「ガラスの天井」を破り進化 年齢とともにネタ熟成 そこから見える風景は 桂二葉さん㊦

入門から丸15年を迎えた桂二葉さん。古典落語にこだわる姿勢を変えるつもりはないという=神戸市兵庫区の神戸新開地・喜楽館(南雲都撮影)

ベテラン記者が各界の著名人にインタビューし、核心に迫る「プレミアムトーク」。今回は小説『甘夏とオリオン』(増山実著)の主人公、桂甘夏のモデルともいわれている桂二葉(によう)さん(39)だ。この物語は、約300年にわたり男性が築き上げてきた落語の世界で女性の参入を阻む障壁について取り上げ、苦悩する主人公の姿を描く。女性で初めてNHK新人落語大賞を獲得した二葉さんはそのような苦労をいかにして克服してきたのか。入門から丸15年、落語の世界にどんな風景が見えているのだろうか。(全3回)

「古典落語の世界はすごく平和」と話す桂二葉さん(木原千裕さん撮影)

江戸時代から続く落語は男性がやるもので、男性のための技法が研究されてきた。それを女性がやると無理が生じる。お客は違和感を覚え、落語の世界に没入できない。ゆえに落語は「女性には無理」などといわれてきた。落語界にも女性の昇進を拒む「ガラスの天井」があったのだ。事実、過去、何人もの女性が挫折して去っていく一方、もがきながら道を切り開き、活躍する者は少なくない。

著書で「私は女性の落語家を否定はしません」と書いた人間国宝の桂米朝さん=平成25年1月

上方落語協会では約270人中、女性は約20人。約600人がいる東京の4団体では女性は約40人いると思われる。

二葉さんが女性で初めて権威のあるNHK新人落語大賞で優勝し、しかも全審査員が10点満点をつけるという圧倒的勝利を収めたことは歴史的快挙ととらえられた。それから約4年後の昨年、東京の春風亭一花(いちはな)さん(39)が女性で2人目の受賞者となった。

「一花さんの優勝で確信しました。もう『無理』なんて言わないでしょう」

入門以来「自然に演じる」ことを心がけてきた。客の立場から見ると「女性が古典落語をやると、なんか無理してはるなあ、しんどそうやなあ」と、そんな印象を受けた。

女性落語家の中には、古典落語で主人公を男性から女性に置き換えたり、女性が主役の新作落語で勝負したりする人もいる。二葉さんは古典落語で直球勝負。演出は変えても、男女の設定を変えたりはしない。

「無理するとか、違和感とか、不自然さとか、それが最大の敵やと思う。自然にしゃべったらいいんじゃないかな。噺家(はなしか)になる前から、できる自信はありました」

二葉さんには大切にしてきた本がある。人間国宝の桂米朝さんが約50年前、落語の入門書として中高生を対象に易しく書いた『落語と私』。ちなみに二葉さんは米朝さんの孫弟子だ。

本の中で米朝さんは「女の落語家はなぜいない」と題して1章を割いた。そこで「私は女性の落語家を否定はしません」と言い切った。「女がやるならそのやり方があるはずです。要はうんとうまい人がでてきたらよいのです」と指摘。「その人の力で、お客が笑わせられ、泣かせられ、感動させられて、そしてそうした体験をもつお客が増えていった時、女性のはなし家というものの存在が何のふしぎでもなくなった時、その違和感は消えてしまっているはずです」と説き、「わたしはそんな日がくるのを歓迎します」と結んでいる。

この言葉に励まされた。「米朝師匠に、お待たせしましたと言いたい。今の私の落語を見てほしいです」

古典落語には今なら不適切とされたり、女性が不快に感じたりする場面がある。二葉さんによると、女性が辛抱しているような場面が多くみられるという。例えば『青菜』。旦那と奥さんのしゃれた言葉遊びをまねようとした植木屋が、妻にやらせるものの失敗する話で、たいてい妻が嫌々やらされているような設定で演じられる。それを二葉さんはこんなふうにやる。

「妻は『よっしゃ、ほなやったろか!』と一緒に遊ぶ、楽しむ感じ。ほとんどの人は妻に辛抱させてやらせるが、セリフはほとんどそのまま、演出を変えてます」

NHK新人落語大賞受賞をきっかけに、東京から仕事のオファーが一気に増えた。

飛躍の舞台となったのは受賞の翌年、令和4年から始まった落語会「桂二葉チャレンジ!!」。人気、実力ともトップ級の東京の師匠たちと競演するシリーズだ。春風亭一之輔さん、春風亭昇太さん、柳家喬太郎さん、立川志の輔さんとそうそうたる面々に「勝つ気でいきました」と振り返る。

「今まで感じたことのない、それこそ全身の毛穴が開くような感じ、それぐらい奮い立ちました」。2年目からは毎回、ネタおろし(覚えたネタの初披露)もした。「めちゃめちゃ鍛えられました。度胸もついた。でも疲れました(笑)」

胸を貸してくれた師匠には感謝しかない。「みなさん全力でやってくれはる、手を抜かはらへんから」。緊張感あふれる高座に、お客も大満足で全公演を「満員御礼」で終えた。

今年3月9日、入門から満15年を迎えた。今後も古典落語にこだわっていくつもりだ。

「古典落語の世界は、すごく平和で、人を大切にしている。庶民の話で、現実をきれいごとにしない。生きてる人間のやさしさを描いている。どんな人であっても見捨てない」

「今は情報ばかり集めがち。でも情報を集めてもいい気持ちにはならへんし、救われへん。落語を聴いたとき、自分にもこういうところがあるなあと思ったりして元気になれたとか、勇気が出たとか、救われたとか、そんなふうに思ってもらえたらええなあ」

落語家の年齢とともにネタは熟成されていく。

「毎日、生活していると、自分が何かに影響を受けて変わっていく。いろんなものを見たり、食べたり、感じたりして…。すると落語も変わっていく。同じネタでも、5年前と今、そして5年後で変わっているはず」

二葉さんの進化を落語界が、なによりもファンが楽しみにしているに違いない。(安東義隆)

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