「住宅ローンの金利より、新NISAの利回りが高いから」月収41万円・30歳サラリーマン、“80歳完済・50年ローン”は冷静に、アリか?【1級FPの回答】

30歳サラリーマンが50年ローンを検討した理由, 50年ローンは“投資でカバーできる”は本当か?FPが見た現実, 住宅ローンで「一番怖いこと」とは?, 多くの人が「住まいを購入しようと決める時期」はどんなタイミングか?, 筆者が実際に経験した住宅ローン返済中の想定外, 「団信」に加入しているから大丈夫?, オーバーローンリスクが大きくなる、返済途中に修繕費用がかかる, まずは「数字の見える化」からスタートを

(※写真はイメージです/PIXTA)

金利上昇といっても、世界的にみればまだまだ低金利の日本。「低金利で借りて、高利回りで運用する」――。新NISAの普及とともに、この投資理論を住宅ローンに適用する若年層が増えています。月々の支払額を極限まで抑え、浮いた資金を市場に投じる戦略は、一見すると合理的です。しかし、この「レバレッジ」を効かせた家計設計が、いかに個人のライフプランに影響するのか。その副作用を1級ファイナンシャルプランナー技能士の川淵ゆかりFPが紐解きます。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。

30歳サラリーマンが50年ローンを検討した理由

「30歳で住宅ローンを組み、完済するのは80歳」。そんな「50年ローン」が、いま、現実のものとして広がりつつあります。外資系企業に勤める月収41万円のAさん(30歳)も、その一人。結婚を機にマンション購入を検討していますが、彼が選ぼうとしているのは、あえて返済期間を長く設定する「50年ローン」です。

「毎月の返済額を抑え、住宅ローンの金利よりも高い金利での投資で運用することで将来に備えよう」そう考えています。しかし、やはり80歳まで続くローン契約は不安です。本当に投資を成功させて、ローンを早めに完済させることは可能なのか、筆者のもとへ相談に来られました。

50年ローンは“投資でカバーできる”は本当か?FPが見た現実

「50年ローンって本当に大丈夫なの?」最近、Aさん同様、相談者の方からこの質問を受けることが増えました。実際、住宅金融支援機構の調査でも、35年を超える長期ローンの利用者は増加傾向にあります。

30歳サラリーマンが50年ローンを検討した理由, 50年ローンは“投資でカバーできる”は本当か?FPが見た現実, 住宅ローンで「一番怖いこと」とは?, 多くの人が「住まいを購入しようと決める時期」はどんなタイミングか?, 筆者が実際に経験した住宅ローン返済中の想定外, 「団信」に加入しているから大丈夫?, オーバーローンリスクが大きくなる、返済途中に修繕費用がかかる, まずは「数字の見える化」からスタートを

[図表1]35年超ローン利用者割合 出所:住宅金融支援機構 住宅ローン利用者調査(2025年4月)

筆者はこのローンを危惧を込めて「80歳ローン」や「半世紀ローン」と呼んでいます。たしかに35年ローンと比較すると、毎月の返済額は少なくなります。

例)5,000万円借入/金利1%/ボーナス返済なしの場合

・35年ローンの場合の毎月の返済額:14万1,143円

・50年ローンの場合の毎月の返済額:10万5,930円

「浮いた差額で投資運用をしたほうがいいですよ」とアドバイスを受けて50年ローンに決める人もいるようです。ですが、本当にこのやり方でいいのでしょうか?

住宅ローンで「一番怖いこと」とは?

たしかに、新NISAも流行っていますし、金利上昇中とはいえ日本の住宅ローン金利はまだまだ低いですよね。金利差でみると「できるだけ投資で増やしておいて、住宅ローンはあとからまとめて返済しちゃえばいいんじゃないの?」とも思いがちです。

前述の借入額5,000万円の例では、35年ローンと50年ローンの返済額の差額は約3万5,000円。この3万5,000円を毎月積み立て投資に回したほうがお得そうですが、見落としてはならないポイントがあります。それは、投資は続けないと意味がないということ。そして、住宅ローンの一番の怖さは「将来が見えづらいこと」です。金利上昇が予測しづらい点も同じですが、いまと同じように働き続けることも家族全員が元気でいることも保障されてはいません。住宅ローンの期間が長くなればなるほど“将来が見えないリスク”は大きくなることを理解しておきましょう。

多くの人が「住まいを購入しようと決める時期」はどんなタイミングか?

住まいを購入しようと決めるのは、往々にして家計に余裕がある時期です。余裕がないと「家を買おう!」なんて思いません。Aさんも外資系企業で活躍されており、現在は子どももおらず、結婚相手は共働きで、家計には比較的余裕のある時期でした。

ですが、昔のように“年功序列”で給料は右肩上がりの保障はありません。さらに、“終身雇用制度”も崩壊して、会社にずっといられるとも限りません。年々、家計の余裕はなくなってくる可能性もあるでしょう。昨今では、すでにAIの進化やITスキルのある若手の台頭がホワイトカラーの立場を脅かしています。

・40代、50代と進むにつれて、収入はどうなるか?

