おかしい、値上げしたのに客数が増えているだと…? 名古屋が誇る外食企業「ブロンコビリー」が貫く"ご馳走の哲学"

自動ドアをくぐった瞬間、炭の香りが鼻腔をくすぐる。目の前にはオープンキッチンが広がり、大きなグリルでは炎が上がり、煙が立ち昇っている。大量の肉が並ぶ焼き場の奥には、湯気を上げる大かまど。右手には、色とりどりの野菜や創作メニューが並ぶビュッフェコーナーで、多くの客が次々と料理を取り分けていた。席に案内される数秒の間に、この店が何を大切にしているかが、五感に刷り込まれてくる。

【画像】ステーキ、ハンバーグ、ブッフェ…どれもが絶品!「ブロンコビリー」のメニューの様子

掲げるのは「ご馳走カンパニー」の実現

株式会社ブロンコビリーは1978年、名古屋市で創業したステーキ・ハンバーグのレストランチェーンだ。年間1600万人以上が来店し、2025年12月末時点でグループ合計161店舗を展開する東証プライム上場企業でもある。

最大の特徴は全店直営という経営方針だ。自社工場で食材を一元管理し、炭焼きのステーキ、大かまどで炊いた魚沼産コシヒカリ、そして季節ごとに内容が変わるサラダバーを看板にしてきた。「食を通じて人を幸せにしたい」という経営理念のもと、長期ビジョンとして「ご馳走カンパニー」の実現を掲げている。

東海地区を地盤に関東・関西・九州へと拡大を続け、2025年4月には阪口信貴氏が新社長に就任した。創業家から外部人材への世代交代という新たな局面も迎えている。同社は2022年から2025年まで4期連続で増収を続けている。

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(画像:第44期2025年12月期 株主通信より)

土曜日の午後5時半、すぐに席へと案内された。店内を見渡すと座席は9割ほど埋まっていた。

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オープンキッチンの炭火グリル。入店直後から炎と煙が視界に飛び込んでくる(写真:筆者撮影)

目の前に広がる光景に圧倒された

開放的な厨房が、目の前いっぱいに広がる。焼き場では炎と煙が上がり、大量の肉が焼かれている。その奥には「最高においしいお米を、大かまどで炊き上げます!」という幟が厨房の上部に掲げられ、30分ほどかけて米を炊いている。着席すると、店内の大きなモニターにビュッフェや炭火焼きなどの映像が流れていることに気づいた。

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店内の厨房には大きな横断幕が掲げられ、米へのこだわりを視覚的に訴えかけている(写真:筆者撮影)

テーブルにはレインボーペッパーとピンクソルトのミル、魚沼産コシヒカリの小さな幟が置かれている。ステーキチェーンらしく、肉に合わせる塩と胡椒を卓上に据えるのは当然のことかもしれない。しかし「魚沼産コシヒカリ」の幟が米への矜持を静かに主張している。

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卓上でも、アプリや魚沼産コシヒカリへのこだわりが伝わってくる(写真:筆者撮影)

席は赤いボックスシートで、背もたれが高く、前後左右の席と目が合わない設計になっている。落ち着いた照明とあいまって、家族や仲間との会話が自然と弾む空間だった。

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背もたれの高いボックスシート。前後左右の席と目が合わない設計で、落ち着いた食事の時間が確保される(写真:筆者撮影)

一方で、店内が広いためスタッフへの声掛けはややしづらく、呼び出しボタンが欲しいと感じる場面もあった。

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注文を終えると5分以内に、ビュッフェ用の皿とスープ、マルドンの塩と和風ステーキソースが運ばれてきた。まずビュッフェコーナーへ向かう。先にスープをいただきながら、この先の食事への期待値が上がる(写真:筆者撮影)

2026年4月1日から「ブロンコビュッフェ」としてリニューアルされたコーナーは、常時渋滞が起きているほどの混雑だったが、スタッフが頻繁に補充と清掃を繰り返しており、にぎわいとして成立していた。

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ブロンコビュッフェのコーナー。トマト・レタスなどの生野菜から創作メニューまで多品目が並ぶ。果物やスイーツもある。少なくなったものは補充が頻度高くなされ、選ぶ楽しさを損なわない(写真:筆者撮影)

コーナーにはトマト・レタス・こだわり玉ねぎなどの生野菜、鶏白湯まぜそば風パスタやパクチーペーストのアジアンサラダといった創作メニュー、そしてディナータイム限定の炭火炙り焼き芋とジンジャー&カルダモンのカリーが並ぶ。

