ホンダ「N-BOX」のオーナーは次に何を買うのか? 統計モデルから見えた5つの購入シナリオ
2026年4月末、ホンダ「N-BOX」シリーズの国内累計販売台数が300万台を突破した。ホンダの4輪車として歴代最速の、14年4カ月での記録達成である。
この販売状況が示すように、街でN-BOXを見ない日はほとんどない。読者の身近にも、現在N-BOXに乗っている人、あるいは過去に乗っていた人がいるのではないだろうか。

現在、販売されているのは3世代目にあたる(写真:本田技研工業)
そんなN-BOXであるが、販売台数が多いということはそれだけ、そのオーナーたちが今後どのような購買行動(乗り換え先の選定)を取るのかが大きな意味合いを持つ。
今回はベイズ統計の考え方を応用した分類モデル「TAN(Tree-Augmented Naive Bayes、木構造拡張ナイーブベイズ)」を用い、N-BOXオーナーの属性ごとに「次の1台」の選択確率を予測してみた。
分析に使用するデータは、市場調査会社のインテージが毎月約70万人から回答を集める、自動車に関する調査「Car-kit®」である。
<分析対象車種/サンプル数/モデル>
・分析対象は新車購入者のみとする
・N-BOXには「カスタム」を含む。「JOY」は含まない
・予測モデルの学習データ:20年1月~26年4月の約15万件(全ボディタイプ・全メーカーの新車購入者)
・モデル1:「次も軽SHWを買う」vs「軽SHW以外を買う」正解率: 84.7%
・モデル2:「次もホンダ車を買う」vs「他社車を買う」正解率: 88.3%
※正解率は検証用データに対する分類精度
・ペルソナ設定のベースとなるN-BOX新車購入者:1万1342名
どうやって予測するのか? 予測モデルの仕組み
今回、用いたのは、TANと呼ばれるベイズ分類モデルである。過去の新車購入者データから、「どのような属性の人が、次にどのようなクルマを選んだか」という関係を学習し、新しい人物像に対して選択確率を推計するものだ。
確定的に「この人は次に必ずこのクルマを買う」と当てるものではない。あくまで、与えられた属性条件のもとで、どちらの選択が起こりやすいかを確率で示すモデルである。
構築した予測モデルは2つ。1つは「次も軽SHWを買うか」、2つ目は「次もホンダ車を買うか」である。
予測に使った変数は、前有車のボディタイプとメーカー、クルマ選びで重視すること、主な使用用途、子どもの有無、年代の5つで共通とした。

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正解率はいずれも80%を超えており、一定の予測力を持つモデルと言える。ただし、ここで示す確率は今回用いた変数に基づく推計値であり、個々の購入行動を断定するものではない。
モデル1:「次も軽SHWを買う」vs「軽SHW以外を買う」正解率:84.7% モデル2:「次もホンダ車を買う」vs「他社車を買う」正解率:88.3%
ここからが本題だ。実際のN-BOXオーナー、1万1342人の属性分布を基に、代表的な5つのペルソナを設定した。全員に共通するのは「ホンダのN-BOX(またはカスタム)を新車で購入した」という事実のみ。

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予測結果1:N-BOXから「卒業」する確率
まずモデル1の結果から見てみよう。「次も軽SHWを買うか」、それとも「軽SHW以外を買うか」の確率がこちらだ。

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5ペルソナ中、4人は「次もまた軽SHW」を選ぶ確率が圧倒的に高い。さすがは売れ筋セグメントである。
しかし、ペルソナC(アウトドア家族)だけは真逆で、軽SHW以外を買う確率は70.6%。この人物像だけは、N-BOX、ひいては軽SHWから離れる可能性が高い。「レジャー用途×ボディタイプ重視×子ども同居中」の3条件が重なっているのがポイントだ。
3条件それぞれを考察すると、次のようになる。
(1)レジャー用途
家族で遠出する。高速道路も乗る。パワーや室内空間の広さ、快適性などの面で、軽自動車では物足りなさを感じやすい。
(2)ボディタイプ重視
次は「どんな形のクルマにするか」を能動的に考えている。この「ボディタイプ重視」の意味であるが、これは「今のクルマのボディタイプに固執する」のではなく、「次のクルマを選ぶとき、ボディタイプを前提条件にして考える人」である。
つまりこの人たちは、「次はミニバンがいい」「SUVがいい」といった形で、ボディタイプそのものを選択条件として前提条件に置いている。
(3)子どもが同居中
2列目の快適性、荷室の広さへの要求が高い。
一方、ペルソナA(子育て中の女性)は「軽自動車であること」が最重要基準なので、そもそもミニバンやSUVは選択肢にほとんど入ってこない。
予測結果2:ホンダを買い続けるか? 他社に流出するか
前述のモデル1の結果より、軽SHWを買い続けるのかそうでないのか、ペルソナごとにグラデーションがあることがわかった。
N-BOXを売るホンダとして気になるのは、N-BOXオーナーが仮に軽SHW以外を次は買うとなった際に、ホンダを買い続けてくれるのか、それとも他メーカーに流れるのかであろう。
そこでモデル2、「次もホンダ車を買う」vs「他社車を買う」を見てみよう。

