆院選。だが、現場で取材を続ける政治ジャーナリストの体感は「自民圧勝」とは異なるようだ(写真:ブルームバーグ)

衆議院選挙の選挙戦も終盤に入り、各陣営は必死の形相だ。

【写真あり】公明系から「仏敵」認定された自民党議員とは? 国民民主・玉木代表には疲労の色も

各社調査で「優勢」と出ている自民党も、高市早苗首相のNHK「日曜討論」ドタキャン騒動を抱えている。2月1日には東京27区に出馬する候補者のネット討論会で「消費税12%」問題が飛び出し、それが炎上。自民党は火消しに走った。それでも、2月3~5日に行われた毎日新聞の調査によれば、自民党は単独でも300議席を超える勢いだ。

「泣きっ面に蜂」の中道が絶対に譲れない選挙区

一方、立憲民主党と公明党が結成した中道改革連合については、「公示日前の議席数を大きく下回る公算が大きい」と苦戦を予想。1月31日と2月1日に行われた朝日新聞の中盤調査では、「中道改革連合の議席数は半減する可能性がある」とされている。

さらに、野田佳彦共同代表をはじめとして安住淳共同幹事長や岡田克也元外相など選挙に強いと定評の大物議員たちが、自民党の相手候補に「追い上げられている」との報道もある。思わぬ苦しさに斉藤鉄夫共同代表は、4日放送のBS番組で「衝撃を受け、落ち込んだ」と吐露した。

公明党と立憲民主党が生き残りを懸けて新党を結成したはずなのに、「1+1=2」になるどころかマイナスになるとしたら、何のために新党を結成したのかわからない。

しかも、公明党系は小選挙区から撤退して比例区に特化し、当選可能な各ブロックの上位を占める。これに対して立憲民主党系は、小選挙区で落ちたうえに比例区で救済される可能性が小さくなれば、まさに泣きっ面に蜂になってしまう。

そこで1月31日に「公明重点区」リストが作成され、108の小選挙区に創価学会票を重点的に投入することになった。ただし、選挙区によってその支援に濃淡は出てくる。

例えば、平沢勝栄氏の東京17区や萩生田光一氏の東京24区は、公明系にとって絶対に譲れない選挙区で、並々ならぬ力が入っている。

「泣きっ面に蜂」の中道が絶対に譲れない選挙区, 代表が「8億円借金」でも勢いに欠ける国民民主党, なおも健在なれいわ新選組・山本代表の熱量, 世論調査の数字と乖離する現場の体感

東京17区から立候補している平沢勝栄氏(左)と、同24区から立候補している萩生田光一氏(右)。いずれも公明系にとっては負けられない相手だ(左写真:時事、右写真:ブルームバーグ)

平沢氏は1996年と2000年の衆院選で公明党の山口那津男元代表を打ち負かし、山口氏は参議院に転じざるをえなかった。平沢氏はそれ以来、公明系から「仏敵」と見なされてきた。

また、創価大学などの施設を抱え、創価学会の牙城と言える東京24区で過去7回当選してきた萩生田氏は、22年に週刊誌によって統一教会との関係が暴露されたうえ、派閥の裏金問題で18年から22年まで2728万円が政治資金収支報告書に記載されていなかったことが発覚。これが、それまで萩生田氏を支持してきた創価学会の逆鱗に触れてしまった。

「なんとしても勝たなくてはいけないのはこの2つの選挙区で、相手はまさにわれわれの“敵”だ。これに、前回の衆院選で岡本三成共同政調会長が議席を獲得した東京29区、創価学会本部や公明党本部がある東京1区を加えた4つの選挙区にとくに力を入れている」と、ある創価学会関係者は打ち明ける。

実際、山口氏は2月2日と6日の2度にわたって東京24区に入り、中道改革連合の細貝悠氏を応援。片や萩生田氏は、6日の演説会に東京都の小池百合子知事を招くなど、まるで「世紀の戦い」といった様相だ。

代表が「8億円借金」でも勢いに欠ける国民民主党

このように自民党と中道改革連合が明暗を分けた戦いを繰り広げる一方で、昨年の参院選で大躍進した国民民主党や参政党はどうなのか。

2月4日午後2時半、新宿駅西口のヨドバシカメラ前に停めた街宣車の上にいたのは、昨年の参院選で初当選した国民民主党の奥村祥大氏と新宿区議の金久保奈々子氏。しかし平日の昼間のせいか、足を止める人は多くなかった。

