オイシイファームが240億円調達。CEOが語る2度目の大型資金調達と「第3次植物工場ブーム」の勝ち筋

アメリカで創業したオイシイファームの古賀大貴CEO。普段はニューヨークにほど近いニュージャージー州の本社で経営の指揮をとっているが、日本にもしばしば帰国。投資家探しは「常に行っている」そうで、シリーズCのセカンドクローズに向けた動きもすでに始めているという。

世界で唯一「植物工場産イチゴ」の量産を手掛けるオイシイファーム(Oishii Farm)に、日本企業からの出資が相次いでいる。

同社は2026年5月13日、シリーズCのファーストクローズで総額1億5000万ドル(約240億円、1ドル=160円換算)の資金調達を実施したと発表した。累計調達額は3億5000万ドル(525億円※)に上る。

※金額は各調達時期の為替レートに基づき計算した数値。

今回の資金調達をリードしたスパークス・アセット・マネジメントをはじめ、脱炭素化支援機構、みずほ銀行ら既存投資家から追加出資を受けるとともに、ミスミグループ本社、朝日工業社といった新規投資家も参画。エクイティファイナンスで1億1250億ドル(180億円)を調達した。加えて、三菱UFJ銀行など複数の金融機関から3750万ドル(60億円)の融資(デットファイナンス)も受ける。

多くの植物工場スタートアップが破綻・撤退に追い込まれるなか、イチゴという「実のなる作物」の量産化に成功し、唯一無二の立ち位置で成長してきたオイシイファーム。需要に生産が追いつかない状況を徐々に改善し、2026年は前年比2倍の売り上げを目指すという(金額は非公表)。

「第3次植物工場ブームが来ている」と語るCEOの古賀大貴氏に、2025年に都内に設立することを発表した研究開発施設「オープンイノベーションセンター」での育種や技術開発の現状、今後の展望について聞いた。

日本企業が出資する意味

2025年6月、同社初の国外拠点となる研究開発施設「オープンイノベーションセンター」を東京都羽村市に開設することを発表した。日本法人の従業員数は2024年の1人から、70人超に拡大。現在も毎週のように増えているという。

—— 今回の資金調達では、新規投資家も増えて前回を超える大型調達となりました。

今回の発表で一番伝えたいのは、金額そのものの大きさよりも「既存投資家に力強くリードして追加出資してもらえた」という事実です。これはつまり、我々の内部の状況や数字を理解している方々が「順調に成長している」と評価してくれたということ。バリュエーション(企業価値)も伸び続けています。新規の企業の方々も、そうした状況を踏まえて「この新しいビジネスに賭けてみたい」と集まってくださったんだと思います。

—— 事業会社が多いというのは、技術開発に時間のかかるディープテックにとって大きなメリットでは?

そうですね。我々のようなディープテックは非常に長いスパンで事業を構築しなければならず、「いつまでにIPOしてほしい」といった株主からのプレッシャーと技術開発を両立させるのは非常に難しい。

その点、日本の事業会社の方々は我々にとって非常にありがたい投資家です。IPOなど出口戦略を急かされることもなく、長期的な視点で「きちんとしたビジネスモデルを作ってほしい」と伴走してくれる。もちろんビジネスの成長が前提ですが、事業のバリューを出すことに集中させてくれる素晴らしいパートナーですね。

—— 新規投資家では、ファクトリーオートメーション部品大手のミスミグループ本社が入りました。植物工場をパッケージ化して世界展開を目指すというオイシイファームの目標に向けた第一歩でしょうか。

その通りです。実はすでに我々のメガファーム(アメリカ・ニュージャージー州)で、ミスミさんとの共同開発が始まっているんです。メガファームは工場内に「農場ユニット」というモジュールを次々追加していく構造になっているのですが、次に追加する農場ユニットには、ミスミさんの部品を組み込む予定です。これによって、建設コストの削減や生産性の向上が一気に進むと見込んでいます。

日本で始まった「農業の歴史的転換点」

日本のオープンイノベーションセンターで栽培した「植物工場産イチゴ」がずらり。すでに数百種類の中から有望な品種を数種類まで絞り込んでいるという。

—— 東京都羽村市の「オープンイノベーションセンター」では、世界初の「植物工場専用品種」の開発が順調に進んでいるとか。

施設の建設をスタートしたのが2025年5月で、種を植え始めたのが7月。「スタートアップは崖を飛び降りながら飛行機を作る」と言われますが、まさにその言葉の通りで、一部屋できたらすぐに種を入れ、苗が育つ間に次の部屋を急いで作り……といった具合に、建設と並行して品種開発を進めています。

その結果、センターの設置からわずか8カ月程度で、植物工場で栽培した数百の品種が実をつけました。そこから有望な種を選別して、現在、数品種にまで絞り込むことに成功しています。もちろんこれで終わりではなく、ほかのさまざまな品種にもチャレンジしていきます。

—— 屋外やビニールハウスで育てる一般的な農法では考えられないスピードですね。

そうですね。この速さは大げさではなく、農業の歴史における「歴史的転換点」だと思っています。従来の育種は、外の不安定な気候のなかで「どこだったら一番うまく育つか」という、「所与の環境」に合わせて品種を選ぶ作業でした。

でも我々は違う。外光が入らない完全閉鎖型の植物工場では、イチゴが持つポテンシャルの最大値がどこにあるかを推測し、二酸化炭素、水、そして光というインプット——つまり、作物の成長や糖度向上のカギを握る光合成に必要な要素——を最大化していくことができます。

ビニールハウスも含め屋外では日照時間が限られていますが、我々は16時間光を当てるなど、自然界ではあり得ない量の光で光合成を促すことで、いままでポテンシャルを発揮できなかった(埋もれていた)優れた遺伝的特性を持つ品種を生み出すことができるんです。

この「植物工場の専用品種」という切り札を獲得することができれば、仮に競合他社が量産化技術で我々に追いついてきたとしても、品種の強みだけで彼らの5年、10年先を行く「貯金」を手に入れることができます。

—— 具体的にどの程度の成果が出ているのでしょうか。

「糖度が1%上がった」といったレベルではなく、まったく違う次元の成果ですね。従来品種と同等の糖度を維持しながら、短期的に5割程度の収量改善ができると確信しています。その先には量産化というハードルもありますが、もし収量が5割上がれば生産コストが3〜4割程度下げられる。相当のインパクトです。

第3次植物工場ブームが到来した

今回の資金調達では、2024年に古賀CEOが著名な国際カンファレンス「TED」に登壇して以来の仲となった、TED代表の投資家クリス・アンダーソン氏率いるサステナビリティファンド、Resilience Reserve(レジリエンス・リザーブ)も、シリーズBに続き追加出資している。

—— 世界の植物工場スタートアップが次々と淘汰されるなか、オイシイファームは急成長してきました。いまの競争環境や課題をどう見ていますか。

現時点では、正直、競合他社からのプレッシャーは「ゼロ」です。いま最大のボトルネックは、欲しいと言ってくださる需要に対して供給がまったく追いついていないこと。アメリカでは現在18州、2026年2月にはカナダ・トロントでも販売開始しましたが、まだまだ需要を満たせていないんです。

それに応えるために、ミスミさんはじめ日本企業の方々と開発している「誰でも簡単に安く、世界中どこでもプラモデルのようにメガファームを建てられる量産化モジュール」を一刻も早く完成させたいと思っています。