孫正義がソフトバンクG「10兆円出資」で入れ込むカリスマ経営者の実名

孫正義氏が入れ込む経営者は、時代の流れで変化している。今は誰? Photo:YOSHIKAZU TSUNO/gettyimages
ソフトバンクグループの戦略に関して、主要投資家から「孫正義氏がある人物に傾倒し過ぎている」との懸念もある。その人物とは、ChatGPTを開発した米オープンAIの創業者のひとりであるアルトマンCEOのことだ。同社に10兆円を出資している孫氏は、特定企業に懸けるリスクを十分に理解しているのだろうか?孫氏が、アルトマン氏にオープンAIの新規株式公開の早期実現を求めた狙いとは……。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
孫正義が10兆円を出資する
米オープンAIのIPOが前倒しか
ソフトバンクグループ(SBG)の株価が上昇している。背景には、米オープンAIの新規株式公開(IPO)報道がある。オープンAIのIPOは、想定より早いタイミングで行われるもようだ。今の状況が続けば、SBGは多額の投資収益を得る可能性が高いだろう。
つまりオープンAIのIPOの結果次第で、SBGの資金繰りや業績に大きな影響を与えることになる。SBGを率いる孫正義氏は、オープンAIの共同創業者のひとりである、サム・アルトマンCEOと信頼関係が深いことで知られる。孫氏は、自社の命運を懸けたといっても過言ではないとの指摘もある。
SBGは、予定分を含め646億ドル(1ドル=159円で約10兆円)をオープンAIに出資し、11~13%程度の持ち分があるとみられている。現時点でSBGは、オープンAIの最大の出資者だ。出資のためにSBGは借り入れを増やしてもいて、3月には追加出資の資金調達に、日米の金融機関から400億ドル(約6.4兆円)を借り入れた。
中長期的に見て、AIの成長期待が高いことは確かだ。ただし足元で、AIの開発競争が猛スピードで激化している。今後もSBGが当該分野での利益を増やすために、オープンAIのIPOが非常に重要なイベントであることは間違いない。
なぜ孫氏はそれほどアルトマン氏に入れ込むのか。そこに死角はないのか? これまでの経緯を振り返りながら孫氏が巨額投資をする真の狙いを、ひもといていこう。
純利益5兆円で絶好調のSBG
半導体アームやPayPayも寄与
現在、世界的に株式市場が堅調なこともあり、ソフトバンクグループの業績が良好だ。2025年度決算業績は、純利益が前期比4.3倍の5兆円となった。業績拡大を牽引した主な要因が、オープンAIの企業価値の増幅だ。
同社の投資ポートフォリオに占めるオープンAIの割合は、25年3月末に約2%だったのが、26年3月には約25%に急増している。その他、半導体設計会社の英アームや、PayPayが米国市場に上場したことなども業績拡大に寄与した。
孫氏は、アルトマン氏が今後も、世界のAI革命のリーダーになると見込んでいるようだ。これまでの投資でも孫氏は、出資先トップとの関係を重視してきた。
例えば孫氏は2000年に、中国アリババグループの創業者であるジャックマー氏と会って数分で出資を決めたという逸話がある。アリババ株の価値の増加が、その後のSBGの成長を支えた。最終的にはSBGは、アリババ株を売却して新たな投資先に乗り移った。
22年11月、アルトマン氏はChatGPTを公表し、AIの世紀の到来を高らかに宣言した。孫氏は、世界の主要な投資家の中でも、いち早くアルトマン氏の才覚を見抜いていた。24年9月からSBGはオープンAIに出資を始め、その後も投資を積み増した。
25年1月、SBGはオープンAIやオラクル、中東の投資ファンドと連携して「スターゲート計画」を発表。その時点で、投資額は4年間で5000億ドル(約80兆円)に上っていた。SBGはオープンAIと共同で、企業向けにAIサービスを供給する新会社(クリスタル・インテリジェンス)も設立。また、スイスの重電企業ABBからロボティクス事業を取得してもいる。
孫氏は、アルトマン氏による大規模言語モデル(LLM)の次の展開にも期待しているのだろう。恐らく、次の展開は、汎用型のAI開発とみられている。さらに、人類の知性を超越するといわれる、ASI(人工超知能)の開発もオープンAIがリードすると考えているようだ。
米国でSBGは、ローズというAIロボット事業関連の企業を設立し、年内のIPOを目指しているもようだ。いずれも、オープンAIの推論モデルとの結合が念頭にあるだろう。オープンAIへの出資により利益を取り込み、それを原資にして、ソフトとハードの両面でAI関連の需要を同時に取り込む。それが、孫氏が巨額投資をする真の狙いだろう。

