個人向け国債は円安対策の切り札になるか、家計の現預金1100兆円を国内に引き留める「一石三鳥」の妙案

注目高まる個人向け国債, 国債利回りを20%程度引き上げる案も, 現預金の国内循環は「家計の円売り」に対する正攻法, 個人向け国債の魅力向上は一石三鳥の妙手

「金利のある世界」に回帰する中、個人向け国債に注目が集まっている(写真:つのだよしお/アフロ)

注目高まる個人向け国債

 自民党の資産運用立国議員連盟が4月下旬にまとめた提言案で「個人の多様なニーズに応えるため、国債の魅力を向上させていくことも重要」と明記されたことを踏まえ、個人向け国債の商品性見直しや新商品設計の在り方などが注目されている。

 金利上昇が不安視される中、国債の消化構造に創意工夫を凝らす試みは重要である。実際、国債の外国人保有比率が高まっており(図表①)、国家財政の金利上昇への耐性を高めるため、安定的な投資家層(≒国内投資家)を増やしたいという趣旨は理解できる。

【図表①】

 同時に、家計部門の投資原資を国内資産に引き込むことは結果的に「家計の円売り」を抑止することにもつながる可能性があるため、構造的な「円安対策」としての側面があるように思える。「金利の安定」と「為替の安定」に資する提案として注目したい。

 まず、現時点の商品設計を確認しておこう。

 現状でも個人向け国債は存在しており、その商品設計は個人投資家に有利な建て付けであることが知られている。例えば、変動10年物個人向け国債の場合、適用金利は半年ごとに実勢に合わせて見直され、金利上昇時は適用金利が上昇する。ただ、金利上昇時も元本(債券価格)は下落しないため、売却時の元本は保証されている。

 この「政府が必ず元本で買い戻す」という部分が要諦であり、途中売却でも1年の拘束期間が経過した後ならば、元本で買い取ってもらえる。さらに、金利の下限は0.05%に設定され、マイナス金利にはならない。

 要するに、「金利上昇時のメリットは確保した上で、元本割れの心配は不要」という投資家が極めて優遇されている商品設計である。これは理論的には「個人投資家が国に対して、元本を行使価格とするプット・オプション」を保有している状態である。

 この点については販売時の初回適用利率は「基準金利×0.66」であるため、投資家が34%分のプレミアムを払っている構図になる。

 個人向け国債の元本が毀損した場合、(それが誤解であっても)財政破綻やデフォルトなどの刺激的なフレーズと共に要らぬ懸念が社会的に広がる可能性があるため、このような保守的な商品設計はやむを得ない部分もあろう。

 その上で、どういった改革が行われそうなのか。

国債利回りを20%程度引き上げる案も

 既に、国内保有者の拡大を企図した制度改革は始まっており、2027年1月発行分(2026年12月募集分)からは「個人向け国債プラス」の名称で非営利法人や団体といった大口投資家を見込んだ商品が販売されることになっている。

 これまで自然人(個人)しか購入できなかったところ、マンション管理組合や学校法人などが買い手として想定される。とりわけ将来の修繕積立金不足が問題視される全国のマンション管理組合において、保有資金の実質価値目減りをヘッジする手段としての活用などが期待されている。

 安定的な国内の投資家層を確保するという初期の目的にも沿う動きとして注目したいものだ。

 今回の議連提案を踏まえ、例えば「利回りの引き上げ」が検討される可能性は伝えられている。

 5月12日の日本経済新聞では議連幹部のコメントとして、「国債の利回りを20%程度上げることも一案」との見解が紹介されていた。販売される国債の利回りを引き上げるとすれば、最もシンプルな方法は20年や30年などの超長期債をラインナップに加えることだろうか。

 周知の通り、超長期市場では海外投資家の影響力が注目されやすく、高めの利払いが海外向けに行われている状況がある。そうであればこそ海外投資家に対抗する個人投資家の資金を取り込みたいという意図は理解できる。そのほか物価連動債の個人向け販売なども、インフレの常態化を見越した上で検討される可能性はあるだろうか。

 なお、日本経済新聞の上記記事では「解約規制緩和」の可能性にも言及があった。上述の通り、現在でも中途解約は「1年間」の拘束期間を経て元本保証されるわけだが、これを「半年」に短縮するといった策などは想像がつく。

 もっとも、現時点でも有事(大規模災害発生時など)における解約が認められる措置は存在しているため、その必要性に関しては議論の余地もありそうではある。

 現状、中途解約の元本償還は「直近2回分(1年分)の利子返還」という手数料がかかっているため、これを1回分(半年分)にすることで投資妙味を高めるといった案も取りざたされる。

