ヒョンデはなぜ、日産の半分に過ぎない「50万台」を目標にしたのか? 北京モーターショーで露呈した“主導権経営”の勝算
北京に刻む日韓の生存戦略の差
2026年4月24日から5月3日まで、中国・北京市で「2026北京モーターショー(オートチャイナ2026)」が開催された。上海と1年ごとに入れ替わりで開かれるこの催しは、世界でも最大級の規模で、今回の総展示面積は約38万平方メートル。前回と比べて1.7倍ほども広がった。
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現代自動車は初日の発表会で、電気自動車(EV)に特化したブランド「アイオニック」の立ち上げと、現地向けの専用モデル「アイオニックV」を披露した。合弁相手である北京汽車集団の本拠地で新しい戦略を打ち出した意味合いは、決して小さくない。会場には電池最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)を率いる曾毓群会長や、自動運転技術を手がけるモメンタの曹旭東最高経営責任者(CEO)も姿を見せ、周囲の視線を集めていた。
ここで目を引くのは、現代自動車が中国の有力企業と手を結びながらも、開発の手綱は決して放さないという姿勢だ。あくまで自社が中枢を担い、相手を協力者の位置に留めることで、他者に寄り添いすぎない体制を守ろうとしている。
対照的に、日本勢は現地の資本へ深く歩み寄る動きを強めている。中国のパートナーと組み、開発そのものを委ねるやり方は、もはやこの市場で生き残るための前提条件になった。本稿では、苦境に立たされてきた現代自動車が勢いを取り戻すために選んだ独自の道筋を詳しく見ていきたい。あわせて、現地資本への依存を深める日本メーカーと比較し、外資と中国資本の関係がこの先の競争力をどう左右するのかを考えたい。
現代自動車の動きを見れば、現地の優れた部品を自らの仕組みに取り込みつつ、ブランドの根幹は自らの手で守り抜こうとする意図が透けて見える。これは将来、中国で培った知能化技術を別の地域へ広げていく力を残しておくための、冷徹な判断といえるのではないか。
独自性を貫く中国専用EV戦略

現代自動車・アイオニックV(画像:現代自動車)
北京モーターショーの壇上に立ったホセ・ムニョス社長は、合弁相手である北京汽車と足並みを揃え、約1.7兆ウォン(約1900億円)という巨額の投資を打ち出した。今後5年で20もの車種を繰り出し、2030年までに現在の2倍を上回る年間50万台を売り上げる。
この野心的な道のりを支えるのは、やはりEVをはじめとする新エネルギー車だ。開幕に先駆けて披露された「ビーナス・コンセプト」と「アース・コンセプト」からも、その本気度がうかがえた。現代自動車はこれらを「惑星」の名で呼び、消費者を宇宙の中心に据えるという独特の考え方を示した。流行を追いかけるのではない、独自の価値を形にする「ザ・オリジン」という手法を掲げている。
「アイオニックV」の名で出展されたビーナスは、世界で知られる「アイオニック5」の歩みをさらに先へ進めたセダンだ。一方のアースは、生命力や調和を形にしたスポーツタイプ多目的車(SUV)として姿を現した。
とりわけアイオニックVに目を向けると、高度なソフトウェアを中心としたクルマづくりの姿勢が鮮明に浮かび上がる。モメンタの技術を用いた運転支援や、27inもの4K大型画面、さらにはAIによる音声対話機能を盛り込み、CATLの電池を積んで600kmを超える航続距離を叩き出した。世界中で売る車を少し手直しするのではなく、現地の市場のためだけにゼロから作り上げる。
これは、利用者の目に触れる部分や車の性格を左右する中枢をあくまで自社で抱え続け、ありふれた製品のなかに埋もれまいとする、執念に近い勝負といえるだろう。
筋肉質な経営への転換と再起

