「EV電池」再編が加速!「120万円」控除終了で揺れる市場、テスラが進める再定義とは
社会インフラへ進化するEV電池
電気自動車(EV)が街に増えていく一方で、その先にある「使い終わった電池」の行方に注目が集まっている。将来、市場には膨大な量の使用済み電池が積み上がっていく。これまでは、役割を終えたリチウムイオン電池は分解し、資源として取り出すのが当たり前だった。ところが最近、電池に「第二の人生(セカンドライフ)」を歩ませる動きが目立ってきた。世界各地で再利用の仕組みが整い始め、電池を軸にした新しい経済の形が見えてきている。
【画像】記事の「結論」を先に見る
今、自動車を作る側は、移動手段を売る枠組みを越えつつある。電力を貯めて配るエネルギー産業との距離が、ぐっと縮まってきたのだ。興味深いデータがある。EV電池の劣化は、実は予想されていたよりもずっと遅い。航続距離への不安から、電池の容量が70~80%ほどに減ると交換時期とされるが、中身にはまだ十分な電力が残っている。元の容量の半分から3分の2ほど動けば、建物の脇に置くような定置型蓄電池システム(BESS)として十分に働ける。この「使い残した性能」こそが、新しい市場を支える土台だ。
自動車メーカーや新興企業、さらにはエネルギー会社までが、なぜこぞってこの分野に乗り出すのか。バッテリーを車の部品ではなく、社会を支えるインフラの一部として捉え直すことで、産業の形そのものが大きく広がりを見せている。
米国発、産業を繋ぐ資源循環

レッドウッドとリヴィアンのパートナーシップ締結(画像:レッドウッド)
米国では今、使い終えたEV電池を回収し、再び役立て、最後は資源に戻すという大きな輪が回り始めている。この流れを先読みして動いているのが、スタートアップの米レッドウッド・マテリアルズだ。同社は2026年4月15日、新興メーカーのリヴィアンとの提携を発表した。イリノイ州にある工場へ、高度な蓄電システムを導入するという。リヴィアン側が提供する100個以上の使用済み電池を束ね、10MWhという規模の電力を供給する計画だ。
この仕組みが面白いのは、ただ電池を並べるだけではない点にある。電力が足りなくなるピーク時のコストを抑えつつ、送電網への負担を軽くして、社会全体の電気の安定を守る。いきなりリサイクルしてバラバラにするのではなく、まずは大規模な蓄電用として第二の役割を与える。
そうすることで、膨大な予算がかかるインフラの更新を先延ばしにしながら、電池の寿命を使い切るわけだ。車を作ることから、電気を貯めること、そして資源を回収すること。バラバラだった産業の鎖が、ここでひとつにつながり始めている。
レッドウッドの背後には、すでに巨大なネットワークが広がる。2025年7月にはゼネラルモーターズ(GM)とも手を組んだ。工場で生まれたばかりの電池と、役目を終えて戻ってきた電池を混ぜ合わせ、蓄電システムの普及を急いでいる。
それだけではない。同社はテスラやトヨタ、フォードとも契約を結び、メーカーの壁を越えて資源が循環する“交差点”のような存在になりつつある。地中から掘り出した素材を地域の中で使い回し続ける。そんな仕組みが整えば、海の向こうの情勢に振り回されない、タフな供給網が手に入るはずだ。
余剰能力が拓く蓄電ビジネス

レッドウッドとGMのパートナーシップ締結(画像:レッドウッド)
米国のEV市場に、冷たい風が吹き始めている。普及を力強く支えてきたインフレ抑制法(IRA)による最大7500ドル(約120万円)の税額控除が、2025年9月をもって幕を閉じたからだ。これを機に、勢いのあったEV需要は落ち着きを見せ、GMなどの主要メーカーは事業の見直しを迫られている。
調査会社ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスの数字を見れば、状況は一目瞭然だ。メーカー側が積み上げた電池の生産能力は275GWhに達する一方で、国内の需要は182GWhにとどまる見通しとなっている。この大きくはみ出した生産能力をどこへ向かわせるのか。各社の視線は今、その一点に注がれている。
そこで浮上したのが、電力貯蔵システム(BESS)という道だ。余った電池を蓄電事業へ振り向けることで、収益の柱を増やそうという動きが目立つ。背景には、米国各地で建設が続くAIデータセンターの存在がある。
膨大な電力を安定して守り続けるための仕組みを求める彼らにとって、EV用と技術の土台が重なるBESSは、まさに手に入れたい解決策となった。テスラはこの領域で一歩先んじており、家庭用の「Powerwall」や大規模な「Megapack」を十数年前から世に送り出してきた。
この流れは今、業界全体を飲み込んでいる。フォードは2025年12月、ケンタッキー州の工場を蓄電システムの生産拠点へ移す計画を明かし、GMもテネシー州の拠点で開発に力を注ぐ。電池を中心に据えた事業の広がりは、これまでの車作りの常識を塗り替えつつある。
日欧が挑む独自のリユース戦略