信頼関係が厚い様子を見せる孫正義氏とサム・アルトマン氏 Photo:YOSHIKAZU TSUNO/gettyimages
イーロン・マスクに勝利したのも契機?
日経平均株価も押し上げるIPOの時期とは
SBGの事業戦略に関して、主要投資家の間では、「孫氏がアルトマン氏に傾倒し過ぎている」との懸念もある。一部報道によると、SBG内部にも、「オープンAIの競争力が低下した場合のリスクを懸念する」といった見方もあるようだ。
孫氏は、特定企業に懸けるリスクを十分に理解しているのだろうか? SBGがこれまでに投じた約10兆円(予定分含む)の出資を成功させるには、可能な限り高値でのIPOを実現することが重要だ。孫氏が、アルトマン氏にIPOの早期実現を求めた可能性は高いと考えられる。
市場参加者の間では、オープンAIのIPOは世界の株式市場の一大イベントになると注目を集めるだろう。投資家予想では、IPOは早くて27年以降との見立てが多かった。が、株式市場が堅調なうちに前倒しする可能性はある。
オープンAIは元々、非営利団体として発足したので株式を発行できなかった。オープンAIの収益が、マイクロソフトに流れる契約になっており、他の株主の利益が見込みにくいことも課題だった。SBGはオープンAIとともに、それらの課題を解消してきた。
そうした点を踏まえても、孫氏がアルトマン氏に早期IPOを求めている可能性は高い。未上場株を保有する投資家にとって、利益を極大化するために、可能な限り高値で株式を公開することが大切だ。
足元、世界的に株価は高い。一方で、上昇ペースがあまりに急なので、「AI関連銘柄は割高だ」といった指摘も出始めている。SBGが、こうした指摘を懸念しているであろうことは想像に難くない。
オープンAIとしても、早期のIPOを重視する動機はありそうだ。そのひとつが、電気自動車のテスラやSNSのXなどを率いるイーロン・マスク氏との訴訟だ。5月中旬、オープンAIはマスク氏に勝利した。この時期を逃さずにIPOを実現したいとの思惑はあるかもしれない。
米国でオープンAIのIPOが報じられた後、SBGの株価は急伸した。日経平均株価をも押し上げた。いずれも投資家の想定以上のスピードで、オープンAIがIPO準備を進めていることが確認できる変化だった。
オープンAI目標の時価総額は159兆円
SBGが巨額の利得を手にする可能性は?
株式市場が足元の堅調さを維持した場合、SBGはIPOで巨額の利得を手にする可能性は高い。現在、オープンAIの企業価値は8520億ドル(約135兆円)といわれている。
SBGの出資比率と、出資済みの金額(646億ドルと仮定)で計算すると、現在の投資収益率(利得)は71%〈(8,520億ドル×13%)÷646億ドル-1〉であり、投資収益率は十分高いといえる。
報道によると、5月下旬にもオープンAIはIPO計画を非公開に規制当局に申請し、最短で9月の上場を目指している。目標の時価総額は、1兆ドル(約159兆円)とのこと。その場合のSBGの投資収益率は101%(約2倍)に上る。
もっと強気に、IPO時点でオープンAIの時価総額が1.75兆ドル(約278兆円)に達すると予想するアナリストすらいる。その場合、SBGは同252%(約3.5倍)にも上るだろう。
オープンAIのIPOが成功することは、SBGの手元の資金(流動性)の確保に重要だ。というのも27年3月に、SBGは400億ドル(約6.4兆円)の資金返済の期日を迎える予定だ。これは、オープンAIへの出資に借り入れた資金である。
一方、IPOで期待ほどの利得を得られないと、投資家はSBGの資金繰りへの懸念を高めるだろう。同社の財務内容の悪化につながり、英アームなど他の資産の売却を余儀なくされるリスクが増すからだ。
オープンAIのIPOは、SBGに資金を融資した日米金融機関の業績、社債を購入した投資家の収益にも無視できない影響を与えるだろう。SBGの株主にとっても同様だ。
SBGがオープンAIのIPOで多額の収益を得ることができれば、スターゲート計画の成功に向けて、関連各社へのさらなる出資も議題となる。AI関連業界にとっても、SBGにとっても、最も重要なイベントになることは間違いない。

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