なぜ人間は必ず老いるのか…学界で注目を集める「3つの老化学説」

「老化」のふしぎ, 名著『ゾウの時間ネズミの時間』でも有名, 現代の定説「老化のフリーラジカル理論」, 「細胞死」機能の低下が老化を招く?

なぜ人間は必ず老いるのか…学界で注目を集める「3つの老化学説」

ミドル~シニア層の日本人にとって、真に有効な健康習慣とは? あなたの「老化時計」の進み方を大きく変える、「食事」「運動」「ライフスタイル」について、最新研究の成果から解説。「健康の常識」をアップデートする新連載!

本記事は、『健康寿命と身体の科学 老化を防ぐ、50歳からの「運動・食事・習慣」』(樋口 満・著)を一部抜粋・再編集したものです。

「老化」のふしぎ

本記事では、そもそも老化はなぜ起きるのかについて、考えてみたいと思います。

老化(Aging:エイジング)の定義はさまざまですが、最も一般的なものは、「老化は恒常性(ホメオスタシス)を維持するための身体的能力が低下していくことによって起こる」という考えです。

私たちのからだは恒常性によって、諸機能を適正な状態に保ち、外部からの刺激に対して効果的に反応することを可能にしています。したがって、恒常性がよく機能しているときには、身体の適応能は高いレベルで保持されています。

では、どうして年齢が進むと、適応能の低下、すなわち老化のプロセスが進行するのでしょうか。こうした問いに答えるべく、世界中で300以上もの老化の仮説モデル(概念)が提唱されているそうです。

その中には、老化はひとつの要因によって決定づけられていると考える人もいれば、多くの要因によって決められる複雑なプロセスであると考えている人もいます。

以下では、老化学説のうち、代表的な3つをご紹介します。

名著『ゾウの時間ネズミの時間』でも有名

20世紀初頭に提唱された老化理論のひとつが、「生涯代謝量一定理論(rate-of-living theory)」です。この老化理論では、「動物の生涯の代謝量は一定であり、エネルギー代謝が高く、酸素消費量が大きい生活をしていると、寿命が短くなる」と考えます。

この理論の背景には、体重当たりの酸素消費量が大きい(エネルギー代謝率が高い)動物の寿命は、それが低い動物よりも短いという事実があります。具体的には、安静時心拍数が300拍/分を超す小動物のマウスの寿命は2年ほどであり、安静時心拍数が100~160拍/分のネコの寿命はおよそ15年、そして大型動物のゾウでは、安静時心拍数が25拍/分と低く、その寿命は60年と長くなっています。

寿命が短いイエバエの例では、活発に動き回ることができる広いスペースで飼育され、酸素消費が多く、エネルギー代謝レベルが高い状況では、動きが制限された狭いスペースで飼育されて酸素消費が少ない状況よりも、寿命が短いということが報告されています。さらに、食事制限(摂取カロリー制限による代謝率の低下)が実験動物の寿命を延ばすこともよく知られています。

現代の定説「老化のフリーラジカル理論」

生涯代謝量一定理論は、1950年代には「老化のフリーラジカル理論」という、20世紀後半のパラダイムを形成する学説につながっていきました。

対をなさない電子(不対電子)をもつ分子(フリーラジカル)は、細胞内に存在するさまざまな物質(脂肪酸、たんぱく質やDNAなど)に容易に反応します。その酸化ストレスが、人間では中年期から著しく増加し、生体の機能低下につながっていると考えられているのです。

生体内では、加齢によって、フリーラジカルを生成する酵素(NADPH-オキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼなど)の活性が増加し、多くのフリーラジカルが生成され、酸化ストレスが増加します。

一方で、酸化ストレスを抑制する酵素(抗酸化酵素)や酸化ストレスを修復する酵素などの活性は加齢とともに低下し、全体として生体防御機能は低下していきます。これらに加えて、ストレスを受けたたんぱく質の除去(アポトーシス)や細胞の酸化ストレスを修復するために働くハウスキーピング酵素の活性も低下します。

こうして蓄積された酸化ストレスは、細胞の機能を弱め、フリーラジカル生成をさらに刺激する連鎖反応を誘導し、老化が促進されます(図「フリーラジカルによる酸化ストレスとその予防」)。

「老化のフリーラジカル理論」は現在、最も受け入れられている老化理論のひとつです。

「細胞死」機能の低下が老化を招く?

最後に、「アポトーシス理論」をご紹介しましょう。

生体内では細胞の増殖(分裂)が持続的に起きていますが、たんぱく質合成やDNA複製システムでは、エラーが生じることもあります。そのエラーのほとんどは、フリーラジカルによって引き起こされるストレスによって生じています。エラーが生じた細胞は生体を危険にさらすため、危険性を回避し、個体をよりよい状態に保つために「プログラム細胞死(アポトーシス)」と呼ばれる生体防御により、自滅するようになっています。

アポトーシスに陥った細胞は萎縮し、核が濃縮し断片化します。核と細胞膜の断片は、アポトーシス小体を形成し、そこから放出された細胞内プロテアーゼが、細胞骨格、細胞質、およびたんぱく質の分解を引き起こします。そして、隣接するマクロファージ(食細胞)によってアポトーシス小体は飲みこまれ、消化されます。その後、消化された分子は生体内の諸過程において再利用されます。

適度なアポトーシスは腫瘍の進展を防ぎますが、加齢によりその機能は低下していきます。そのため、がんのリスクも増加していくのです。

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本連載では、スポーツ科学の第一人者が、「健康長寿の秘訣」をエビデンスに基づいてお伝えしていく。