「在庫がもつのはあと2か月」 自動車整備・鈑金塗装の現場に何が起きているのか? なぜここまで追い込まれたの? 66%が示す事業継続の時間制約

中東発、供給網を襲う資材危機

 中東情勢の悪化にともなう補修資材の不足は、価格の上下動にとどまらず、流通網や在庫管理、取引の仕組みそのものに変化を迫っている。車を修理し価値を保つアフターマーケットにおいて、シンナーやエンジンオイルといった基礎資材が届かない状況は、移動の基盤を維持する力そのものを改めて問う問題となっている。

【画像】「えぇぇぇぇ!」 これが衝撃の「調査結果」です!(計6枚)

 現場の経営を左右するのは、技術や立地よりも、必要な物資が確実に手に入るかどうかという一点に集約される。プロトリオス(大阪市)が全国594事業者(鈑金塗装477、自動車整備77、車販21、部品用品販売8 ほか)を対象に行った調査では、シンナーを扱う事業所の88.7%が欠品や入荷未定、あるいは納期遅延の状況にあると回答した。価格面でも、回答したすべての事業者が150%以上の上昇を経験しており、そのうち32.0%は170%以上の値上がりという厳しい状況に直面している。

 物が入らず、価格だけが上がるという二重の制約は、これまでの事業の仕組みが外部環境の変化に対して弱かったことを示している。安定して資材を確保できる流通経路を持つかどうかが、企業の存続に直結する重要な要素として浮かび上がっている。

 供給不安の背景には、中東情勢の緊張を起点としたナフサ由来資材の不安定化がある。補修資材の多くは石油化学の工程と深く結びついており、上流の原料市場で起きた変動が、末端の現場におけるシンナー一缶の価格や流通量へと大きく影響している。

 メーカー側も2021年以降、繰り返し価格改定で対応してきたが、2026年時点では値上げだけでは追いつかず、物そのものが手に入らない局面に入っている。価格による需給の調整は十分に働かず、どの取引先に資材を回すかという配分の判断が前面に出ている。過去の取引実績や契約関係が供給の優先度を左右する状況が強まっている。さらに、製造コストの上昇を背景にメーカーが採算の合わない製品を絞り込む動きも、現場の選択肢を狭める要因となっている。

在庫量で決まる経営の持続時間

中東発、供給網を襲う資材危機, 在庫量で決まる経営の持続時間, 制度の遅れが生む不条理な負担, 孤立した現場と次代への移行策

中東情勢にともなう資材の価格高騰・供給不足に関する実態調査(画像:BSRweb、プロトリオス)

 調査から見えるのは、在庫量が経営の続く時間をそのまま左右している厳しい現実である。シンナーと塗料では、現在の在庫だけで事業を続けられる期間が2か月未満と答えた事業所が全体の約8割に達している。供給が完全に止まった場合には、65.5%の事業者が3か月以内に事業の継続が難しくなると答えた。

 これまでの効率重視のやり方では在庫を減らすことが正しいとされてきたが、その前提が外部の不安定さの前で弱点として表れている。手元の資材が切れれば、熟練した作業者がいても作業は止まる。固定費の支払いは続くため、在庫が尽きることは資金の回りをすぐに悪くする。経営者は在庫を費用として減らす対象ではなく、事業を続けるための備えとして見直す必要がある。事業を保てる時間は、手元にある資材の量でそのまま決まっている。

 一方で、資材不足の影響はすべての現場に同じようには及んでいない。納期と売上の両方に影響が出ている事業所は30.5%、納期だけに支障があるところは26.1%にのぼる一方で、43.4%は影響なしと答えている。同じ状況下でも差が生まれる背景には、事業の形や日々の対応力の違いがある。

