「公共交通だけでは地方私学は潰れていく」 遠征バス事故を経験した学校が語る、安全対策とコストの限界

部活動の遠征中に起きるバス事故は、これまでも繰り返されてきた。夜間運転の禁止や運行計画書の厳格化など、事故のたびに、学校現場では安全対策が強化されてきた。それでも、なぜ事故は再発するのか。生徒の安全を守りたい、スポーツで強くなりたい、そんな思いを持っても、決定的に足りないものがあった。実際に事故を起こした学校の担当者が、取材に答えた。
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福島県の磐越自動車道で、北越高等学校(新潟市)の男子ソフトテニス部の生徒1人が亡くなったバス事故を受け、部活動の遠征時における移動の安全に関心が集まっている。
過去にも、部活動の遠征中の事故は繰り返されてきた。2009年には、全国高校野球選手権大分大会の開会式に向かっていた私立柳ケ浦高校(大分県)の野球部員が乗った大型バスが横転。生徒1人が死亡した。運転していた当時の同校教諭で野球部副部長の男性は、制限速度を40~50キロ上回る速度で走行していたとされる。
2011年にも、大分県立森高校の野球部員を乗せたマイクロバスが、大分大会の開会式から帰る途中、大分自動車道で大型トラックに追突する事故が発生。監督が死亡し、副部長や部員が負傷した。運転していたのは部員の保護者だった。
児童・生徒を乗せたバス事故が起きるたび、各学校はさまざまな安全対策を講じてきた。
それでも、なぜ事故はなくならないのか。
以前、部活動の遠征中に事故を起こした地方の私立学校担当者は、こう語った。
「昔は事故なんてなかったんです」
この学校は、遠征のためにかつて大型バスを何台も所有し、バス専門の運転手も多数抱えていた。全国大会に出場する生徒を飛行機で移動させることもたびたびあった。
■飛行機とバスで遠征費は440万円に
だが、そんな余裕はもうない。
「少子化により生徒数が減り、教員も減るなかで、今まで通りの部活動を行っても、支出ばかりが増える時代です」(私立学校担当者)
全国大会に出場する生徒を、往路だけでも飛行機に乗せていたが、いまはバスでの移動を余儀なくされている。
さらに、物価高や人件費高騰により、学校お抱えのバスや運転手の多くを手放さずにはいられなくなった。ただ、大型バスの貸し切りも費用が高騰している。私立学校担当者は言う。
「今のバスの貸し切り代は、バス運転手の時間規制が導入される前の1.5倍にもなります。10日間で240万円くらいかかります」
わざわざバスを借りるとなれば、遠征の回数を絞ることになる。かつては10日間だった遠征を、7日間に短縮することも出てきた。
いっそバスではなく、飛行機を「早割り」でお得に予約すればいいのではないかと思うが、担当者は言う。
「飛行機に乗っても、結局はバスを使うのです」
運動部の大会や練習試合の会場は、郊外のグラウンドや体育施設であることが多い。遠征先に着いてからの移動手段が必要だ。人数の多い部活では現地でも貸し切りバスが必要になってくる。飛行機代+バス代で、2倍近い経費が必要だ。
「飛行機代が1人片道2万円で、生徒数50人とすると、飛行機代だけで往復200万円。加えて、現地のバス代も10日分かかるとすると、交通費だけで合計440万円にもなります」(私立学校担当者)
飛行機の代わりに、高速バスの定期便を使って節約したとしても、現地でバスチャーター代がかかる。
それなら、「最初から学校のバスで移動したほうが安い」という判断になる。そもそも大会出場にあたり、各競技の協会から交通費や宿泊費の補助が出るケースも多いが、これらもバス移動が前提の補助金だと担当者は話す。