三菱ふそう本社敷地内に設置されたEnePONDR(画像:CONNEXX SYSTEMS)
日本でも、EV電池を使い尽くす試みが着実に形になりつつある。三菱ふそうは2025年2月、電気小型トラック「eキャンター」の使い終えた電池を蓄電システムへ回す実験を、CONNEXX SYSTEMSと共に始めた。2026年の実用化を目指すこの動きの先には、電池が持つ価値を最後まで引き出し、車両にかかる生涯コストを抑えようという狙いが見える。
日産自動車にいたっては、2014年から「リーフ」の電池を再利用する事業を続けてきた。蓄電用だけでなく、ゴルフカートや工場の荷役車両など、その活躍の場はすでに多岐にわたる。国内で進む品質管理や評価の仕組み作りが、いずれ世界で通用する基準へと育っていくかもしれない。
一方の欧州では、車を作る側とエネルギーを担う側の結びつきが、日本以上に濃い。メルセデス・ベンツはパートナー企業との協力を2024年からさらに5年延ばし、ドイツ国内ですでに2000個を超える電池を蓄電用へと移し替えた。ルノー傘下の「Mobilize」やステランティスも負けてはいない。イタリアでのプロジェクトでは、78個もの電池を束ねた巨大な蓄電拠点を作り上げている。
再生可能エネルギーが広く普及した欧州では、電気の需給をいかに調整するかが死活問題だ。使い古しの電池を社会のインフラとして組み込むことで、地域を守る新しい産業の姿が浮き彫りになりつつある。
資産価値を最大化する全体管理

使用済みバッテリーのサーキュラ―エコノミーモデル(AGV)(画像:日産自動車)
こうした一連の動きを眺めてみると、EV電池の「その後」を巡るビジネスは、もはやリサイクルの枠内に収まるものではなくなっている。ひとつの独立した産業として、大きく育つ可能性が十分にあるからだ。
自動車メーカーが電池を軸に事業を広げていくなかで、使い終えた後の電池をどう生かすかが、将来のコスト競争を左右することになるだろう。バッテリーは、車という製品の一部であることをやめ、長い期間にわたって利益を生み出し続ける貴重な資産へと、その立ち位置を変えつつある。
そこで見過ごせないのが、材料の調達から製造、日々の運用、そして最後のリサイクルまで、すべての過程を一貫して見つめる視点だ。こうした全体を通じた管理の巧拙こそが、これからの競争力の源になる。
現に米国では電池の作りすぎが目立ち始めており、余った分をいかに賢く使い切るかが焦眉の急となった。市場が広がれば電池の価値も安定し、巡り巡って新車を売る際の強みにもつながる。そうした好循環が、今まさに始まろうとしている。
循環が駆動するモビリティ経済
EVが当たり前の存在になることは、車のエンジンがモーターに代わるという話だけでは終わらない。社会のなかに電池という巨大な蓄えが積み上がり、それをエネルギーインフラとして使い回す仕組みが広がることを意味している。
電池に「第二の人生」を与える試みは、もはや環境規制を守るための後ろ向きな活動ではない。新しいビジネスを生み出す、確かな成長分野へと姿を変えたのだ。
自動車メーカーとエネルギー企業が手を結び、互いの領分が溶け合うこの領域は、これからの産業競争を占う主戦場になるに違いない。使い捨てを前提とせず、その価値を何度も巡らせ、使い尽くす――そんな視点の広がりこそが、次世代のモビリティ経済の姿を何よりも雄弁に物語っている。