「WBCは日本だけが熱狂する大会ではない!」米国が大谷翔平を倒すため過去最強メンバーで必勝態勢を敷く切実な理由

さながら「銀河系軍団」の米国代表, 米国が「勝ちに行かねばならない理由」, 前回WBC決勝は「米国はただ負けただけじゃない、象徴を奪われた」, 大谷翔平という「突出しすぎた」存在, 米国以外も「最強軍団化」, 米国がWBCの先に見据えるロサンゼルス五輪, 欲しいのは優勝そのものではなく、「野球の中心は米国」という物語, 日本は前回と同程度の熱量では勝ちきれない可能性が

第5回WBC決勝で前回王者の米国を下し、雄たけびを上げる大谷翔平(写真:共同通信社)

 2026年3月開催の第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に向け、米国代表が異様なほど前のめりになっている。アーロン・ジャッジ(ヤンキース)が主将格として前面に立ち、すでに「コミット済み」として名前が並ぶ顔触れだけでも、米国代表の本気度は隠しようがない。

さながら「銀河系軍団」の米国代表, 米国が「勝ちに行かねばならない理由」, 前回WBC決勝は「米国はただ負けただけじゃない、象徴を奪われた」, 大谷翔平という「突出しすぎた」存在, 米国以外も「最強軍団化」, 米国がWBCの先に見据えるロサンゼルス五輪, 欲しいのは優勝そのものではなく、「野球の中心は米国」という物語, 日本は前回と同程度の熱量では勝ちきれない可能性が

ニューヨーク・ヤンキースのアーロン・ジャッジ(写真:Jon Robichaud/CSM via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)

さながら「銀河系軍団」の米国代表

 打線では強肩強打の捕手ウィル・スミス(ドジャース)に加え、今季ナ・リーグ本塁打王のカイル・シュワバー(フィリーズ)、コービン・キャロル(ダイヤモンドバックス)、ガナー・ヘンダーソン(オリオールズ)、ボビー・ウィットJr.(ロイヤルズ)、ア・リーグ本塁打王カル・ローリー(マリナーズ)ら守備位置も打撃タイプも異なる“核”が早々に押さえられている。

 投手陣もまた、ナ・リーグのサイ・ヤング賞右腕ポール・スキーンズ(パイレーツ)がいるだけでなく、デビッド・ベッドナー(ヤンキース)らに2年連続でア・リーグのサイ・ヤング賞に輝いた最強左腕のタリク・スクバル(タイガース)や剛球クローザーのメイソン・ミラー(パドレス)まで加わり、すでに「短期決戦の勝ち筋」を設計しに来ているのが透けて見える。

 前回大会で1番を打ったムーキー・ベッツ(ドジャース)は家庭の事情で欠場見通しと報じられた。しかしながら一方ではまだ正式表明に至っていないスター、例えばブライス・ハーパー(フィリーズ)らMLBの看板スタークラスや、いわゆるファイブツール級の万能型に至るまで、米国内の世論とメジャーリーグ機構内の空気が「次は出る番だ」と静かな圧力をかけ始めている。

 結果として米国代表は次回WBC参戦表明者の羅列そのものが、すでに相手国にとって心理的な壁になる段階に入っており、米メディアの言葉を借りれば「代表チーム」というよりも、MLB全体の威信を背負った「選抜軍」へと変質しつつある。「史上最強」「銀河系軍団」などと評されているのも、うなずけるところだ。

米国が「勝ちに行かねばならない理由」

 だが、ここで一度立ち止まって考える必要がある。米国は本来、WBCを「必勝の国家プロジェクト」として扱ってきた国ではない。MLBのスプリングトレーニングと時期が重なり、投手の調整は特にデリケートで故障リスクもつきまとう。

 メジャーリーガーにとって3月はシーズンに向けてアジャストしなければならない重要な「職業的準備期間」であり、そこに国際大会を挟むことは合理的ではない――。そうした空気が少なくとも長い間、米国内にはあった。

 それが今、明らかに変わった。しかも、ただの「打ち上げ花火」ではない。この第6回大会のWBC米国代表のチーム編成は勝ちに行くための布陣であり、さらに言えば「勝ちに行かねばならない理由」が明確に存在することを感じさせるほどの熱量だ。

 では、なぜここまで本気モードに突入しているのか。単に自国開催の国際大会だから、という理由では説明がつかない。背景にはもっと“個人的”で、しかも極めて“象徴的”な動機が隠されている。日本を倒す。そして、大谷翔平(ドジャース)を倒す――。この2つこそが、今回の米国代表を突き動かす最大のテーマである。

