憲法前文を「おめでたい一文」高市総理が衝撃発言…国民の6割が憲法の内容を「知らない」と答える中、マスコミが果たすべき役割

硬派な読者を熱狂させてきた岩波書店『世界』の看板連載「メディア批評」が、戦いの場を現代ビジネスに移し、奇跡の復活を遂げた! 今回のテーマは、ずばり「メディアは何を報じるべきか」。京都・小学生殺害遺棄事件がセンセーショナルに報じられる一方、公布されてから80年の節目に当たる憲法記念日についてのテレビ報道はわずかだった。なぜ今、マスコミが取り扱うニュースはここまで偏ってしまうのか。まずは憲法報道から見ていきたい。

朝日新聞・毎日新聞・東京新聞の改憲への論調が変化

今年の憲法記念日(5月3日)は昨年までとは大きく状況が異なる中で迎えることになった。言うまでもなく、自民党は2月の衆院選で憲法改正案の発議に必要な3分の2を超える議席を獲得し、勢いに乗った高市早苗首相(自民党総裁)は4月の党大会で「改正の発議について『なんとか目途が立った』と言える状態で来年の党大会を迎えたい」と期限を明示した。

2月末に米国とイスラエルが始めたイラン攻撃でトランプ米大統領からあったホルムズ海峡への自衛隊艦船派遣の要請では、憲法に「国防軍」明記を主張する高市首相にとって、トランプ氏との会談(3月19日)で艦船派遣という手土産を阻んだ9条への敵意は相当に大きかったに違いない。これからの1年、憲法は1947年の施行以来、最大の試練を迎えることになるだろう。

朝日新聞・毎日新聞・東京新聞の改憲への論調が変化, 安倍政権下とは異なる世論調査の結果, 元最高裁長官が読売新聞で語った憲法への思い, 高市総理が憲法前文を「おめでたい一文」と揶揄

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そんななかでの在京の一般紙(5紙)の憲法記念日報道(5月3日朝刊)だが、いずれも関連ニュースを1面トップに掲載し、特集記事を組むなど手厚く報じた。

違和感があったのは社説の論調だ。憲法改正では朝日、毎日、東京が慎重な一方で読売、産経が積極的と見られてきたが、今年の社説からは前3紙のスタンスが見えにくかったことである。

朝日のタイトルは「高市政権と憲法 『改憲ありき』を繰り返すのか」と反対ふうではあるものの、朝日自身の改憲への考えは明確ではなく、「国民の間に改憲を求める機運が高まっているようには見えない」と国民に丸投げしているような態度だ。

曖昧なのは毎日も同じで、「主権者たる国民はどう向き合うべきか。憲法記念日に考えたい」とし、「安全保障環境が変化する中での平和主義のあり方について、主権者が認識を深める場がもっとあっていい」と述べるだけで自紙としての考えは示されなかった。

いつもは歯切れのいい論の東京も「自民党は憲法を巡り、国の理想を物語るという一側面を際立たせることで、国家権力を縛るという最も大事な役割を軽んじようとしているとしか思えません。(略)あらためて気づかされる今年の憲法記念日です」といかにも中途半端であった。

一方、地方紙の一部は明快だ。琉球新報は「憲法の理想と目的は達成の途上にあり、その意義は増している。現実に慣らされて価値をおとしめてはいけない」とし、信濃毎日も「徹底した平和主義を掲げる日本の憲法は、人々の力で平和を築いていくための確かな拠り所だ。80年の時を経て、色あせていない」ときっぱり。北海道は「緊急事態条項であれ9条改定であれ戦争を近づける。過ちを二度と繰り返してはならない」と訴える。

朝毎東の3紙との温度差は歴然としている。とにかく野党など他の改憲反対論者の主張を根拠にした論点整理で生煮え感が拭えない。何が踏み込んだ表現で改憲を論じることを躊躇させているのか。こんな調子が発議まで続いたら、改憲の問題点は読者にはっきり伝わらないのではないかと危惧する。

