修理待ち「1年以上」が約2割――旧車オーナーを直撃する「部品難」「整備士ロス」の現実、需給不均衡を解消できるのか

資産化する旧車と深刻な需給ひっ迫

 自動車産業が電動化やデジタル化の波に洗われるなか、物理的な機構を剥き出しにするクラシックカーは、希少な動産資産としての存在感を高めている。日本で「旧車」や「ヒストリックカー」といった言葉に明確な年式の線引きはない。それでも、日本クラシックカー協会がイベントの参加基準とする「1975年以前の生産」という枠組みは、愛好家にとってひとつの目安となっている。市場の裾野が広がる一方で、その価値を支えるはずの維持インフラは、かつてない需給の不均衡に陥った。ローバーミニの専門店、キングスロード(愛知県小牧市)がオーナー273人を対象に行った調査によれば、入庫待ちが「1年以上」に及ぶケースは16.9%に達する。「6ヶ月以上1年未満」(16.9%)や「3ヶ月以上6ヶ月未満」(18.3%)を合わせれば、全体の約半数が半年以上の待機を強いられているのが実情だ。

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 修理というプロセス自体が、もはや長期間の待機を前提とした構造に変わってしまったといえる。クラシックカーはいま、個人の所有物という枠を抜け出し、長い維持管理のサイクルと地続きにあるモビリティ資産としての道を歩み始めている。

部品と技術の消失を巡る供給危機

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クラシックカーの修理・整備に関する調査(画像:キングスロード)

 オーナーの心理をひも解くと、72.6%もの人々が修理や整備の先行きに不安を抱いている。その中身を詳しく見れば、部品が手に入らないことや価格の跳ね上がりを挙げた人が53.5%と最も多い。次いで、熟練の整備士が高齢化し、その数自体が減っていくことへの懸念が48.0%に達している。拠点の少なさや費用の高さを指摘する声も、それぞれ45.5%と根強いのが実情だ。

 ここで見えてくるのは、市場の不安が「いくらかかるか」というコストの話を超え、

「そもそも直せるのか」

という供給の持続性へと向かっている現実だろう。お金を積めば解決する段階はとうに過ぎ、部品や技術という土台そのものが消えてしまうのではないか。そんな供給側の限界に対する危機感が、いまやオーナーの間で共通の認識となっている。

 こうした整備を巡る苦境は、部品や人材、さらには法的な逆境が複雑に絡み合って生じている。部品の供給をたどれば、メーカー在庫はすでに底を突き、流通の網の目が細切れになっている。

 さらに日本特有の事情が追い打ちをかける。登録から13年(ディーゼル車は11年)を超えた車両への重課税や、エコカー補助金にともなう廃車促進が、歴史的価値のある車両の生存を脅かしてきた。加えて、米国における「25年ルール」の適用や日本車人気の高まりにより、国内の希少な個体やパーツが海外へ流出する動きも止まらない。48.0%のオーナーが案ずる整備士の減少も、こうした車両そのものの減少という背景と無縁ではないはずだ。

 手作業による膨大な手間と、効率を重視する現代の収益モデル。この両者の折り合いがつかないなかで、供給能力は限られた専門拠点へと凝縮され、現場の負荷は極限まで高まっている。

専門家の分業が支える維持管理

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クラシックカーの修理・整備に関する調査(画像:キングスロード)

 供給側が抱える厳しい制約を前に、現場では限られた資源を使い切るための知恵が広がりつつある。

 象徴的なのは、修理の工程を細かくわけ、それぞれの専門家が手を結ぶ動きだ。すべてを一か所で抱え込む旧来のやり方を改め、領域ごとに外部の熟練技能者と網の目のようなネットワークを組み、作業を分散させる形へと移っている。

 例えば専門店は、海外市場と直接つながる独自のルートを築き、自前で在庫を守る仕組みを整えた。自社ですべてを完結させることにこだわらず、特注部品の製作や、時には現行車のエンジンを流用する「スワップ」といった手法も選択肢に含め、技術と顧客の想いを最適に結びつける調整役としての動きを強めている。こうした現場の試行錯誤は、これまでの枠組みを超えた新しい協力の形を確実に浸透させている。

 もちろん、現場の歩み寄りが進んでも、構造的な課題がすぐに消え去るわけではない。13年超のガソリン車への増税といった政策的な風当たりの強さは依然として続き、次代を担う整備士を育てるにも相応の年月を要する。オーナーが1年近い待機を強いられ、腕利きの整備士が足りないと嘆く現状は、需要が供給をはるかに上回り続けていることの裏返しといえるだろう。

 ここで大切になるのは、入庫から仕上がりまでの道筋をはっきりと示し、先々の見通しを立てやすくすることにあるはずだ。市場の関心はいま、いかに早く直すかという焦りから、厳しい制約を受け入れたうえで

「いかに確実に愛車を守り続けるか」

という、持続可能な向き合い方へと変わり始めている。

産業のデジタル化と資産維持の行方

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クラシックカーの修理・整備に関する調査(画像:キングスロード)

 いつ終わるとも知れない待ち時間や、底を突きかけた部品供給。こうした課題に対し、業界は情報の風通しをよくし、持続的な仕組みを作ることで応えようとしている。

 まずはデジタル技術の活用だ。入庫の状況や部品在庫の動きをデータとして表に出し、修理の工程を共有する。そうすることで、先行きが見えない不安を少しずつ取り除いている。また、古い車ならではの技術を「特殊技能」として位置づけ直し、得意分野に特化した分業を徹底することで、限られた働き手の力を引き出す試みも進む。

 さらに、壊れるたびに直すやり方から、長期的な維持管理をまるごと引き受ける契約形態への移り変わりも見えてきた。あらかじめ必要なリソースを囲い込んでおく手法は、供給能力の限界という壁を突破するひとつの道筋となっている。

 ただし、資産としての維持を確かなものにするためには、もうひとつの壁を乗り越えなければならない。自動車保険の評価制度だ。現状、多くの損害保険会社は車の価値を独自の時価で判断しており、市場価格が数百万、数千万に達する車両であっても、事故の際には価値がないとみなされ、修理費用が十分に補償されないケースが少なくない。

 クラシックカーの維持管理は、部品の供給網、技の継承、税制、そして資産評価という幾重もの層が重なり合った複雑な問題だ。しかし市場は立ち止まるのではなく、こうした制約を引き受けたうえで、新しい形へと歩みを進めている。全体の72.6%が整備環境を案じ、16.9%が1年を超える入庫待ちに直面するなか、いまや焦点は直せるかどうかではなく、

「どの技術や供給の輪に加わるか」

へと移った。厳しい現実を認めつつ、専門の拠点を介して知恵を出し合い、協力の形を築くことで、愛車を守れる可能性はむしろ広がりつつある。

 この変化は、特定の愛好家の世界に留まるものではない。これからの自動車社会が資産をどう守り続けるべきか、その行く末を占う動きとして広がりを続けていくはずだ。