人が死ぬとき 最期の1週間に何が起こるのか ~穏やかな時間のために家族ができること~

第1部:最期の1週間にみられる主な身体の変化, 食事や水分の量がだんだんと減ってくる, うとうとと眠っている時間が長くなる, 呼吸のリズムが不規則になってくる, 手足が冷たくなり、皮膚の色が変わってくる, おしっこの量が減り、色が濃くなる, 【特に注意したい】死が間近(数時間~数日)に迫ったときのサイン, 第2部:穏やかな時間を支える家族の関わり, 「ただ、そばにいる」ことの力, 心のこもったコミュニケーション, 優しい「タッチング」, 環境を整える工夫, 口腔ケアなどの心地よいケア, 本人の意思と尊厳を尊重する姿勢, 第3部:つらい症状が見られたときの対応, 第4部:よくあるご質問(Q&A)

人が死ぬとき 最期の1週間に何が起こるのか ~穏やかな時間のために家族ができること~

皆さん、こんにちは。緩和ケア医の廣橋猛です。

「家族を守る処方箋」をお読みいただき、ありがとうございます。今回のレターでは、「人が死ぬとき、最後の1週間に何が起こるか」についてまとめていきます。なぜ、この情報が皆さんにとって大切なのでしょうか。

第1部:最期の1週間にみられる主な身体の変化, 食事や水分の量がだんだんと減ってくる, うとうとと眠っている時間が長くなる, 呼吸のリズムが不規則になってくる, 手足が冷たくなり、皮膚の色が変わってくる, おしっこの量が減り、色が濃くなる, 【特に注意したい】死が間近(数時間~数日)に迫ったときのサイン, 第2部:穏やかな時間を支える家族の関わり, 「ただ、そばにいる」ことの力, 心のこもったコミュニケーション, 優しい「タッチング」, 環境を整える工夫, 口腔ケアなどの心地よいケア, 本人の意思と尊厳を尊重する姿勢, 第3部:つらい症状が見られたときの対応, 第4部:よくあるご質問(Q&A)

はじめに

大切な人の最期が近づくとき、そばで見守るご家族は「これからどうなるのだろう?」と、大きな不安を感じるのは当然のことです。その気持ち、痛いほどよく分かります。私たち医療者にとっても、お一人おひとりの最期は、いつも身が引き締まる思いで向き合っています。

多くの場合、ご家族にとって、誰かの最期に立ち会うのは初めての経験です。これからの変化を知らないと、変化が訪れるごとに『これで大丈夫だろうか』と不安ばかりが募ってしまいます。でも、前もって何が起こるかを知っていれば、『ああ、先生が言っていた通りになってきているな』と、少しでも落ち着いてその時を迎えられるかもしれません。

もちろん、知ること自体に怖さもあるでしょう。けれど、それ以上に知識は皆さん(ご家族)の味方になります。なぜなら、知らないままだと、良かれと思ってした余計なことが、かえって大切な人を苦しめてしまうかもしれないからです。

この記事では、人が旅立つ前の最期の1週間ほどに起こりうる主な変化とその理由、そしてご家族に何ができるのかを具体的にお伝えし、穏やかな時間を過ごすためのお手伝いができればと考えています。

緩和ケアは、病気と闘うご本人だけでなく、支えるご家族のつらさにも寄り添う医療です。これからお話しすることは、多くの場合、身体が自然に旅立ちの準備を始めるプロセスの一部であり、穏やかに進んでいきます。

ただし、これはあくまで一般的な経過であり、お一人おひとりの状況によって現れる変化や時期は異なります。そのことを心に留めながら、読み進めていただければ幸いです。

第1部:最期の1週間にみられる主な身体の変化

死が数日から1週間ほどに近づくと、身体にはいくつかの特徴的な変化が現れ始めます。これは異常なことではなく、身体が活動を終え、穏やかに休息へと向かうための自然な準備段階と捉えることができます。