・定年退職後まで住宅ローンが残った場合、老後も働けるか?

一度、立ち止まって考えてみましょう。もし不安を感じたのであれば、まずは自分自身の「稼ぎ続ける力(スキル)」への投資を優先すべきかもしれません。

筆者が実際に経験した住宅ローン返済中の想定外

投資は“続けられた人だけ”が恩恵を受けます。つまり、Aさんの前提で住宅ローンを組む場合、途中でやめた瞬間、50年ローンの重さだけが残ることになるのです。

住宅ローン返済中に支出増になり得る原因でまず考えられるのは、子どもの成長に伴う生活費や教育費のアップです。親としては、習い事もさせたいでしょうし、「私立に行きたい」といわれれば、私立に行かせたいでしょう。“私立高校無償化”とはいえ、無料になるのは“授業料だけ”です。受験のために塾や家庭教師も必要になってきます。

家計を圧迫するのは、教育費の増加だけではありません。ここで少し、筆者自身の話をさせてください。実は筆者自身、住宅ローン返済中に突然親の介護が始まりました。結果として10年以上ものあいだ仕事に影響が出てしまい、経済的にも精神的にも非常に苦労した経験があります。

住宅ローン返済中に家計の収支にどのような変化があるか、想像してみてください。そして、家計が厳しくなってきたとき、「住宅ローンの返済のお金」と「投資に回すお金」、どちらを優先しますか? 当然、住宅ローンの返済ではないでしょうか?

生活が苦しくなったときに、積み立てをストップしたり、これまでの運用分を取り崩したりするケースは少なくありません。そうなると、残るのは老後まで続く住宅ローンだけ、となります。

「団信」に加入しているから大丈夫?

団体信用保険も種類が増え、「がん団信」や「三大疾病団信」などもあり、病気になっても安心なように思えます。しかし当然ながら、住宅ローンの返済に困ったときに、都合よく病気になるものでもありません。そして、病気になったからといって必ずしも住宅ローンがチャラになるとは限らないことをご存じでしょうか。

「がん団信」の場合では、

・「上皮内がん」「初期がん」が対象外、または一部保障のみの場合がある

・特定の部位のがんや、がん以外の重い病気や障害は保障外のことがある

などといったように、「がんになったのに、約款の条件を満たさず返済が続く」というケースもあります。加えて治療費も上乗せされると、家計が大きく圧迫されるでしょう。そうならないように、すでに住宅ローンを利用している人は、団信の内容を確認してみてください。

また、筆者の介護の例のように、ローン契約者以外の家族が病気やケガ、介護状態になり、支出が増えてしまうこともあります。ペアローンの利用者も多いようですが、夫婦のどちらかの収入がダウンすると、一人で住宅ローンを背負わなければなりません。住宅ローンは最初が肝心です。無理な借り入れはしないように、将来をしっかりと考えて計画的な利用をするようにしましょう。

オーバーローンリスクが大きくなる、返済途中に修繕費用がかかる

さらに、50年ローンには特有の弱点があります。それは「ローン残債の減り方が極めて遅い」ことです。借入期間が長いと、初期の返済額の多くが利息に充てられ、元金がなかなか減りません。前述の借入額5,000万円の例で比較してみましょう。

30歳サラリーマンが50年ローンを検討した理由, 50年ローンは“投資でカバーできる”は本当か?FPが見た現実, 住宅ローンで「一番怖いこと」とは?, 多くの人が「住まいを購入しようと決める時期」はどんなタイミングか?, 筆者が実際に経験した住宅ローン返済中の想定外, 「団信」に加入しているから大丈夫?, オーバーローンリスクが大きくなる、返済途中に修繕費用がかかる, まずは「数字の見える化」からスタートを

[図表2]35年ローンと50年ローン 10年ごと経過年数別、残債の比較 出所:筆者作成

住宅ローンが老後まで残ると、リタイア後の生活にも大きな影響が出てしまいます。子どもの進学時期や定年退職時期のローン残高を調べておきましょう。

ちなみに、毎月3万5,000円(年間42万円)を30年間、年利3%で複利運用すると、約2,000万円になります。年利4%でやっと約2,356万円です。こういった結果からも、さまざまなシチュエーションでのシミュレーション比較は重要といえます。

また、50年という歳月は、家をボロボロにします。返済中に修繕費用が発生するため、水回り(キッチン・トイレ・風呂)はもちろんですが、戸建ての場合は屋根や外壁など、マンションの場合は管理費や修繕積立金の値上げにも注意が必要です。現役世代であればなんとか支払えるかもしれませんが、ローン返済がギリギリだったり、老後に返済が残ったりすれば、なおさら要注意です。

まずは「数字の見える化」からスタートを

住宅ローンは、借りてしまったら返し続けなければなりません。

節約も大事ですが限界があります。しかし、自分の市場価値を上げて収入を増やすことを考えたり、いまから60代・70代になっても社会に求められる働き方を模索したりすることには、無限の可能性があります。

まずは「自分の家計が50年ローンに耐えられるのか」を 一度“数字で見える化”してみてください。そこからがスタートです。

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表

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