「週1回、植木に水やりで15000円もらえる」という在宅ワークのカラクリ 「障害者をダメにする」作業所の悪質さ 公的給付金で荒稼ぎか

大阪市内の就労継続支援B型事業所を在宅利用していた40代男性=2025年12月
新型コロナウイルス禍で広がった在宅ワーク。一般企業でオフィス勤務への回帰が進む中、逆に最近になって「在宅」が増えている分野がある。それは、障害者の作業所だ。主に精神障害や知的障害のある人が働く。
障害者の作業所といえば、商品の組み立てなど内職的な仕事をしたり、クッキーを作ったりする例が多い。障害者が通ってきて、支援を受けながらみんなで働く光景が浮かぶ。なのに、なぜ在宅利用が広がっているのか。
取材をしていくと、「小さな植木鉢が家に一つだけあって、仕事は週1回の水やりだけ」というケースもあるという。一体どういうことなのか。(共同通信=市川亨)

「在宅ワーク特化型」とうたい、植木の水やりなどを作業内容とする就労継続支援B型事業所のチラシ(画像の一部を加工しています)
▽「1日2回の報告でお金がもらえる」
大阪市にある障害者の相談支援機関で働く村瀬遥さん(仮名)は1年半ほど前、こんな経験をした。
外部からの相談を受け、軽い知的障害の20代男性が1人暮らしするアパートを訪ねると、10~20センチほどの高さの植木鉢が部屋に一つ。男性は作業所に登録していて、週1回の水やりで月1万5千円をもらっているという話だった。
男性はひきこもり状態だったが、会話ができ、障害はそこまで重くない。
「もっと働けるはずだ」。そう思った村瀬さんは、人との交流や社会参加をしてもらおうと、別の作業所の体験利用を勧めた。
すると、男性は通って働くことができた。ところが、「外出がしんどい」「今のままがいい」と言い、元の在宅利用に戻ってしまった。
「障害者の就労を支援するどころか、逆にダメにしてしまっている」。村瀬さんは苦々しい表情で何枚かチラシを見せてくれた。
「今、こういうケースが増えているんです」
チラシは、障害者の作業所が利用者を集めるため地域で配っているものだ。そこには、こんな言葉が並ぶ。
「在宅ワーク特化型! 観葉植物を育てることで利用者様の生活を明るく豊かに!」
「在宅で植物の育成・管理をしていただき、1日2回の報告で工賃が受け取れます」
「生活保護の方、必見 家にいて簡単作業 保護費から引かれず15000円が毎月もらえます」