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まずペルソナE(自営業シニア)の「次もホンダ率」の高さに目が行くが、背景として考えられるのが、年齢によるブランド継続率の違いである。
前有車がホンダだった人の「次もホンダ車を買う率」を年代別に見ると、年齢が上がるほど、ホンダ継続率が高いのだ。

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つまり、Eが91.8%と突出するのは、60代以上のブランドロイヤルティの高さが結果に強く影響しているため。ホンダとの付き合いが長く、販売店との関係も継続している人が多いのだろう。加えて「仕事」用途は、「いつもの店で手早く済ませたい」行動になりやすい。
一方、ペルソナA(子育て中の女性)のホンダ継続率も高い。先ほど見た通りモデル1においてペルソナAは、次も軽SHWを買う確率が最も高かった。
この人たちは、「軽自動車前提」であり、比較対象が限られる。車種選びに強いこだわりを持つというより、実績やわかりやすさを重視しているためだろう。そのため、王道、一番売れている、といった安心材料からN-BOXを選択しており、今後も選択する確率が高い。

歴代「N-BOX」を乗り継ぐ人も多い。写真は2017年登場の2代目(写真:本田技研工業)
モデル1の分析の際に、ペルソナC(アウトドア家族)は、軽SHWを離れる確率が最も高かった(70.6%)。一方で、ホンダにとどまる確率はまだ65.6%と過半数を維持している。
つまり「N-BOXは卒業するけど、次もホンダ」という道が十分にありうる。ホンダには「フリード」や「ステップワゴン」といったミニバン、「ヴェゼル」「ZR-V」といったSUVがある。ペルソナCのような人々はN-BOXの流出リスクであると同時に、ホンダ登録車へのアップセル機会でもある。
2つのモデルを総合して見える、ホンダの課題
最後に、2つのモデルの結果を並べて見てみよう。ここで注意したいのは、以下の表は「軽SHWを卒業し、かつホンダからも離れる確率」を直接示したものではない、という点だ。
あくまで、同じペルソナに対して、「軽SHW以外を選ぶ確率」と「次に他社を選ぶ確率」をそれぞれ推計したものである。それでも、ホンダにとってどの顧客層にどのような対応が必要かを考えるうえでは示唆がある。

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この表から2つのことが読み取れる。1つ目は、ペルソナCは「リスク」と「チャンス」の両面を持つ。
軽SHW卒業の確率は圧倒的に高いが、ホンダ残留率は66%ほどある。「N-BOXの次はフリードで」などと提案するタイミングが合えば、ホンダ内でのアップセルは十分成立する。
逆に提案が遅れれば、トヨタ「シエンタ」や日産「セレナ」などに奪われる。N-BOXオーナーのLTV(顧客生涯価値)を最大化するには、「軽の次」を提案する仕組みが不可欠だ。
求められる「守りの商品力」「他社に負けない商品改良」
2つ目は、ペルソナDが“隠れたリスク”である点だ。
軽SHWにとどまる確率は83.2%と高いので安心に見えるが、ホンダを離れる確率は31.4%と実は高い。若年層のブランドロイヤルティが低いことの表れだ。
この層がN-BOXの次にスズキ「スペーシア」やダイハツ「タント」に流れるとしたら、それはN-BOXの競争力の問題であり、軽を卒業するより深刻な脅威かもしれない。
ホンダにとって、1つ目のペルソナCへの対応は「攻めの提案」で対処できる。一方2つ目のペルソナDに対しては「守りの商品力」「他社に負けない商品改良」が求められる。
最近では日本市場の優先度を上げるメーカーも増えている。今後の競争が激化していく中、生活者としては楽しみである。