食事や水分の量がだんだんと減ってくる

最期が近づくと、多くの場合、食欲や喉の渇きが自然と薄れていきます。食べ物や飲み物をあまり欲しがらなくなり、召し上がったとしても、ほんの少量になることが多いです。時には、飲み込むこと自体が難しくなり、むせたり、口の中に含んだままになったりすることもあります。

これは、身体全体の活動がゆっくりになるにつれて、生命を維持するために必要なエネルギーや水分量が自然と減ってくるためです。消化する力や飲み込む力も弱まってくるのです。

ご家族としては、「食べないと弱ってしまうのでは」「脱水になるのでは」と心配になるお気持ちは、本当によく分かります。しかし、この時期に無理に食べさせたり飲ませたりすることは、かえってむせ込みや吐き気、体のむくみ(浮腫)や痰の増加などを引き起こし、ご本人を苦しめてしまう可能性があるのです。

この時期に大切なのは、栄養を摂ることよりも、ご本人が「心地よい」と感じるケアを優先することです。もし本人が何かを欲しがれば、アイスクリームやゼリーなど、口当たりの良いものをスプーンで少量だけ差し上げ、そうでなければ無理強いはしません。唇や口の中が乾燥しないように、水や保湿ジェルなどで湿らせたガーゼやスポンジブラシで優しく拭ってあげるケア(口腔ケア)は、不快感を和らげるためにとても大切です。同様に、この時期の点滴(人工的な水分・栄養補給)も、必ずしもご本人の安楽にはつながらず、むしろ苦痛を増やす可能性もあるため、ご本人の状態を見ながら、その必要性を慎重に検討すべきです。

第1部:最期の1週間にみられる主な身体の変化, 食事や水分の量がだんだんと減ってくる, うとうとと眠っている時間が長くなる, 呼吸のリズムが不規則になってくる, 手足が冷たくなり、皮膚の色が変わってくる, おしっこの量が減り、色が濃くなる, 【特に注意したい】死が間近(数時間~数日)に迫ったときのサイン, 第2部:穏やかな時間を支える家族の関わり, 「ただ、そばにいる」ことの力, 心のこもったコミュニケーション, 優しい「タッチング」, 環境を整える工夫, 口腔ケアなどの心地よいケア, 本人の意思と尊厳を尊重する姿勢, 第3部:つらい症状が見られたときの対応, 第4部:よくあるご質問(Q&A)

うとうとと眠っている時間が長くなる

日中も眠っている時間が長くなり、1日のほとんどを寝て過ごすようになることも珍しくありません。声をかけてもすぐに目を開けなかったり、反応がゆっくりになったりすることもあります。意識がはっきりしない時間が長くなり、時に時間や場所、人の認識が曖昧になるような、少し混乱した様子(せん妄)が見られることもあります。

これも、全身状態の変化に伴って、脳の働きが自然と緩やかになっていくためです。身体が休息を必要としているサインとも言えます。

ご家族としては、反応が少なくなると寂しさや不安を感じるかもしれません。しかし、たとえはっきりとした返事がなくても、皆さんの声は十分届いている可能性があります。聴覚は比較的最後まで保たれることが多いという研究報告もあります。ですから、そばにいて、優しい声で話しかけ続けてあげてください。日常の出来事、楽しかった思い出、感謝の気持ち…言葉にならないかもしれませんが、その温かい気持ちはきっと伝わっています。手を握ったり、肩をさすったりする触れ合いも、大きな安心感を与えるでしょう。

呼吸のリズムが不規則になってくる

呼吸の仕方にも変化が見られます。例えば、浅い呼吸と少し速い呼吸が交互に現れたり、時には「ヒュー」という音を伴ったり、数十秒間呼吸が止まる「無呼吸」が見られたりすることがあります。特に、亡くなる直前には、顎を上下させながら努力しているように見える呼吸(下顎呼吸)が現れることもあります。

また、喉の奥に痰や唾液などの分泌物が溜まって、「ゴロゴロ」「ゼーゼー」といった音が聞こえることもあります。これは死前喘鳴(しぜんぜんめい)と呼ばれ、ご家族にとっては「苦しいのではないか」と非常に心配になる音かもしれません。

