NECの株価はなぜ急騰したのか? 元機関投資家が読み解く「驚異的な増益実績」と「控えめな次期予想」の真意
Anthropic(アンソロピック)社と業務提携

NECの株価はなぜ急騰したのか?元機関投資家が読み解く『驚異的な増益実績』と『控えめな次期予想』の真意
パソコンのイメージが強いNEC(日本電気)ですが、現在はITサービスや社会インフラを主力とするBtoB企業として日本の根幹を支えています。
同社の株価は2023年以降、TOPIX(東証株価指数)を大きく上回る急上昇を見せましたが、直近ではAI関連のニュースを受けて急激な調整局面を迎えるなど、激しい値動きを見せています。
さらに最新決算では、当期利益が前年比54.3%増という驚異的な実績を叩き出しながらも、今期は「減収・微増益」という控えめな予想が発表されました。
一体なぜ、これほどの好業績企業が保守的な見通しを出し、市場はそれにどう反応するのでしょうか。この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏がNECの最新決算を読み解き、株価の動きと会社からのメッセージをプロの視点で解説します。
この記事のポイント
・2023年以降の株価急上昇の背景には、自社AIの評価と防衛・宇宙テーマへの期待がある
・前期の当期利益は前年比54.3%増(2,702億円)と、2期連続で驚異的な大幅増益を達成
・今期予想は「減収・微増益」と保守的で、市場がこれをどう評価するかが目先の焦点となる
・成長の牽引役はITサービスから、防衛・通信などを担う「社会インフラ」事業へ交代しつつある
・公共事業の性質が強いため、四半期ごとの業績よりも国策やマクロトレンドを追うことが重要
※編集部注:外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際はLIMO内でご確認ください。
TOPIXを大きくアウトパフォームしたNECの株価動向

NECの株価推移
株式投資において、まず確認すべきは市場からの評価、すなわち「株価の動き」です。動画の冒頭で泉田氏は、NECの株価チャートを見ながら、その劇的な変化について言及しました。
長らくTOPIXを下回るパフォーマンスが続いていたNECですが、2023年の途中を境にトレンドが大きく変わりました。泉田氏はその上昇の勢いについて、「今までTOPIXの下にいたところから、もうぶち抜いてガーッと上がってますもんね」と表現します。
泉田氏は機関投資家としての視点から、2つの要因を指摘しました。
1つ目は、NECが独自に開発しているLLM(大規模言語モデル)など、自社AIの実用性や将来性が株式市場で高く評価されたことです。
そして2つ目は、同社が手掛ける「防衛・宇宙」関連事業が、昨今の地政学的リスクの高まりを受けた「国策テーマ」として投資家の資金を集めたことです。
一方で、足元では株価が大きく下落する局面もありました。これは、米国の有力AI企業であるAnthropic(アンソロピック)社との業務提携が発表された前後に起きた、いわゆる「Anthropicショック」と呼ばれる調整です。
この激しい値動きについて泉田氏は、「1回調整してまたちょっと戻ってきてる」と現状を分析した上で、「防衛宇宙のこの会社、事業もやってるんで、そういったテーマも入ってきてるかもしれないですね」と付け加えます。
つまり、AIへの過度な期待が剥落して株価が調整したとしても、防衛や宇宙といった別の強力なテーマが下値を支えている構造があるということです。投資家にとっては、ハラハラする展開であると同時に、エントリーのチャンスを探る面白い局面だと言えるでしょう。
【NEC】利益が「4割増」を続ける驚異の決算ハイライト

NECの主要財務指標の前期比成長率
株価上昇の裏付けとなるのが、目覚ましい業績の向上です。発表された2026年3月期(前期)の決算短信を見ると、売上収益は3兆5,827億円(前年比+4.7%)と堅調な伸びを示しました。
しかし、投資家が最も驚いたのは利益の伸び幅です。
本業の儲けを示す営業利益は3,599億円(同+40.3%)、最終的な手元に残る親会社所有者帰属当期利益は2,702億円(同+54.3%)と、凄まじい増益を記録しました。
泉田氏も、この利益成長のスピードには驚きを隠せません。
「去年が2,564億円で、この年も36%伸びた。かつそれに対してまた4割増益なんで、素晴らしい決算かなと思います」
つまり、業績が悪かった年の反動で利益が大きく見えているわけではなく、すでに大幅な増益を達成していた前年をベースラインとして、そこからさらに4割も利益を積み上げているのです。

調整後営業利益の増減要因(ウォーターフォール)
なぜ、売上は5%弱しか増えていないのに、利益は40%以上も増えるのでしょうか。泉田氏は決算説明会資料の「ウォーターフォールチャート(利益の増減要因を滝のように並べたグラフ)」を基に、そのカラクリを紐解きます。
最大の要因は「オペレーション改善」による859億円の利益押し上げ効果です。
具体的には、ITサービス事業などにおいて、AIを活用した社内の生産性向上(DX化)を進めると同時に、利益率の低い不採算事業からの撤退やリストラを断行しました。
売上の規模(量)をむやみに追うのではなく、利益率(質)を高める構造改革が実を結んだ結果が、この驚異的な増益決算に表れているのです。
市場はどう見るか?「減収増益」の今期予想

