【WBC敗退】大谷翔平が信じる“挑戦の哲学” 「先入観は可能を不可能にする」 敗れても失われない「大谷らしさ」とは

広く脚光を浴びた花巻東高時代から、メジャーで幾度もMVPを獲得する今に至るまで、大谷翔平は人々の「まさか」をやすやすと飛び越えてきた。天井知らずの進化を支える原動力は、大谷自身の「内なる声」。常識も変化も恐れない。未踏の領域への挑戦が大谷を突き動かす。
第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、侍ジャパンはまさかの準々決勝敗退に終わったが、大谷はこの先もきっと、世界を驚かせ続ける。
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マイアミの地で侍ジャパンの戦いは終わった。第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の準々決勝。ショートフライを打ち上げた大谷翔平が、最後のバッターとなった。それでも、ベネズエラ戦の一回裏には同点となる先頭打者アーチを放った。東京プールでの満塁弾も含めたその姿には、やはり特別なものがあった。
思えば3年前、侍ジャパンのユニホームには、赤茶色の土がたっぷりと付着していた。
打者として出場を続けていた大谷が、最後はマウンドに立って雄たけびを上げる。2023年WBCのフィナーレの瞬間だ。
漫画でも描けないほどのストーリーで、アメリカ代表のマイク・トラウト(エンゼルス)を空振り三振に仕留めて世界一を迎えた瞬間には、大谷だけが描く「二刀流」のすごみと価値が詰まっていた。

同時に、あの決勝では結果だけではない大谷の本質が透けて見えたものだ。
試合中盤からベンチとレフト後方のブルペンを行き来しながら救援登板に備えていた大谷は、七回裏一死の打席でショートへの内野安打を放つ。23年WBCで監督を務め、大谷の北海道日本ハム時代の恩師でもある栗山英樹氏は、その姿をこう振り返ったことがある。
「ショートゴロが内野安打になる。ブルペンで投球練習を始めているのに、一塁へ全力疾走するプレーには伝わってくるものがありました。そういう姿を見ると、やはり翔平だなあと思うんです」
純粋な「野球少年」のように――野球選手としての本能をむき出しにして、チームの勝利のために最後まで全力プレーを貫く。それが「大谷らしさ」と言えるだろうか。

■「コイツ、絶対に(投打)2つやれる」
栗山氏が大谷の本質を目の当たりにしたのは、プロ1年目のスプリングキャンプでのことだ。全力疾走する姿を見て、「コイツ、絶対に(投打)2つやれる」と思ったのだという。かつての栗山氏の言葉である。
「走塁って、選手の野球観がすごく出ると思うんです。走る姿、全力疾走する姿に野球観が見えやすいと思うんですけど、僕は最初のキャンプの紅白戦で『大谷翔平の本質』を見たような気がしました。一塁を回って急に加速してツーベースヒットにしてしまった時です。その走塁を見て、僕は『2ついける』と思いました。野球が持っている本質を彼は体現し、実践してくれていた。それこそが、大谷翔平だと僕は思っています」
ピッチャーとバッターの二刀流は、先人たちの誰もが本腰を入れてやってこなかった。大谷がNPBでプレーする以前は、誰もが想像できなかった新たな挑戦だった。

日本プロ野球の歴史をひもとけば、シーズンを通して投打で活躍した往年のプレーヤーはいるのだが、それはあくまでも一過性のもので、二刀流を極め、その道を貫くのは大谷が初めてだった。
今では当たり前のように見ている二刀流に対して、大谷が北海道日本ハムに入団した13年当初は懐疑的な目があったのは事実だ。「結果的に、(投打)どちらの才能も失ってしまう可能性がある」。プロ野球の野球解説者を中心に、二刀流を否定するそんな声があった。それでも、彼は前だけを見据えた。かつて大谷はこんな言葉を残している。
「(投打)両方をやることに対して、自分の気持ちがブレることはなかったですね。もともとが、あまり周りを気にしない性格というのもあるんですが、どれが正解ということもないですし、たとえ両方をやることが失敗だったとしても、自分にプラスになると思っていました」
さらに大谷が言葉を紡ぐ。
「もしもこの先、ピッチャーとバッターの2つをやりたいと思う子が出てきた時に、僕の挑戦が一つのモデルになって、たとえ失敗だったとしても、それを成功につなげてくれればいいという思いもありました」

