「愛子さま、さすがすぎます」源氏物語への深い理解がにじんだ春の雅楽演奏会 リクエストの青海波が話題に 輪台から続けて演じる構成にも注目

■光源氏の青春のハイライト, ■愛子さまが言及した「構成」の意味, ■注釈書への質問に専門家も驚き, ■登場人物の関係性について「親近感がある」, ■恋愛だけではない源氏物語

 天皇、皇后両陛下の長女・愛子さまが、春季雅楽演奏会で舞楽の演目をリクエストしていたことが話題となっている。選ばれたのは、源氏物語にも登場する「青海波(せいがいは)」。古典文学と雅楽への深い理解がうかがえるとして、驚きと称賛の声が広がっている。

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 天皇、皇后両陛下の長女・愛子さまが4月25日、宮内庁楽部による春季雅楽演奏会を鑑賞された。昨年秋は天皇陛下とともに鑑賞されたが、今回はお一人での鑑賞となった。桃色のセットアップ姿で会場に入られた愛子さまは、担当者に熱心に質問しながら、時折笑顔を見せていた。

 この日披露された舞楽「青海波(せいがいは)」は、愛子さまが昨春にリクエストされていた演目だった。報道を受けて、SNSでは驚きの声が上がった。

「雅楽に造詣の深い愛子さま」「ただただ尊敬」「本当に雅楽がお好きなんですね」「愛子さま、さすがすぎます」

 こんな投稿もあった。「青海波といえば若き光源氏が舞った演目」「源氏物語を学ばれている愛子さまがリクエストされたのなら素敵」

 実際、青海波は源氏物語に登場する舞だ。しかも、若き光源氏の美しさと才能が際立つ、物語屈指の名場面である。

■空までが感動

 源氏物語に詳しい学習院大学准教授の春日美穂さんは、青海波についてこう話す。

「源氏物語が好きな人であれば、『あの場面だ』とすぐに思い浮かぶ名シーンです」

 物語で青海波が登場するのは、「紅葉賀」巻。十代後半の光源氏が、上皇である一院の長寿を祝う宴での場面だ。

 登場するのは、光源氏と左大臣家の御曹司である頭中将。西日が差し込む中、二人の若き貴公子が並んで舞う。

 紅葉の木陰で、楽人たちが音楽を奏でる。

<深山(みやま)おろしかと思うほど吹き荒れる松風が、その音に響き合う。木の葉が色とりどりに風に散り飛ぶ中を、光君の「青海波」が輝かしく舞い出てくる。その姿はおそろしくなるほどのうつくしさだった。頭に挿した紅葉が、光君の美に圧倒されたようにはらはらと散ってしまい、左大将がみずから菊を手折って挿しかえた。日が暮れてくると、空までが感動して涙を流すかのように時雨がぱらついた>(「源氏物語 上」角田光代訳)

 映像作品でも、青海波は象徴的に描かれてきた。天海祐希さんが光源氏を演じた映画「千年の恋 ひかる源氏物語」(2001年)や、生田斗真さんが光源氏を演じた映画「源氏物語 千年の謎」(11年)でも、光源氏が青海波を舞う場面は印象的に扱われている。

■光源氏の青春のハイライト, ■愛子さまが言及した「構成」の意味, ■注釈書への質問に専門家も驚き, ■登場人物の関係性について「親近感がある」, ■恋愛だけではない源氏物語

■光源氏の青春のハイライト

 青海波の場面が特別なのは、舞の美しさだけではない。光源氏が詩句を朗唱する「詠(えい)」の場面が挿入される。

「光源氏の詠があまりにも素晴らしく、極楽浄土を思わせるほどだと描かれています。その場にいた帝や上達部たちも、感動して涙したと書かれています。光源氏の卓越した美しさがあり、普通の貴公子ではないことを示しています」(春日さん)

 光源氏の青春のハイライトともいえる場面だ。春日さんは言う。

「物語では後年になっても『あのときの青海波は素晴らしかった』と何度も回想されています」

 しかしその裏では、すでに物語の暗い影が動き出している。

 光源氏は、父の后である藤壺と関係を持っている。藤壺は光源氏の子を身ごもっているが、その事実を父帝は知らない。

「父である帝が光源氏を絶賛している一方で、藤壺は素直に素晴らしかったと言えない。光源氏としても複雑ですし、藤壺としても苦しい。非常に人間心理が交錯しています」(春日さん)

