声優の声は誰のもの? 生成AIで動き出すビジネスに山寺宏一さん「わくわくと危惧」 30カ国語に変換、伊藤忠などデータベース化、梶裕貴さんは新会社設立

「声の保護と多言語化協会」の記者会見に登壇した声優かないみかさん(中央)ら=2025年11月、東京都港区
人工知能(AI)の進化は、声優の仕事を広げるのか、それとも奪うのか。
生成AIで日本語の音声を外国語に変換したり、声の権利保護を目的にデータベースを立ち上げたりと、声優の声をビジネスに活用する取り組みが、ここに来て動き出している。AIの進歩に「わくわくすると同時に非常に危惧している」とベテラン声優の山寺宏一さんは語る。一方、人気声優の梶裕貴さんは音声AI事業などを手がける新会社を設立し、自ら社長に就いた。インターネット上で無断で合成された声が氾濫する中、声優たちの「声の権利」が改めて問われている。(共同通信=高坂真喜子)

声優のかないみかさん=2025年11月、東京都港区
▽同じ声質で外国語に
「あなた、さっきおなかがすいたって言っていたけど、一体何が食べたいの」
声優のかないみかさんが話した日本語のせりふが、かないさんに近い声質を残したまま、瞬時に英語や中国語、スペイン語、フランス語とさまざまな言語に変換されていった。
2025年11月、大手声優事務所などが発足させた一般社団法人「声の保護と多言語化協会」(VIDA)の設立記者会見での一コマだ。
可能にしたのはアメリカのAI関連企業「イレブンラボ」の音声生成技術だ。同じ声質のまま30以上の外国語に変換できるという。協会は日本アニメの海外展開を支援するため、作品の権利者と交渉しながら、音声変換を進めていく考えだ。
動画配信サービスの広がりとともに、日本のアニメは国外でも人気が高まっている。VIDAの久保雅一代表理事は「海外のイベントに行くと日本の声優も人気で、海外のファンは字幕版で見ている。(海外の声優の)吹き替えではなく、元の声を生かせれば、ファンがさらに増えるだろう」と語る。
AIで多言語に変換すれば、字幕を読みながら見るのが難しい子どもたちにも視聴を広げることができ、日本のアニメがまだ浸透していない南米、中東、アフリカといった地域への人気拡大にもつながるのではないかと期待している。

山寺宏一さん
▽複雑な胸の内
会見にビデオメッセージを寄せた人気声優の山寺宏一さんは「生成AIの進歩というのは、本当に目覚ましいものがあり、僕自身もわくわくすると同時に非常に危惧している」と複雑な胸の内を明かした。
海外の映画やアニメやドラマの吹き替えという山寺さんにとって「大好きな仕事」が、音声変換の技術が定着すれば、必要とされなくなるかもしれない。「AIを使って変換したものに負けないような演技をして、皆さんに支持してもらえるようにならないといけない」と危機感を口にした。
久保代表理事は「僕らとしては、アニメ、映画の吹き替えなどは本来人の声で録音すべきで、ゼロからAIが作るべきではないと考えている。若手の声優さんや、声優を目指す学生さんたちの育成の場を確保しなければならないからだ。AIによる仕事は、人の声ではなかなか難しいものや、声優の皆さんにとって新しい領域のチャレンジに限るべきだ」と強調した。
▽広がるビジネス
声を活用するビジネスは急速に広がっている。
伊藤忠商事と日本俳優連合(日俳連)などは2025年11月、声優らの公式音声データベース「JVOXPRO」を立ち上げると発表した。
声優や俳優の声を録音するなどしてデータベース化。AI音声サービス開発などで利用したい企業がその音声データを活用するという仕組みだ。カーナビの案内音声や、小さな字が見えづらい高齢者に病院で診療説明を読み上げるなどの活用を想定している。

声優の音声データベース活用の仕組み
NTT西日本も2025年10月、俳優や声優らの声を収録してAIで生成した音声に証明書を付与。その音声を使ってコンテンツを企画、制作するなどし、声優らにライセンス料を支払う事業「VOICENCE」を開始した。俳優の別所哲也さんや声優の花江夏樹さんらの音声AIを活用した音声CMや店内アナウンスといったコンテンツを制作した。
生成AIを活用した声のビジネスが広がる背景には、本人の許諾のないまま声優の声を生成AIに学習させ、無関係の曲を歌わせたり、せりふを言わせたりするインターネット動画が無数に投稿されている現状がある。