手間なく複数種類の野菜を選べることの贅沢さ、まずここで、「ご馳走カンパニー」が目指す方向性を体感する。

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あれもこれもと手をのばしていたら、皿にどんどん盛り付けてしまうので、1回目は控えめに盛りつけたつもり。トマトの瑞々しさにうっとりする(写真:筆者撮影)

一方で、「まったく別物になった」という劇的刷新というよりは、従来のサラダバーを土台に、滞在価値を積み上げる方向の改良に近い印象も受けた。

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カリーはジンジャーのピリリとした辛みとカルダモンの香りが立っており、思わず米を口に運びたくなる個性的な味わいだった(写真:筆者撮影)

スイーツやドリンクメニューも充実

炭火炙り焼き芋は、アレンジのすすめにあったミルクアイスと個人的に好みであるマンゴーアイスを添えて食べた。焼き芋の濃密な甘さに、アイスのひんやり感と甘みが重なる。あっという間に完食してしまった。

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炭火炙り焼き芋。店内で蒸してから仕上げに炭火で炙る。ミルクアイスとマンゴーアイスを添えて(写真:筆者撮影)

セットのプレミアムドリンクバー(330円)は黒烏龍茶・ざくろ黒酢・バタフライピー・プレミアムレモネード・白桃・ジャスミン茶など8種類のピッチャーが並ぶセルフスタイルだ。種類の多さは十分だが、ラインナップの好みは人によって分かれるかもしれない。

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プレミアムドリンクバー全景。ドリンクマシンとピッチャーが並ぶセルフスタイル(写真:筆者撮影)

メインは注文から約15分で届いた。「がんこハンバーグ&ミスジカットステーキ」(2508円)と「200g炭焼きがんこハンバーグ」(1232円)に、それぞれ魚沼産コシヒカリセット(946円)を付けた。

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ワゴンで運ばれてきた炭焼きがんこハンバーグ。目の前で仕上げてくれる時間が、食欲をさらに刺激する。炭火の焦げ目が表面についており、断面から肉汁がにじむ。高揚感が一気に増す(写真:筆者撮影)

がんこハンバーグはビーフ100%で、目の前で半分にカットして鉄板で仕上げる演出がある。ジュウッと音が立ち、香ばしい香りが立ち上った。口に運ぶと、しっかりとした肉の食感がある。噛むほどに肉の旨みが広がり、断面から肉汁がにじむ。

ミスジカットステーキは「1頭から約3kg」の希少部位で、断面はきれいなロゼ色だった。サシで押すタイプではなく、赤身にギュッと旨みが詰まっている。見た目はしっかりしているのに、口に運ぶと歯切れよく食べ進められる。「肉を食べている」という満足感が、一口ごとに積み重なっていく。次はミスジステーキをメインに存分に味わいたいと次の来店を自然と思い浮かべていた。

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がんこハンバーグ&ミスジカットステーキ(2508円)と魚沼産コシヒカリセット(946円)。お茶碗によそわれたご飯が同時に運ばれてくる。ハンバーグはぜひ、マルドンの塩でとおすすめしてくれる。肉の旨みが際立つので、個人的にこの塩がお気に入りだ(写真:筆者撮影)

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ミスジカットステーキの断面。1頭から約3kgしか取れない希少部位で、鮮やかなロゼ色が特徴。ステーキソースに負けない肉の旨みにひとくちひとくち幸せを感じる(写真:筆者撮影)

魚沼産コシヒカリはお茶碗で提供された。箸はビュッフェコーナーに置いてあり、必要な人が自分で取るスタイルだ。一粒一粒の存在感がはっきりしており、噛むと米の甘みと旨みが広がる。肉と交互に口に運んでも、米の存在感が消えない。ステーキチェーンに来て米の話をするのは奇妙に思えるかもしれないが、ブロンコビリーは肉と米が対等に主役を張る店だと感じた。大盛りにしなかったことを後悔した。

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魚沼産コシヒカリ。一粒一粒の存在感がはっきりしており、噛むと甘みと旨みが広がる(写真:筆者撮影)

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米を炊く大かまどでは、煙が立ち昇る。これもビュッフェを取りに行くたびに視界に入るので、ワクワクする(写真:筆者撮影)

帰り際、9組のウェイティングが発生していた。単身客は見当たらず、3名、5名、7名、9名といった複数人のグループが目立つ。「空腹を満たす場所」ではなく、「休日に家族や仲間で来る場所」として選ばれていることを、待合の光景が示していた。

コスト高が続く外食業界でなぜここまで収益が改善できるのか

取材に向かった動機は2つある。

ひとつは、2026年4月21日に開示された決算資料に注目すべき数字が並んでいたことだ。

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(画像:2026年12月期第1四半期決算参考資料 P.1「損益計算書解説」より抜粋)

