ホンダが「かつてない危機」復活は容易ならず

ホンダは、北米市場での対応に苦慮している大手レガシー自動車メーカーの一つだ

ホンダはこれまで、世界的な金融危機、自然災害、安全性を巡る危機、新型コロナウイルス禍を乗り越え、黒字を維持してきた。そして昨年、米国の電気自動車(EV)政策が急転換した。

米国での自動車販売台数で5位のホンダは現在、上場以降の約70年前で最も厳しい部類に入る試練に直面している。米国の関税が同社の最大市場における利益を圧迫している上、中国の新興勢力が新たな脅威となっている。何より、北米でのEV戦略が崩壊した。

ホンダが14日発表した2026年3月期連結決算は4239億円の赤字で、1957年の上場以来、初の赤字に転落した。EV戦略の見直しに伴い、1兆5778億円の関連損失を計上したことが響いた。

同社の三部敏宏最高経営責任者(CEO)は、できるだけ早く「止血」しなければならないと述べた。

ホンダの三部CEO

ホンダは、混乱する北米市場での対応に苦慮している大手レガシー自動車メーカーの一つだ。エンジニアリング技術で知られる同社だが、自動車技術競争では中国のライバル勢に後れを取っている。

ホンダはさまざまな問題を抱える中でEVへの巨額の賭けに出た。米テスラや中国の自動車メーカーと競争するために必要なEV技術を開発するには、社運を賭けた投資が必要だった。その賭けが裏目に出た今、ホンダは創業以来最悪の財務状況に置かれている。

EVへの投資を縮小したり、将来のEVモデルを取りやめたりした他の多くの自動車メーカーとは異なり、ホンダは結局、市場に投入されることのない車に数十億ドルを投じた。そのため、ホンダは世界で販売できるEVがほとんどない状態ともなり、中国や韓国の競合他社に市場シェアを奪われている。

ホンダのかつての野心的な計画は、米国のバイデン政権時代の規制を前提に構築されていた。それらの政策は、新車販売に占めるゼロエミッション車(EVなど)の比率を2030年までに5割にすることを目指していた。しかしドナルド・トランプ米大統領が、「EVの義務化」と批判する政策を撤回したことで、ホンダのような自動車メーカーはそうした圧力から解放された。

ホンダの幹部らは、EVが米国の新車販売の15%程度を占めると予想していた。現在、その数字は6%に近い。

「このまま無理にEVを出すと、将来にわたる損失につながる」と三部氏は述べた。

中止されたプロジェクトには、オハイオ州で製造される予定だったEV3車種、EV・電池・素材の製造を予定していた、カナダの110億ドル規模の複合施設が含まれる。ホンダは、2040年までに内燃エンジンを廃止する計画も断念する。

1968年のパリモーターショーで展示されたホンダ「N600」は、米国に初めて輸出されたホンダ車だ

三部氏は、ホンダは代わりにハイブリッド車という、よりなじみのある技術に軸足を移すと述べた。まず、2027年に北米向けの新型セダンとスポーツタイプ多目的車(SUV)を投入し、2030年までに15車種を世界市場で展開する予定だ。

三部氏は、EV関連の追加損失が見込まれるものの、2027年3月期の黒字転換を目指すとした。

三部氏はまた、ホンダがある程度守りの姿勢を取ることも示唆した。同氏は、米国の政策変更による影響を受けにくい体制を整えつつ、ガソリン車への投資を増やしたい考えだ。

しかしホンダは、テスラや中国の新興勢力による最先端の技術開発に追い付かなければならない。三部氏は、ソフトウエアへの投資を増やし、EVおよびバッテリー技術を新型ハイブリッド車に搭載すると述べた。これにより、米国の消費者の嗜好(しこう)が変化した際に、完全EVモデルを生産できる体制が整うという。

ホンダは質素な出発点から始まり、世界的な自動車大手へと成長した。当初はオートバイやスクーターの販売会社だったが、信頼性が高く燃費に優れたホンダ車は、1970~80年代に燃費の悪い米国メーカー車を脅かし、熱心な顧客層を獲得した。

ホンダはその後も数十年にわたり自動車分野での革新を続け、1999年にはハイブリッド車の巨人であるトヨタより先に米国市場にハイブリッド車を投入した。

だが近年、ホンダはEVと自動運転技術分野で「革新者」から「後れを取る存在」に転落していた。自社開発のEVモデルと自動運転技術での初期のつまずきにより、同社は現在のラインアップを犠牲にしてでも、自動車の未来に対してより積極的に賭けに出る必要があると判断した。

ホンダは新型EVに数十億ドルを投じるため、自動車メーカーとしての強みの源泉だったガソリンエンジン事業を縮小せざるを得なかった。

ホンダ・ハイブリッド・セダン・プロトタイプ

三部氏はホンダの優位性を取り戻すために、エンジンと車両を自社開発してきた「内向きな伝統」からの脱却をさらに推し進める計画だ。同社はEVへの移行を加速するため、米ゼネラル・モーターズ(GM)など他の自動車メーカーとの提携を模索してきた。

ホンダとGMの提携から生まれた初のEV「プロローグ」は、ホンダではなくGMの技術を基盤としていた。プロローグは2025年のEV販売台数で6位となったが、その後、販売は急減している。モーター・インテリジェンスによると、今年1~4月の販売台数は昨年同期の半分以下だった。

それでも、ホンダのEV計画は確定していた。同社は設計を最終決定し、新モデルを製造するための高価な製造設備を発注していた。計画がどれほど進んでいたかを示すように、報道陣を日本に招いて「プロトタイプ」のテストまで行っていた。

三部氏によると、ホンダは今後、中国市場での競争力を高めるため、現地パートナーが開発したEV技術をより活用していく方針だ。

「従来のような『EV一本』ではなく、どちらに市場が振れても対応できる、厚みのある戦略を構築していく」と 三部氏は語った。