原油100ドル時代突入…原油高で「安全資産」金に陰りも、利下げ期待で「5,000ドルシナリオ」維持なるか【5月の金市場】
- 原油高・利下げ観測が金相場を左右
- 原油高止まりで「金伸び悩み」の可能性
- 利下げ観測再燃でドル安圧力強まる
- 投資家は停戦に対し慎重ながら楽観的なポジション
- 米中の買いと財政悪化が金を支える
- 低ボラ相場で金の構造的追い風は続く
- オイルショックで金価格の短期的な方向が不透明に
- 原油価格急騰が金を圧迫
- 空前規模の「オイルショック」に
- ロシア・ウクライナ戦争との違い
- 金が主役復帰も、原油価格しだいでは伸び悩む可能性
- 代替資産の波乱収束で、再び金が市場の主役に
- 押し目買い進むも、投資家心理は慎重
- 金価格は原油価格しだい…正常化なら金は上昇、高止まりなら逆風か
- 財政が不確実な局面における政策ヘッジ手段としての金
- 悪化する米財政と債務コスト…金が有力な防波堤に
- 政策不透明感と金利上昇で金の存在感が強まる
- 財政赤字の上振れ懸念…金市場は警戒強める

(※画像はイメージです/PIXTA)
2026年5月の金市場は、イラン紛争による原油高と、揺れ動く利下げ観測が交錯するなかで、方向感のつかみにくい展開となりました。原油価格が100ドル前後で高止まりすれば金の上値は重くなる一方、和平進展や利下げ期待が強まれば、金は再び5,000ドル台を試す可能性があります。投資家心理は慎重ながらも押し目買いは根強く、中国の現物需要や中央銀行の金購入、さらに財政悪化と債務膨張といった構造要因が金市場を下支えしています。本稿では、5月の金価格を左右する主要テーマを整理します。なお、本稿はステート・ストリート・インベストメント・マネジメントの4名のストラテジストによる共同執筆です。
原油高・利下げ観測が金相場を左右
原油高止まりで「金伸び悩み」の可能性
イラン紛争が3ヵ月目に突入するなかで原油価格は高止まりし、限月が近い原油先物間の限月間スプレッドは堅調に推移しています。これは、米国からの原油輸出が限界的な供給源となっているように、大西洋地域で供給が逼迫していることを反映しています。
今後1〜3ヵ月間にわたり、1バレルあたり100ドルが新たに原油価格の通常の水準になれば(北半球が夏のガソリン需要期のピークに入ることを考えると十分にあり得ます)、金市場は1オンス当たり5,000ドル付近で上昇モメンタムを維持するのが難しくなる可能性があります。
一方で、和平合意やホルムズ海峡の再開によって原油価格が80ドルまで持続的に低下する場合、金価格は速やかに5,000ドルを突破し、最終的には5,500ドルを再び試す展開が考えられます。
利下げ観測再燃でドル安圧力強まる
マネーマーケットや為替トレーダーは、米連邦準備制度理事会(FRB)による大幅な利下げ観測を再び織り込み、ドルを下落基調に戻すための具体的な和平合意を求めているとみられます。
当社は、コンセンサス予想やFRBのフォワードガイダンスが将来の緩和を示唆する限り、FRBが金利を据え置けば、金のパフォーマンスは良好と考えています。
ただし、金融政策の見通しが持続的にタカ派方向へ転じる場合、少なくとも一時的には金価格に逆風となる可能性があります。
投資家は停戦に対し慎重ながら楽観的なポジション
特筆すべき点は、投資家は停戦に関するニュースや政治交渉に対して慎重ながらも楽観的なポジションを取っていることです。金価格は3月の調整後から安定しており、4月は1.1%の下落、銀価格は1.9%下落しました。一方で、S&P500指数は先月10.4%上昇し、絶対値でもリスク調整後ベースでも、コモディティ全般をアウトパフォームしました。
米中の買いと財政悪化が金を支える
米国に上場する金ETFは4月に8億3,000万ドルの純資金流入となり、年初来の資金流出額は15億ドルまで縮小しました。当社は、米国が中間選挙を控えるなかで、燃料価格の上昇という政治的圧力が紛争解決を強いれば、年後半にかけて大幅な資金流入が起こる可能性があると予想しています。
中国は引き続き金を積み増しており、アジア市場での取引が金市場を下落局面でも明らかに支えているため、弱気シナリオであっても1オンス当たり4,000ドルが下値抵抗線になる可能性が高まっています。
第2四半期には「TACO(トランプはいつも土壇場で引き下がる)」トレードと、「NACHO(ホルムズ海峡が開く可能性はゼロ)」トレードが同時に展開しており、エネルギー価格が高止まりしているにもかかわらず、S&P500指数は再び史上最高値を更新しています。
今回の紛争により、エネルギー補助金・コスト、戦費などを通じて財政赤字はさらに悪化する可能性が高く、金にとっては(ドルの)長期的な価値希薄化(ディベースメント)の流れを後押しするものとみられます(図表3)。もっとも、金価格が短期的に上昇するには、よりハト派的なFRBの姿勢や米ドルの下落基調といった追加的な材料が恐らく必要になると考えられます。
