高市首相の「働いて、働いて…」は本当? 夜の会食、少ないのはだめなの? 就任から半年、総理番記者が追い続けて見えた完璧主義者ぶりと「素顔」とは

記者団の取材に応じる高市首相=4月21日午後、首相官邸
高市早苗首相は4月21日で就任から半年を迎えた。共同通信社の世論調査で、4月の内閣支持率は63・8%。就任半年直後の2025年4月時点で32・6%だった前任の石破茂氏と比べると、その差は歴然だ。
当日は記者団の取材に応じると、半年間の成果や手応えに触れつつ、こんな言葉を残した。「国民の皆さまにお約束したことを、皆さまのために一つずつ実行したい。そういう思いで働き続けてまいりました」
流行語大賞に選ばれた「働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります」の言葉をどのように実践しているのか、一国のリーダーの動きを知る手段は限られる。 その一つが、来客や動向を日ごとにまとめた「首相動静」だ。
記事執筆に向けた取材を担う「総理番」と呼ばれる記者が、間近で追う中で見えてきた高市首相の姿とは。これまでの首相とはどこがどう異なるのか。歴代の番記者4人による匿名座談会から、国のかじ取り役の「知られざる姿」に迫る。(共同通信政治部)
【出席者】
記者A、B…4月下旬時点で高市首相の「総理番」を担当。石破前首相当時から
記者C…岸田元首相、石破前首相当時の総理番。現・外務省担当
記者D…菅、岸田両元首相当時の総理番。現・官邸担当
(司会は政治部デスクが担当。菅直人、野田佳彦、安倍晋三各元首相当時の総理番)

首相官邸に入る高市首相。奥のガラスの向こうに、遅れて入る総理番の姿が見える=1月
▽20メートル離される
司会)
「総理番」をイメージしてもらいやすいように、普段の仕事を紹介してください。
記者A)
首相が生活する公邸を朝出て夜帰るまでどこへ行くにも同行し、誰と会ったか、どのような話をしたかを取材します。同じ敷地にある「勤務先」の官邸から外出する際の車移動では、新聞・テレビ各社を代表する形で、共同通信と時事通信の総理番が、1台の車に乗り込んで後を追います。総理番が乗る車なので「番車(ばんしゃ)」と呼ばれます。
官邸にある首相の執務室は5階です。記者が立ち入れるのは、4階の会議室で取材がある場合を除き、3階までです。
首相が歩いて官邸入りする場面を報じる映像や写真は、おなじみかもしれません。あれを撮影している場所が3階で「エントランス」と呼ばれます。首相執務室前の5階廊下を映したカメラ映像のモニターが3階にあるので、首相宛ての来客はそこで把握に努めます。
司会)
「努めます」というと?
記者B)
官邸を訪れる来客の面会相手としては、首相だけではなく官房長官や首相補佐官らもいます。来客者にはその都度、首相に会ったかどうかを確認しなければいけません。中には首相に会ったことにしたくないから、3階のエントランスで記者に聞かれて「首相に付いている秘書官宛てで来た」と言い張る人もいます。
官邸の出入り口はエントランス以外に複数ありますし、執務室にはモニターに映らない廊下からのアクセスも可能とされています。全ての動静を追えているわけではないため「努める」というのが実態に近いです。
司会)
数十年前の総理番は、首相が移動するたび横に並んで、歩きながら話しかけることができたと、その都度質問を考えるのが大変だった、という話を聞いたことがありますが、今はどうですか。
記者A)
首相の行動を近くで見て記録を取るということはあっても、今は後ろをついて歩くだけです。間には秘書官やSP(警護官)が大勢います。公邸を出て官邸に向かう際も後ろにつきますが、20メートルくらい離されます。声は張らないと届かないくらいの距離です。

首相官邸の「エントランス」を歩く高市首相=2月18日
▽目に見えない動線
司会)
アクセスが限られるとはいえ、政策決定プロセスからリーダーシップのタイプが透けてくる、あるいは日々の取材で人柄がにじんでくる、みたいなものはあると思いますが、その点はいかがでしょう。政策決定を巡る報道からは「完璧主義者」とか「全部自分でやりたい人」という印象を受けます。
記者B)
仕事を振るということはしない人なのかな、という感じはあります。家事も含めて全部自分でやりたいのかな、と。Xを見ていても「洗濯物やりました」をあえて発信するとか。仕事も家事もこなしているのを誇りに思っているのかな、と。
記者A)
取材の設定がある外国人との面会で、英語の通訳を止めさせた、という場面もありました。「英語は分かるので大丈夫」という感じでした。任せるところは任せればいいのに、という印象を持ちました。