前回WBC決勝は「米国はただ負けただけじゃない、象徴を奪われた」

 全ての起点は2023年3月、米フロリダ州マイアミのローンデポ・パークで行われた第5回WBCの決勝戦にある。米国代表は決勝の舞台で侍ジャパンと激突し、1点をリードされて迎えた9回表二死走者なし、最後の打者として2番打者のマイク・トラウト(エンゼルス)が打席に立った。

 マウンドに立っていたストッパーは当時エンゼルス所属でチームメートだった二刀流・大谷。結果は、魔球スイーパーによって空振り三振。象徴的すぎる幕切れだった。

さながら「銀河系軍団」の米国代表, 米国が「勝ちに行かねばならない理由」, 前回WBC決勝は「米国はただ負けただけじゃない、象徴を奪われた」, 大谷翔平という「突出しすぎた」存在, 米国以外も「最強軍団化」, 米国がWBCの先に見据えるロサンゼルス五輪, 欲しいのは優勝そのものではなく、「野球の中心は米国」という物語, 日本は前回と同程度の熱量では勝ちきれない可能性が

2023年3月22日、第5回WBC決勝の米国戦で、9回2死で打席に入ったトラウトを空振り三振に仕留めて優勝を決め、ガッツポーズする大谷翔平。日本中が歓喜に包まれた瞬間だ(写真:共同通信社)

 あの場面が世界に与えた絶大なインパクトは、単なる優勝決定の瞬間ではない。「世界一が日本である」という事実以上に米国側に突き刺さったのは、あの9回が“物語の主役”と“ベースボールの所有権”を奪い取ったという点だろう。

 かつてヤンキースで一時代を築き、闘争心あふれるプレーで「ウォリアー」の異名を持ったレジェンドOBのポール・オニール氏は当時の模様を振り返りつつ、こう語っている。

「米国はただ負けただけじゃない。象徴を奪われた。ベースボールの顔が大谷になった瞬間だった」

 ベースボールは米国の文化産業であり、国家的な「原風景」だ。そのスポーツの頂点を示す映像として、世界が記憶したのは「星条旗」ではなく「日の丸」だった。しかも決めたのは米国のMLB球団に所属する日本人であり、米国側にとって最も認めざるを得ない形で“アメリカの檜舞台”を使って勝ち切った。

 ここが重要である。WBCは五輪やサッカーW杯のように今のところ、国家が全面に出て運営する大会ではない。MLBが大きく関与し、ビジネスとして回す「興行的側面の強い国際大会」だ。だからこそ勝敗は国威だけでなく興行の主役、つまり誰が顔になるのかという問題にも直結する。

大谷翔平という「突出しすぎた」存在

 2023年の第5回大会の結末は米国に「次は勝つ」という競技的な課題だけでなく「主役を取り返す」という産業的課題も突きつけた。

 大谷はMLBにとって最大級の資産だ。視聴者を引き込み、球場へ動員し、グッズとSNS、放映権も駆動させる。海外市場に向けて「MLBブランド」を説明する際、最も強い説得力を持つ存在でもある。大谷の価値が上がること自体は、MLBにとってプラスである。

 だが、ここから先は組織論になる。スターの個性が強すぎることは、時にリーグ全体の均衡を壊す。ビジネスの世界でも、ある一社・ある一人に注目が集中し過ぎて特化されると周辺の物語が薄くなる。

 これまでMLBが歴史的に得意としてきたのは「群像劇」だ。球団が30あり、都市ごとに物語があり、ヒーローも複数いる。スターの競演こそが商品価値だった。

 ところが近年、特にここ2年ほどの空気は極端に「オオタニ中心」になっている。ワールドシリーズ、MVP、二刀流、そして「世界が理解できる英雄譚」。これは国境を越える一方で、米国内の一部に複雑な感情を生んでいる点は否定できない。

 ア・リーグ球団の極東担当スカウトは、このように指摘している。

「大谷は素晴らしい。ただ、象徴になり過ぎた。本音を言えばリーグは、もっと“多中心”で回っていたはずだ」

 この「“多中心”で回りたい」という感覚こそが、次のWBCに向けた「米国の本気度」を裏で支えている。今回の米国代表がスター選手をこれほど呼び込めている背景には、選手側の名誉欲やリベンジ的な感情だけではなく、MLB側の構造的な後押しがある――。そう見る関係者は少なくない。

米国以外も「最強軍団化」

 もちろん、表立った「通達」が出ているわけではない。だが選手が出たいと言うなら、所属球団側も「過剰に止めない」。あるいは球団側が止めるにしても正面から対立するのではなく、投球回数・登板間隔・移動負担などの「条件闘争」に落とし込む。そうした温度感が米国内に共有されている、という証言は散見される。

