《肩こりは“うつ病”が原因かも?》肩専門の整形外科医が解説する“じゃないほうの肩こり”のメカニズム 実際にあったケースや治療法を紹介

肩専門の整形外科医が解説する“じゃないほうの肩こり”のメカニズムとは(写真/イメージマート)

 肩こりの原因には「悪姿勢」「体型」「運動不足」にはない場合もある。あらゆる健康トラブルの一部にあらわれる現象でもあり、肩こりに気づいたなら、その可能性を「つぶして」からセルフケアに臨むのが正しいという。

 そんな「じゃないほうの肩こり」の一つが「うつ病(抑うつ)」が原因のもの。どんなメカニズムなのだろうか。肩専門の整形外科医が世界中の論文をひもとき、年間手術数400超の臨床感とともに導いた新しい肩こりの本『じゃないほうの肩こり』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。

教えてくれた人

歌島大輔さん

日本整形外科学会、日本専門医機構認定整形外科専門医・歌島大輔さん

1981年生まれ。山形大学医学部卒業。肩関節、肩関節鏡手術、スポーツ医学の専門家として、フリーランスの立場で複数の整形外科でさまざまな肩治療を行う。肩関節鏡手術は年間約400件と全国トップクラス。診療のかたわら、「医学的根拠のあるセルフケアを」との信念からYouTubeチャンネル「すごいエビデンス治療/整形外科医 歌島大輔」を開設、登録者20万人と人気を呼んでいる。

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うつ病(抑うつ):気分の障害は「慢性的な肩甲骨から背中の痛み」のモトに!

 ひと昔前はよく「うつは心の風邪」などと言われました。確かに、一時的な気分の落ち込みは誰にでもあることで、風邪のように放っておいても、時間が経てば治ると考えて、大きな間違いはないです。

 ただし、風邪も長引かせてしまうと万病のモトとなる可能性があります。同様に、一時的ではない「抑うつ」、繰り返す「抑うつ」は軽視してはいけません。

 うつ状態が2週間以上続き、生活に支障が出ているなら、それは治療が必要な「うつ病」の可能性があります。

 うつ病は、気分症(気分障害)という精神科領域の疾患分類に入る精神疾患の1つ。気分の落ち込みと、興味・関心や喜びの喪失など「抑うつ」を基本に、さまざまな症状が出て、その程度が著しく、長期間にわたって苦痛が、生活に影響する病気です。

「うつ病ならストレスが原因で、ストレスは一般的に肩こりの原因とされますよね。それならば、じゃないほうじゃないのでは?」

 そのように思う方もいらっしゃるかもしれませんが、うつ病の原因はストレスとは限りません。

 大きなストレスに反応して起こる心因性のうつ病(反応性うつ病・神経症性うつ病)もありますが、ストレスはうつ病発症のきっかけにすぎないこともあり、脳の障害(内因性/遺伝因子や、病気になる前の性格と関係する)やほかの疾患、薬物療法などが原因(外因性)で、うつ病になることもあります。

 現在の診断基準では、抑うつ状態がうつ病の基準を満たしていれば、内因性、心因性など発症の要因を問わずうつ病と診断されます(外因性の可能性が除外された場合)。

 そして、うつ病を含め気分症では気分・感情に関わる症状を基本に、多様な精神症状・身体症状が出て、身体症状の1つとして肩や肩甲骨周囲を含む背中のこり、慢性的な痛みが出ることがあるのです。

 そこで、「じゃないほうの肩こり」として「うつ病によって肩こりになることがある」と覚えておきましょう。

 ある研究では、うつ病の患者さんでは男女ともに、慢性的な首の痛みや肩こり(慢性頸部痛〈CNP〉)の有病率は上がることが確認されています。また、慢性的な肩甲骨から背中の痛みと関連性のある因子を調べた研究でも、ストレス、苦痛、不安などとともにうつ病が有意な因子だと確認されています。

・【35歳女性のケース】肩こりで病院に行くなんて大げさ?