2026年第1四半期の既存店客数は前年同期比+0.5%。営業利益は前年同期の5億3200万円から10億3100万円へ、+93.5%のほぼ2倍に拡大した。営業利益率は7.3%から12.5%へと改善し、値引率は9.8%から8.1%へと縮小した。

2025年4月と11月に価格改定を実施しながら既存店客数がプラスを維持し、値引依存度も下がった。コスト高が続く外食業界でなぜここまで収益が改善できるのか。この問いを確かめに行きたかった。

もうひとつは、取材直前に40年ぶりの大刷新が始まっていたことだ。

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もともとは、お肉のたんぱく質とともに野菜をたっぷり召し上がっていただき、不足しがちな栄養素を補いながら、健康で美しくあり続けてほしいという思いから生まれたという(画像:同社プレスリリースより)

1985年の誕生以来、ブロンコビリーの看板商品として親しまれてきた「新鮮サラダバー」が、2026年4月1日より「ブロンコビュッフェ」として全店でリニューアルされた。自社開発のオリジナルカリー、炭火炙り焼き芋など新要素を加え、「自分好みに仕立てる滞在価値」へとコンセプトを転換した刷新である。同社は「40年間守り続けてきた『新鮮サラダバー』という名称を変えることは当社にとって非常に大きな決断だった」と公式に記している。

値上げを進めながら客数を維持し、さらに40年ぶりの刷新まで進める。その現場を見届けなければと思った。なお、2025年4月と11月に一部メニューの価格改定を実施しており、同期間の既存店客単価は前年同期比+6.2%となっている。

価格改定成功の構造分析

なぜ価格を上げながら客数を維持できるのか。決算資料をもとに構造を読み解く。

鍵となるのが、同社が長期ビジョンとして掲げる「ご馳走カンパニー」という概念だ。「食を通じて人を幸せにしたい」という経営理念のもと、値引きで客を呼ぶのではなく、体験の質で選ばれる店をつくるという宣言である。

その具体的な表れが値引率の縮小だ。値引率は、クーポンやキャンペーンなどによる値引き施策の影響が表れる指標である。2025年1Qの9.8%から2026年1Qは8.1%へと1.7ポイント縮小した(余談だが、こうした販促値引きの水準まで継続的に開示している企業は限られる。名古屋企業ならではの細やかさといったところだろうか)

さらに2025年10月から12月にかけて実施した「140店舗突破 大感謝祭」の再来店効果が、2026年1月以降の客数を支えたと同社は決算短信本文で明記している。割引で一時的に集客するのではなく、体験を通じて再来店につなげる設計だ。

そして40年ぶりのビュッフェ刷新は、この構造の延長線上にある。

もともとブロンコビリーは、目の前で焼き上げる炭火ステーキや大かまどの米、季節ごとに変わるサラダバーを通じて、「楽しい食事空間」を作り続けてきた企業でもある。いまでこそ「体験型消費」という言葉は広く使われるが、同社はそうした言葉が浸透する以前から、単に空腹を満たすだけではない”外食の時間”を提供してきた。だからこそ、「新鮮サラダバー」を「ブロンコビュッフェ」へ刷新しても違和感がない。変わったのは消費者への伝え方であり、本質的な価値は変わっていない。

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(画像:2026年12月期第1四半期決算参考資料 P.2「既存店前年比」)

客単価+6.2%と客数+0.5%の同時達成は、「ご馳走」が単なるスローガンではなく、炭火のライブ感や大かまどの米、滞在しやすい席設計まで含めた店舗体験として機能していることを示している。帰り際に「次はミスジをメインにしよう」「今度は大盛りにしよう」と思わず次回を想像していた。それがこの店の強さだ。

この好業績に、死角はあるか

好調な第1四半期の裏に、見逃せない数字がある。

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(画像:2026年12月期第1四半期決算参考資料 P.4「業績予想」より抜粋)

下期の営業利益計画は15億7000万円で、前年同期比▲7.9%だ。原材料費の上昇を会社自身が織り込んでいる。1Qが大幅増益だったにもかかわらず、通期の業績予想は据え置きのままだ。

さらに2026年4月10日には食肉加工会社・朝日ミートの株式取得、子会社化を公表した。しかし決算短信には「当社グループ連結業績に与える影響は軽微と見込んでおりますが、業績見通しにつきましては、現在精査中であります」とある。

「ご馳走体験」を維持しながら拡大路線を続けられるか。下期の原価率がどう動くか、そして朝日ミートとのシナジーをどう描くか。2026年下期が、ブロンコビリーにとっての次の試金石となる。

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