■アメリカへ「行きたい」から行く
チャレンジしてみたい――。
その思いに突き動かされて、圧倒的な向上心を持って、大谷は新たな道を切り開いてきた。
「自分がバッティングでもピッチングでも日本でトップだと思っていません。僕は、日本のトップじゃなくてもアメリカへ『行ってもいい』と思っています。そういう考えがなければ、高校からメジャーへ行きたいとは言わなかった。もちろん『トップに上り詰めてから』というのは素敵だと思いますし、格好良いとも思います。でも、僕は『今、(アメリカへ)行きたい』から行く。今行くことで、今以上のことを身につけたりすることもあると、僕は思うんです」
そんな言葉を残して18年に海を渡ってからも、彼の挑み続ける姿は変わらない。
メジャー1年目に新人王を獲得。MLBで自身初となる本塁打王を手にしたのは、WBCで世界一を手にした23年のことだ。10年7億ドルの大型契約を結んでドジャースに移籍した24年には、打者に専念してMLB史上初の「50本塁打・50盗塁(最終的に54本塁打・59盗塁)」を達成。2年連続で本塁打王に輝き、打点王(130打点)のタイトルも手にしながら、ポストシーズンではワールドシリーズを制覇した。昨年25年シーズンは、二刀流を復活させて自己最多を更新する55本塁打を記録。21年、23年、24年に続いて4度目のMVPを受賞した。
とどまることを知らない、その進化の原動力は何か。それは、大谷が持ち続ける「内なる声」に他ならない。つまりは、いつ何時でも「挑もう」とする姿勢があるからこそ、天井の見えない大谷のパフォーマンスが生み出されていると言えるだろうか。メジャー2年目を終えた19年のシーズンオフに、彼が残した「挑戦」という言葉が忘れられない。
「良くても悪くても、どんどん変えていくっていうのは良いところじゃないかなと思いますね。なんて言うんだろう……現状を守りにいかないという性格ではあるので、まあ、すごく良い状態の時でも、それを維持していこうというよりも、それを超える技術をもう一つ試してみようかなと思うんです。挑戦してみようかなというマインドがあるのは、得なところだと思います」

■限界を作ると可能性は伸びない
挑み続けることに、一切の不安がないわけではないだろう。「まったく違う環境に行くということは、どの分野でも不安なことが多いと思う」。かつて大谷はそう語ったことがある。誰もが持つ臆病な一面だろうが、人は失敗を恐れ、変化に不安を抱き、一歩前へ踏み出せない時がある。確かな実績を残し、その状況に満足したり、周囲から大きな評価を得たりしていれば、なおのこと現状を守ろうとする思考が生まれても不思議ではない。ただ、大谷はやはりこう言うのだ。
「さらに自分自身が良くなる可能性がそこにあったら、僕はチャレンジしてみたい。『やってみたいな』と思うタイプの人間なので」
大谷が限界を作らずに挑み続ける大切さを教えてもらったのは花巻東高時代だ。高校時代の3年間で、感性や思考が濃密な時間とともに確かなものになっていった。恩師である佐々木洋監督からは、多くの言葉をもらい、学んだ。
「先入観は可能を不可能にする」
その言葉もまた「はっきりと覚えている」と大谷は語ったことがあるのだが、今でもその思考は潜在意識として彼の脳と体に染み込んでいるのだろう。佐々木監督の言葉を思い出す。
「たとえば、球速160㌔のボールを投げるというイメージがそもそもなければ、絶対にそこまでたどり着かないものだと思います。できると思う、出せると思うから、そのために頑張る。途中で蓋をしたり、限界を作ってしまっては、自分の可能性を伸ばすことができない」

12年夏、高校最後の岩手大会で、大谷は当時のアマチュア最速となる160㌔を記録した。それまでの常識、あるいは価値観や先入観を覆したものだ。あの夏、過去にとらわれずに限界を超えていくことを体現してみせた。
誰もやっていないことをやる。そして、新たな道を自身の手で切り開いていく。そんな先駆者としての想いは、今でも大谷を「突き動かす力」になっているように思える。
23年WBCで、アメリカ代表との決勝直前にチームメイトを前に語った言葉は、大谷自身の歩みとも似ているようだった。

■野球の神様は「いてほしい」
≪(相手のアメリカには)野球をやっていたら誰しも聞いたことがあるような選手たちがいると思います。でも、憧れてしまっては超えられない。僕らは今日、超えるために、トップになるために来たので。今日一日だけは、彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけを考えていきましょう≫
異次元の道を歩み続ける大谷は、今では「憧れられる」存在だ。その青天井とも言える可能性に見る者は驚き、進化する姿に妄想を膨らませる。その期待の広がりこそが「翔平の価値でもある」と言ったことがある栗山氏は、かつて大谷の二刀流に対してこんな言葉も残している。
「二刀流をやるか、やらないかは『野球の神様』以外は決められない。決めてはいけないと僕は思っていた」
二刀流は、大谷の思考や能力に導かれるように神の手が加えられ、必然的かつ運命的な流れから創造されたものかもしれない。
野球の神様は実在すると思う?
大谷にそう尋ねたことがあるのだが、彼はこう言ったものだ。
「いるか、いないかは別として、個人的には『いてほしい』とは思いますよ。僕の願望ですけどね」
いたずらっぽく笑う表情に素顔が見える。ただ、野球におけるパフォーマンスは今、その領域に近づきつつある。
(スポーツライター・佐々木亨)
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