「右派市民」は政治活動に積極的?→調査で見えた“左派との意外な差”

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国や伝統を重視する右派市民に対して「強い主張を持ち、積極的に政治に参加している」というイメージを抱く人は少なくないだろう。しかし実際のデータを見ると、必ずしも活発とはいえない側面も浮かび上がる。右派市民の行動特性を分析する。※本稿は、中京大学現代社会学部教授の松谷 満『「右派市民」と日本政治 愛国・排外・反リベラルの論理』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

右派市民たちは政治に対して

どうアクションをとるのか?

 本稿では、右派市民の実際の「アクション」に注目します。右派市民は、ある部分では極端な考えや感情を持った人たちです。それでも、1人で思い込んでいるだけで何もしなければ、社会的な影響力はありません。思いに従って行動を起こすことで、初めて具体的な力を持つことになります。

 したがって、右派市民がどの程度、政治的な行動を取っているのかを確認することには意味があるでしょう。おそらく政治に無関心な人々よりも積極的に動いているだろうと思いますが、どのタイプがより積極的なのか、どんな行動として表れやすいのか、はっきりしたことは何もわかっていません。

 はじめに投票率を確認しましょう。この調査は2017年の衆院選直後に行われているため、その選挙で投票したかどうかをタイプ別に示しました[表8]。

同書より転載

 政治行動は年齢にかなり影響されるため、年代別に分けて確認していきます。

 調査回答者の投票率は、実際の投票率(53.7%)よりもかなり高くなっています。往々にして、調査回答者は政治への関心が高い(だからこそ、こうした調査に協力的)ことには注意が必要です。

 年代別にみると、高年層は右派市民であろうとなかろうとほとんど差がなく、高い投票率となっています。高年層全体の投票率は92%でした。年長世代においては、政治・社会のことに強いこだわりがあろうとなかろうと、投票は参加して当然という認識なのかもしれません。

 中年層は全体の投票率が79%でした。右派市民のうち、反左主義者がほかよりも高くなっています。左派市民の親左主義者も同様でした。政党に対して正負の強い感情を持つほうが、そうでない人よりも(政党を選ぶための)投票に行くというのは納得できる結果です。

 若年層は全体の投票率が64%でした。よく知られているように、若者の政治参加は非常に低調です。そのことは、この調査結果からもうかがえます。注目すべきは、若者であっても、政治・社会のことに強いこだわりを持つ右派市民(左派市民)は、投票率が高いという点です。裏を返せば、投票に行かない若者は、そうしたこだわりがないから行かない、ということでしょう。

若い排外主義者にとって

自民党の対応は生ぬるい?

 そこで気になるのは、若い排外主義者の投票率が全体と同じどころかそれよりもやや低い、という点です。これは何を意味するのでしょうか。

 1つの有力な解釈は、中国と韓国を極端に嫌う彼らの意見を適切にくみ取ってくれる政党が見当たらない、というものです。自民党あるいはほかの保守政党があるではないか、と思われるかもしれません。しかし、この後でも示されるいくつかの結果をみていくと、彼らは自民党では物足りない、対応が生ぬるいと考えている節もあります。(1*)

(1*)…若い世代の非-伝統主義者も政治的に活発ではありません。彼らは、伝統的な規範からの自由を重視している人たちですから、「投票」もまた自由な選択にすぎないと認識しているのかもしれません。しかし、この不活性さが家族・ジェンダーに関する政策の推進を遅くしている可能性もあるのではないでしょうか。

 一部の右派活動家とは違って、自民党が正面から「中国・韓国とは断交します。戦争になってもかまいません」とはいくらなんでも言えないのです。

 ヨーロッパの排外主義的な政党は、このようないくらなんでも言えないと既存の政党がためらっている部分で明確な主張を行います。それによって一定の支持を得ることができている側面があるのです。日本もいずれ同じような状況が現出する可能性は否定できません。

 では、投票以外の政治行動はどうでしょうか。具体的には、集会・デモへの参加、署名、寄付・カンパといったものがあります。日本人は欧米と比べると投票以外の政治行動が際立って活発ではないといわれています。そうした点が市民社会の未成熟さ、民主主義の不十分さを表すとの指摘もあります(2*)。

 しかし、本稿の右派市民(左派市民)は日本社会全体の傾向とは異なり、活発に政治的な行動を行っているかもしれません。この点に関して、本調査では次のように質問しました。「あなたは、(東日本大震災以前と以後に、)社会運動へのかかわりとして以下のような活動をしたことがありますか。」

 ここでは震災後のかかわりについて示します。集会への参加、デモへの参加、署名、寄付・カンパの4つについて、震災後の5~6年程度のあいだに行ったことがあるかを[表9]に示しました。

