「アジア人ばかり…」でファン離れも今は昔 日本勢13人参戦の米女子ツアー人気回復を主導する“やり手暫定CEO”の手腕とは?
地球上のどの女子スポーツ団体より長い歴史と胸を張る
今年、13名の日本勢が参戦している米女子ツアーのLPGAは、1950年にベーブ・ザハリアスら4名のレジェンドによって創設されて以来、今年で75周年を迎えている。

「JMイーグルLA選手権」最終日、優勝したイングリッド・リンドブラッドと健闘を称えあう2位の岩井明愛 写真:Getty Images
現在のLPGAは正規のCEOが不在の状態ゆえ、今はLPGAの事務方を長年務めてきたリズ・ムーア氏が、暫定CEOとして指揮を執っている。
その状態は不安定ではないのか。現在のLPGA、これからのLPGAは、どうなっていくのか。日本勢が大挙して参戦しているだけに、とても気になるところだが、ムーア氏は自信満々の様子である。
【写真】バレたら“永久追放”!? これがマスターズで“持ち込み厳禁”の品目です「75周年を迎えるのは、この地球上のどの女子スポーツ団体より長い歴史で、とても誇らしく思っています。そして今、私たちLPGAには、かつてないほどの追い風が吹いています」
今季、LPGAに挑んでいる13名の日本勢は、「参加することに意義がある」ではなく、しっかり結果を出しつつある。
竹田麗央は早々にルーキー優勝を飾った。そして先週は「JMイーグルLA選手権」で岩井明愛が優勝争いを演じ、初優勝は逃したものの、サンデーアフタヌーンを大いに沸かせてくれた。山下美夢有と畑岡奈紗も、それぞれ3位タイと6位でトップ10入りを果たし、日本のファンは早朝からテレビ中継に見入っていたのではないだろうか。
同大会の会場はロサンゼルス郊外のエルカバレロCC。大規模な山火事で甚大な被害を受けたパシフィックパリセーズから車で1時間ほどの位置にある。
出場選手のうちの数人は、山火事の際に実際に出動して消火活動に当たった消防署を慰問し、現場の様子や消火活動の何が困難だったかといった話に耳を傾けながら、消防士たちの労をねぎらったそうだ。
選手たちが試合開催地の人々のために尽くす地道な社会貢献やチャリティー活動が、LPGAファンを徐々に増やしていることは言うまでもない。
また、同大会をスポンサードしているJMイーグルとプラストプロは、山火事で被害を受けた人々を支援する団体へ650万ドルを寄付。さらに、144名の出場選手全員の宿泊費を負担したほか、被災地から大会観戦に訪れた人々の入場料をすべて無料にした。
山火事の際に消化活動や救助活動に携わった消防、警察、軍隊、医療関係者とその家族にも入場チケットを配ったそうだ。
こうした活動や姿勢を知った人々は「ゴルフは素晴らしい」と感じ、ゴルフのファンになり、ひいてはLPGAのファンになる。
もちろん、ファン獲得のために社会貢献しているわけではない。「ファンのために」を第一に掲げてきた長年の取り組みが、今、花開き、実を結びつつある。
JMイーグルLA選手権の賞金総額は375万ドル、優勝賞金56万2500ドルはメジャー大会やCMEツアー選手権を除いた中では2番目に高額。
そして、今季の賞金総額は、昨季の1億2300万ドルから800万ドルアップした1億3100万ドルを誇っている。
ムーア暫定CEOが言った通り、こうした数字も現在のLPGAに追い風が吹いていることを示していると言っていい。
出場順位の計算ミスにより馬場咲希が被害を受けたが…
ゴルフ界の長年の懸案であるスロープレーに対しても、LPGAは秒数に応じて罰打を課す独自の規定を設けるなど、他のゴルフ団体に先駆けて、アクティブな取り組みを見せている。
世界ランキング1位の女王ネリー・コルダも「私たちはファンを喜ばせることが仕事。プレーがあまりにもスローになると、ファンを飽き飽きさせることになり、エンターテインメントではなくなってしまう」と語り、LPGAの積極的なファン・ファーストの取り組みを高く評価している。
しかし、その一方で、問題や騒動にも直面した。韓国のTV会社の契約不履行により、ファーヒルズ・朴セリ選手権は開催見送りとなり、今後の開催については、今なお未定の状態にある。
つい先日は、選手の試合への出場順位を示すプライオリティーリストのポイント計算に大きなミスがあったことが発覚。
その結果、本来なら出場資格がなかった大会にソフィア・ポポフを出場させ、ポポフに押し出される格好で馬場咲希など3名の選手が出場できたはずの大会に出られずじまいになるという、驚きの出来事があった。
ムーア氏いわく、「ミスが判明した際、私たちが何より心がけたのは、すぐに対応することでした。そして実際にスピード対応することができ、関係者すべてと接して、今後のことを話し合いました。関係した選手たち全員がとても寛容な姿勢を見せてくれたことに何より感謝するとともに、同じミスが二度と起こらないよう再発防止に努めます」
貴重なプレー機会とポイント獲得のチャンスを失った馬場ら3名の選手に対しては「彼女たちがそのまま妥協するはずはないので、しっかりとコミュニケーションを取り、進捗状況をオープンにして透明性を維持しながら、選手とともに前へ進みたい」。
ミスは誰にも起こりうる。そう信じるLPGAは、今回の失態によってつまずいたり怯んだりすることはなさそうである。
それにしても、暫定的にLPGAの指揮を執る臨時CEOでありながら、毅然とした姿勢でLPGAを率いているムーア氏のリーダーシップには感服させられる。
いっそのこと、彼女がそのまま正規のCEOに就任してしまえばよいのではないかと思えてくるが、正規のCEOには2名の候補がすでに挙がっており、近いうちに新CEOが決まりそうである。
新CEOが就任したら、ムーア氏は再び以前のように縁の下の力持ちに戻り、新CEOをそばでサポートしながらLPGAの成長と発展のために尽くすのだろう。
そんなムーア氏の存在は、近年、LPGAが人気を取り戻し、スポンサーも増えつつあることに大きく貢献している。
そして、昨年はコルダの出場5試合連続優勝やリディア・コのパリ五輪ゴールドメダル獲得などのビッグニュースもあった。
ローズ・チャンをはじめとする将来有望な若手米国勢の台頭と活躍も、LPGAの人気回復を手伝っている。
かつてのLPGAは、韓国勢を筆頭とするアジア勢に席捲されたことで、米国人ファンが離れ、人気が低迷したが、昨今は女王コルダから有望若手のローズ・チャンに至るまでの米国勢の活躍に期待が集まっている。
そんな中、13名の日本勢の活躍が、LPGAにとって、さらなる追い風となってくれたらいいなと願わずにはいられない。そうなるためには、日本人選手がゴルフでもゴルフ以外でも、「ファンのためのプレーヤー」になることが求められる。
もしも、そうなってくれたら、その経緯と結果は、日本の男女双方のツアーにとって、大いなる参考になるのではないだろうか。
文・舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
舩越園子(ゴルフジャーナリスト)