水道管は破裂、崩れた道路は放置…Z世代「年収500万円でもブルーカラーは嫌」が暗示する日本のインフラ崩壊のシナリオ

「20代で年収500万円」でもZ世代が見向きもしない

「若手確保のために、給与もボーナスも限界まで上げた。なのに、まったく応募が来ない……」

【クリックしてアンケート結果を見る】Z世代を対象に行った意識調査

昨今、採用現場で経営者や人事担当者から悲鳴に似た声を聞く機会が激増している。特に深刻なのが、建設業や製造業、物流業などのいわゆる「ブルーカラー」と呼ばれる現場職だ。

「給料を上げれば、若者は来てくれるはず」。そう信じて待遇改善に踏み切った企業を突き放すかのように、Z世代の若者たちは冷めた視線を送っている。

筆者はウズウズカレッジという会社で、IT分野の採用支援や育成研修を行っており、これまで数多くの既卒・第二新卒といった20代若手人材をサポートしてきた 。今回は、UZUZグループが就職・転職活動中のZ世代457名を対象に行った「ブルーカラー・施工管理職に関する意識調査」で浮き彫りになった衝撃的な現実を紹介したい。

そこから見えてきたのは、「給料さえ上げれば人は来る」という企業側の思い込みと、若者たちのリアルな本音との間にある「致命的なズレ」の実態だ。

日本は明らかな人手不足に陥っている。建設業や物流業では、企業存続をかけて働き方改革や賃上げを急ピッチで進めている。

中でも建設現場の司令塔である「施工管理職」は、ブルーカラー領域の中でも比較的給与水準が高く、昨今は残業削減や週休2日制の導入など、労働環境の改善が急速に進んでいる専門職の代表格だ。

しかし、この事実がZ世代にはほとんど刺さっていない(そもそも待遇改善が知られていない)。

調査によると、「建設業に『施工管理職』という専門職があることを知っていますか?」という問いに対して、「知っている」と答えた若者は70.5%に上った。仕事自体の認知度は決して低くない。

「20代で年収500万円」でもZ世代が見向きもしない, なぜ若者はブルーカラーが「完全NG」なのか?, 日本のインフラは崩壊する, 企業と社会に求められる「本質的なアップデート」

アンケート結果:建設業に『施工管理職』という専門職があることを知っていますか?(画像:筆者作成)

※外部配信先では図表を閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください。

しかし、「施工管理職を取り巻く状況の変化(人材ニーズの向上、労働環境の改善)を知っていますか?」という問いに対しては、「知っている」と答えたのはわずか21.9%。「知らない」が78.1%と圧倒的多数を占めたのだ。

「20代で年収500万円」でもZ世代が見向きもしない, なぜ若者はブルーカラーが「完全NG」なのか?, 日本のインフラは崩壊する, 企業と社会に求められる「本質的なアップデート」

アンケート結果:施工管理職を取り巻く状況の変化(人材ニーズの向上、労働環境の改善)を知っていますか?(画像:筆者作成)

若者たちの頭の中では、現場の仕事は「3K(きつい・汚い・危険)」という、昭和から続くネガティブなイメージのままで時が止まっている。

さらに決定的なデータがある。「施工管理職は建設現場のスケジュール管理や品質管理などの責任者です。20代で年収500万円を目指せるなら希望しますか?」という、メリットを明確にした質問への回答だ。

国税庁の調査によれば、20代の平均年収は300万円台にとどまる。20代で年収500万円というのは、間違いなく平均以上の好条件だ。しかし、結果は以下の通りだった。

「20代で年収500万円」でもZ世代が見向きもしない, なぜ若者はブルーカラーが「完全NG」なのか?, 日本のインフラは崩壊する, 企業と社会に求められる「本質的なアップデート」

アンケート結果:施工管理職は建設現場のスケジュール管理や品質管理などの責任者です。20代で年収500万円を目指せるなら希望しますか?(画像:筆者作成)

・希望しない:75.7%

・収入以外の条件も良いなら検討する:24.3%

・希望する:0.0%

なんと、好条件を提示しても「希望する」と明確に答えた若者は、457名もいて「ゼロ」だったのである。この結果は、企業側が「給与や待遇を改善」しても、若者を採用するためには不十分であることを如実に物語っている。

なぜ若者はブルーカラーが「完全NG」なのか?