同書より転載

集会・デモへの参加は

左派市民のほうが活発

 集会への参加は全体的に低調です。右派市民はどのタイプも全体の傾向と変わりなく、参加率は高くありません。あまり知られていないかもしれませんが、右派は国民運動と位置づける大小さまざまな集会を定期的に行っています。

(2*)…蒲島郁夫・境家史郎『政治参加論』東京大学出版会、2020年。山田真裕『シリーズ日本の政治4政治参加と民主政治』東京大学出版会、2016年

 具体的には、憲法改正、靖国神社参拝、歴史認識、外国人問題などで意見表明・要求をするための集会が毎年のように実施されています(3*)。

 数万人規模の集会も少なくないのですが、左派市民と比べてもその参加率が数字に表れるような広がりはありません。

 デモへの参加も全体的に少ないです。震災後、反原発や反安保法制のデモが大規模に行われましたが、これは左派市民が中心となったものです。一方、右派も主に民主党政権期にさまざまなデモを行っています。尖閣問題についてのデモやフジテレビデモ(フジテレビが韓流ドラマなどを放映することに反対したデモ)が話題となりました(4*)。

 在特会のヘイトスピーチ街宣もデモに含められるでしょう。しかし、右派市民の政治参加は数字に表れるほどの広がりは見出せません。集会参加と同じく、左派市民のほうが明らかに活発です。

 署名は全体でも1割前後が行っており、比較的市民権を得ているようです。しかし、これについても右派市民は全体の傾向とはさして変わりなく、とくに熱心に署名を行っているわけではありません。左派市民と比較するとなおさらその非対称性がわかります。

 くわえて注目したいのは、高年層の右派市民の署名実施率が顕著に低いことです。高年層の回答者全体だと署名したことがある人は11%ですが、右派市民はタイプによらず低く、5~7%にとどまっています。中年層の右派市民と比べても低い数字です。これは何を意味するのでしょうか。

 高年層の排外主義者は集団への所属率が低いです。これをふまえると、右派市民は署名を依頼されるような社会的なネットワークを欠いているのかもしれません。ただ、排外主義者以外も全体的に署名実施は少なくなっています。また、右派市民には自営・経営者が多いのですから、むしろ広いネットワークを有しているようにも考えられます。

 しかし、彼らの地縁中心の経済的なネットワークは、署名活動との相性がそれほどよくないのかもしれません。あるいは、高年の右派市民には署名そのものに対する拒否感があるという見方もできそうです。

(3*)…具裕珍『保守市民社会と日本政治 日本会議の動員とアドボカシー:1990-2012』青弓社、2022年

(4*)…古谷ツネヒラ『フジテレビデモに行ってみた!』青林堂、2012年

高年層の左派市民に比べて

活発ではない高年右派市民

 社会運動の寄付・カンパは、基本的には活動する団体を支援するためになされることが多いものです。また、何かしらの記念碑や施設の建設といったことで募られることもあります。尖閣問題激化の発端となった都の尖閣諸島購入に際し費用を募った結果、約14億円もの寄付がありました。

 表をみると寄付・カンパの経験は各年代で1割を超えており、4つの政治行動のなかでもっとも高い割合となっています。しかし、これは実態をとらえそこなっているおそれがあります。回答者のなかには、社会運動とは関係ない寄付・カンパ(たとえば災害募金など)を含めてしまった人もいるかもしれません。

『 「右派市民」と日本政治 愛国・排外・反リベラルの論理 』(松谷 満、朝日新聞出版)

 先の署名と同じく、ここでも高年層の右派市民、とくに伝統主義者と排外主義者の寄付・カンパが低調であることが注目されます。高年層の回答者全体と比べて明らかに低いのです。ネットワークの問題か志向の問題かはわかりませんが、高年の左派市民と比べるとその不活発さがより目につきます。

 ここで参照している調査は3・11後の社会運動の実態を明らかにすることが主な目的でした。したがって、「反原発運動」「反安保法制運動」に関する質問が多く含まれています。そうした調査内容に引っ張られて、ここでたずねられていることが自分事ではないと考えてしまい、右派市民の参加率が低く出てしまった可能性も否定できません。そもそも社会運動は「左派的」なものという前提が強くあるため、実際には活動しているのに、適切な回答がなされにくかった可能性もあります。

 そうした留保は必要ですが、この結果をそのまま受け止めるならば、デモへの参加や署名といった直接的な政治行動に関しては、(1)右派市民の4タイプにはさほど明確な違いは見出せない。(2)高年層の右派市民は全体からみても署名や寄付・カンパにおいて行動率が低い。(3)左派市民、とくに高年層の左派市民と比較するとその不活発さは顕著である。こうした特徴を指摘できるでしょう。