【日米財務相会談】円安阻止へ日米が足並み、次に問われるのは日銀の利上げ回数、日米通貨協調が示す円安の上限

関係良好が確認された日米財務相会談, 日米通貨協調は本物と考えるべき, 日米実質長期金利差は円高を示唆, ポリシーミックス的に日本の経済政策は持続不可能, 年内2~3回の利上げも不思議ではない

日米財務相会談は、日米の通貨当局の緊密な連携が健在であることを追認する機会となった。写真はベッセント財務長官(写真:REX/アフロ)

関係良好が確認された日米財務相会談

 為替市場では、やや円売り優勢の地合いが続いている。注目されたベッセント米財務長官の来日と、それに付随する高官会合では、両国の良好な関係性が改めて確認された。当面の為替市場を見通す上で、この意味は決して小さくないだろう。

 会談後、片山大臣は「足元の為替動向について日米間で非常によく連携してきている。介入についてもはっきり書いてある昨年9月の日米共同声明に沿って、引き続き連携していくことも強く確認した」と述べていた。

 また、ベッセント財務長官も「日米の強力な経済パートナーシップを再確認できたことは喜ばしい。為替市場の望ましくない過度な変動への対応における日米の意思疎通や連携のレベルは、引き続き安定的で強固だ」とXに投稿している。

 総じて、日米通貨当局の緊密な連携が健在であることを追認する機会となった様子が透ける。

 振り返れば、今年1月下旬のダボス会議において、ベッセント財務長官は米長期金利の急騰を受け、「日本からの波及効果を分離して考えることは非常に難しい」との見方を示し、日本に対し「市場を落ち着かせるためのアクションを期待する」と日本国債の利回り急騰に不快感を隠さなかった。

 当時、米通貨当局が日本に不満を抱いているというトーンの報道が目立っていたことを踏まえれば、今回の良好な関係の再確認は小さくない変化だろう。

日米通貨協調は本物と考えるべき

 当面、為替市場の参加者はドル/円相場の上値の重さを感じる時間帯に入ると予想される。会談後の会見で片山大臣が「色々な意味を含めて議論が行われ、連携が深まったと理解をいただければと思う」と述べていたことからも察せられるように、今後も円安がまとまった幅で進む場面では、米国の理解を前提とした上で「日本の通貨政策がドル/円の上値を抑えるはず」という思惑が抱かれやすいためだ。

 今年1月下旬に注目された「日米協調レートチェック」の存在がFOMC(米連邦公開市場委員会)の議事要旨に明記されている以上、日米通貨当局の連携はブラフではなく本物と考えるべきである。米国債利回りの押し上げにつながりかねない「円安と円金利上昇の併発」は、米国としても看過できないということだろう。

 現実問題として、2024年4月以降、160円前後での介入実績が4回連続(今年4月末と5月初頭も含めれば6回連続)で存在している。そうした経緯や今回の会談を受けて、160円以上の高値を攻めることに躊躇する向きは多いはずだ。

日米実質長期金利差は円高を示唆

 目先の展開に目を向けると、貿易収支赤字の急拡大や日米実質金利差の急拡大が起こらない限り、ドル/円が今回の円安局面における新高値(162円超)を超えて続伸するハードルは高くなった。

 後者の「日米実質長期金利差」は現状でほぼ消滅している(図表①)。

関係良好が確認された日米財務相会談, 日米通貨協調は本物と考えるべき, 日米実質長期金利差は円高を示唆, ポリシーミックス的に日本の経済政策は持続不可能, 年内2~3回の利上げも不思議ではない

【図表①】

 IMM通貨先物取引におけるネット円売り持ち高も4月末時点では前回160円台で定着していた2024年7月並みの水準まで積み上がっており、5月5日時点でも相応のサイズが残されている。諸条件に鑑み、その持続性はともかく、ドル/円相場に「押し目」が到来しやすい地合いであることは事実だろう。

