「がんになってもいいから解放されたい」頼みは団信 50歳で住宅ローン残債4千万円、完済は80代…50代が抱える深い不安

住宅ローン返済中の50代で、完済予定年齢が80代──。広がる“住宅ローン不安”の実態と、借金との向き合い方を探った。AERA 2026年6月1日号より。
* * *
「5年前に一軒家を購入したときと対照的に、最近は不安でいっぱいです。今年で51歳になるのに、残債は1800万円以上。住宅ローンの完済予定年齢が81歳だと話すと、友人からも『正気か!?』と驚かれます」
こう話すのは、20年以上連れ添う事実婚のパートナーと都内で暮らすAさん(会社員、53)だ。
自宅を購入したのは46歳のとき。4千万円で売りに出されていた敷地面積12坪の小さな建売住宅を値切りに値切って3600万円で手に入れた。当時、業務委託で働いていたAさんは、ローンの審査が通りやすくなるようにと、600万円もの頭金を入れて返済期間35年の住宅ローンを組んだという。以来、コツコツと返済を続けてきたが、じわじわと上がる金利に不安を感じ始めた。
■格安スーパーをハシゴ
「当初の借入金利は0.95%でしたが、昨年、借入先の銀行から適用金利が1.3%になったという通知が届きました。『5年ルール』で、今のところ月々の返済額は変わっていませんが、このままだと“6年目”に入る来年から返済額が上がるのは間違いないでしょう。インフレが進み、ガソリン価格が急騰するなかで、いつまで今の生活を維持できるのか不安で仕方がない。最近は休日のたびに妻と格安スーパーをハシゴしています」
5年ルールとは、元利均等・変動金利型の住宅ローンにおいて、金利が上がっても5年間は返済額を据え置く仕組みだ。ただし、適用金利はその間も変わるため、金利上昇局面では返済額に占める元本分が減る一方で、利息分が増える傾向にある。その減った元本返済分をカバーするために、6年目からグッと返済額が増える可能性があるのだ。
実は、Aさんの月々の返済額は7万5千円と決して大きなものではない。給与に占めるローン返済額の割合は15%程度だ。仮に来年から返済額が増えても「20%を超えることはないだろう」と話す。だが、Aさんにはほかにも避けられない出費がある。
「一戸建てを買ったのは、趣味のクルマとバイクのためなんです。ただ、ここ数年でその維持費がどんどん上がっている。ガソリン代に整備費、保険代、車検代、税金の負担をひと月にならすと、クルマの分が5万円、バイクが2万円になります。来年から住宅ローンの返済負担が上がり、趣味や生活にかかる出費が増え続けたら、最悪、家を手放すほかないかもしれない……」
今、こうした50代の“住宅ローン不安”が広がりつつある。住宅ローン比較・診断サービス「モゲチェック」を提供するMFSの塩澤崇取締役CMOは「晩婚化の影響でマイホームの購入年齢が上がるのと並行して、都心部を中心に不動産価格が上がり続けている影響」と話す。

東京カンテイによると、2026年3月の首都圏の新築小規模一戸建ての平均価格は、10年前の約1.5倍にもなる5891万円。不動産価格が上がり続けているため、35年以上の長期ローンを組むのが一般化し、70代、果ては80代までローンの返済を続ける人が増えているのだ。
■1.5%まで引き上げ
加えて、24年から本格化した金利上昇が、住宅ローン利用者を悩ませるようになった。変動金利型の住宅ローン金利に影響を及ぼす政策金利は2年足らずで0.75%幅上昇している。塩澤氏は「今後さらなる利上げは必至。27年にかけて1.5%まで引き上げられるだろう」と話す。モゲチェックが今年3月に実施した調査によると、住宅ローン利用者も利息負担の増大を覚悟している。約7割の人が「最終的に変動金利が2%以上になる」と予想していることがわかったのだ。
すでに返済負担が増大しすぎて生活に支障をきたす人も現れている。48歳で築40年の中古マンションを4600万円で購入したBさん(Webデザイナー、50)は次のように話す。
「私は5年ルールがついていない借入プランだったようで、ここ2年で月々の返済額が2万円以上も増えています。当初の適用金利は1.2%だったのですが、今では1.8%にまで上昇している。32年ローンなので完済予定年齢は80歳ですが、すでに完済は半ばあきらめています。50歳で残債が4千万円近くあるのに、AIの浸透でWebデザインの仕事は先細りが予想されているので。収入が減っていく可能性が高いのに、物価も金利も上昇し続けているんですから、この先ずっと返済を続けられるはずがない」
フリーランスで活躍するBさんの毎月のキャッシュフローはすでに赤字だ。iDeCo(個人型確定拠出年金)に毎月6万8千円、新NISAで毎月8万円の積立投資を続けている影響もあるが、仕事で使うPCやカメラ、クルマのローンの返済も重くのしかかる。
■取り崩して生活費に
「昨年はインフレの影響で月々のマンションの管理費が2千円、修繕積立金が5千円引き上げられた。わずかな引き上げ額だと思うでしょうが、今後30年間これが続くんです。それも、さらに引き上げられる可能性だってある。子どもがいないので、夫婦2人でつつましく過ごせばやっていけないことはないが、今はNISAで増やした資産を取り崩して生活費に充てている状態です。契約する住宅ローンにはがん団信(がん保障特約付き団体信用生命保険)をつけてあるので、『がんになればいいのに』とまで考えるように。体を壊してもいいから返済負担から解放されたい」

