「もう長くない」は勘違い…高齢者が知らない“本当の寿命”【データあり】

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年齢を重ねると、「これからどれくらい生きるのか」をイメージして、老後の暮らしや余生を送るための資金、そして医療や検診との向き合い方を決めてしまいがちだ。だが、その見積もりが思い込みだったらどうだろうか。高齢者の生きられる時間は一律ではなく、その捉え方しだいで老後の暮らしの考え方が変わることもある。※本稿は、山口建『高齢者とがん』(中公新書)の一部を抜粋・編集したものです。

「いつ死んでもおかしくない」と

嘆きながら高齢者は長生きする

 現代社会では、65歳以上になり高齢者として区分されると、医療保険での取り扱いが変わり、雇用面でも定年制の対象になることが多い。特に、75歳以上の後期高齢者では体調が優れないことも多く、男性の平均寿命が81歳、女性が87歳などと報道されると、「いつお迎えが来てもおかしくない」と気持ちが滅入ってしまう。

 だが、平均寿命と平均余命を混同しないほうがよい。

 筆者は、1950年の生まれであるが、当時、乳幼児死亡率は高く、この年代の男性の平均寿命は58歳程度とされた。しかし、筆者の高校、大学の同級生の8割は75歳を超えて生きている。

 このギャップは平均寿命と平均余命の違いによる。平均寿命は、ある年に生まれた子どもが、社会環境や医療事情がその年のまま、変化しないと仮定して何歳まで生きられるかを算出した数字である。

 一方、平均余命は、ある年齢に達した人々が、今後、何年間生きられるかを示したもので、若年で死亡した人々の影響は除かれ、社会環境や医療技術が十分に反映された数値となる。前述のように、現在の0歳児の平均余命が平均寿命と定義されている。

元気なお年寄りが多い日本では

暦年齢で治療方針を決められない

 図表1-1には、2024年の日本人の平均余命の概要を示している。男性の平均寿命は81.09歳、女性は87.13歳だが、これは70歳の男性が平均してあと11年しか生きられないということを示しているのではない。2024年に70歳である男性は平均して85歳を超えて、女性は90歳近くまで生きる。

 80歳ならば、男性は平均して89歳近くまで、女性は92歳近くまで生きるというデータとなっている。

同書より転載

 なお、世界の最高齢者の年齢がおおむね120歳以下であることから、すべての人間の命は120歳までには尽きてしまうことも事実である。たとえ、医学、科学が大きく進歩してもこれ以上の長寿は期待できないだろう。

 医療の現場では高齢者を定義することは意外に難しい。日本では社会制度上は、65歳以上を高齢者とし、65~74歳を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と区分している。

 これに対して、医療現場では、患者が、診断や治療における様々な負担に耐えられるかどうかを判断せねばならない。がんの場合、治療の負担も重く、患者が治療に耐え、健康を取り戻せるかを、一人ひとりについて見極めねばならない。

 そこで、医療スタッフは、暦年齢とともに、患者一人ひとりの老化の程度、持病、精神状態、社会的状況などを加味して対応する。日本人は総じて老化の進みが遅く、重い病気に罹る年齢が比較的高く、元気なお年寄りが活動する場面が多いので、この見極めは重要である。

健康と要介護のわかれ道

「フレイル」状態でどう手を打つか

 近年、高齢者の健康管理や疾病対策では「フレイル」という概念が注目されている。

「フレイル」とは、欧米で高齢者の老化レベルを示す言葉として用いられている「Frailty(虚弱、脆弱)」を意識して提唱された日本独自の概念で、おおむね健康な高齢者(健常)と持病の悪化や老化現象のため介護が必要となった高齢者(要介護)の中間に位置するグループとして提唱されている。

 超高齢社会で、この概念が重要視される理由は、「フレイル」になっても健常な状態に回復することは可能であり、「フレイル」に陥りかけている高齢者を早期に発見し、予防やケアを積極的に行うことによって、健常状態への復帰が期待されるからである。

 一方、「要介護」となった高齢者が「フレイル」、「健常」まで改善することは容易ではない。

 図表1-2は、2020年に国立長寿医療研究センターが発表した、簡素化された日本語版フレイル基準で、「フレイル」がどのような状態を指しているかがわかるだろう。

同書より転載

「フレイル」はこのほかにも様々な判定基準が提案されており、東京都健康長寿医療センターは、地方自治体の特定健康診査で用いられる後期高齢者を対象とした質問票の活用を推奨している。

「フレイル」は、健康に暮らしている高齢者の健康維持を目指すための指標として用いられることが多い。これに対して、介護保険サービスを受ける場合の要介護度の判定は、高齢者の健康状態の評価を、医師、ケアマネジャーなどが実施して行っている。なお、患者に対して、大きな身体的・精神的負担を強いる治療を実施する場合には、後に述べるような、より厳格な評価が実施される。

 健康に暮らし、たとえ病気になっても最善の治療を受けられるように、「フレイル」と判定されたら、積極的に生活習慣を改め、リハビリテーションなどの適切な医療を受けるなどして健常状態に復帰する努力を続けることが望ましい。

50歳をすぎると急増する

がんの兆候を見逃さない

 高齢者の主な死因は、がん、脳血管疾患(脳卒中など)、心臓疾患(心筋梗塞など)、感染症、老衰などである。日本では、毎年、約100万人ががんに罹り、約38万人ががんのため命を落としている。我々は、今、国民の2人に1人が一生のどこかでがんに罹り、4人に1人ががんで命を落とす「がんの時代」を生きている。

 がんは、現在、日本人の死因の第1位であり、死亡者数の約2.5割を占めている。人口の高齢化とともに、がんの死亡者数は増加し、1981年、日本人の死因第1位になった。その後も、がんによる死亡者数は増加し続けている。

 その一方で、予防、早期発見、早期治療などのがん対策が効果を上げ、医療技術の進歩も相まって、年齢構成を同じにして計算した年齢調整死亡率は1990年代半ば以降着実に低下している。つまり、がんは以前に比べて治りやすくなっている。ただし、高齢化率が上昇を続け、高齢者数が増え続けているため、がんによる死者の実数はいまだ増加し続けているのが現状である。

 がんは、高齢者が罹りやすい病気である。身体の老化に伴ってがんを排除する仕組みが衰えるため、体内には微小がんが発生しやすくなり、その一部ががんとして診断される。

 図表1-3に示すように、年齢別のがん罹患数は50歳以上で急激に増加し、それにつれて死亡数も増加する。がんと診断される年齢は、49歳以下が7.5%、50~64歳が17.0%、65~74歳が30.1%、75歳以上が45.4%となっており、50歳以上が全体の90%以上を占め、そのうち前期高齢者が全体の約30%、後期高齢者が全体の約45%を占めている。このことから、高齢者の健康管理にあたっては、常にがんの存在を頭に入れ、予防、検診、日頃の受診を心がけねばならない。

同書より転載

『高齢者とがん』 (山口 建、中公新書)