これらの呼吸の変化は、脳の呼吸を調整する中枢機能が変化したり、体力が低下して分泌物を自分でうまく喀出できなくなったりするために起こる、終末期にはよく見られる自然な現象です。

大切なのは、これらの変化、特に死前喘鳴の「ゴロゴロ」という音や下顎呼吸が見られても、多くの場合、ご本人は意識レベルが低下しているため、その音や呼吸自体を苦痛として感じていないということです。痰の吸引は、一時的に音を減らすかもしれませんが、ご本人にとってはかなり苦痛な処置となることが多く、かえって苦しめてしまう可能性もあるため、そこまで積極的には行いません。

苦しいかどうかを判断するのは、呼吸の回数でみるのが適当です。先ほどお伝えしたように、通常の経過だと呼吸の回数は減弱していきます。このようなときは無理せず、そのまま見守るのが良いでしょう。一方で通常よりハーハー呼吸の回数が多く、呼吸が荒いときは、苦しさを和らげる治療、すなわちモルヒネの投与などを相談すべきです。

いずれにせよ、ご家族ができることとしては、慌てずに見守り、顔を横に向ける、枕で頭や肩を少し高くするなど、楽な姿勢を工夫してあげることです。それでも心配な場合は、医師や看護師に相談してください。必要に応じて、分泌物を減らすお薬を使うこともあります。

手足が冷たくなり、皮膚の色が変わってくる

心臓のポンプ機能が弱まり、血液の巡りがゆっくりになると、手足の先から徐々に冷たくなっていきます。皮膚の色も、血色が失われて青白くなったり、紫色っぽくなったり、まだら模様が現れたりすることがあります。これは、身体が生命維持に必要な中心部(脳や心臓など)に血液を集めようとするため、末端への血流が減少するために起こる現象です。

手足が冷たいからといって、電気毛布や湯たんぽなどで強く温める必要はありません。皮膚の感覚も鈍くなっているため、気づかずに火傷をしてしまう危険があります。重い布団も、ご本人にとっては負担になることがあるでしょう。軽い毛布を一枚かけてあげる程度で十分です。これもまた、旅立ちに向けた自然な身体の変化の一つとして、静かに受け止め、冷たくなった手足の先を、優しくさすってあげるなどのケアを続けましょう。

第1部:最期の1週間にみられる主な身体の変化, 食事や水分の量がだんだんと減ってくる, うとうとと眠っている時間が長くなる, 呼吸のリズムが不規則になってくる, 手足が冷たくなり、皮膚の色が変わってくる, おしっこの量が減り、色が濃くなる, 【特に注意したい】死が間近(数時間~数日)に迫ったときのサイン, 第2部:穏やかな時間を支える家族の関わり, 「ただ、そばにいる」ことの力, 心のこもったコミュニケーション, 優しい「タッチング」, 環境を整える工夫, 口腔ケアなどの心地よいケア, 本人の意思と尊厳を尊重する姿勢, 第3部:つらい症状が見られたときの対応, 第4部:よくあるご質問(Q&A)

おしっこの量が減り、色が濃くなる

身体が必要とする水分量が減り、腎臓の働きも穏やかになっていくため、おしっこの量がだんだんと減ってきます。色が濃くなることもあります。やがて、半日以上、あるいは丸一日ほとんど出なくなることもあります。これは、死期がかなり近づいているサインの一つと考えられます。

また、全身の筋肉が緩むことで、無意識におしっこや便が漏れてしまう(失禁)こともあります。

ご家族ができることとしては、おむつを使用している場合は、汚れたらこまめに交換し、皮膚を清潔に保つことが大切です。おしり拭きなどで優しく拭いた後、必要であれば保湿クリームを塗ってあげることで、皮膚のトラブル(おむつかぶれや褥瘡)を防ぐことができます。尿量の減少は、多くの場合、脱水による苦痛を伴うものではなく、自然な経過の一部です。

【特に注意したい】死が間近(数時間~数日)に迫ったときのサイン

最期の1週間の中でも、特に旅立ちが数時間から数日以内と間近に迫ってくると、先に述べた変化がより顕著になったり、さらに特有の兆候が現れたりすることがあります。これらは、いよいよお別れの時が近いことを示唆しています。