次に取り上げるようにメディアが実施する最近の世論調査では改正賛成が反対を少し上回る傾向にあり、社説もこうした動向の影響を受け始めているのであろうか。

安倍政権下とは異なる世論調査の結果

5月3日付朝刊で、世論調査結果を報じたのは朝日、毎日、読売の3紙(朝日、毎日は先に触れたように立場が不明ながら世論調査では改憲の賛否を聞いている)。賛否は3紙とも賛成が反対を上回る結果だった。朝日・賛成47%、反対43%、毎日・賛成37%、反対30%、読売・賛成57%、反対40%。とはいえ、賛否の差はそれほどではない。

朝日は「安倍政権下の'16年〜'20年の調査で、改憲実現の賛否を聞いた。この間は、『反対』が『賛成』を一貫して大きく上回った。今回は賛否が分かれた」と分析。毎日は「賛成が反対を上回ったのは同時期に同種の質問をした'22年の岸田文雄内閣時の調査以来4年ぶりとなる」とした。

読売だけは昨年調査よりも賛成は3ポイント減で反対は4ポイント増加するなど朝毎とは逆の傾向を示した。世論は改憲に向けてまっしぐらというわけでもないようだ。この点の解説はないが、井上武史・関西学院大学教授(憲法学)の「この数年、憲法改正に賛成は6割くらいで、改憲への機運はずっと高いままだ」との談話を掲載している。

ただ、9条改正に絞ると結果はやや異なる。朝日は「変えないほうがよい」が63%(前回’25年調査は56%)、「変えるほうがよい」は30%(同35%)と反対が増えた。読売は戦争放棄を定めた9条1項の改正は必要が「ない」が80%、「ある」が17%で前回と同じだった。毎日は「憲法9条を改正して自衛隊の存在を明記することに賛成ですか」と質問内容がやや異なることもあり、「賛成」が43%、「反対」は24%、「わからない」が31%と分散した。

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NHKも「ニュース7」で世論調査結果を報じている。改憲が「必要」「どちらともいえない」は38%、「必要ない」が20%だった。9条改正については「必要」が33%、「必要ない」が31%、「どちらともいえない」が31%と拮抗した。

NHKの調査ではこうした回答の前提ともなる別の質問の回答結果が興味深い。「憲法で定められている理念や内容についてどのくらい知っているか」と聞いたところ、「よく知っている」はわずか4%で、「ある程度知っている」が36%。「あまり知らない」は47%、「まったく知らない」が12%だった。「よく」と「ある程度」を合わせても4割で、「あまり」と「まったく」を合わせると、「知らない」は6割にも上ったという。

そもそも国民の間に憲法とは何かという基本的な理解が十分ではないのだ。そうしたなかで憲法改正の是非を問うことは非常に危険であることがわかり、よい質問項目だ。世論調査は国民の意識を探る上で参考になる。憲法改正といった日本の将来に関わる重要なテーマでの世論調査ではNHKにあったような項目は欠かせないだろう。

元最高裁長官が読売新聞で語った憲法への思い

各紙が数多く報じた憲法関連で筆者が注目した記事は二つある。

一つは読売が5月4日朝刊第二社会面で大きく取り上げた島田仁郎・元最高裁長官(87歳)のインタビューだ。「憲法の精神 世界誇れる」という4段見出しのほかに「平和や人権尊ぶ」との3段見出しが付いた記事は、幼い島田氏に母親が憲法公布の日('46年11月3日)、「日本はもう戦争をしないことになったのよ。平和憲法が公布されたの」と語りかけたエピソードから始まり、島田氏が「日本の憲法がうたう平和主義や基本的人権の尊重は、戦争で犠牲となった人々の無念の上に成り立っている。その精神を決して忘れず、未来へとつないでほしい」と中川慎之介記者に託す言葉で終わる。

同紙の憲法を論じた社説(5月3日)は「他国を信頼する、という前文の理念は、もはや通用しない。安全保障を米国に頼り、自衛隊は最小限度の実力があればよい、という時代は終わった。(略)9条の改正論議は下火になっているが、後回しにしてはならない課題だ」との論を展開していただけに、忘れてはならない憲法の原点を島田氏の言葉は提示していたと思う。