 もっとも、前者の「貿易収支赤字が現実に急拡大する」というシナリオも現時点で排除できるものではない。

 原油価格が1バレル90〜100ドルで推移すれば、日本の輸入は前年比で5兆〜8兆円ほど膨らむ可能性があり、これは赤字を急拡大させるに十分な規模である。結果、155〜160円を主戦場とする3月以降の取引が続く可能性はある。

 その上で、リスクは下方向(円高方向)に傾斜しているというのが、中央銀行的な表現になろうか。貿易赤字については、ホルムズ海峡の航行可能性と原油備蓄の放出ペース次第であり確証は持てないが、停戦が実現しても原油価格が高止まりするようであれば、日本にとっての慰めにはなりにくい。

ポリシーミックス的に日本の経済政策は持続不可能

 当面を見通す上で最も重要な視点はポリシーミックスの整合性をどう考えるか、だ。一国の経済政策(金融・財政・通貨)の組み合わせは8通り存在するが、理論的には通貨政策と金融政策は必ず同じ方向を向いている必要があるため、持続不可能な組み合わせを除けば、4通りしか存在しない。

 図表②で言えば、日本が目指したい進路は⑥や⑧だが、「通貨政策(為替介入)は動くが、金融政策(利上げ)は動かない」という状況は持続不可能な②や④に該当してしまう。

 仮に通貨政策が積極化していると仮定すれば、金融政策も相応の利上げを期待するというのが自然なポリシーミックスになるため、やはり⑥や⑧、インフレ下にあることを踏まえれば⑧が妥当だろう(この点は補正予算編成にも示唆を持つ考察となる)。

関係良好が確認された日米財務相会談, 日米通貨協調は本物と考えるべき, 日米実質長期金利差は円高を示唆, ポリシーミックス的に日本の経済政策は持続不可能, 年内2~3回の利上げも不思議ではない

【図表②】

 現実に目をやれば、日米の通貨政策が足並みを揃えてドル/円相場の押し下げ(円安・ドル高)を企図する中で、日本の金融政策だけが現状維持を貫き、実質政策金利をマイナス圏で放置する状況は持続可能ではない。

 この点、5月12日に公表された4月会合の「主な意見」では、中東情勢について「帰趨が不透明な状況が続いたとしても、次回以降の会合での利上げの判断は十分にあり得る」との意見が確認された。

 国内経済への影響が見極められれば、情勢にかかわらず利上げに動けるという認識である。これは植田総裁の「ホルムズ海峡封鎖下でも利上げ判断はあり得る」という発言とも辻褄が合う。

 現時点では、6月をスキップして7月まで待つ正当性はさほど大きくない。したがって、6月の利上げは依然として排除できない立場を取る。

年内2~3回の利上げも不思議ではない

 問題は、市場が12月会合まで見越しても2回目の利上げを8割程度しか織り込んでいない点だろうか。日米が円高・ドル安方向で歩調を合わせている以上、「年内1回の利上げで打ち止め」という想定は過少であるように思える。

 本来、金融政策が先んじて動き、それでも通貨安が続く場合に通貨政策(介入)の活用が検討されるのが多くの先進国における正攻法であろう。日本では、メディアを中心として金融政策での対応を脇に置き、通貨政策の有無ばかりが注目されるが、これはとてもユニークである。まずは複数回の利上げを行い、相場のリアクションを探るというのが王道だろう。

 かかる認識に基づけば、年内の日銀利上げは1回にとどまらず、2〜3回程度まで変容してくる展開も警戒した方が良いのではないか。その際、需給構造の歪み(端的には貿易収支赤字の拡大)を背景とする円安の修正は鈍いかもしれないが、上昇を強めてきた日本株については相応の調整を覚悟すべきではないかと懸念している。

「需給構造の歪み」については、今年1~3月期までは改善しているものの、諸要因を踏まえる限り、当面は悪化する公算の方が大きい。この点は別の機会に議論させて頂ければと思う。

※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2026年5日15日時点の分析です

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中

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