朝日新聞は「こっそり修正」で幕引き? 動画コンテンツ“無断使用”のその後にとった、大メディアの驚きの対応

朝日新聞社の社旗(写真:西村尚己/アフロ)
(西田 亮介:日本大学危機管理学部教授、社会学者)
朝日新聞の無断「引用」問題
先週の小欄では、朝日新聞社がJBpress主催、企画、編集の「政治コンテンツ」(動画)を丸ごと文字に書き起こした「引用」を行い、JBpressも文字起こしコンテンツを配信しているそばから、無関係のまるで国会での発言であるかのような誤認を誘発する本文と無関係の写真を掲載し、広告満載かつ有料会員への導線と直結させたサイトとYahoo!ニュースに転載する事案について問題提起を行った。
◎それでも朝日新聞を信頼できるか? 出演者が怒るJBpress動画コンテンツの“無断使用”、著作権への無自覚さを問う 【西田亮介の週刊時評】| JBpress
経緯を振り返っておこう。

筆者作成
JBpressで小欄の姉妹編ともいえる動画の新連載が始まった。筆者がホストを務めるYouTubeの対談シリーズで、月1回の更新予定で、直近では山尾志桜里氏との対談を予定している。
◎西田亮介の週刊時評@ライブ
コンテンツは2025年5月16日に収録して、四分割して5月22日から順次公開された。
①【キレ芸・西田亮介vs国民民主・伊藤孝恵】政治とSNSの舞台裏/リハック怖い?/なぜ現役世代を狙う?/話題の激怒動画…真相は/国民民主党はネット...
②【西田亮介が詰める!元議員4人公認】国民民主党・伊藤孝恵氏はどう答える?/確認書の真意/手取りは本当に「もっと」増やせる?/国民民主は政策オタク...
③【西田亮介×伊藤孝恵】国民民主党・ネット選挙の全貌/石丸伸二の手法にも学んだ/ソーシャルリスニング/AIファクトチェック導入/1億回再生目指す動...
④【西田亮介×就職氷河期世代・伊藤孝恵】私も100社落ちた!/当事者だかこそのホンネ/どうする低年金問題/玉木雄一郎総理誕生?/榛葉幹事長人気のヒ...
この②の約3分40秒以下のくだりを文字起こしして冒頭のとおり「引用」もとい転載したのが朝日新聞社であった。
インターネットのコンテンツであるから、紙幅の問題は無関係であり、「新聞業界の慣習」などという言い訳が通用するはずもあるまい。
その後、朝日新聞がとった対応とは?
著作権との兼ね合いでの懸念点を再度まとめておこう。

