なぜ大谷&ダルビッシュは決勝で並んだのか 元侍コーチ・吉井理人が明かす知られざる舞台裏と、連覇へ挑む侍ジャパン【WBCきょう台湾戦】

3月5日に開幕した2026ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、連覇を目指している侍ジャパン。1次ラウンドを通過すれば出場できる準々決勝ラウンド以降は、米国に舞台を移し、負ければ終わりのトーナメント方式の戦いになる。前回23年大会で侍ジャパン投手コーチを務め、自身もメッツなどメジャーでのプレー経験がある吉井理人さんに、23年大会の記憶、そして今大会への期待について、話を聞いた。(前編はこちら)
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前回大会では大谷翔平(現ドジャース)、ダルビッシュ有(パドレス)といった“先発型”投手もリリーフとして登板した。準々決勝でのイタリア戦では大谷が先発し、ダルビッシュが継投で登場。そして決勝の米国戦では八回にダルビッシュ、九回は大谷が締めるという豪華リレーで優勝を手繰り寄せた。
「大谷もダルビッシュもメジャーから来ている選手ということもあって制限が多く、当初は先発起用しか考えていませんでした。ただ、最後の決勝は、彼らが『どこでも投げる』と言い出したらしいです。栗山(英樹)監督の頭の中にも『締めはダルビッシュと大谷』という構想はずっとあったようです」
大谷もダルビッシュも当初、契約上の問題などから「決勝は投げない」と言っていたという。吉井さんも、決勝は登板しない前提で考えていた。大会を通して「それぞれ2試合ずつ、先発として登板したら、あとはいないものと思って」いた。
しかし、米国に舞台が移った準決勝のメキシコ戦で潮目が変わった。
「当初、準決勝は山本由伸(現ドジャース)、決勝は佐々木朗希(同)という順番で考えていました。でも栗山監督が、米国に渡ったときに『絶対に決勝行きたいんで、準決勝は山本と朗希の2人を使っちゃおう』と」
実際にメキシコ戦は佐々木が先発し、山本が後を継いだ。メキシコ戦直後、吉井さんは次の決勝の投手起用に頭を悩ませたが、栗山監督から驚きの言葉を聞かされた。
「急に栗山監督が『(大谷もダルビッシュも)投げてくれるって!』と。メキシコ戦での崖っぷちからのサヨナラという、劇的な勝利の後で気持ちが高ぶって投げたくなった……僕にはそんな感じに見えました。所属球団はいろいろと言っていたと思うんですが、彼らが直談判したんじゃないかな。その真相は栗山監督にしかわかりません」
その二人は大会中、絶好調ではなかったと吉井さんは振り返る。

■チーム一丸の空気を自然につくれなければ一流ではない
「大会前、ダルビッシュも大谷も実戦では投げていないんですよ。ライブBP(日本でのシート打撃練習にあたる)でしか投げていないので、調子は上げづらかった。正直なところ、実際に二人とも絶好調ではなかったですし、特にダルビッシュはよくなかった」
ダルビッシュはこの大会で3試合に登板し、計6回を投げて被本塁打3、失点5と、たしかに本調子とは言えなかった。
「先発と途中から投げるのとでは、大きな違いがあります。僕は、大谷はどちらもできると思っていた一方で、ダルビッシュは途中登板が苦手なタイプだと見ていました」
吉井さんいわく、中継ぎやリリーフのほうがより専門性が高く、能力の高い投手でなければ務まらない。当然ながらダルビッシュの能力が低いわけではなく、それだけ特殊なポジションということだ。
「先発には投げるまでのルーティンがあって、マウンドに上がって自分のペースで投げていく。リリーフはいきなり誰かがつくったムードの中に入っていって、最初から100%を出さなければならない。どちらもできるという投手はまれなんです。僕も先発、リリーフの経験がありますが、先発したくて仕方なくリリーフで頑張っていたという“慣れ”があったからたまたまできただけです」
選ばれるのは日本を代表する選手たち。当然、自身がこれまで積み重ねてきた実績や役割には誇りを持っている。初めからチーム一丸の雰囲気が醸成されてはおらず、腐心することもあったのではないかと思うが……。
「特にチームの空気づくりで心がけていたことはないですね。一流選手の集まりなので。彼らはあるべき空気を自然につくれる。それができないのであれば一流にはなっていないと思うんです。だから僕らはそこを邪魔しないように、そっと見ているだけでした。大谷はやっぱりスーパースターなので自然と選手全体のよりどころとなっていましたし、大谷自身も積極的に周囲に声をかけて、チームの中心であるという自覚があったと思います。ダルビッシュがそれを後ろから支えるという感じで、雰囲気はものすごくよかった。僕らが気にかけていたのは、本当に体調などの管理だけです」