自民党の両院議員総会で会話する(右から)岸田首相、麻生副総裁、茂木幹事長=2024年1月、国会(肩書は当時)
記者D)
高市政権の難しさにも通じる話が一つあります。
岸田文雄元首相の時は自民党幹部のうち麻生太郎副総裁、当時の茂木敏充幹事長との「三頭政治」と呼ばれる動きがあり、重要な局面で必ず会って話を通していました。その時連立を組んでいた公明党の山口那津男代表(当時)も、政策的な局面でここぞという時には必ず官邸に入ってきて、首相と認識をすり合わせました。動静を追っているだけでも「今が節目だ」と感じられるタイミングがありました。
司会)
翻って、高市政権ではそれがないと。
記者D)
そうです。連立を組む日本維新の会に表立って仁義を切る、みたいなことも少ないですし、幹事長以下の自民党側を岸田政権や石破政権の時ほど重視しているかというとそうでもありません。
司会)
とすると、重要な局面は全てひとりで決めている?
記者D)
木原稔官房長官や一部の秘書官がキーマンでしょうが、総理番の目に見えない動線で出入りしています。

▽「生の声」は届いているのか
司会)
「三頭政治」の例と比べるまでもなく、自民党幹部が首相を訪ねる回数はずいぶんと少ないですね。4月10日に官邸で、麻生副総裁や鈴木俊一幹事長らと焼き魚定食を食べた、という動静が話題になったほどでした。政府・与党内の意思疎通は大丈夫なのか、と思いたくもなりますが。
記者C)
3月の訪米に向けた準備の話ですが、高市さんは外務省幹部との勉強会を2時間しかしていません。事務次官も北米局長も、官邸に全然行きませんでした。石破前首相の勉強会は30時間でした。
スタイルはそれぞれあると思う一方で「資料を読んでいるからいいです」というのはどうなのか。外交の現場でやりとりしている人の生の声を聞かないと、机上の空論になってしまうのではないか、というのは心配になりました。
司会)
それでいうと、高市さんの訪米は外務省内ではどういう評価なんでしょう。
記者C)
「トランプ大統領とケミストリーが合って、あそこまで仲良くできてすごい」と持ち上げる声は聞きますが…。外交では今のところ「失敗だった」とされるような出来事がないので「本当はああしておけば良かったのに」とは言いづらい面もあるのかなと思います。

首脳会談で握手をかわす石破茂首相(左、当時)とアメリカのトランプ大統領=2025年2月、ワシントンのホワイトハウス
記者D)
自分で決断して、トップダウンでスピード感を持って進めていくスタイルは、菅元首相と共通するところがあると思います。ただ、そこに至る過程が違うというか。
菅さんは各省庁の幹部によるレクや報告を受ける傍らで、有識者やエコノミストを招いて頻繁に面会していました。フラットな目で見るために自分で情報を取りに行く姿勢が官房長官当時からあり、首相就任後も続けていました。
新型コロナウイルスワクチンの「1日100万回接種」を目標に掲げた時、政権内からも実現を疑問視する声が上がったものの 、菅さんは当時担当閣僚だった河野太郎さんに指示を飛ばし、実際に達成していました。
高市さんからはどのように情報収集しているかが見えづらいので、正しい判断を続けられるのかどうか、という懸念はあると思います。

新型コロナウイルスワクチン接種会場の視察を終え、取材に応じる菅首相。左奥は河野太郎行政改革担当相(肩書は当時)=2021年4月、東京都八王子市(代表撮影)
司会)
秘書官とのコミュニケーションはどうですか?歴代首相は予定がなければ昼食は秘書官と、が割と慣例だったように思います。モニターを見ていると分かるんですよね。
記者B)
石破さんは毎日でしたね。高市さんは就任直後はなかったです。「秘書官とコミュニケーションを取っていない」という報道が出始めて、衆院選後くらいから急に始まったように思います。週に2回くらいでしょうか。
司会)
官僚組織との距離の取り方は政権によって特徴が出ますね。ただ、霞が関の優秀な官僚に持てる力を発揮してもらう上で、どんな首相や閣僚であっても信頼関係は不可欠だとも思います。
記者D)
その意味では、高市さんは政治家を含めても信頼関係の深い人は少ないのではないでしょうか。