呼びかけや刺激への反応がほとんどなくなる(無反応)

深い眠りに入っているような状態で、声をかけたり、体に触れたりしても、ほとんど、あるいは全く反応が見られなくなります。目を開けていても、焦点が合わずうつろに見えたり、まぶたを完全に閉じることが難しくなったりすることもあります。これは全身の機能が著しく低下し、意識レベルが非常に低下している状態です。

特徴的な呼吸パターン(下顎呼吸・長い無呼吸)

先ほど紹介した下顎呼吸(かがくこきゅう)は、まさにこの時期の特徴です。口をパクパクと開け、顎を大きく上下させながら、あえぐような、努力しているような呼吸が見られることがあります。亡くなる間際には「死戦期呼吸(しせんきこきゅう)」とも呼ばれます。見た目は苦しそうにも見えるため、ご家族は驚かれるかもしれませんが、この段階ではご本人は深い昏睡状態にあり、通常、この呼吸自体による苦痛は感じていないと考えられています。多くの場合、下顎呼吸は死の数時間前から数分前に現れる、旅立ちが極めて近いサインです。

また無呼吸、すなわち呼吸と呼吸の間隔がさらに長くなり、10秒から30秒、時にはそれ以上呼吸が止まる状態が頻繁に見られるようになります。これも呼吸中枢の機能が停止に向かっているサインです。

循環の変化(脈拍・血圧・皮膚色)

手首の脈が非常に弱く、不規則になり、触れるのが難しくなります。最終的には脈を感じられなくなることもあります。血圧は測定できないほど低下します。手足の冷感や紫色・まだら模様の皮膚変化が、腕や脚の付け根など、体の中心部に向かって広がっていきます。これらも苦しいものではありません。

一時的な意識の回復(中治り)

これはまれなことですが、亡くなるほんの少し前に、一時的にですが意識がやや回復し、声を出したり、周囲に明確に反応したりすることがあります。ご家族にとっては、まるで奇跡のような、「お別れのプレゼント」のような時間になるかもしれません。しかし、これは必ず起こるわけではなく、また、回復したように見えても、残念ながら続くものではありません。

これら紹介したサインが現れたとき、それは旅立ちの時が本当に間近に迫っていることを示しています。動揺されるのは当然ですが、どうか残された時間を大切に、ご本人のそばで静かに寄り添い、穏やかな気持ちで見守ってあげてください。

第2部:穏やかな時間を支える家族の関わり

最期の時が近づく中で、ご家族の存在そのものが、何よりの支えとなります。特別な技術や知識が必要なわけではありません。「何かをしてあげなければ」と気負う必要もないのです。ただ、いつものように、心を込めてそばにいること。それがご本人にとって、そしてご家族自身にとっても、かけがえのない時間となります。

「ただ、そばにいる」ことの力

ご家族がそばにいるだけで、ご本人は「一人ではない」「見守られている」と感じ、深い安心感を得られます。それは、死へと向かう言葉にならない孤独や恐怖を和らげる、何よりの薬となるでしょう。静かに隣に座っているだけでも、その温もりや気配は必ず伝わっています。

心のこもったコミュニケーション

たとえ返事がなくても、穏やかな声で話しかけ続けましょう。寝ているから無理矢理にでも起こそうと、大きな声である必要はありません。日常のささやかな出来事、楽しかった旅行の思い出、一緒に笑った日のこと。そして、「ありがとう」「お疲れさま」「愛しているよ」といった感謝やねぎらい、愛情の言葉。それらは耳を通して心に届いています。また、時には「もう頑張らなくていいんだよ」「私たちのことは心配しないで」といった言葉が、ご本人の心の重荷を下ろし、安らかに旅立つための後押しになるかもしれませんね。

