有原航平を年俸6億円で獲得した日本ハム“人材戦略”の変化とは 元監督・梨田昌孝氏も驚いた2011年の「菅野智之強行指名」

 レギュラーシーズンがついに開幕したプロ野球。昨季のリーグ覇者であるソフトバンクと阪神の2球団を中心に、各球団の経営戦略と現在地を「カネ」から分析する。AERA 2026年4月6日号より。

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 プロ野球において多くを占めるのは選手の年俸だ。トップ選手ともなれば5億円超の年俸が支払われている。

 日本プロ野球選手会が支配下の日本人選手を対象に25年に行った調査では、ソフトバンクのチーム年俸は12球団中2位の41億円。ここに外国人選手の年俸を足すと78憶7千万円でダントツの1位となる。選手ごとの年俸の上位には他球団からFA宣言をした選手や、実績のある外国人選手などが並んでおり、他球団の追随を許さない印象だ。

 とはいえ、年俸の高い選手を揃えれば必ずしも勝てるというわけではない。実際、選手会調査で12球団一のチーム年俸を誇り、外国人選手も含めればソフトバンクに次ぐ2位の巨人は昨年セ・リーグ3位であり、同リーグ最下位に沈んだヤクルトは12球団中4位だった。

 一方でセ・リーグ優勝の阪神は12球団中3位で、外国人選手の年俸も含めればヤクルトより下の5位となっている。チーム年俸と成績が必ずしも比例しない理由を東大からロッテに入団し、ソフトバンクでは編成育成部長などを歴任した小林至・桜美林大学教授はこう分析する。

「1が完全正比例、0が無関係という相関係数でいうと、野球は年俸と成績の相関係数が0.8。サッカーは0.9です。お金を使ったチームが強いことには変わりないですが、野球はシーズン143試合だと5勝3敗の勝率6割強で優勝できて、逆の3勝5敗だと最下位に沈む計算。年俸差があっても、なんとかなるから面白い。サッカーは勝率が7割5分くらいないと優勝できませんから」

■日本ハムの姿勢の変化

 サッカーと比較して年俸がダイレクトに成績に繋がらないなかで、巨額の投資をしながらも過去10年で5度の日本一に輝いているソフトバンクはやはり成果を出しており、一方で巨人やヤクルトは無駄な投資も多かったといえる。また、ここ数年で年俸への投資の姿勢が変わってきた球団もあるという。小林氏が続ける。

「ソフトバンクは今でも世界一の球団を目標に掲げています。要するにメジャーの選手も含めて世界中の選手にソフトバンクでプレーしたいと思われるようなチームにしたい。だから補強もドラフトも育成もすべて本気、惜しみなく投資を続けている。一方でパ・リーグ2位だった日本ハムは『お金をかけないで強いチームをつくる』というソフトバンクのアンチテーゼのような存在でした。定性的なものではなくデータという定量的なものを最大限活用して、高コスパ体質のチームづくりを最初にやった。しかし、エスコンフィールドという球場をつくり、儲かり始めてからは、ソフトバンクから有原航平投手を獲得するなど変わってきていますね」

 実際、過去の日本ハムはFA権を取得した選手は無理に引き留めず、流出も目立った。日本ハムで08年から4年間監督を務めた梨田昌孝氏は当時のチーム状況について話す。

「現場に関しては監督に任されていましたが、補強については完全にフロントが主導でした。予算も厳密に決められていたようです。それだけドラフトでは何としても良い選手を取ろうという意識は強かったですね。巨人しか行かないと公言していた菅野智之を指名した時には驚きました」

 ただ、ここ数年は新庄剛志監督が選手の補強について口にするケースも見られ、このオフには日本人トップの年俸となる6億円(推定)で有原の獲得にも成功した。ヒト・モノだけでなく、カネの面でも日本ハムが大きな存在感を示している。

■カネも脅威のメジャー

 また、カネという話題で避けて通ることができないのがメジャーの存在だ。23年オフには大谷翔平がドジャースと10年総額7億ドル、当時のレートで約1015億円という超大型契約を結んで話題となった。他にも日本でプレーしていた時とは比較にならないほどの高額年俸で海を渡る選手は毎年出てきており、日米の年俸格差は広がるばかりだ。そんな格差を埋める対策として小林氏はこう提言する。

「日本もできるだけ高い年俸を払うなど考え得ることはすべてやる。その前提として収益力を上げなければいけません。今回のWBCでNetflixが独占放映権を獲得したのは象徴的ですが、プラットフォーマーはお金を持っている。だから12球団として放映権をどうすれば高く売れるかを考えるべきです。ファンも、その日のプロ野球全6試合のダイジェストや名勝負のアーカイブをワンストップで見たいはず。大谷や岡本、村上の日本時代のホームランも視聴したい。だから映像には可能性がある。12球団で足並みをそろえて放映権を高く売り、権利を一本化することで、年俸に回すことはできると思います」

 現状の日本球界では、12球団で足並みを揃えて収益を上げていこうという動きは少ない。そのあたりがメジャーとの差になっていることは確かだろう。

 さらに梨田氏は現在の12球団体制から見直す必要があると説く。

「日本球界全体の市場を考えれば、1軍で4球団増やしたい。それが厳しければ、試合運営は難しくなるが2球団でもいいので増やすべきでしょう。当初はレベルが下がるかもしれませんが、いい選手が出てくる可能性は大きいです。日本ハムも北海道へ移転して、地元での扱いが大きくなりました。新潟や静岡でも同じことはできるはずですし、それが市場拡大につながり、選手の年俸アップにも結びつくと思います」

 日本にプロ野球が誕生して約90年。その人気は国民的なものとなったが、あらゆる面で変革が必要な時期となっていることは間違いない。

 各球団の企業努力はもちろんだが、日本球界全体としてどのように盛り上げ、発展させていくのか。そういった議論が活発に行われていくことを望みたい。

(ライター・西尾典文)

※AERA 2026年4月6日号より抜粋

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