 とくに目立つのは、シンナー価格が全体として150%以上上昇するなかで、以前から水性塗料へ切り替えていた事業者の存在である。溶剤への依存を減らしていたことで、影響を比較的抑えることができている。また、早い段階で資材を多めに確保できた事業者と、日々の調達に追われる事業者の間で差がはっきりしている。これまで重視されてきたのは技術や価格だったが、いまは外部からの変化に対応できる調達の仕組みや作業の土台を持っているかどうかが、事業の力を左右している。

制度の遅れが生む不条理な負担

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中東情勢にともなう資材の価格高騰・供給不足に関する実態調査(画像:BSRweb、プロトリオス)

 供給網の混乱は、特定の企業だけでなく業界全体にばらついたコスト負担を生んでいる。

 板金・塗装事業者は材料費の上昇を直接受ける立場にあるが、その上がり分をサービス価格へそのまま反映することは難しい。資材価格が150%から170%を超える水準まで上がるなかで、自由記述で最も多かった45件の回答が価格転嫁の難しさであり、現場の利益が大きく削られている実態が確認できる。

 背景には、損害保険の支払い基準となる修理指数の見直しが、物価の上昇に追いついていない事情がある。事業者は古い基準と現実の高いコストの間に置かれ、結果として保険制度の負担を肩代わりする形になっている。

 一方で、メーカーは複数回の価格改定によって自社のコストを下流へ移してきた。流通段階では在庫の偏りが解消されず、消費者側も修理の長期化という不利益を受けている。こうしたコストの連なりは、立場や交渉力の違いによって不均一に進んでいる。

 資材ごとに不足の深さや影響には差がある。もっとも厳しいのはシンナーで、入手困難と納期遅れを合わせると取扱事業所の88.7%に達する。エンジンオイルも86.9%と高い割合だが、仕入れ価格の上昇幅は約8割が130%未満にとどまり、変動は比較的緩やかである。パーツクリーナーも75.6%で支障が出ており、補修作業に必要な副資材全体で供給の停滞が見られる。

 この差は代替のしやすさにある。溶剤を使う塗装ではシンナーは代わりがなく、在庫が切れれば作業は止まる。これに対してエンジンオイルは流通経路が複数あり、交換時期の調整などで一時的な対応が可能な場合もある。塗料も約7割で制限がある一方、27.1%は通常通り入手できている。ただし白系やクリヤーなど特定の品目に不足が集中しており、50.5%の事業所は希望通りの量を確保できず、小分けの発注や数量調整で現場を回しているのが実情である。

孤立した現場と次代への移行策

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中東情勢にともなう資材の価格高騰・供給不足に関する実態調査(画像:BSRweb、プロトリオス)

 業界全体で不足を補い合う仕組みが整っていないことも、経営上の負担となっている。近隣の事業者と資材をやり取りする協力体制があると答えた事業所は4.9%にとどまり、現場が分断された状況が見て取れる。

 一方で、今後取り組みたい、または相談中とする回答は合わせて69.0%に達しており、横のつながりへの関心は高い。ただし現状では仕組みとしての融通の枠組みがなく、各事業者が自ら資材を探す必要がある。

 緊急時には自社の在庫確保を優先する動きが強まりやすい。組織的な協力の仕組みがないことで、資材確保にかかる手間や高値での緊急購入といった追加の負担が続いている。気持ちのつながりだけではなく、物資を効率よく回すための具体的な仕組みを作れるかどうかが、業界全体の持ちこたえる力を左右する。

 今後の展開は複数の要素が重なって変わっていく。第一に、中東情勢に左右される原料市場の動き。第二に、代わりの素材や水性塗料への切り替えの速さである。シンナー価格が大きく上がるなかで、設備投資は環境対応だけでなく、事業を続けるための備えとしての意味合いを強めている。第三に、コスト上昇を価格へ反映させる契約の仕組みや保険制度、さらに公的支援の有無といった政策面の動きがある。

 リスクが長く続けば、在庫の持ち方や仕入れ先の違いが、そのまま企業間の差として固定されていく。個別の現場対応にとどまらず、業界全体としてどれだけ早く仕組みや技術の移行を進められるかが、今後の行方を左右するだろう。