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優しい「タッチング」

言葉が通じにくくなったとき、触れることは心を繋ぐ大切な手段です。あなたも、何かつらいとき、そっと背中をさすってもらった経験あるのではないでしょうか。優しく手を握る、腕や背中をゆっくりとさする、髪をなでる。そんな穏やかな触れ合いは、言葉以上に深い安心感、愛情、いたわりを伝えます。ご本人が心地よさそうにしているか、表情を見ながら、その人らしい触れ合い方を探してみてください。

環境を整える工夫

ご本人が少しでも安らげるように、環境を整えることも大切です。部屋はできるだけ静かに、照明は柔らかく調整しましょう。ご本人が好きだった写真や、いつも使っていた毛布、思い出の品などをそばに置くことで、慣れ親しんだ安心できる空間になります。もしご本人が好きだった音楽があれば、小さな音で流すのも良いでしょう。強すぎない、心地よいと感じる香りを漂わせるのも、気分転換になるかもしれません。

口腔ケアなどの心地よいケア

誰でも口の中が乾くと、とても不快に感じるものです。亡くなろうとする人は、どうしても口が乾きやすくなります。水や保湿ジェルなどで湿らせたガーゼやスポンジブラシで、定期的に優しく拭ってあげましょう。唇がカサカサしていたら、リップクリームやワセリンを塗ってあげてください。また、体がきれいでいることは、尊厳を保つ上でも大切です。体を拭いたり、寝間着を清潔なものに着替えさせたりすることも、大切なケアの一つです。

本人の意思と尊厳を尊重する姿勢

最期の瞬間まで、その人らしさを大切にしましょう。もし、ご本人が元気なうちに、最期の医療やケアについて希望を伝えていたり、書面を残していたりする場合は、その意思を最大限尊重することが基本となります。私たち医療者も、ご家族とその意思を確認しながら、ケアの方針を決めていきます。意識がないように見えても、ケアを行う際には「これからお体を拭きますね」など、一つひとつ声をかける配慮を忘れないようにしたいものです。

第3部:つらい症状が見られたときの対応

最期の時期は穏やかに経過することが多いのですが、時には痛みや息苦しさ、せん妄といった症状が悪化してご本人を苦しめることもあります。これらの症状は、適切な緩和ケアによって和らげることが可能です。ご家族だけで抱え込まず、「何かいつもと様子が違う」「苦しそうに見える」と感じたら、遠慮なく医師や看護師に伝えてください。

痛み

言葉で「痛い」と訴えられなくても、次のようなサインで痛みが分かることがあります。

・顔をしかめている、眉間にしわが寄っている

・落ち着きなく体を動かす、特定の場所をかばうような姿勢をとる

・うめき声をあげる

・呼吸が速くなる、浅くなる

これらのサインに気づいたら、医療チームに知らせてください。病気の種類や経過、これまでの検査結果なども踏まえて、痛み止め(医療用麻薬を含む)を適切に使うことで、痛みはコントロールできます。また、ご家族ができることとして、楽な姿勢を工夫したり、痛む場所を優しくさすったり、気分転換になるような声かけをするなども、痛みを和らげる助けになります。

息苦しさ

息が速い、肩で息をしている、胸が大きく上下する、苦しそうな表情をしているなどのサインが見られます。原因は肺や心臓などさまざまですが、まずは楽な姿勢(例えば、上半身を少し高くする)をとらせてあげましょう。窓を開けて換気したり、うちわや扇風機で顔にゆっくりと涼しい風を送ってあげることも、息苦しさを和らげる効果があると言われています。不安感も息苦しさを強くするので、穏やかに寄り添い、身体をさすって「大丈夫だよ」と安心させてあげる声かけも大切です。苦しさを和らげる治療として、酸素吸入や医療用麻薬、不安を和らげる薬などを使うこともありますので、医療者に相談しましょう。

第1部:最期の1週間にみられる主な身体の変化, 食事や水分の量がだんだんと減ってくる, うとうとと眠っている時間が長くなる, 呼吸のリズムが不規則になってくる, 手足が冷たくなり、皮膚の色が変わってくる, おしっこの量が減り、色が濃くなる, 【特に注意したい】死が間近(数時間~数日)に迫ったときのサイン, 第2部:穏やかな時間を支える家族の関わり, 「ただ、そばにいる」ことの力, 心のこもったコミュニケーション, 優しい「タッチング」, 環境を整える工夫, 口腔ケアなどの心地よいケア, 本人の意思と尊厳を尊重する姿勢, 第3部:つらい症状が見られたときの対応, 第4部:よくあるご質問(Q&A)