筆者作成
そもそも引用は「正当な範囲内」で行われなければならないという。文化庁の「著作権テキスト――令和6年度版」には以下のように記されている。
3 報道、批評、研究などの引用の目的上「正当な範囲内」であること(例えば、引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であることや、引用される分量が必要最小限度の範囲内であること、本文が引用文より高い存在価値を持つこと) 4 「出所の明示」が必要(複製以外はその慣行があるとき)(前掲テキストp.72より引用)
当初は「16日収録のインターネット番組で」という「出典表記」であった。この表記で元のコンテンツに辿れるという人はほとんどいないであろうことは明らかだ。
区別明瞭性も何もなく、そのまま文字起こしして、単独のコンテンツとして、活用、配信しているのだ。
JBpressも文字起こしのコンテンツを提供しているなかで、単独コンテンツとして同一性を保持するどころか無関係の写真を貼り付けて活用、転載することが、「報道目的の適切利用」といえるだろうか。筆者はそうは考えない。
また公開の政治的演説に関する例外規定があることも承知している。
(公開の演説等の利用) 第四十条 公開して行われた政治上の演説又は陳述並びに裁判手続及び行政審判手続(行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続をいう。第四十一条の二において同じ。)における公開の陳述は、同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。(著作権法第四十条より引用)
だが、文化庁の前掲テキストは次のように記している(p.83)。
【「公開の演説等」「裁判等での陳述」の利用】(第40条第1項) 「公開して行われた政治上の演説・陳述」や「裁判や行政審判での公開の陳述」を、さまざまな方法で利用する場合の例外です。 【条件】 1 公開して行われた政治上の演説・陳述又は裁判手続等における公開の陳述であること 2 同一の著作者のもののみを編集しないこと 3 「出所の明示」が必要(文化庁「著作権テキスト――令和6年度版」(p.83)より引用)
なお、第40条第2項に関しては、正当な利用に関する留保がついており、やはり本件のような「丸ごと文字起こし転載」が「正当な利用」に該当するのか甚だ疑問である。
前回の小欄では、そのような事案について問題提起するとともに、このような朝日新聞社は信頼に値するかどうかを問うた。
幸いにして、佐々木俊尚氏のようなインフルエンサーに言及されるなどしたこともあって、記事は相当程度読まれたものと認識している。
さて、その後、朝日新聞社はどのように対応したのだろうか。
結論からいえば、朝日新聞社はこっそり修正した。
謝罪はないがこっそり修正
そして、自社の正当性に関する「言い分」をJBpressに送りつけてきたと伝え聞く。要諦はこうらしい。
① 著作権法第40条第1項による例外適用
② JBpressの著作権も当該国会議員の著作権も侵害しない
③ 公益性が高く記事として紹介
④ しかし媒体名は付記することに変更
文面中、謝罪は一言もない「回答」だったそうだ。
常識的な読者諸兄姉なら、ただちに①〜③の理屈に対してまったく腹落ちしないことに気づくであろうし、そもそも百歩譲って①〜③ならなぜ、媒体名を付記する修正を実施したのだろうか。
やましいことがあるからではないか。
それとも「仕方ないから付記してやった」のだろうか。なにより朝日新聞社の対応にはコンテンツ制作者に対する敬意のようなものが一切感じられないということを今一度声高に強調しておきたい。
ちなみにこの修正に変更履歴や修正履歴は一切記されていない。当然のように経緯も記されていない状態だ(JBpressの当該記事には「編集部注」として事態の経緯が付記された)。
下記の2つの引用を比較してみてほしい。最終更新日は記されているが、どの点が修正されたかは不明である。
あとから経緯をたどることは不可能に近いだろう。
そしてこの修正は圧倒的に、大きなメディアである朝日新聞社デジタル版にとって有利であろう。


上下ともに朝日新聞デジタル「国民民主・伊藤孝恵氏「参院選後、課題になるのは党のガバナンス」より引用。上が2025年5月29日、下が同年6月5日参照。
新聞紙とデジタル版の大きな違いは記録性であり、アーカイブ性にある。
新聞紙面は縮刷版やデータベースに改変コストが高い状態で記録される。しかしデジタルは違う。デジタル版の修正は容易で、その履歴は新聞社自ら示さない限り気づくことは困難だ。
海外有力紙のなかにはそうした編集履歴を示すことで、公正さを担保しようとしている媒体もあるが、朝日新聞はまったくそうではないようだ。
これでは自社に都合の悪い修正があったとしても、読者はほとんど認識できないだろう。同社はそれでよいと考えているのだろうか。それとも単に無意識なだけかもしれない。
どのように朝日新聞社を信頼しろというのか
デジタルでの在り方について日経新聞を除くと日本の新聞社は苦戦が続く。販売部数だけではない。信頼感は失墜している。
なお新聞社がコンプライアンスや信頼確保のためにかけているコストはおそらく増しているはずなのだが、結局、読者が見るのは紙面であり、コンテンツなのだ。
そこでの対応の一端は、本稿で記してきたとおりである。
かつて新聞は「社会の木鐸」と呼ばれてきた。
メディアがデジタルの時代になって久しい。部数や存在感としても斜陽産業であることは明らかだが、かといって信頼できる蓋然性が高い報道が衰退して良いとは筆者はまったく考えない。
むしろ筆者は、産業振興の文脈でメディア事業の編集権に抵触しない領域を中心とする補助(拡大。すでに様々な実質的な補助や優遇措置が存在するため)と創業補助を行うべきということを最近は主張している。
だが、この有り様で、どのように朝日新聞社を信頼しろというのだろうか。
なお、こうした問いかけに対して、同社は一切応答しないことを決め込んでいることも付記して筆を置くことにする。