愛子さまの未来が見えない…「国民は生まれたときから見守ってきた」皇室典範改正案への違和感

皇族の数を将来にわたって安定的に確保するため、皇室典範改正に向けた与野党協議が大詰めを迎えている。女性皇族が結婚後も皇室に残る案と、旧宮家の男系男子を養子に迎える案の2案が軸だ。一方で女性天皇や女系天皇は議論の対象外。今回の改正が実現すれば、本当に皇室制度の安定につながるのか。法案をめぐる国会議論について専門家に取材した。
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減少する皇族数を確保するための方策として、衆参両院の正副議長が5日、「立法府の総意」の取りまとめ案を決定した。
①女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する
②1947年に皇籍を離脱した旧11宮家の男系男子を養子として皇室に迎える
この2案を「了」とし、政府に皇室典範改正などの制度設計を求める内容だ。各党・会派が了承すれば、正副議長が高市早苗首相に報告し、政府が改正案を国会に提出する流れになる。森英介衆院議長は今国会での成立を目指す意向を示している。
8日の全体会議で各党・会派に総意案を説明した。10日の正式決定を経て首相に報告されれば、政府が皇室典範改正案を作成し、7月17日の会期末までの成立が目指される。
■いま女性皇族が結婚したら、夫は一般人? 皇族?
この2案には、どのようなメリットや課題があるのか。
①案は与野党がおおむね賛同している。女性皇族が希望すれば、一般の男性と結婚した後も皇室に残って公務を担うことができるようになる。現行の皇室典範は、女性皇族が男性皇族以外と結婚すれば皇籍を離れると定めている。対象は未婚の5人。天皇皇后両陛下の長女愛子さま(24)、秋篠宮家の次女佳子さま(31)、三笠宮家当主の彬子さま(44)と妹の瑶子さま(42)、高円宮家の長女承子さま(40)だ。
象徴天皇制に詳しい名古屋大学大学院教授の河西秀哉さんは「現状の案で決まっているのは『女性皇族が皇室に残れる』ことだけです。夫や子どもの身分は空白のまま。夫としては『自分は皇族になるの? 一般人のまま?』と中ぶらりんの状態で、結婚の選択は難しくないでしょうか」と指摘する。

夫が一般人のままであれば、成年皇族1人あたり年間600万~3千万円ほど(基準額)の皇族費を抑えられる可能性はある。だが河西さんは、妻が皇族である以上、夫の職業選択は大きく制約されるかもしれないとみる。
「普通の会社に勤めることは、かなりの制約があると思います」。皇族でも民間人でもない“制限される一般人”が生まれるのではないかという。

■夫と子の身分が決まらない理由
そもそも男性皇族と結婚する女性は皇族になっているのに、皇室に残る女性皇族の結婚相手は、皇族になるのか、一般人のままなのか決まらない。なぜか。
背景には、夫や子が皇族になれば「女系天皇」につながりかねないという、自民党や日本維新の会などの根強い反対論がある。立憲民主党は夫と子も皇族とすべきだと主張するが、今回の総意案には盛り込まれなかった。中道改革連合は賛否を明示せず、改正案の付則に検討条項を設けるよう求めた。
河西さんは言う。「愛子さまに子どもが生まれ、10年、20年と成長したとき、その子に親しみを持ち『跡継ぎになってほしい』『天皇になってほしい』と思う人も出てくるかもしれません。しかし、子どもが一般人のままなら、女系天皇の可能性は最初から排除される可能性が高くなります。だから女性皇族の夫と子を一般人にしておきたいという意見が出ていると思います」
そして、それでは将来的な問題解決にならないと続ける。「女性皇族が残っても、女性皇族の子どもが皇族にならず、皇位継承権も持たないとすれば、次の世代の皇族は減ってしまうからです。結局、次世代の皇位継承者である秋篠宮家の長男悠仁さま(19)の妻が男子を産まなければならないという重圧は残ることになります」
総意案では「夫と子どもの身分」については直接的な言及はなかった。「皇族の方々を取り巻く環境」などを勘案し、必要があれば何らかの措置を検討するよう付則や付帯決議に記すように求めた。また、「女性天皇」「女系天皇」の文言は避け、「安定的な皇位継承」というあいまいな表現にとどめている。
仮に、いま女性皇族が結婚するとなったら――。「ご本人に皇室に残るかどうか確認したうえで、夫の身分について議論することになるでしょう」
■旧宮家からの養子──「誰も皇室に入らない」可能性も
かたや②の「旧宮家の男系男子を養子として皇室に迎える」案は与野党で意見が割れている。5月15日の全体会議では、自民党・日本維新の会・国民民主党・参政党など7会派が賛成または容認、立憲民主党、中道改革連合は慎重、共産党など3会派が反対した。養子は皇位継承資格を持たないことが条件で、15歳以上の男性が対象とされる見込みだ。天皇家、上皇家、秋篠宮家を除く宮家で、互いの自由意思による縁組が想定されている。