せん妄・不穏

急に興奮したり、意味の通じないことを言ったり、落ち着きなく手足を動かしたり、幻(特に「天井に何か生き物がいる」などの幻視が多いです)が見えたりすることがあります。逆に、目は開けていても、ぼんやりとして反応が乏しくなるタイプのせん妄(低活動型せん妄)もあります。終末期には非常によく見られる症状で、ご本人の心が弱いためになるわけでも、頭がおかしくなってしまったわけでもありません。もちろん、精神の病気でもありません。体の状態の変化や、苦しさを楽にするために必要な薬の影響、入院など慣れない環境が原因となります。

まずは、部屋を静かにし、時計やカレンダーで時間の手がかりを与えるなど、落ち着ける環境を整えることが大切です。ご本人にとって安心させられる存在であるご家族がそばにいて、優しく声をかけたり、手を握ってあげたりすることも安心につながります。混乱しているご本人の言動を頭ごなしに否定せず、まずは気持ちを受け止め、「そうなんだね」と寄り添う姿勢が大切です。症状が強く、ご本人やご家族にとってつらい場合や、安全が保てない場合、また夜に眠れない場合には、気持ちを落ち着かせるお薬を使う治療もありますので、医療者と相談してください。

第4部:よくあるご質問(Q&A)

この時期、ご家族から特によくお受けするご質問とその答えをまとめました。

Q1. 喉がゴロゴロと鳴っています。痰が絡んで苦しいのではないでしょうか? 吸引しなくて大丈夫ですか?

A. 喉のゴロゴロ音(死前喘鳴)は、ご自身で唾液などをうまく飲み込めなくなるために起こります。多くの場合、ご本人は意識が低下している状態にあり、その音自体で苦しんでいるわけではないと考えられています。痰の吸引は、かえってご本人にとって苦痛が強く、必ずしも音が改善しないことも多いため、通常は慎重に行います。顔を横に向けるなど体位を工夫すると音が和らぐこともあります。ご心配であれば、看護師や医師にご相談ください。分泌物を減らすお薬を使う選択肢もあります。.

Q2. ほとんど何も口にしていません。点滴をしなくて栄養不足や脱水で苦しまないでしょうか?

A. 最期が近づくと、身体はたくさんの水分や栄養を必要としなくなります。省エネ運転の時期なのです。この時期の点滴は、ご本人の回復にはつながらず、むしろ体のむくみや痰、胸水や腹水を増やし、息苦しさなどの苦痛を増やす可能性があります。この時期に、脱水そのものが強い苦痛を引き起こすことはないと考えられています。点滴をするかどうかは、ご本人の状態や苦痛の程度、そしてもともとの希望、さらにはご家族の意向も踏まえて、慎重に判断します。唇を湿らせるなどの口腔ケアで、口の渇きによる不快感は和らげることができます。.

Q3. 呼びかけても全く反応がありません。私たちの声は聞こえているのでしょうか?

A. はっきりとしたことは誰にも分かりませんが、意識がないように見えても、聴覚は最後まで保たれる機能だと言われています。ですから、皆さんの優しい声かけや、「ありがとう」「愛しているよ」といった言葉は、ご本人の心に届いている可能性は十分にあります。どうぞ、話しかけ続けてあげてください。

Q4 そばにいる私たち家族は、普通に会話したり笑ったりしてもいいのでしょうか?

A. はい、もちろんです。むしろ、過度に静まり返ったり、ひそひそ話ばかりになったりするよりも、普段通りの穏やかな雰囲気の方が、ご本人にとって安心できる場合が多いかもしれません。楽しかった思い出話をしたり、ご家族が集い、時には笑い声が聞こえたりする日常の空気感は、「いつも通りだよ」「心配ないよ」というメッセージにもなります。ただし、大きな声で騒いだり、ご本人の前で言い争いをしたりするのは避けましょう。ご本人が心地よいと感じられるような、穏やかで温かい雰囲気を作ってあげてください。

Q5. どんどん弱っていく姿を見ているのがつらいです。どうしたらいいでしょうか?