NTT西日本の新事業「ヴォイセンス」の発表会でポーズをとる俳優の別所哲也さん(右から3人目)ら=2025年10月、東京都渋谷区
山寺さんら声優たちが、「NOMORE無断生成AI」と呼びかける活動をするなど波紋が広がっていた。日俳連も、模倣した商品の販売を禁じる不正競争防止法に基づき、許可なく作られた音声の差し止めや損害賠償請求が可能かどうか検討している。
一方、現行の法律で声は著作物として認められていない。声優の声を生成AIに学習させ、似た音声を作ることが権利侵害に当たるのかの司法判断は出ていない。
そんな中、人気声優の津田健次郎さんが、TikTok(ティックトック)の運営会社を提訴していたことも判明した。投稿された動画が津田さんの声を模したナレーションを使い、パブリシティー権を侵害されたとして、動画の削除を求めている。
▽権利保護に国も本腰
エンターテインメント業界に詳しい東洋大の安藤和宏教授(知的財産法)は「民間が本物に“お墨付き”を与えるのは、無断利用の減少に一定の効果があるのでは。ただ限界があるため、法律の整備を進め、取り締まることも必要」と指摘している。
こうした事態を受け、国も「声の権利」の保護に向けた動きを始めた。今年4月、声の無断利用への法的対応を協議する法務省の有識者検討会の初会合が開かれ、声も肖像権やパブリシティー権などで保護されるべき「肖像」に含まれるとの認識で一致した。
声優の声など財産的価値が認められるものへの侵害に対しては、「肖像の無断使用」として民法上の不法行為に当たるとした判例を適用できるとの意見も出た。7月をめどに指針をまとめるとしている。

声の無断利用への法的対応を協議する法務省の有識者検討会の初会合=2026年4月、法務省
▽自分の芝居と言えるか
国や企業の動きに先行して新しい取り組みを始めた人気声優もいる。『進撃の巨人』のエレン・イェーガー役などで知られ、自身の声を元にした音声AIキャラクターで、音声合成ソフト化もされた「梵(そよぎ)そよぎ」を軸にしたプロジェクト「そよぎフラクタル」に取り組む声優の梶裕貴さんだ。
梶さんは今年4月、音声AI事業、声優マネジメント事業を手がける新会社「FRACTAL」を設立し、代表取締役社長CEOに就任。フジテレビから資金調達した。同社は「音声AI事業の成長を加速し、『AIと表現者の共創』による新たなクリエーティブの実現を目指してまいります」としている。
梶さんは、2025年11月のVIDAの会見にもビデオメッセージを寄せている。その中で、生成AIを活用した外国語への変換について「世界中で言葉の壁を越えて、日本の声優、文化、そして魅力を届ける機会になると期待している」としつつ、割り切れなさも口にしていた。
「1人の役者としては、果たして自分の芝居と言えるのだろうか、という複雑な思いもあることは事実です。とはいえ、こういったものが生まれた以上、いつか浸透するものだと思っているので、もし、無断生成、そして悪用されてしまう可能性があるのであれば、公式として自分で権利を持っていることが大事だと思う」

梶裕貴さん
▽それぞれが向き合い方を
声優は常に仕事があるわけではなく、多くが年収300万円以下とされる。不安定なフリーランスがほとんどだ。声優らの公式音声データベースを立ち上げた伊藤忠商事などは「(声優の)人格的・経済的権利が十分に守られていない」と指摘。データベースに登録した声とAIを活用して生成した音声を企業に利用してもらい、対価を得られる仕組みの構築を目指す。
梶さんが自身の会社を設立したのも、そうした動きにつながると言えそうだ。梶さんは「自分の権利を守るのは自分自身。利益がしっかりと分配されて、ビジネスとして成り立つのであれば、今現在、AIとの向き合い方に悩んでいる多くの声優の皆さんにとって、一つ前進する機会にもつながるんじゃないか」と指摘する。全員が参加する必要はないと前置きした上で、「それぞれが自分のAIとの向き合い方、取り組み方を考えて、自分で答えを出していくことが大事。これからますます人間とAI、声優とAIの共存、そこにすてきなものが広がっていくことを願っています」とコメントした。