■“成長”のために佐々木朗希を侍に
吉井さんといえば、佐々木との関係にも触れないわけにはいかない。佐々木は昨季のワールドシリーズでは中継ぎ、抑えとしてマウンドに上がり、ドジャースの連覇に大きく貢献した。その佐々木は23年当時、高卒プロ4年目で、吉井さんは当時、ロッテの監督も兼任していた。
160キロを超える球を投げる潜在能力の高さはあっても、体ができあがっていないとして、ロッテは佐々木の「5カ年育成計画」を立てていた。まさにその真っただ中での侍ジャパン選出だった。
「今だから言えることですが、朗希は実力から言えば、代表クラスまで届いているかどうか……というところでした。しかも、連投などの無理もさせられない。ただ、僕は彼の“成長”のためにも侍に入れたほうがいいと思っていました。もちろん戦力として計算はしていましたし、栗山監督も最初から『朗希は入れたい』と言っていました。栗山監督には『日本のプロ野球を盛り上げるために』という気持ちもあり、『朗希』の名前を出してくれるのならそこに便乗してもいいかという気持ちもありました」
日程的な負荷に加え、国際試合の重圧という精神的な負荷。そこにさらされたときにどれだけ頑張れるか。吉井さんは細かく佐々木を観察していた。佐々木はWBCで2試合に登板。1次ラウンドのチェコ戦と準決勝のメキシコ戦に先発し、計7回3分の2を投げ自責点は3と結果を残した。なかでも6対5の逆転サヨナラで劇的勝利を収めたメキシコ戦は「意義深かったはず」と吉井さんは言う。
「WBCを経験したことで、朗希は目に見えて変わりました。練習への取り組み方や姿勢など、すべてにおいて、ちゃんとプロ選手っぽくなった。その意味でこのメキシコ戦で先制の3点本塁打を打たれたのもよかったなと思っているんです。試合に臨むにあたって、選手は自分のプレーに責任を持たなければいけない。七回に同点に追いついたとき、朗希は涙を流して喜んでいたので、責任感を持つことの大事さに気づけたと思います」
メキシコ戦は村上宗隆(現ホワイトソックス)が中越えに2点適時二塁打を放ち、日本に劇的な逆転サヨナラ勝ちを呼び込んだ。
佐々木はもともと「自分のパフォーマンスを完璧に出せる状態でないと投げたがらない子だった」と吉井さんは話す。
「メキシコ戦でも気合を入れて投げられていたし、ドジャースでも昨季のポストシーズンで、万全ではなかったと思うけどリリーフとして頑張って投げていましたよね。ロッテ時代にはリリーフ起用はまったく考えていませんでしたし、そもそも体力的にまだメジャーでは無理だと思っていたので、たくましくなりました。WBCでの経験が生きているのかなと思っています」
今大会も20代前半から半ばの若手選手が多く選出されている。大会中に急成長を遂げる選手が出てくるか。これもまた連覇のカギとなるかもしれない。吉井さんは最後に力強く言った。
「前回大会を経験している選手も多いですし、きっとやってくれるはず。WBC連覇の期待は大きいです」
(AERA編集部・秦正理)
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