施工管理に限らず「ブルーカラー」職種全体に対する印象を聞いた質問では、事態の深刻さがさらに浮き彫りになる。「条件や職種を問わず、就職先としてはまったく考えられない」という回答が、実に64.3%に達したのだ。

なぜここまで拒絶されるのか。それは、給与という「金銭的報酬」よりも、職場における「心理的な安心感」を圧倒的に優先する彼らの価値観が関係している。

UZUZが以前実施したZ世代の意識調査でも、連絡手段として「電話」に心理的負担を感じる就職・転職活動中の若者が64.2%、「対面」でも52.8%に上ることがわかっている。彼らが負担に感じる理由として、「咄嗟の対応が苦手」 や、「言葉だけの説明が難しい」、「過度に気を遣ってしまうので、ストレスが大きい」 といった声が目立った。UZUZが以前実施したZ世代の意識調査でも、連絡手段として「電話」に心理的負担を感じる就職・転職活動中の若者が64.2%に上ることがわかっている。彼らが電話を負担に感じる理由として、「咄嗟の対応が苦手」 や、「言葉だけの説明が難しい」 といった声が目立った。

チャットのような「テキストコミュニケーション」を中心として育ってきた彼らにとって、予測不能な事態が連続し、職人たちとの即時的かつ泥臭い対人コミュニケーションが求められる現場仕事は、極めて心理的負荷の高い環境として映る。

そこに「見て盗め」「背中で覚えろ」といった旧態依然とした現場の空気感が残っていれば、彼らが足を踏み入れることは決してない。

日本のインフラは崩壊する

この「若者の現場離れ」がこのまま進めば、一体どうなるのか。その影響は一企業の「人手不足」にはとどまらない。

日本社会の基盤そのものが維持できなくなる「インフラ崩壊の危機」が、すでに目の前に迫っている。

国土交通省のデータによると、日本の建設業の就業者数は1997年の685万人をピークに減少し、2022年には479万人にまで落ち込んでいる。さらに絶望的なのはその年齢構成だ。22年時点で55歳以上が35.9%を占める一方、29歳以下はわずか11.7%にすぎない。

「20代で年収500万円」でもZ世代が見向きもしない, なぜ若者はブルーカラーが「完全NG」なのか?, 日本のインフラは崩壊する, 企業と社会に求められる「本質的なアップデート」

国土交通省『 建設業を巡る現状と課題 』より

今後10年以内に、現場を支えてきた熟練の技術者が大量に定年退職を迎え、人材の供給不足は一気に加速する。

その一方で、市場のニーズは拡大し続けている。政府と民間を合わせた建設投資額は、10年度の約42兆円を底に増加に転じ、25年度には約76兆円に達する見通しだ。「需要は増えるのに、担い手が減る」という巨大な需給ギャップが生まれているのである。

日本の道路や橋、トンネル、水道管といったインフラの多くは、高度経済成長期に集中的に整備された。そのため、今後数十年にわたり維持管理やメンテナンスのニーズが加速度的に増大していく。

「20代で年収500万円」でもZ世代が見向きもしない, なぜ若者はブルーカラーが「完全NG」なのか?, 日本のインフラは崩壊する, 企業と社会に求められる「本質的なアップデート」

国土交通省『 建設後50年以上経過する社会資本の割合 』より

にもかかわらず、現場を支える若手がいない。近い将来、「予算は確保したし、お金も出すから直してほしい。でも、現場で作業してくれる人がいない」という事態が確実にやってくる。水道管が破裂しても水が使えない日々が続き、崩れた道路はいつまでも直らない。日本のインフラは、確実に崩壊の足音を鳴らしているのだ。

企業と社会に求められる「本質的なアップデート」

この最悪のシナリオを回避するためには、業界と企業側の抜本的な意識改革が急務だ。「給料を上げたのに人が来ない」と嘆く前に、労働環境そのものの「質」の改善と、その取り組みを継続的に伝える「コミュニケーション」が重要だ。

まず取り組むべきは、「暗黙の了解」の排除と、心理的安全性の担保だ。現場のノウハウを個人の感覚に依存させるのではなく、マニュアル化や体系的な研修プログラムを整備し、「未経験からでも安全に学べる環境」を構築することが必須条件となる。失敗を責めず、論理的に指導する環境がなければ、若者は定着しない。

さらに、ドローンによる測量や、IoTデバイスを活用したスマートな現場管理など、テクノロジーの導入を急ぐべきだ。これは単なる業務効率化にとどまらず、現場仕事を「力仕事」から「高度な技術職・マネジメント職」へとリブランディングする強力なメッセージとなる。

社会を根底から支えるエッセンシャルワーカーは、本来もっと称賛され、憧れられるべき職業である。「条件さえ良くすれば誰か来るだろう」という甘い認識を捨て、若者が「ここでなら安心して働ける」と確信できる環境を用意すること。それこそが、企業が生き残り、日本のインフラを守り抜くための唯一の道である。