金融経済教育推進機構が毎年行う「家計の金融行動に関する世論調査」の2025年版によると、50代の2人以上世帯が有する住宅ローン残高は平均1117万円で、中央値は1千万円。60代になると平均697万円、中央値で300万円と、ガクッと減る。退職金で繰り上げ返済する人が多いためだ。
この統計データと比較すれば、AさんとBさんの残債の多さは際立つ。完済予定年齢が80歳を超えることに不安を覚えるのもわかる。
だが、モゲチェックの塩澤氏は「考え方次第」と話す。
「80歳まで借金が残っていることは、『80歳まで返済が猶予されている』と考え直すこともできる。当然、長く借りるほど月々の返済負担は軽くなり、キャッシュフローが安定するので、80歳まで返済が続くことは決して不利なことではないのです。むしろ、有利に働く可能性もあると考えています。なぜなら、55歳前後から指数関数的にがんの罹患率が高まっていくためです」
がん団信つきの住宅ローン利用者であれば、所定のがんと診断された際にその後の住宅ローンの返済が免除される。
■実質的な負担は減る
「日本人の2人に1人はがんに罹患すると言われていますが、早期発見技術の進歩でがんの寛解率は向上し続けています。借金をチャラにしたうえでがんを克服して、健康的な老後を過ごすプランも十分に考えられる」(塩澤氏)
そのため、残債の多寡や完済時期よりも重要なのは、月々のキャッシュフローを安定させることだという。
「統計的には、資産運用は住宅ローン金利以上の利回りを期待できます。月々の収入から住宅ローン返済などの支出を除いた黒字の分を投資に回すのも一案です。実際、私も住宅ローンの完済予定年齢は80歳なのですが、繰り上げ返済はせず、月々の黒字分のほぼすべてをS&P500指数に連動するETFにつぎ込んでいます。仮に60歳時点で住宅ローン残高が2千万円あっても、家計の純資産がプラスになっていれば、定年後も大きな不安はありません」(同)
インフレ下では保有する物件の価値が上がるため、借金の実質的な負担は減る傾向にある。月々のキャッシュフローが赤字になるような返済負担でなければ、多額の住宅ローンが残っていても問題はないというのが塩澤氏の見方だ。
定年退職後には収入の減少が見込まれるが、今や70代前半の就業率が3割を超える時代だ。健康維持に努めながら長く働き続ければ、キャッシュフローを安定させることも難しくないという。
50代で多額の借金を抱えることには不安がつきまとうが……それだけで悲観する必要はないのだ。
(ジャーナリスト・田茂井治)

※AERA 2026年6月1日号
・【もっと読む】完済80代は当たり前に 住宅ローン抱える50代“危ない人”と“慌てなくていい人”の分岐点 負担が跳ね上がる「2029年問題」とは
・【一目でわかる!】変動金利が上がったら返済額は? 返済額をシミュレーション
・アラフィフ世代、上の世代が享受できたものは夢の夢 「こんなはずじゃなかった」 それでも前を向く理由