■費用を抑える方法を探してしまう
公立校に比べて私立校は、力を入れている部活に予算を割くことができるという見方もある。だが、私立学校担当者は、実際のところ学校に余裕はないと話す。
「我々はどこから予算を出すかといったら、例えば『今年は建物の保守修繕費用を1千万円抑えて、部活動に充てよう』という使い方。やりくりして、なんとか部活に費用を捻出しています」
生徒が負担する「部費」の金額も上がっているが、それでも活動資金はギリギリだという。
「なんとか日帰りで安く済ませられないかと、費用を抑える方法を探してしまう。どの学校でもあることだと思います」(私立学校担当者)
この学校では、運転手が交代しながら夜通しバスが走ることで、宿泊費を抑え、1日早く到着することができる。
もちろん、各地で遠征バスの事故が起こるたびに、安全への気を引き締めて、教訓としてきた。
「それでも、少子化や物価高など、学校をめぐる状況が厳しくなるほど、『少しぐらいなら』『今回だけなら』という気の緩みが生まれてしまうのでしょう」
■コストカットの果てに事故発生
この学校の遠征バスは、過去に事故を起こした。乗っていた生徒数人がけがを負った。
コストを抑えるための夜間移動の裏に、運転手の疲労というリスクがあった。
生徒の安全を守りたい。スポーツも強くしたい。でもお金がない――。そんな葛藤のなかで学校として、万全の体制を取ろうと、遠征の「内規」を大幅に強化した。
まず夜間の運転を禁止した。バスにはタコグラフ(速度・運行記録計)を導入し、速度超過なども確認できるようにした。休憩するサービスエリア名、分単位の休憩時間なども細かくまとめた「運行計画書」の事前提出を必須にした。
事故以前の運行計画書は、出発時間、到着時間などをまとめた簡単な資料だったのに比べて、いまは教職員が手間をかけて計画書を作らなければならない。顧問教職員が運転する場合でも、安全管理を徹底できるようにするためだった。
この学校には現在も運転専門の職員がいるが、以前より人数は減っており、遠征によっては顧問教職員が学校のバスを運転することもあるという。全国レベルの部活では、毎週のように遠征がある時期もあり、毎度バスをチャーターしては予算が足りないからだ。
もちろん、そこにはリスクがある。09年の柳ケ浦高校の事故では、教員が運転していた。これを受けて、教員が遠征バスを運転しないと決めている学校も多い。
それでも、この学校は「全面的に借り上げバスへ切り替えるのは現実的ではない」と判断した。その代わり、顧問教職員が運転することを前提に、安全基準を厳格化したのだ。

■公共交通で移動できない遠征はやめるべきか
今回の事故を受け、「公共交通機関で移動できない遠征はやめるべきだ」という意見も上がっている。
だが、地方では、そもそもマイカー移動が中心で、鉄道が通っていない地域もある。路線バスがあっても、本数が少ない。始発に乗っても間に合わない。
公共交通だけで移動しようとすると、長距離遠征どころか、県内大会への参加すら難しい地域もある。
■スポーツ界の衰退の可能性 「オータニサン」は現れない?
私立学校担当者が勤める学校では、遠征の数自体を絞っているという。
その代わり、一度遠征した際には、移動途中で各地の学校と練習試合を組み込むようになった。移動回数を減らし、交通費を抑えるためだ。
それでも、担当者は「遠征そのものをやめることは難しい」と話す。
「公共交通で行けるところだけにしたら、地方の私学は潰れていくでしょうね。スポーツ大会で勝つことは、私学が生き残りをかけた勝負でもあります。試合経験数を多く踏むことは、強くなるために必須です」
公共交通が使いにくく、予算もないなら、無理に部活をしなくてもいいんじゃないか? その問いに私立学校担当者は言う。
「大谷翔平選手の出身高校はどこですか? 私立の花巻東高校です。高校時代に遠征して切磋琢磨した地方私学出身者が、野球はもちろん、あらゆるスポーツで日本代表として活躍しています。遠征できないとなると、日本のスポーツ界は衰退するでしょう」
部活動遠征の問題は、学校現場だけでなく、日本のスポーツをどう支えるのかという問いにもつながっている。
(AERA編集部・井上有紀子)
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