現代自動車のウェブサイト(画像:現代自動車)
現代自動車が2030年に向けて掲げた年間50万台という販売目標。日産が目指す100万台の半分という数字は、一見控えめにも映るが、その内実をひも解けば極めて血の通った計画であることがわかる。
北京現代はかつて五つの工場を誇ったものの、2021年以降、第5工場を長安汽車へ、第1工場を理想汽車へと相次いで手放し、現在は3拠点まで絞り込んだ。稼働を止めている滄州工場を除けば、実質的に動く2拠点の生産能力は年間およそ60万台だ。
2025年の販売が20万台余りに留まり、稼働率が3割程度まで冷え込んでいる現状を考えれば、50万台の達成は稼働率を8割まで戻して採算ラインを守ることを意味する。むやみに規模を追うのをやめ、重荷となった設備を切り離して利益を生む体質へと作り変える。そんな冷徹な経営判断が透けて見える。
足元の数字に目を向けても、彼らを取り巻く空気は決して穏やかではない。2026年第1四半期の売上高は前年比3.4%増の45.9兆ウォン(約5兆円)と伸びた一方、純利益は23.6%減の2.6兆ウォン(約2844億円)という増収減益の結果に終わった。
米国での関税を巡る動きや、出口の見えない中東情勢が、経営の肩に重くのしかかっている。それでもなお中国での立て直しを急ぐのは、現地の販売を戻すためだけではないだろう。世界でもっとも尖った技術をこの地で吸収し、それを世界展開へと繋げていく投資の側面が強い。中国を将来の成長に向けた知見を蓄える拠点と位置づけ、グループ全体の地力を底上げしていく。
過剰な固定費を削ぎ落として筋肉質な経営へと移りながら、次世代の競争に備える。その覚悟が、今の彼らにはあるのではないか。
現地資本に託す日本勢の生存圏

トヨタ・bZ7(画像:トヨタ自動車)
日産は中国での巻き返しを期して、現地主導のモデルを戦略の真んなかに据えた。今回のショーで世界に先駆けて公開された新型SUV「アーバンSUV・PHEV」や「テラノPHEV」からは、新車を世に送り出す速度を上げようとする意志が見て取れる。
これらふたつのモデルは1年以内の売り出しを予定しており、さらに三つの電動車が後に続く。パートナーである東風汽車との結びつきを強め、現地の素早い開発のやり方を取り入れる日産は、この地を技術革新の源泉、さらには中南米や東南アジアへ向けた輸出の拠点とも位置づけている。
トヨタのブースに並んだのは、広州汽車集団との合弁である広汽トヨタが世に問うた「bZ7」だ。使い勝手の良さや走りの質が評価されているこの車は、買った人の約5割がそれまでトヨタ車に乗っていなかった新規客だという。マツダもまた、現地拠点で形にした電動車を海外へ届ける動きを早めており、販売全体に占める電動車の割合を38%から70%へと一気に引き上げる構えを見せる。長安マツダが手がける「EX-60」は、年内にも欧州やオーストラリアへの出荷が始まる予定だ。
こうした前のめりな姿勢とは打って変わって、ホンダは販売の落ち込みを前に事業の立て直しを急いでおり、発表会そのものを見送った。日本勢の間でも、現地の力にどこまで身を委ねるかという判断がわかれ始めている。
多くのメーカーが現地の力を借りて製品化の時間を短縮しているが、それは裏を返せば、日本側の開発する力が削がれていくリスクと隣り合わせだ。実務を丸ごと現地の相手に任せる手法は、いずれ自社がブランドという名前を貸すだけの存在になりはしないか。速さを求めて中枢の判断を委ねる道が、長い目で見たときの競争力にどう跳ね返ってくるのか、今まさに厳しく問われている。
主導権がわかつ将来の明暗

現代自動車・アイオニックブランドのコンセプトモデル(画像:現代自動車)
現代自動車が北京汽車との合弁に踏み切ってから、24年近い月日が流れた。2010年代半ばには年間100万台を売り上げる勢いを誇ったが、その後の知能化の波に乗り遅れたことで、実績は大きく沈み込むことになった。同社は拠点の整理を進め、生産の規模を絞り込むことで、なんとか事業を繋いできた。
今回、EVブランドのアイオニックを立ち上げたのは、世界最大の市場から退かないという強い意志の表れといえる。この転換は、品揃えを新しくするだけの話ではない。自らの経営のあり方そのものを問い直す試みだ。
現代自動車にとって、中国からの撤退は企業の存亡を脅かす危機に等しい。北京汽車との協力関係を保ちながらも、開発の主導権はあくまで自社で握り、現地の有力企業をパートナーとして動かす道を選び取った。対照的に、日本勢は現地の企業に権限を譲り、一体となって進む道に活路を求めている。この異なるふたつのやり方のうち、どちらが正解なのかを今の段階で見極めるのは難しいだろう。
知能化や電動化を巡る争いが激しさを増すなかで、意思決定の主導権をどれほど自らの手に留めておけるかは、将来の勢力図を左右する大きな境目になるはずだ。現代自動車のように技術の主権を守る手法は、地政学的なリスクに見舞われた際や、技術を他の地域へ転用しようとする局面で強みを発揮する。
一方で日本勢の手法は、現地のスピードを吸収できる強みはあるものの、その市場に縛り付けられる懸念も拭えない。消費者が外資ブランドに独自の哲学を求めるのか、現地メーカーと同等の利便性を望むのか。この地はまさに、各社の生き残り方が試される実験場である。日韓がどのような軌跡をたどるのか、今後の動向を注視する必要がある。