「活況ビンテージカーの世界」国産スーパーカーの元祖いすゞ「117クーペ」極上車に2000万円という価格も納得の理由

いすゞ自動車(以下、いすゞ)といえば、現在はトラックやバスのメーカーとして知られるが、かつては乗用車も手がけていた。そのなかで名車との呼び声が高いのが「117クーペ」である。

【写真を見る】ノスタルジック2デイズ2026でイスズスポーツが展示したいすゞ「117クーペ」|前期型・中期型・後期型の違いを比較する(42枚)

60年代後半から80年代前半まで販売された2ドアクーペで、世界的カーデザイナーであるジョルジェット・ジウジアーロ氏による流麗なデザインと軽量な車体、140馬力を発揮するエンジンなどを特徴とし、当時は高級パーソナルカーの代名詞的存在となった。

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前期型の希少価値が高い理由

前期型の希少価値が高い理由, ハンドメイドで生産された前期型117クーペ, なぜハンドメイドは高価なのか, 人気が拡大する旧車の行方

イスズスポーツが展示していた前期型の117クーペ(写真:筆者撮影)

68年の前期型、73年の中期型、77年の後期型と、3世代にわたり生産された117クーペ。なかでも前期型は、工場の生産ラインで作られた量産タイプの中期型や後期型と異なり、ハンドメイドで製作されたことで知られる。

1台1台を手作業で仕上げたという点では、イタリアのスーパーカーにも例えられる存在だ。当時としては高性能な動力性能も相まって、まさに和製スーパーカーの始祖ともいえ、極上の中古車は2000万円近い価格で取引されるケースもあるという。

当記事では、ビンテージカー展示会「ノスタルジック2デイズ2026(2月21~22日・パシフィコ横浜)」で、117クーペの歴代モデルを出展したクラシックカー専門業者「イスズスポーツ(ISUZU SPORTS)」を取材。現在では極めて希少となったハンドメイドの前期型について、主な特徴や73年以降の量産モデルとの違い、さらに高値で取引される理由などを聞いた。

前期型の希少価値が高い理由, ハンドメイドで生産された前期型117クーペ, なぜハンドメイドは高価なのか, 人気が拡大する旧車の行方

前期型117クーペのフロントフェイス(写真:筆者撮影)

117クーペは、68年から81年まで販売された2ドアクーペで、スタイリングなどのデザインはイタリアを代表する工業デザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロ氏が担当した。

同氏は、アルファロメオやマセラティといったイタリア車をはじめ、フォルクスワーゲン「ゴルフ」(74年の初代)など、世界の自動車史に残る名車を数多く手がけたことで知られ、「20世紀最高のカーデザイナー」と称される存在だ。

また、日本車との関わりも深く、60~70年代にはマツダ「ルーチェ」、スズキ「フロンテクーペ」や「キャリイ」などを担当。80年代には日産「マーチ」、90年代にはスバル「アルシオーネSVX」なども手がけており、幅広い年代の国産車デザインに関与している。

ハンドメイドで生産された前期型117クーペ

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前期型117クーペのインテリア(写真:筆者撮影)

117クーペは、同氏がイタリアのデザイン工房「カロッツェリア・ギア」在籍時に手がけたモデルだ。68年に同社を退社し、自らの会社「イタルデザイン」を設立したあとも、いすゞとの関係は継続。コンセプト段階だけでなく、その後の量産化にも関わったとされる。

当時の欧州製スポーツカーにも通ずる美しく、流麗なフォルムが117クーペの大きな特徴だ。ただし、当時の量産技術では再現が難しく、初期モデルでは多くの工程を手作業に頼らざるを得なかった。一説によれば、「1日1台程度」の生産にとどまったともいわれた。その生産体制は、まさに「イタリアの高級スーパーカー並み」だったといえる。

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イスズスポーツが展示していた中期型の117クーペ。74年式で車両価格は828万円(写真:筆者撮影)

その後、設備投資などにより量産化の目処が立ち、73年に量産仕様の中期型が登場。流麗なボディラインや丸目4灯ヘッドライトといった基本デザインは踏襲しつつ、フロントグリルなど細部は量産に適した仕様へと変更された。さらに77年には角形4灯ヘッドライトを採用するなどの改良を受けた後期型が登場し、81年まで生産が続いた。

なお、エンジンは1.6L、1.8L、2.0Lの直列4気筒ガソリンのほか、2.2Lディーゼルも設定。70年には日本車初となる電子制御インジェクションを採用したモデルも登場するなど、当時の先進技術を数多く取り入れた点でも知られている。

なぜハンドメイドは高価なのか

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イスズスポーツが展示していた後期型の117クーペ。78年式で車両価格は368万円(写真:筆者撮影)

いすゞ車を専門とするクラシックカー業者、イスズスポーツ(東京都羽村市)は、同展示会で117クーペの前期・中期・後期の3モデルを展示した。シルバーがハンドメイドの前期型、隣に並ぶブルーが中期型、オレンジが後期型である。

展示車のうち、昭和49年(74年)式の中期型は828万円、昭和53年(78年)式の後期型は368万円。一方、昭和45年式(70年)の前期型には価格表示がなかった。これは「展示のために持ち込んだオーナー車で、販売はしないため」(同社)と説明する。

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後期型117クーペのインテリア(写真:筆者撮影)

ただし、同様に内外装をしっかりレストアした前期型は、「1000万~2000万円に達する個体もある」とのこと。その背景にあるのが、圧倒的な希少性とレストア難度の高さだ。

68年から72年までの約4年間に生産された前期型は、前述のとおり生産台数自体が少ない。加えて、手作業中心で製作されていた影響もあり、補修部品の供給はほとんどないそうだ。

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美しい木目に整然と並んだメーターが印象的な前期型117クーペのインストルメントパネル(写真:筆者撮影)

たとえば、前期型のインストルメントパネルには欧州製の木材が使われている。これはジウジアーロ氏のこだわりによるものとされ、欧州スポーツカーの雰囲気を演出する大きな魅力のひとつだ。ただし、その質感を再現するレストアは難度が高く、国産材を用いたほかの年式以上に手間がかかるという。

このため同社では、部品取り車を用意し、そこから必要なパーツを移植するケースも多い。結果としてベース車両は減少し、前期型の個体数はさらに少なくなる。希少性が高まる構造だ。

さらに部品調達や作業工程に時間を要することから、レストア期間も長期化する傾向にある。今回展示された前期型も約4年前に作業を開始し、2025年に完成したそうだ。こうした事情からハンドメイドの前期型は、ほかの年式に比べて価格が上昇しやすい傾向にある。

人気が拡大する旧車の行方

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前期型117クーペのリアビュー(写真:筆者撮影)

ここ数年、国産ビンテージカーの人気は年々高まっている。加えて、中古車価格が上昇する車種の裾野も広がりつつある。

これまでは、60年代後半から70年代に販売された日産「スカイライン」や「フェアレディZ」、トヨタ「2000GT」などが中心だった。とくに2000GTは希少性の高さもあり、海外オークションで1億円を超える価格が付いた個体も確認されている。

一方で、117クーペのように、かつては比較的入手しやすかったモデルにも価格上昇の波が及びつつある。従来は一部の愛好家に限られていた車種にも注目が集まりはじめているためだ。

対象車種の広がりにより、国産旧車市場は今後も一定の活況が続く可能性がある。ただし、再生産されないクルマを扱う以上、供給が増えない構造であり、市場にはおのずと限界がある。ブームがいつまで続くのか、今後どのように変化していくのかが注目される。