A. 大切な人が弱っていく姿を目の当たりにするのは、本当につらいことですよね。そのお気持ちは、決して特別なことではありません。ごく自然な感情です。どうか、そのつらさを一人で抱え込まないでください。他のご家族や信頼できる友人、あるいは私たち医療スタッフに、その気持ちを話してみませんか?。話すだけでも、少し心が軽くなることがあります。また、少しの間ご本人から離れて休憩をとることも、ご自身の心を守るためには必要なことです。

Q6. 最期は苦しむのでしょうか?

A. これは、ご家族が最も心配されることの一つだと思います。「死ぬときは苦しいものだ」というイメージがあるかもしれませんが、緩和ケアの最も大切な目標は、まさにその「苦痛を和らげる」ことです。痛み、息苦しさ、吐き気など、様々なつらい症状に対しては、医療用麻薬をはじめとするお薬を適切に使うことで、多くの場合、穏やかにコントロールすることが可能です。また、先ほどお話しした下顎呼吸などの変化は、見た目には苦しそうに見えても、ご本人は意識がないため苦痛を感じていないことがほとんどです。もちろん、100%苦痛がないとは言い切れませんが、私たちはあらゆる手段を使って、できる限り苦痛なく、穏やかに最期の時を迎えられるよう、最大限の努力をします。もし、どうしても和らげることが難しい苦痛がある場合には、ご本人やご家族とよく相談した上で、鎮静といって、お薬で眠っていただく方法もあります。どうか、「最期は苦しむものだ」と決めつけず、医療者を信頼していただければと思います。

Q7. もし、最期の瞬間にそばにいられなかったら、後悔してしまいそうです…

A. 確かに、最期の瞬間に立ち会いたいと願うのは自然なことです。しかし、現実には、仕事や距離の問題、あるいは予期せぬ急な変化などで、間に合わないケースも少なくありません。でも、どうか覚えておいてください。「看取り」とは、息を引き取るその瞬間だけを指すのではありません 。これまであなたが悩み、迷いながらも、心を寄せ、寄り添ってきた時間のすべてが、かけがえのない看取りの過程なのです 。もし間に合わなかったとしても、ご自身を責めないでください。穏やかに旅立たれたことを、私たちがきちんとお伝えします。

おわりに

人が人生の最期を迎えるまでの道のりは、本当にさまざまです。当然、病気の種類によっても違いはあります。今日お話ししたような変化が、教科書通りに順番に現れるわけではありませんし、そのスピードも、穏やかさも、お一人おひとり全く違います。正確な時間を予測することは、私たち医療者にもできません。

大切なのは、これから起こるかもしれない変化に過度に心を囚われるのではなく、今、この瞬間にご本人ができるだけ穏やかに、安らかに過ごせるように、私たち家族や医療者に何ができるかを考え、心を寄せることではないでしょうか。

知識はいざという時の不安を和らげ、冷静さを保つ助けになります。しかし、それ以上に力を持つのは、そばで寄り添う温かい存在であり、心を込めた関わりです。ご家族が悩み、迷いながらも、懸命にご本人と向き合うその時間こそが、何よりも尊いものだと、私はいつも感じています 。

でも、ご本人を支えるご家族にとっても、大切な人が亡くなろうとしていること自体、当然つらいことです。どうか忘れないでください。看病されているご家族ご自身の心と体の健康も、同じように大切なのです。どうか皆さん自身のケアも忘れずに。疲れやストレスを感じたら、決して一人で抱え込まず、周りの人や私たち専門家に助けを求めてください。

このレターが、皆さまがこれから迎えるかもしれない時間を、少しでも心穏やかに、そして後悔少なく過ごすための一助となれば、緩和ケア医としてこれ以上の喜びはありません。