「なぜ蕎麦屋のカレーはあるのに、ラーメン屋のカレーはない?」 1000円の壁に苦しむ業界で香辛料メーカーが打った"秘策"

「ラーメン屋でカレーを出す」

【画像】名店のラーメンは「ラーカレ」にしても絶品だった…飯田商店なども関わる「ラーカレ」はこんな感じ

言葉だけを聞けば、どこか既視感のある話にも思える。だが、ハウス食品グループ本社傘下のハウスギャバンが立ち上げた「ラーカレ」は、単なるラーメン店のサイドメニュー提案ではなかった。これは「ラーメンスープを活用したカレー」という新たな食文化を作り、外食市場そのものに新しい需要を生み出そうという試みだ。

その旗振り役となるのが、ハウスギャバン代表取締役社長の生駒晴司さんである。

今回、生駒社長にじっくり話を聞いてみると、このプロジェクトの本質は「ラーメン×カレー」という話にとどまらなかった。人口減少、外食機会の減少、原材料高、人手不足――。厳しい時代を迎える外食産業の中で、メーカーは何をすべきなのか。その問いに対する、ひとつの答えが「ラーカレ」だった。

外食に行く回数は減り、1回あたりの支出が増えている

外食に行く回数は減り、1回あたりの支出が増えている, 客単価の向上を目指す「ラーカレ」, まだ誰も本格的に挑戦してこなかっただけ, 大手が出てきても、個人店が潰れないラーメン業界

ハウスギャバン代表取締役社長の生駒晴司さん(写真:筆者撮影)

現在、外食業界は一見すると好調に見える。生駒社長によれば、自社調査ではコロナ禍前と比べ、外食市場の売上金額ベースは約115%まで回復しているという。しかし、その中身を見ると事情は違う。

「メニュー単価が上がっているので売上は伸びています。でも、喫食回数そのものは減っているんです」

つまり、人々が外食に行く回数は減っていて、1回あたりの支出が増えているだけなのだ。

ラーメン業界でも同様だろう。原材料費や光熱費高騰を背景に、各店は値上げを迫られている。一方で、ラーメン一杯「1000円の壁」はいまだに語られる。生駒社長は、この構造的問題を強く意識していた。

「人口減少の成熟市場でメーカーが生き残るには、シェアの奪い合いか、需要創造しかありません」

競合メーカーとのシェア争いは、やがて価格競争になる。価格競争は自社の商品の価値を削り、業界全体を疲弊させる。

だからこそ必要なのが、新しい食べ方、新しい文化、新しい需要を作ること。その可能性を秘めた企画として、生駒社長は「ラーカレ」を捉えている。

客単価の向上を目指す「ラーカレ」

外食に行く回数は減り、1回あたりの支出が増えている, 客単価の向上を目指す「ラーカレ」, まだ誰も本格的に挑戦してこなかっただけ, 大手が出てきても、個人店が潰れないラーメン業界

(画像:ハウスギャバンホームページより)

「ラーカレ」がラーメン店にもたらす最大のメリットは、客単価向上だ。

「ラーメン一杯1000円には抵抗がある層も多い。でも、ラーメンとカレーのセットなら納得感が生まれる」

これは非常に重要な視点だ。さらに、カレーにはもう一つの強さがある。それはサイドメニューにとどまらず、「主役になれる」ことだ。「今日はあそこのラーメン食べたい」だけでなく、「あそこのラーカレが食べたい」という動機が生まれる可能性がある。

つまり、ラーメン店にとってカレーは単なる追加注文ではなく、「来店理由」そのものになり得るのだ。

さらに、生駒社長は「来店回数」の増加にも期待を寄せる。

「ラーメンを食べに月1回来ていた人が、カレーでもう1回来てくれたら、2回来店になる」

これは極めてシンプルだが、外食市場縮小時代には大きな意味を持つ。

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「ラーメンを食べに月1回来ていた人が、カレーでもう1回来てくれたら、2回来店になる」と語る生駒社長(写真:筆者撮影)

生駒社長が繰り返し語っていたのが、「今は入店客数より皿数が重要」という視点だった。外食産業は、もはや店内飲食だけで成立する時代ではない。テイクアウト、デリバリー、冷凍、自販機販売――。売上を作る手段は多様化している。

ラーメンはどうしてもデリバリーとの相性が難しい。麺が伸びる、スープを温め直す必要があるなど、ハードルが高い。一方、カレーは持ち帰りとの親和性が非常に高い。

「ラーメン店がテイクアウトや出前を強化する上でも、カレーは強いと思うんです」

つまり「ラーカレ」は、客単価アップだけではなく、販売チャネル拡大の武器にもなり得るのだ。

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「ラーカレ」記者発表会には6人のラーメン店主が集まった(後列)(写真:筆者撮影)

ラーメン職人は保守的――。そんなイメージを持つ人もいるかもしれない。しかし、生駒社長は実際にラーメン店主たちと接する中で、その印象が大きく変わったという。

「職人さんって、もっと変化に慎重だと思っていました。でも実際は、美味しいものへの貪欲さがすごい」

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ラーカレはこんな感じ。各店のスープの違いによって、全く異なる味わいになるので非常に面白い(写真:筆者撮影)

