「返礼品 = ポルシェ」が現実に? 自治体の6割が動く、ふるさと納税“モノ離れ”の新潮流

モノから移動体験への転換

 ふるさと納税の返礼品といえば、これまでは高級牛肉や海産物といった「モノ」の印象が強かった。しかし現在、この制度は新しい局面を迎えている。

【画像】「結論」を先に見る!

 返礼品として注目を集め始めているのは、タクシーの利用券や電気自動車(EV)のカーシェアリング、あるいは観光列車の乗車券といったメニューだ。移動体験そのものを価値として提供する。総務省の現況調査によれば、2024度の受入件数は約5900万件、控除適用者数は約1080万人に達した。市場は今も拡大を続けている。

 この成長の過程で、移動のサービス化が具体的な形となり、実社会へと浸透しつつあるようだ。物品を送る段階を越えて、現地の移動手段を使う権利が流通する。こうした流れが、モビリティ経済の地平を広範な領域へと押し広げている。

加速する体験型へのシフト

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ふるさと納税に関するアンケート調査では、約77%が体験型の返礼品に前向きであることが判明(画像:トラストバンク)

 寄付の関心は、もはや物の受け取りだけには留まらない。現地での体験をともなう返礼品を選ぶ動きが、ここへきて加速している。

 トラストバンク(東京都品川区)が2023年4月に行った調査によれば、体験型の品をもらった経験がある人は33.2%に達した。まだ経験はないが関心を寄せている層も44.1%にのぼる。こうした意識の変化は、所有から利用へと価値の源泉が移り変わる産業全体の潮流とも重なるものだろう。

 合計で7割を超える人々が体験を重視している事実は、移動手段そのものを返礼品に据えた

「モビリティ版ふるさと納税」

が、地域経済を支える新しい基盤として浸透していく姿を映し出している。移動をひとつの価値として楽しむ文化の広がりは、産業の枠組みを実体験に基づいた形へと広げているようだ。

多様化するモビリティ返礼品

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ふるさと納税の返礼品として体験できる列車「マグマやきいも電車」(画像:Afro&Co.)

 モビリティに関連した返礼品のなかでも、タクシー分野の展開は早い。第一交通産業(福岡県北九州市)は、宮城県の秋保温泉周辺や熊本県熊本市で周遊フリー利用券を出すなど、観光タクシーの貸切サービスを行っている。時間単位で借り切ることで、利用者は自分の好みに合わせて地域を巡ることができる。

 鹿児島市では2026年2月、車内で地元の焼き芋を味わいながら回遊する「マグマやきいも電車」が登場した。移動する空間そのものに楽しみを加えた形だ。あわせて、EVを軸にした取り組みも進んでいる。

 北海道上士幌町のカミシホロホテルでは、ポルシェ・タイカン4Sなどを最大24時間利用できるプランを用意した。同町は2022年4月26日に国から第1回脱炭素先行地域に選ばれており、移動の脱炭素化を地域ブランドの向上に結びつけている。神奈川県の小田原・箱根で展開するeemoも、14ステーション、30台体制でEVカーシェアを運営中だ。

 こうした動きは、移動手段を観光資源や環境インフラへと広げていく流れを物語っている。タクシーや路面電車、そしてEVカーシェアを軸とした変化は、これからも続いていくだろう。

再訪を促す地域との繋がり

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レッドホースコーポレーションが行った「地方自治体のふるさと納税担当者へのアンケート調査」より(画像:レッドホースコーポレーション))

 自治体が体験型の返礼品を強化している。その背景にあるのは、一時の話題づくりに留まらない、地域経済を動かしていくための見通しだろう。

 レッドホースコーポレーション(墨田区)が2024年4月に出した資料によれば、今後力を入れたい返礼品として「体験型・旅先での返礼品」を挙げた自治体は

「61%」

に達した。実際の寄附件数も2021年度比で約210%、2022年度比で約140%と伸びており、市場の広がりが数字にも表れている。利用者の90%が

「寄附で訪れたまちにまた訪れたい」

と答えている点は見逃せない。移動をともなう体験がその土地への愛着を育み、繰り返し足を運ぶきっかけになっている。こうした動きは、地域と多様に関わり続ける「関係人口」を増やそうとする政府の進め方とも重なる。内閣による2024度の報告でも、つながりづくりの有効性が示された。

 現地へ行って初めて利用できるモビリティ系の返礼品は、訪れる理由を強くし、宿泊や食事、移動といった一連の消費を地域のなかへ広げていく。北海道上士幌町のように、移動体験をきっかけに滞在中の消費を促し、地域全体の活動を活発にする試みは、新しい形として広がりを見せている。

復興と防災を支える支援の循環

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ふるさと納税を活用して被災地支援を行う自治体も…被災地での車の無償貸出の流れ(画像:日本カーシェアリング協会)

 ふるさと納税を通じた支援は、被災地の復旧や防災といった、社会の底力を高める領域へと広がっている。

 日本カーシェアリング協会は、東日本大震災以来の積み重ねをもとに、2020年5月、佐賀県と協定を結んだ。寄付金を役立てて被災地を支える仕組みを整えたわけだ。佐賀県庁へ同協会を指定して寄付を行うと、その額の85%が活動費に充てられる。この資金は被災者への車の貸し出しや、地域の足を守るために使われ、現在は全国の災害現場へと届けられている。

 返礼品のなかには、2019年と2021年の豪雨に見舞われた佐賀県武雄市の事業者が作る品も含まれている。寄付が移動手段を守り、それがひいては地域の経済を立て直す後押しになる。そんな流れが生まれている。

 2008年の始まりから、この制度は大きくなり続けてきた。2024年度の受入額は約1兆2728億円と、過去最高を記録している。お年寄りの外出の支えから、脱炭素を見据えたEV観光、さらに有事の際の共同利用まで。モビリティという切り口によって、その役割はますます多角的になっているようだ。

 移動は暮らしや観光、そして復興を支える根幹にほかならない。寄付者の選んだ一票が、地域の交通網を支え、そこでの体験が新しいつながりを生む。この循環の広がりこそが、移動を軸に据えたふるさと納税のこれからを物語っている。