低ボラ相場で金の構造的追い風は続く
4月には、代替通貨・資産市場全体で資産価格のボラティリティが急落しました(図表2)。特に金にとっては世界的な債務負担、株式と債券の相関が強まったことによる分散投資、中央銀行による金購入などの構造的テーマが再び意識され、金を戦略的に保有したい投資家にとって、市場を支える可能性があります。

[図表1]今月のチャート:原油価格と実質金利はともに上昇★1
オイルショックで金価格の短期的な方向が不透明に
原油価格急騰が金を圧迫
戦争開始以降、ブレント原油価格は50%超急騰し、4月30日には一時、2022年以来の最高値となる1バレル当たり126ドルに達し、金価格は圧力を受けています。
このエネルギーショックが、FRBのタカ派的姿勢、実質金利の上昇、ドル高などの金に対する逆風をさらに増幅させているからです。戦争開始以降、中期ゾーンの実質金利は原油価格とともに上昇しており(+26bp)、金を保有する機会費用は一時的に高まっています。
FRBの政策金利見通しも大きく変わり、戦争前に織り込まれていた累計約58bpの利下げから転じて、小幅ながらも利上げが意識されるようになりました。これは、ホルムズ海峡の混乱を背景に、短期的なインフレ期待が上昇し続けているためです。
空前規模の「オイルショック」に
現在のオイルショックは、前例のない規模になっています。統計によれば世界の原油供給は3月に日量約1,000万バレル減少し、同9,700万バレルまで落ち込み、史上最大の供給混乱をもたらしました。
一方でホルムズ海峡からの原油積み出し量は、危機前の日量2,000万バレルに対し、平均日量380万バレルにとどまり、物理的なボトルネックは4月に入っても深刻な状況が続きました。失われた供給量の累計は3月時点で3億6,000万バレルを超え、4月は4億4,000万バレルに達すると見込まれています。
仮に紛争が終結しても、損傷したインフラ、タンカーの滞留、石油製品市場の混乱、在庫の枯渇などにより、正常化には時間を要するでしょう。当社は、原油価格が1バレル当たり80〜85ドル付近に落ち着けばインフレ圧力が緩和され、FRBの利下げ観測が復活し、金価格が再び1オンス当たり5,000ドル強に戻る可能性があるとみています。
対照的に、原油価格が120〜140ドルという展開になれば、金にとって少なくとも短期的には逆風となる可能性が高くなり、インフレ圧力の高止まり、金利上昇、FRBの利下げの遅れ、あるいは利上げ観測の上昇が意識されるでしょう。
とはいえ、こうしたエネルギー価格がもたらすショックが持続すれば、世界的な景気後退やスタグフレーションに陥るリスクを高め、最終的には金価格を支える可能性があります。これは、市場が、成長鈍化、政策支援、あるいは極端な下落リスクに備えるための流動性の高い準備資産に対する需要増を織り込むからです。
ロシア・ウクライナ戦争との違い
2022年のロシア・ウクライナ紛争は、有益な比較対象となります。当時、金は当初こそ地政学的リスクに備える需要から上昇しましたが、市場の注目はすぐにエネルギー価格の上昇が招くインフレ、FRBの金融政策、実質金利、ドルへの影響へと移りました。2022年の金価格はほぼ横ばいでしたが、制裁リスクが中央銀行による金購入を加速させました。
同様の構図が現在にもあてはまる可能性があります。主権国家が流動性、バランスシートの柔軟性、外部の政策リスクに対する防御手段を必要とする局面では、金が果たす役割が拡大するためです。
最近ではトルコ、フランス、ロシアが好例です。さらに、紛争が長期化して財政負担が悪化すれば(世界の債務総額は約348兆ドル、米国の純利払い費は1兆ドル超え、米国の国防費予算要求額は約1兆5,000億ドル)、金の戦略的準備資産としての役割は一段と高まる可能性があります。

[図表2]ドル以外の代替資産価格のボラティリティは第2四半期に低下し始めている★2
金が主役復帰も、原油価格しだいでは伸び悩む可能性
代替資産の波乱収束で、再び金が市場の主役に
第1四半期は、歴史的にも波乱となる急激な価格乱高下と資金フローの変動に見舞われましたが、金・銀・ビットコインといった代替的な価値保存資産のボラティリティは、4月にかけて低下しました。第1四半期に見られた高いボラティリティは貴金属や暗号資産の値動きが安定するにつれ、平均水準に回帰しつつあるようです。
急激な価格変動が落ち着くにつれ、代替資産、特に金に関する「構造的テーマ」が再び前面に出て来る可能性があります。そのテーマには世界的な債務負担の増大(戦費やエネルギー補助金によってさらに悪化する可能性があります)、株式と債券の相関が依然として正のままであること、地政学的な分断が急速に進み、実物資産の積み増しを促す可能性があること、などが含まれます。
押し目買い進むも、投資家心理は慎重