在宅で観葉植物やメダカの飼育をしてもらい、1日300~500円の「工賃」を支払うとする就労継続支援B型事業所のホームページ画像(画像の一部を加工しています)
▽42万人が利用する「B型事業所」
どういうことなのか。まず、これらの作業所は「就労継続支援B型事業所」という。障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの一つで、企業で働くのが難しい人を対象に、生産活動や職業訓練を提供する。
全国に約2万カ所あり、約42万人が利用している(2025年12月現在)。9割は知的、精神、発達障害のある人たちだ。利用者は働いた対価として「工賃」というお金をもらえるが、雇用契約ではなく「福祉」のため、最低賃金は適用されない。そのため、1カ月働いても、得られる工賃は全国平均で月約2万4千円にとどまる。ちなみに、雇用契約を結び、最低賃金が適用される「A型」というタイプもある。
B型事業所には、利用者を支援することで国や自治体から公的な給付金(報酬)が支払われる。利用者20人が平均的なケースで、給付金は月300万円ほど。そこからスタッフの人件費やそのほかの経費を出し、残った分が利益になるという形だ。
▽通所でも在宅でも給付金は同額
実は近年、このB型事業所で利益を得ようと営利法人の参入が相次いでいる。そうした利益目的の事業者が目を付けたのが「在宅」だ。コロナ禍を受け、在宅利用の要件が緩和された一方、事業所への給付金は、利用者が在宅と通所どちらの場合でも基本的に同じ金額だからだ。
利用者が通ってきて20人が同時に働く場合は、一定のスペースがある場所やスタッフ数が必要になり、その分お金がかかる。だが、在宅利用ならどうか。
厚生労働省は在宅利用の条件として①効果が認められる②1日2回以上の連絡③原則、月1回の通所かスタッフの訪問―など約10項目を定めているが、事業所は通所に比べて大幅に経費を抑えることができる。
本来、利用者への工賃は生産活動による収入で賄う必要がある。給付金を充てることは原則、禁じられている。ただ、グループ会社との間で形式的に委託・受託契約を結ぶなどして、脱法的に給付金を工賃に充てることは可能だ。
利益だけを目的にするなら、最低限の条件だけ守って、就労支援や生産活動はしないほうがコストもかからない。
実際、大阪市内のあるB型事業所を在宅で利用していた40代の男性はこう話す。
「『IT系の仕事ができる』という宣伝文句でしたが、スタッフは何も教えてくれず、毎日『自己学習』という名目でウェブサイト制作の練習を自分でやっていました。仮に寝ていても、工賃がもらえる状態でした」
▽「利用者の半数以上が在宅」は3・2倍に
B型事業所の在宅利用はどれぐらい増えているのか。厚生労働省は毎年、状況を調べている。データは公表されていないが、情報公開請求で入手し、分析してみた。
2021年と25年でB型事業所の全体数を比べると、1・3倍に増えていた。在宅での支援を提供する事業所数はそれを上回るペースで、21年の約2200カ所が25年には約4400カ所と、2倍になっていた。
そのうち「利用者の半数以上が在宅利用」という事業所は25年に544カ所あり、21年に比べると実に3・2倍に増えていた。544カ所を都道府県別に見ると、大阪が191カ所で、全体の3割強を占める。次いで北海道、宮城、福岡が多く、東京はゼロだった。
大阪が多い理由を福祉関係者に聞くと、「大阪市の審査が緩いのではないか」「大阪では施設に入所するより地域社会で暮らす人が多い」といった指摘があった。
大阪市では、「絆ホールディングス」という会社が傘下4カ所のA型事業所で約150億円もの給付金を不正に得ていたことが明らかになり、市が3月に指定取り消しの行政処分を発表(同社は不服として市を提訴)。
こうした状況を受け、厚労省は在宅利用を安易に認めないよう、4月に自治体に通知。2027年度の給付金(報酬)改定で在宅利用の金額引き下げを検討する考えだ。B型事業所数の増加にも危機感が広がっていて、自治体の中には「総量規制」として新たな事業所の指定を原則止める動きも出てきた。
ただ、福祉関係者からはこんな声も上がっている。
「厚労省の対策は遅い。すぐにでも手を打つべきだ」

「Study Hub浅草橋」でスタッフの木内理沙さん(中央)と話す利用者の30代男性=2025年12月、東京都台東区
▽本来は「1日2回の連絡では済まない」
もちろん「在宅」を適切に活用しているB型事業所もある。
東京都内にある「Study Hub浅草橋」。データ入力などIT系の仕事をする事業所で、利用者約40人のうち4割ほどが在宅だが、通所と併用する人が多い。
発達障害などがある30代の男性は週3回在宅で、週2回は通所する。
「自分の意思とは関係なく声が出るチック症状があって、公共交通機関で周りの目が気になってしまう。天候などで調子が悪くなることもあるので、在宅で利用できるのはありがたい」
事業所は在宅利用者でも企業への就労を目指し、実践的な作業をしてもらう。「1日2回の連絡」が在宅利用の条件の一つだが、「2回で済むことはない」と社会福祉士のスタッフ木内理沙さん。「オンラインで作業状況を見守っていて、止まっていたらチャットで声をかけたり、ビデオ通話をつないで助言したりしています。対面でない分、話しやすい雰囲気をつくって、画面越しの様子にも注意を払います」

取材に答える九州産業大の倉知延章名誉教授=2025年12月、東京都港区
▽「性善説はもう通用しない」
専門家は現状をどう見ているのか。障害者の就労支援に詳しい九州産業大の倉知延章名誉教授に話を聞くと、「障害の特性で在宅利用を必要とする人は確かにいます。でも、重い身体障害を除けば、ずっと在宅利用が必要な人がそんなにいるとは思えない」と言う。
「不適切な事業者が増え、従来の性善説では通用しなくなっている。行政の指導監査も追い付いていない。営利法人の参入を絞るべき段階に来ている」。そう指摘した。
【取材後記】
取材では、複数の人からこんな懸念の声も聞いた。「不適切な例が報道されると、行政の対策が厳しくなって、本当に在宅利用が必要な人まで使いにくくなってしまうのではないか」
心配はもっともだ。悩ましいところだが、実態を放置するわけにもいかない。厚労省や自治体にはバランスの取れた対策を講じてもらいたい。何より、利益目的で制度を乱用する事業者は、自分たちの罪深さを自覚してほしい。