参院予算委員会に向かう高市首相(中央)。後ろを歩く男性2人はいずれも秘書官=4月7日、国会
▽命を削って国会へ
司会)
高市さんの半年間で、印象に残っている場面はありますか。就任してほどなく、まだ衆院議員宿舎で生活していた頃に「午前3時4分、公邸。」という衝撃的な動静がありました。予算委員会の答弁を準備する秘書官らとの勉強会で、これを見たときは「働いて、働いて…」を地で行っているなと思いました。
記者A)
その件がすごく取りざたされたのを気にしたのか、今は予算委員会当日の事前勉強会は入らなくなりました。今日(収録のあった4月27日)も午前中に予算委の集中審議がありましたが、勉強会はなく8時台の出発でした。振れ幅が大きいですね。ただ、2026年度予算の審議中は首相秘書官だと答弁準備で午前4時半に出勤している人もいました。
司会)
いつの政権でも首相秘書官の働きぶりには本当に頭が下がりますが、現政権はよりいっそう「働いて…」が徹底されているのかもしれませんね。
記者D)
衝撃的だったのが3月12日の衆院予算委員会でした。午前、午後の質疑を終えた後、疲れ果てて数分間、自分の席から立ち上がれないということがありました。医師でもある松本尚デジタル相が駆け寄っていました。官邸側の説明は「風邪の疑い」で、その後の外交日程は木原官房長官に任せていました。
命を削って国会に出ているというか、答弁やその準備がそれだけ負担なんだ、というのを象徴していたように思います。今は高い内閣支持率を維持していますが、政権の命運が懸かるような場面には耐えられないのではないか、という印象も持ちました。
司会)
青森県で震度5強を観測した4月20日の取材対応でも「疲れ切った雰囲気」といったコメントがSNS上で見られました。高市さんの健康状態には留意しないといけませんね。

衆院予算委員会で顔に手をやる高市早苗首相。予算委終了後の公務日程は木原稔官房長官が代行した=3月12日
記者B)
官邸での会合の後、同じメンバーとの懇親会に首相も出席予定となっていたのに、急きょ執務室に帰ってしまったことがありました。秘書官らに取材しても要領を得ず、他社には「ドタキャン」という見出しで記事を出しているところもありました。報道機関との意思疎通がうまくいかなかった結果、官邸が思ってもいない記事が出るリスクもあるのではないかと感じます。
司会)
夜の会食が多い首相だと、同席者の事後取材をはじめとして各種作業がその分だけ増えます。高市さんはそれがないだけ、総理番としての負担は少なくて済むかもしれませんね。
記者B)
歴代首相と比べて少ないとは思いますが、その会食の場にどういう意味があるのかが大事だとも感じます。夜に会うのは重要だと思いつつも、会おうと思えば昼間でも会えるわけですよね。
高市さんは夫の山本拓元衆院議員を介護していると公言していますが、今後、仕事と家庭の両立にさらに力を入れる首相が誕生するかもしれない。それを考えると「夜の会食が少ない」「夜に出かけない」ということを、いつまで報じ続けるべきなのだろう、と思いました。

記者団の取材に応じる高市首相=4月7日午後、首相官邸
▽リスクを冒してまで対応しない
司会)
取材対応で他に気付くところはありますか。記者会見やぶら下がりの回数は多い方ではないと思います。
記者A)
何かの節目に報道各社が取材を要請して、立ったまま応じる「ぶら下がり」で、官邸側からは質問内容について事前に繰り返し問い合わせがあります。想定していない質問が飛んでくる事態を避けるため、首相周辺が神経質になっている印象を受けます。高市さんがぶら下がりで手元の紙を見ずに答える、ということはほぼないですね。
司会)
やりとりを踏まえて追加的に質問する「さら問い」こそ記者会見やぶら下がりの醍醐味だと思いますし、岸田さん、石破さんは丁寧に対応していた印象があります。本音に迫る機会が限られるのは残念ですね。
記者D)
今のところ、高市さんやその周辺が取材に積極的に応じなくても、内閣支持率は高い状態を維持しています。野党も衆院選で大敗して、国会で厳しく追及するほどの力がありません。わざわざリスクを冒してまで取材対応するのではなく、必要な発信だけで、ということになっているのではないでしょうか。
政権の命運に関わる問題が出てきたときに、本音や積極発信の姿勢が出てくると思います。第2次安倍政権当時の「桜を見る会」とかがそうだったと聞いたことがあります。そういう発信が始まったときはむしろバイアスがかかっていると思って取材しなければならないと考えています。