■愛子さまが言及した「構成」の意味

 今回、愛子さまの演奏会後の発言も注目された。

「構成といい装束といい、本当に素晴らしいものを見させていただきました」

 一見すると自然な感想に聞こえる。しかし、源氏物語や雅楽の文脈を知ると、「構成」という言葉の見え方が変わる。

 この日の演奏会では、「輪台(りんだい)」と「青海波」が続けて披露された。輪台は4人で舞う舞楽。宮内庁楽部でこの二つの演目を続けて演じるのは40年ぶりで、愛子さまは「歴史的な瞬間ですね」と話したという。

 春日さんによると、源氏物語のストーリーをただ読むだけでは、輪台と青海波の関係を理解するのは難しいという。

「一般的に私たちが目にしやすい本文には、輪台という言葉は入っていません。ただ、中世の楽書には、輪台と青海波はセットで演じると書かれています」

 つまり、青海波が演じられてきた「背景」を踏まえたうえでの言葉だった可能性がある。

「一般的に、中世の楽書や注釈などに関わる調査や研究結果を知らなければ分からないことです」(春日さん)

 だからこそ、SNSで「さすが」と驚く声が広がったのだろう。

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■注釈書への質問に専門家も驚き

 愛子さまの源氏物語についての「さすが」エピソードは他にもある。

 24年、愛子さまは初の単独公務として、東京・国立公文書館の特別展「夢みる光源氏 」を鑑賞した。

 この展覧会では、「夢」をテーマに、源氏物語や平安文学に関する資料が紹介された。江戸時代の注釈書「窺原抄(きげんしょう)」を見た愛子さまは、「湖月抄(こげつしょう)との関わりは」と質問したという。

 この質問に、古典への深い理解が垣間見える。春日さんは言う。

「湖月抄は有名な注釈書ですが、個人的に関心を持って調べたりしないと、なかなか出てこない名前です」

 物語のあらすじにとどまらない知識がうかがえる。

 学習院女子高等科では、源氏物語などの平安文学をもとに「平安時代の猫と犬 ―文学作品を通して―」という卒業レポートを提出した。レポートは、基準の倍近い分量だったとも報じられている。

■登場人物の関係性について「親近感がある」

 愛子さま自身は、源氏物語にどのような感想を抱いているのだろう。

 それがうかがえる出来事があった。23年に、天皇ご一家で東京国立博物館の特別展「やまと絵」を鑑賞したときのこと。「源氏物語絵巻 夕霧」を見た愛子さまは、登場人物の関係性について「親近感がある」と話したといわれている。

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 愛子さまは「夕霧」のどこに親近感を持ったのかはSNSでも話題になった。

 源氏物語「夕霧」巻で、光源氏の長男・夕霧は、朱雀院の娘である落葉の宮に恋して強引に夫妻になるが、落葉の宮はますます心を閉ざす。夕霧の妻・雲居雁は怒り、夕霧にきた手紙を奪ってしまう。女性たちの生きにくさに対して、紫の上は思いをめぐらせた。

<女ほど、身の振り方が窮屈でかわいそうなものはない。うつくしいものに心動かされたり、折々の風雅を味わったり、そういうことを何もわからないかのように引きこもっておとなしくしていたら、いったいどうやってこの世に生きるよろこびを味わい、無常の世のむなしさを忘れたりできるというのだろう>(「源氏物語 中」角田光代訳)

■恋愛だけではない源氏物語

 源氏物語は「光源氏が多くの女性と関係を持つ、恋愛だらけの小説」といわれることがある。しかし春日さんは、それだけでは作品の魅力は捉えきれないと話す。

「光源氏の恋愛に割かれている部分は、実はそれほど多くありません。恋愛だけでなく、政治や身分、家族関係、感情のすれ違いなどが非常に複雑に描かれています。人間同士がいかに理解し合うのが難しいか、感情がどれほどすれ違ってしまうのか、絶望した自分をどう救済していくのか、描かれているところが面白いです」

 登場人物の関係性が頭に入っていれば、物語は途中からでも十分に楽しめるという。紅葉賀の青海波の場面を読みながら、愛子さまが鑑賞した舞楽に思いをはせるのもいいだろう。

(AERA編集部・井上有紀子)

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