投資家は、第1四半期末に利益確定、現金確保、ポートフォリオのリバランスなどを通じて貴金属ETFから大規模な資金流出が起きたことを受けて、4月に金価格の押し目を広く買い集めたようです。
とはいえ、当社は第1四半期の急激な価格変動を受け、富裕層および機関投資家の貴金属に対するセンチメントは依然としてやや慎重とみています。イラン紛争を巡る不確実性は依然として大きいままです。
もう一つの注目すべき材料は、短期的なドル金利の見通しです。FRBはより長期間にわたり政策金利を据え置く可能性がある一方で、マネーマーケットのトレーダーは依然として利上げサイクルに入る可能性を楽観的にみています。
ただし、これは、米国の中間選挙を巡る政治情勢が一定の妥協を促す可能性があるため、第2四半期中に紛争が具体的な解決へ向かうことが条件となる公算が大きいでしょう。
金価格は原油価格しだい…正常化なら金は上昇、高止まりなら逆風か
エネルギー価格、特に原油価格の推移は、金市場のセンチメントにとって極めて重要と思われます。当社の基本シナリオでは原油価格が1バレル当たり80〜85ドル前後で正常化すれば、FRBの金融政策、実質金利、米ドルといった経路を通じて、金のスポット価格は1オンス当たり5,000〜5,500ドルに向けてさらに上昇する可能性があるとみています。
しかし、原油価格が120〜140ドル付近で長期的に高止まりする場合は、少なくとも一時的には金市場に逆風となり、金価格は4,000ドル台に下落するとみています。
そうした下落局面では、投資家は買い向かい、最終的には金価格を支える動きになると当社は予想しています。

[図表3]構造的な財政赤字が解消される可能性は低く、金の長期的な追い風を支える★3
財政が不確実な局面における政策ヘッジ手段としての金
悪化する米財政と債務コスト…金が有力な防波堤に
米議会予算局(CBO)によれば、世界金融危機(GFC)以前の2000〜2007年の米国財政赤字は、対GDP比で平均約1%でした。GFC後の2010〜2019年は平均約5%へと拡大しましたが、新型コロナ禍後の2021〜2025年には約7%まで広がり、構造的な財政赤字はこの間に約600bp悪化しています。
投資家にとって、平均的な米国債利回りが上昇するなかでより高水準の借り入れが続くことは、債務返済コストを複利的に押し上げる要因となります。すなわち、金利上昇によって利払い費が増加し、追加的な国債発行が必要になる悪循環が生まれます。
金は、現在の債務依存型の債務調達サイクルが持続する可能性に対して強力なヘッジ手段になる可能性があります。
政策不透明感と金利上昇で金の存在感が強まる
1992年以来、最も票が割れた米連邦公開市場委員会(FOMC)での投票結果に加え、タカ派寄りとみられるケビン・ウォーシュ氏が次期FRB議長として承認されたことで、金融政策を巡る不確実性はかつてなく高まっています。
この不確実性に加え、市場がより小幅な利下げサイクル、あるいはFRBがより長期間にわたり政策金利を据え置くことで、資本市場は増加する米国債の供給を吸収するためにより高い利回りを要求する可能性があります。
長期ゾーンの金利が構造的な見直しを迫られる場合は、デュレーションが歴史的に果たしてきた分散効果は縮小します。インフレが主導する局面では債券が株式の下落を相殺できず、株式60/債券40ポートフォリオはこの10年間、十分な成果を上げられませんでした。
デュレーションが安全な避難先ではなくリスクの源泉となる世界では、ポートフォリオを補完する資産としての金の役割は、単なる戦術的なヘッジ手段ではなく、より戦略的手段になる可能性があります。
財政赤字の上振れ懸念…金市場は警戒強める
CBOの最新のベースライン予測は毎回、過去の見通しよりも一貫して高い出発点から始まっており、実際の財政赤字が想定を上振れしやすい傾向を示しています。2026年2月時点のベースラインは直近のオイルショックを織り込んでおらず、最高裁で無効とされた関税関連の収入を除外しており、イラン戦争に伴う推定250億ドルの費用も含まれていません。
ウクライナに約束した防衛支援は高止まりしており、予測されたベースラインはあくまで下限と考えるべきです。市場、特に金市場は、実際の財政支出がこれらの予測を上回る結果となる可能性を徐々に織り込んでいるものと考えられます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご留意事項】をご参照ください。
Aakash Doshi(Head of Gold Strategy)、Mohanad Abukhalaf (Gold Strategist)、Diego Andrade(Senior Gold Strategist)、アーロン・チャン(ゴールド・ストラテジスト)
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