4月28日に記者会見で披露された6種類の「ラーカレ」は、どれも味が全く違っていた。鶏系、豚骨魚介系、淡麗系、中華系――。各店が自らのスープを活かし、それぞれ異なる個性を持ったカレーを作り上げていた。

「食べればわかる、本当に多様なラーカレができている」

ラーメン店の個性がきちんと反映されるからこそ、文化として広がる可能性があるのだ。生駒社長は試食で各店の「ラーカレ」を実際に食べ、確信したという。

まだ誰も本格的に挑戦してこなかっただけ

興味深いのは、「ラーメン×カレー」という組み合わせ自体は決して新しくないにもかかわらず、業界全体で取り組む動きがなかったことだ。そこには、「匂い問題」という大きな壁があった。

「せっかくのスープの香りがカレーに負けてしまう」

これは昔からラーメン業界で語られてきた懸念だったという。だが、生駒社長はこう考える。

「蕎麦屋にだってカレーがありますよね。出汁を大事にしているのに、カレー文化が成立している」

確かに、蕎麦屋のカレーは一大ジャンルとして定着している。ならば、「ラーメン屋のカレー」が成立しても不思議ではない。まだ誰も本格的に挑戦してこなかっただけなのだ。

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「ハウスギャバンも“考えるハウスギャバン”でありたいと思ったんです」と語る生駒社長。「ラーカレ」も、社員発のアイデアだ(写真:筆者撮影)

「ラーカレ」誕生の背景には、生駒社長の経営哲学もあった。影響を受けたのは、ホテルチェーンのアパグループだという。

かつて新聞で「考えるアパグループ」という記事を読み、強く感銘を受けた。創業者依存から脱却するため、従業員からアイデアを募り、変わり続ける会社を目指したという内容だった。

「ハウスギャバンも“考えるハウスギャバン”でありたいと思ったんです」

「ラーカレ」の発案者は、社員の田中隆暁さん。もともとラーメン業界に深く関わってきた人物だ。その提案を聞いた瞬間、生駒社長は「これはハウスギャバンがやるべきことだ」と直感したという。

「外食に貢献したい。トレンドを作りたい。その両方が詰まっていた」

トップダウンではなく、社員発のアイデアを会社全体で育てる。その姿勢自体が、「ラーカレ」という企画に表れている。

「ラーカレ」が単なる思いつきで終わらなかった理由のひとつに、「現場対応力」がある。ハウスギャバンは、ラーメンスープと合わせるだけでカレーが作れる濃縮カレーソースを開発した。これは、人手不足への対応策でもある。

「カレー粉だけ渡して『作ってください』では現場は回りません」

ラーメン店の厨房は忙しい。手間が増えれば導入は難しい。だからこそ、メーカーの開発力を活かし、簡単に高品質な「ラーカレ」を作れる仕組みを整えた。

「独りよがりの合理化じゃなく、外食産業のお困りごとに対応するのがメーカーの役割」

この言葉には、生駒社長の強い信念がにじむ。

大手が出てきても、個人店が潰れないラーメン業界

外食に行く回数は減り、1回あたりの支出が増えている, 客単価の向上を目指す「ラーカレ」, まだ誰も本格的に挑戦してこなかっただけ, 大手が出てきても、個人店が潰れないラーメン業界

「飯田商店」のラーカレ「飯田のカレー」(写真:筆者撮影)

ラーカレの目標は大きい。

「1年で1000店舗、10年で1万店舗」

外食全体では約70万店舗。その中でラーメン業界は、個人店が強く生き残っている珍しい世界だ。

「大手が出てきても、個人店が潰れない。店主の個性で味が変わるからです」

だからこそ、「ラーカレ」が広がれば、その先にはさらに大きな可能性がある。もちろん、簡単にはいかない。だが生駒社長は、焦っていない。

「独りよがりになってはいけない。地道に広げていくことが大事」

外食に行く回数は減り、1回あたりの支出が増えている, 客単価の向上を目指す「ラーカレ」, まだ誰も本格的に挑戦してこなかっただけ, 大手が出てきても、個人店が潰れないラーメン業界

「中国ラーメン 揚州商人」のラーカレ「揚州スーラー夏野菜カレー」(写真:筆者撮影)

やがて「あそこのラーカレがすごい」という口コミが生まれ、文化として根付いていく――。そんな未来を思い描いている。

「ラーカレ」は、単なる販促施策ではない。ラーメン店の客単価向上、人手不足対応、デリバリー強化、食品ロス削減、外食機会の創出――。そこには現代外食産業が抱える課題への、多層的なアプローチが詰まっている。

そして何より、生駒社長が目指しているのは「文化」の醸成だ。

「ラーメン屋さんのカレーってうまいよね」

いつの日か、蕎麦屋のカレーのように、そんな言葉が当たり前になるかもしれない。

その時、「ラーカレ」は単なる企画ではなく、日本の外食文化の新たな1ページになっているはずだ。