もう一つは、高市首相が憲法記念日を前に応じた産経の単独インタビュー記事だ。高市首相の情報発信の特徴は、質問を受ける国会での答弁や記者会見よりも一方的なSNSを重視する点だ。

例えば、予算が成立した際には岸田文雄政権(24年度予算)や石破茂政権(25年度予算)では行われたフリー記者やネットメディアも参加できる形の記者会見を、過去最大規模となった'26年度予算の成立時には開かなかった。

高市首相は首相官邸に常駐する新聞・放送記者らを対象とした「報道各社のインタビュー」(朝日・首相動静の表記)に4月7日夜、22分間応じただけで書面での質疑応答も対応しなかった(岸田氏は約55分、石破氏は約47分・書面質問への回答あり)。

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その一方で産経の個別取材に応じたのは、思想信条が近く、利用価値のあるメディアには便宜を図るトランプ大統領と似ている。紙面上は自民党総裁インタビューであることを強調していたが、取材は首相官邸で行われたようだ。

見出しは「改憲 参院選合区解消を急ぐ 緊急事態条項も先行」。高市首相は「国民投票こそ国民主権の最大の発露だ」と語り、合区解消については「現実問題としてとても急ぐ。再来年が参院選の年だ」と強調したようだが、内容に目新しさはなかった。

高市総理が憲法前文を「おめでたい一文」と揶揄

一方、マスメディアのなかで最も多くの人たちに情報を届けられるはずの地上波テレビの憲法報道だが、信じがたいことにTBS系の「報道特集」や「サンデーモーニング」「Nスタ」など一部の番組を除けば、民放各局のニュース番組は大型連休中の各地の話題ばかりが幅を利かせ、無視に等しい扱いだった。

大半は東京都内で開かれた立憲民主、共産、れいわ、社民の幹部らが出席した護憲派の集会と高市首相がビデオメッセージを寄せた改憲派の集会の賛否双方を短く紹介しただけの扱い。テレビ朝日の「有働Times」では取り上げたのは、改憲派のみだった。

NHKの「ニュース7」は両派の集会に加え、世論調査結果と改憲側から井上武史・関西学院大学教授、護憲の立場から青井未帆学習院大学教授の2人の学識者コメントを並べるいかにもNHK的な「バランス」に配慮した取り上げぶりだった。

朝日新聞・毎日新聞・東京新聞の改憲への論調が変化, 安倍政権下とは異なる世論調査の結果, 元最高裁長官が読売新聞で語った憲法への思い, 高市総理が憲法前文を「おめでたい一文」と揶揄

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それだけに「報道特集」は番組名通りの「報道」に値する内容だった。高市首相が'00年9月の衆院憲法調査会で「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とする憲法前文を「おめでたい一文」と揶揄し、「改憲の機会があれば真っ先に変えようと思う」と明言した場面などは、首相の憲法観を分かりやすく伝えている。番組ホームページでアーカイブ視聴できる。

共同通信が5月18日に配信したニュースによると、5月3日までの2ヵ月間で、「憲法」と「9条」の両方の言葉を使ったX(旧ツイッター)の投稿は約226万4000件あった。昨年の同じ時期の約21倍だという。これだけ関心が高まる中での乏しいテレビの憲法報道。公共の電波を使用する放送事業者として、国民の知る権利に応える気概があるのか疑いたくなる。

今年は憲法が公布されてから80年の節目にあたる。国会が改憲勢力に覆われる中で、国民投票の前に内閣や国会が取り組むべき課題はないのか。日本国憲法の理念が現実に合わなくなったのであればそれはなぜなのか。国会議員や官僚など国の支配者層が理念の実現をさぼってきた結果ではないのか。メディアには深く掘り下げた憲法報道を心掛けてほしい。

後編記事『京都南丹の男児殺害事件を扱った5番組が「視聴率ベスト10入り」…テレビ各局が非難殺到の「長時間報道」を続けたワケ』へ続く。