今期業績予想と配当の方針
過去の実績がどれほど素晴らしくても、株式市場が常に見据えているのは「未来」です。その意味で、NECが発表した新年度(今期)の業績予想は、投資家にとって解釈が難しい内容となりました。
会社が発表した今期予想は、売上収益が3兆5,000億円(前年比2.3%減)、本業の稼ぐ力を示すNon-GAAP営業利益(※)が4,200億円(同5.7%増)というものでした。また、株主還元については、年間配当を前期の38円から40円へ増配する方針を示しています。
(※Non-GAAP営業利益:リストラ費用やM&A関連費用など、一時的な要因を除外して、企業が本来持っている稼ぐ力を示した利益指標)
この予想について泉田氏は、プロの目線から次のように問題提起をします。
「減収若干増益予想になってますね。今までの勢いとちょっと違う感じはします。この辺を株式市場がどう受け止めるかというところが大事なんです」
2期連続で30%〜40%台の大幅増益を叩き出してきた企業が、突如として「売上は減り、利益は5%ちょっとしか増えない」という予想を出してきたわけです。投資家からすれば、「成長がピークアウト(頭打ち)したのではないか?」と不安になる数字です。
しかし泉田氏は、表面的な数字だけで判断するのは危険だと警鐘を鳴らします。
この予想が、本当に成長が止まったことを意味するのか、それとも経営陣があえて保守的(慎重)な数字を出しているだけなのか。それを判断するためには、会社全体の数字だけでなく、「どの事業がどう変化するのか」という内訳(セグメント)を見極める必要があるのです。
成長の主役交代:ITサービスから「社会インフラ」へ

セグメント別 今期業績予想の構造変化
NECの事業は、大きく「ITサービス」と「社会インフラ」の2つに分かれています。これまでは売上・利益ともに規模が大きい「ITサービス」が会社全体の成長を牽引してきました。しかし、今期予想の内訳を見ると、その構造に劇的な変化が起きていることが分かります。
まず、主力であるITサービスの今期予想は、売上が前年比4.9%のマイナスとなる一方で、利益は142億円のプラスとなっています。
この背景について泉田氏は、「売上は若干減るけれども、AI使った効率化とか不採算事業の撤退などを継続していくと、まだ利益が増えるという予想になっています」と解説します。
つまり、ITサービス部門は規模の拡大を止め、利益体質をさらに筋肉質にする「守りながら稼ぐ」フェーズに入ったということです。
一方で、劇的な変化を見せているのが「社会インフラ」事業です。携帯電話の通信基地局や、航空宇宙・防衛などを手掛けるこの部門は、今期の売上が4.2%増、そして利益はなんと前年比52%増となる436億円のプラスを見込んでいます。
この鮮明なコントラストを受けて、泉田氏は力強く結論付けます。
「この新年度、26年度に関していくと、NECの増益の主力は社会インフラにあると言えますね」
社会インフラ事業の中には、政府の防衛力強化の方針に直結する航空宇宙・防衛事業や、国際通信の99%を担う海底ケーブルの敷設事業など、国策や安全保障に深く関わるビジネスが含まれています。
これまではIT企業としての側面が注目されがちだったNECですが、これからの業績や株価を占う上では、この「社会インフラ事業」の動向こそが最大のキーポイントになるのです。
投資家必見!NEC株の正しい追い方

NECの投資判断のフレームワーク
では、今後私たちがNECの株に投資を検討する際、どのような点に注目して業績を追っていけばよいのでしょうか。
一般的な株式投資では、3ヶ月ごとに発表される四半期決算の売上や利益の進捗率を細かくチェックするのがセオリーです。しかし泉田氏は、NEC、特に今後の成長ドライバーとなる社会インフラ事業に関しては、そのやり方は通用しにくいと指摘します。
「これ公共事業なんで、だいたいやっぱり3月末にしっかり出来上がるかどうかって、かかってる人みんながそこに向けて動いてるんですよ」
防衛設備や海底ケーブルといった巨大なインフラ案件は、国の予算に基づいて動く公共事業の側面が強くあります。そのため、売上や利益が計上されるタイミングが年度末(3月)に極端に偏る傾向があるのです。
第1四半期や第2四半期の数字が悪かったとしても、それは単に期末にズレ込んでいるだけで、実態としての業績悪化を意味しないケースが多々あります。
「では、どうやって投資判断をすればいいのか?」と問われると、泉田氏は機関投資家ならではの大きな視座を提示しました。
「あまり細かく見ようとするよりは、①トレンド②国がどういっているのか③NECの受注動向がどうなのかなど、そういうのを見る方がいいかなと思います」
AIの普及によって膨張し続けるデータ通信量、地政学リスクの高まりを受けた防衛予算の増額、そして経済安全保障の観点から重要視される通信インフラの国産化。NECが手掛ける事業は、こうした巨大な「マクロ環境の変化」や「国策」と完全に合致しています。
目先の四半期決算のブレに一喜一憂するのではなく、国がどのような予算を組み、世界がどのような方向へ向かっているのかという「トレンド」を見極めること。それこそが、生まれ変わったNECの企業価値を正しく測り、投資チャンスを掴むための最大の秘訣と言えるでしょう。
まとめ
今回は、TOPIXを大きくアウトパフォームするNECの最新決算と株価動向について、元機関投資家の泉田良輔氏の解説をご紹介しました。
驚異的な利益成長の裏にある構造改革の成果や、ITサービスから社会インフラへと成長の主役が交代するダイナミズム、そして公共事業特有の業績の追い方など、プロならではの視点が満載の分析でした。
目先の「減収増益」という控えめな予想に惑わされず、その奥にある国策テーマやマクロトレンドの変化に目を向けることが、今後の投資判断において重要になりそうです。
参考資料
・日本電気株式会社「2026年3月期 決算短信」(2026年4月28日)
・日本電気株式会社「2026年3月期 決算説明会資料」(2026年4月28日)
・日本電気株式会社「過去5年業績推移資料」
・Youtubeチャンネル「イズミダイズム」
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