 いずれにせよ個人投資家が安心して手を出しやすい(投資妙味のある)設計が検討されそうである。

 商品設計については専門の諸賢による分析に委ねるとして、日本経済全体、とりわけ為替市場の観点からは、個人向け国債販売の促進は大きな意味を感じる。

現預金の国内循環は「家計の円売り」に対する正攻法

 周知の通り、2024年1月の新NISA稼働後、家計部門(個人)による海外有価証券への投資と円安相場の因果関係が注目されてきた。投資信託委託会社経由の対外証券投資は新NISAが始まった2024年で約11.5兆円、翌2025年も約9兆円と非常に大きな規模で続いている(図表②)。

 少なくとも、それが主因ではないとしても円安相場の一因であったことは誰も否定できない。

【図表②】

 過去4年間を振り返っても、円安抑止との視点から新NISAにおいて国内投資を優遇すべきという議論は断続的に見られ、国会でもそのような討論が展開されたこともあった。今回、その是非を議論するつもりはないが、国際分散投資を促すという視点からは国内資産に直結するようなファストパスを用意するのは健全な対応とは言えない。

 一方、自国通貨の防衛に際し、「手段を選ぶ余裕がない」というほど追い込まれている状況に至った場合、その限りではないというのも事実だろう。主目的として「円建て資産を優遇する」のではなく、「通貨を防衛しなくてはならない」という事態を想定するかどうか、である。これは別の機会に議論したい。

 これに対し、個人向け国債の商品設計を魅力的なものに仕上げ、依然1100兆円以上も存在する円の現預金を海外へ流出させるのではなく、国内で循環させようというアプローチは正攻法である。

 上述したような商品設計の変更は、すべからく「国家のコスト(利払い費)の増加」を意味するが、日本経済全体で見れば、「投資家(個人)の利益が増える分、発行体(国)の損失が増える」というゼロサムゲームだ。

 上記の日本経済新聞記事の中では、国債の海外保有比率について「10%以下が望ましい」という政権幹部のコメントが紹介されているが、2025年12月末時点では短期国債含むベースで12.8%まで海外保有比率が高まっている(前掲図①)。

 投資意欲のある海外投資家を制限するわけにはいかない以上、海外保有比率を下げるには国内投資家を増やすしかない。国内の経済主体間(政府と家計)でコストを転嫁し合うことで、国債の国内消化比率を引き上げられると考えれば、相応に賢明な一手ではないだろうか。

 その上、家計の投資原資は限られているのだから、国債に傾斜させた分は海外有価証券投資に伴う「家計の円売り」は抑えられる。

個人向け国債の魅力向上は一石三鳥の妙手

 NISA貧乏というフレーズが出てくるほど、投資原資が枯渇していると言われる日本経済において、新規投資マネーを引きつける難易度は高い。しかし、基本的には現預金の代替である国債ならば、これまで投資を躊躇していた層(投資初心者や高齢者など)から相応の資金を引きつけ、結果的に「家計の円売り」を抑制できる余地があるのではないか。

 個人向け国債の魅力向上は、決して打ち手が多くない日本にとって「新しい安全資産の提供」「国債消化構造(金利)の安定化」「為替の安定化」という意味で一石三鳥の妙案になり得る策ではないだろうか。

 最大の問題は「果たして売れるのか」だが、勝算はあるように思える。政府・与党肝煎りの商品設計で目を引くような高利回り、これに着目するヘッドラインがあれば大きな関心を引く可能性がある。オルカンやGAFAMへの投資を持ち出すまでもなく、日本人は「皆がやっている」ことになびきやすい。

 不安な点を挙げるとすれば、個人向け国債は新NISAの枠外で勝負しなければならないため、非課税枠の部分でNISA対象商品には劣後する。この点、余裕資金の獲得競争という面では不利に働くだろう。

 NISAは租税特別措置法において「家計の資金を成長資金(リスクマネー)として企業等に供給し、経済成長を促すこと」を主目的として設計されている。そのため、対象商品は上場株式や株式投資信託などに限定され、国債や社債などの「元本が保証された個別債券」は基本的に想定されていない。

 NISAで国債を購入可能にするためには「リスクマネー供給」というNISAの制度設計理念から変える必要があるため、筋論としては難しいと想像する。なお、上述した「国債の利回りを20%程度上げることも一案」という議連幹部のコメントはNISAで提供される非課税部分(およそ20%)を意識した発言とも報じられている。

 根本的な話として、これまで家計部門の国債保有が進んでこなかった背景は「そもそも金利が付かない国債を持つ意味がない」という日本特有の事情があった。今や「金利のある世界」へ回帰しようとしている中、これまでの状況に変化が生じるのは必然であろう。この点は、日銀資金循環統計の動きなどに照らしながら、別途、次回以降の本欄で議論したいと思う。

※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2026年5日27日時点の分析です

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中

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