河西さんは懸念を示す。
「600年前の室町時代にさかのぼった天皇からつながる男系男子とはいえ、皇室を離れて約80年、一般人として生まれ育った人たちが、自由な生活や仕事を捨ててまで皇室に入りたいと本当に思うでしょうか。養子になるという選択ができるかどうか。自分だけでなく、子どもや孫の世代以降も皇族になるという重い決断です」
また、養子の経歴や家族関係は厳しく注目され、過去のトラブルが報じられれば批判も起きかねない。結果として、養子制度はできても誰も入らない可能性もある。
養子の男性の子どもが皇位継承資格を持つかどうかは今後の論点になる。養子の男性に「男の子が生まれれば皇位継承権を持つ」と森衆院議長は8日の会見で話したが、主要な議題とはならず、総意案にも盛り込まれなかったため野党が反発。森衆院議長は9日に釈明のコメントを発表した。例えば悠仁さまの妻に男子が生まれなかった場合、旧宮家出身の男性の妻に男子を産むことを期待する構図になる。
河西さんはこうも言う。「国民は現在の女性皇族を生まれたときから見守ってきました。しかし旧宮家出身という理由だけで皇室に入る人を、同じように受け入れられるでしょうか。社会的な期待や圧力のなかで、本人の意思が置き去りにされる危険性もあります」
■20年以上の議論をへて2案に収束した理由
皇位継承をめぐる議論は20年以上続いてきた。秋篠宮さま誕生の後、愛子さままで9人続けて女子が生まれ、女性・女系天皇の議論が進んだ。
2005年11月、小泉純一郎内閣の有識者会議(当時)が、女性・女系天皇を認める報告書をまとめたが、06年9月に皇室で41年ぶりとなる男子の悠仁さまが誕生すると、議論は先送りされた。
17年6月、上皇さまの生前退位を認める特例法が国会で成立したときには、「安定的な皇位継承や女性宮家の創設について検討を求める」という付帯決議も採択された。それでも議論は進まず、21年末の有識者会議は「悠仁さままでの皇位継承の流れをゆるがせにしてはならない」と指摘しつつ、今の2案を提示。24年5月、衆参両院の正副議長のもとで各党代表者による協議が始まった。26年4月には衆参両院の正副議長と各党代表者による全体会議が1年ぶりに開かれた。
今回の与野党協議と、上皇さまの退位をめぐる議論とは何が違うのか。17年の生前退位議論では、上皇さまご自身が退位の意向を示し、与野党が共通の目的を持てた。今回は各党のゴールが異なり、まとまったのは皇族数確保の制度にとどまる。
河西さんは「政府は、皇室典範は改正するものの、本質的な問題は先送りしようとしているようにも見える」と指摘する。
■世論7割が女性天皇容認、国会が「男系男子」にこだわる理由
皇位継承については、世論調査の結果と国会との間で「ズレ」があるといわれている。
5月の朝日新聞社の全国電話世論調査では「女性天皇」を認める人は72%、「女系天皇」を認める人は74%に上った。読売新聞社の25年秋の調査でも、「女性天皇を認める」に賛成と答えたのは69%、「女系も認める方がよい」が64%に上った。
これだけ世論の支持があるにもかかわらず、国会では女性天皇や女系天皇の議論が進まない理由について、河西さんはこう分析する。
「女性天皇に賛成する人はたしかに多数派ですが、実際の国政選挙は消費税などの別の争点をもとに投票先が決まっていると思われます。男系継承を重視する層は人数こそ少なくても政治的関心が高く、声が大きい。保守派への配慮から、政治家は踏み込みにくい。結果として、男系男子による継承を維持すること自体が目的になっているように見えます」
平成以降、天皇、皇后両陛下は被災地に足を運び、ひざをついて被災者と同じ目線で語り合ってきた。国民もその姿を見てきた。河西さんは言う。
「平成の皇室は国民とともにありました。長い歴史や伝統だけに支えられた権威的な存在ではありません。政治家が平成以降の皇室の歩みを十分に理解できていないからこそ、『万世一系』といった制度論にこだわるのだと思います」
(AERA編集部・井上有紀子)
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