 肩こりがひどく、朝起きた瞬間から肩が重かったF子さん。デスクワークが多い仕事のせいだと思い、最初はあまり気にしていませんでした。しかし、日を追うごとに肩こりは悪化して、頭痛や、めまいも出て、仕事に遅刻することが増えました。気分もどんどん落ち込んでいき、何をするにもやる気が出なくなっていったそうです。

「これはいけない」と考え、マッサージや整体に通い、週に数回、高額な施術を受け、肩こりに効くと噂のサプリメントも試しましたが、一向に改善せず、ますます身体が重く感じられるようになりました。

 あまりにつらそうなF子さんを見兼ねた友人から病院に行くことを勧められ、「肩こりで病院に行くなんて大げさだ」と思いながらも、一旦、内科を受診しました。しかし、そこでは特に異常は見つからず、「もしかしたら精神的な疲れかもしれませんね」と、心療内科を紹介されました。

受診してよかった。うつ病治療で肩こりも緩和!

 心療内科の主治医は親身になってF子さんの話を聞き、症状や最近の生活の変化、仕事上のストレスなどを詳しく聞き取り、「うつ病の可能性があります」と診断しました。F子さんは、最初は信じられない気持ちでしたが、病気について説明を受けると、自分に当てはまる点が多いと気づき、治療を始めました。

 当初は薬物療法とカウンセリング、意識的に休息時間を増やし、3か月後から認知行動療法を受けたところ、徐々に気分が安定してきました。すると同時に悩んでいた肩こりも緩和していったとのことです。

 治療開始から約1年後の現在も、うつ病の再発を防ぐため服薬治療を続けているそうですが、残っている肩こりをセルフケアで解消できないかと考え、私の著書を読み、外来を訪ねて来て、この顛末を話してくれました。

「うつ病だとわかって、治療のおかげで少しラクになったので、自分で自分をケアして肩こりを治したいと思えました」と言っておられたので、私は前向きさを確認し、総合的に回復に向かっていると感じました。

この肩こり、原因は「うつ病」かもと思ったら?

 F子さんもそうでしたが、「肩こりで病院は大げさ」と考える人は少なくないようです。そのため「じゃないほうの肩こり」は見つかりにくいわけですね。

 さらに、「うつ病」も精神症状ではなく、身体症状だけを訴えて病院にかかる人が多いことなどから、見つかりにくい病気のようです。

うつ病の受診の目安とは

 うつ病の受診の目安として、精神科医以外の医師がうつ病を疑ったとき、専門医に紹介するかを判断する方法の1つをご紹介します。

「じゃないほうの肩こり」も、一般的な肩こりも、肩こり自体の症状は同様なので、うつ病のスクリーニング検査を利用します。

 何らかの病気の治療中(服薬中)ではない人が、食欲の変化・体重の急な増減・睡眠障害・めまい・動悸・頭痛・腹痛・背部痛(首こり、肩こり、腰痛)・呼吸困難感・下痢・便秘・しびれ・月経不順といった身体症状が2週間以上続いているなら、次の2つの質問に答えてもらう、という方法です。

・この1か月、気分が沈んだり、憂うつになったりすることが「よくあった」か

・この1か月、物事に対して興味がわかない、あるいは心から楽しめない感じが「よくあった」か

「よくあった」というのは、ほとんど1日中、ほぼ毎日あるということです。

 2つの質問のどちらかでもYESならば「うつ病」の可能性があると考えて、精神科や心療内科の診察につなぎます。みなさんも、うつ病の可能性のジャッジとして利用し、どちらかでもYESならば医療にアクセスしましょう。

 なお、日本で患者数の多い精神疾患は「気分障害」でうつ病も含まれます。さらに、次に多い「神経症性障害(ストレス関連障害など)」の要素もうつ病にはあるので、本当に身近な病態だと感じています。

 厚生労働省が2020年にまとめた「患者調査」では「気分障害」と「神経症性障害(ストレス関連障害など)」はともに2017年頃から右肩上がりで患者数が増えていることがわかっています。

 患者数の推移を見ると、こうした病気は、現代では誰にとっても「身近な病気」であると考えられ、脳と精神疲労をコントロールすることの大切さを思います。