 こうした空気の変化は、米国代表だけに起きているわけではない。ドミニカ共和国、ベネズエラ、プエルトリコ、カナダ――。各国が来春のWBCでの「最強軍団化」へ向けて舵を切り始めた。これは競技レベルの自然な上昇というより、WBCという商品を“世界仕様”にするための構図と考える方こそ筋が通る。

 つまり米国側、ひいては大会組織「WBCI」を運営するMLB機構側としては、ロブ・マンフレッドコミッショナーが大会意義を問われて口にした「WBCは日本だけが熱狂する大会ではない。世界のスターたちが一つの国際大会で競う場所だ」という言葉こそが“総意”なのだろう。そして、その「世界の顔」をもう一度米国代表が取り返す――。それが、米国の本気モードの根幹にある。

米国がWBCの先に見据えるロサンゼルス五輪

 もう一つ、決定的に大きいのが2028年ロサンゼルス五輪の存在である。野球が五輪競技として復活し、メジャーリーガーの参戦も現実味を帯びる。自国内で行われる最大の国際大会で、米国が金メダルを逃すわけにはいかない。

 五輪という国家イベントは、国内政治とも接合する。「国際舞台で勝つこと」は単なるスポーツの成功ではなく、国民統合の装置にもなる。この局面で米国がMLBと協調し、野球国際大会のWBCを「勝てるイベント」として整備し直すのは極めて自然な流れだ。

 つまり次のWBCは米国にとってロス五輪への布石であり、国際野球の主導権をあらかじめ握り直すための重要な前哨戦となる。

 そして第6回WBCのもう一つの特徴が、同大会の独占放映権を手中に収めた米動画配信大手「ネットフリックス」の巨額投資である。日本で地上波放送がなくなることへの反発は強い。

 しかし米国側の狙いは明確だ。WBCを、より直接的に「グローバル配信時代のコンテンツ」として最適化すること。そこでは従来の「日本中心の熱狂」は、必ずしも都合が良いとは限らない。

欲しいのは優勝そのものではなく、「野球の中心は米国」という物語

 なぜなら、グローバル配信に必要なのは「多国籍の視聴者が理解できる物語」だからだ。日本の熱狂は濃すぎるがゆえに、外から見るとローカルにも見える。だから米国は、スターの分散と、物語の再編を進めたい。大谷が世界的アイコンであることはむしろ追い風だが、そのアイコンが「日本の勝利」と結びつき過ぎると、主導権が米国側に戻ってこない。

 メジャー2球団のフロントマンとして通算12年在籍した経歴を持つMLB関係者も、こう表現する。

「大谷はWBCの商品価値を上げた。だからこそ、次は“アメリカが勝つ物語”が必要になる」

 つまり、ネットフリックスの独占配信は単なるメディアの選択ではない。WBCの「主語」を、よりMLB主導へ寄せるための手法になり得るという理論だ。

 大谷は米国にとって「誇るべきスター」であると同時に「象徴を奪い得る存在」でもある。この矛盾が、巨大成長メディアでもあるネットフリックスをも巻き込みながら米国を本気にさせている。

 だから次のWBCで米国が狙うのは、単なる優勝トロフィーではない。「野球の中心は米国である」という物語の回復であり、そのために必要なのが「ショウヘイ・オオタニを倒す」という結末なのだ。

日本は前回と同程度の熱量では勝ちきれない可能性が

 もちろん侍ジャパンには大谷、同じドジャースの山本由伸ら日本人メジャーリーガーが続々と参戦表明し、世界一連覇へ向けて臨戦態勢が整いつつある。しかし米国がここまで勝ちに来るなら、日本も「前回と同じ温度」で勝ち切れるとは限らない。競技力の上積みというより、相手の“本気の構造”が変わっている。

 前回大会は、侍ジャパンが世界一になった。そしてその勝利は、結果として「大谷翔平という世界的象徴」を完成させた。次回大会は、その象徴を米国側が奪い返しに来る大会になる。

 WBCは、もはや国際大会という枠を超えつつある。覇権、象徴、ビジネス、そして国威。その全てが同時に動く“地政学的戦場”になった。2026年3月、米国代表が過去最強と目される布陣を結ぶのは、偶然ではない。日本を倒すため。ショウヘイ・オオタニを倒すため。そして、野球の物語を取り戻すための戦いである。

 勝敗の先にあるのは、トロフィーではない。「誰がベースボールの中心か」という、次の時代の答えだ。

関連記事

シン・ゴジラ誕生か―村上宗隆を選んだホワイトソックスGM「松井秀喜の記憶」が映すMLB再建市場のリアル

日本のファンは大歓喜だがMLBは驚愕…山本由伸が大方の予想を覆してWBC参戦を決断、時代に逆らう「魂の叫び」

MLB球団が及び腰だった時代は今は昔、現在は国の威信を賭けた戦いに、WBCが真の「野球世界一決定戦」になるまで