間もなく黒いワゴン車が滑り込み、国民民主党の玉木雄一郎代表が出現。街宣車の上に登り、演説を始めた。

聞き入る人の数はやや増え、その多くは街宣車の上の玉木氏にカメラを向けた。だが、昨年の参院選や一昨年の衆院選のような熱気は感じられず、声を出しづらそうな玉木氏の表情には疲労の色さえ見えた。

玉木氏は今回の衆院選のために金融機関から8億円を借り入れ、比例単独の2人を含めて104人を擁立。だが、前述の朝日新聞の中盤情勢調査では「比例区で公示前の16議席を固めたが、小選挙区では伸び悩み」との見通しが出た。目標の51議席にはほど遠い。

さらに、JNN(ジャパン・ニュース・ネットワーク)の終盤調査でも、24年の衆院選の28議席に及びそうにないという。

「泣きっ面に蜂」の中道が絶対に譲れない選挙区, 代表が「8億円借金」でも勢いに欠ける国民民主党, なおも健在なれいわ新選組・山本代表の熱量, 世論調査の数字と乖離する現場の体感

国民民主党の玉木代表(左)と参政党の神谷代表(右)。両党との直近2回の国政選挙で躍進したが、今回はどうか(左写真:時事、右写真:ブルームバーグ)

190人を擁立した参政党は、小選挙区では5議席を含む30議席、比例区では950万票の獲得を目指すが、朝日新聞の中盤情勢調査では「比例区で10議席前後をうかがうが、小選挙区では厳しい」とされた。

それでも神谷宗幣代表は2月1日に新宿アルタ前でマイクを握り、「私は今日、体で感じましたよ。参政党への風向きが変わりました!」と元気よく叫び、集まった支援者たちを鼓舞した。

なおも健在なれいわ新選組・山本代表の熱量

国民民主党も参政党も直近2回の選挙では自民党から票を奪って躍進したが、自民党の顔が高市首相となった今回の衆院選では、それを期待することは難しい。

しかし国民民主党は、ともに連合(日本労働組合総連合会)を支持母体とする立憲民主党の層に食い込むことは可能で、実際に福井1区などに独自候補を擁立し、それが中道との軋轢となっている側面もある。

また参政党は、「既存のシステムへの対抗」という意味でれいわ新選組と共通項を持つ。そのれいわ新選組は、今回の衆院選の公示直前に山本太郎代表が参院議員を辞職し、代わりに党首討論に出席した大石晃子氏の言動が問題視されるなど、勢いを欠いていた。しかし山本氏が5日夜に池袋駅前に登場し、3000人近くが集まった。

「泣きっ面に蜂」の中道が絶対に譲れない選挙区, 代表が「8億円借金」でも勢いに欠ける国民民主党, なおも健在なれいわ新選組・山本代表の熱量, 世論調査の数字と乖離する現場の体感

衆院選初の演説に臨む、れいわ新選組の山本太郎代表(写真:時事)

その3日前には同じ場所で国民民主党の玉木代表が演説を行ったが、街宣車の前にひとかたまりが集まったにすぎなかった。一方で山本氏の演説が開始する15分も前に、会場の駅前広場は埋め尽くされた。山本氏は「これが遺言だと思って」と冗談を交えながら、午後8時までの45分間たっぷりと「山本節」を聞かせている。

参政党とれいわ新選組との間には保守とリベラルという大きな思想の相違が横たわるが、両党に共通する「既存のシステムへの対抗」に共感する人々が、参政党かられいわ新選組へと投票先を変える可能性も否定できない。

世論調査の数字と乖離する現場の体感

こうした流れからわかるのは、各政党間で重なっている支持層内で支持政党が移動しているように映る点だ。

自民党から国民民主党や参政党へ流れた保守層の一部は、高市政権の発足で自民党に復帰。共産党かられいわ新選組などに流出した支持層の一部も戻ってきている様子だ。

中道改革連合については、短期間の新党結成に支持者が追いついていない印象で、終盤の数日で巻き返す可能性もある。そして、自民党から国民民主党や参政党に行ったものの、既存政党に嫌気がさしている層は、チームみらいに投票する傾向がうかがえる。

また、減税日本・ゆうこく連合は現有議席を維持するだろうが、さほど広がる様子はない。日本保守党や社民党も固い支持層を持つものの、新しい支持者の獲得は難しい。

とはいえ、今回の衆院選で最も特徴的な点は、世論調査の数字と実際に現場取材で得た体感が乖離していることだ。2月8日夜には、どのような結果が出てくるのか。クライマックスはこれからだ。