なぜトヨタ・ホンダ・日産が「ストロングHV」へ舵を切るのか?EV一辺倒からの見直しが進む根本理由
日系3社による次世代HV攻勢
2025年から2026年にかけて、世界の自動車産業は大きな転換点を迎えている。電気自動車(EV)への集中から、ストロングハイブリッド(HV)が事業の柱として存在感を強める状況へと変化した。
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日本の主要3社は相次いで次世代システムを市場に投入し、収益基盤としての価値を打ち出している。この動きは日系メーカーに留まらず、米欧中のメーカーも戦略を修正し、HVの開発競争に参画する広がりを見せている。
脱炭素という長期目標と、車両価格や製造コスト、インフラ整備状況といった現実的な要素が重なり合う中で、日本勢が磨いてきたマルチパスウェイ戦略が、競争力を維持するための源泉として浮上した格好だ。
トヨタがその先陣を切る。2025年12月に発売された6代目「RAV4」は第6世代ハイブリッドシステムを搭載し、2026年3月にはプラグインハイブリッド車(PHV)版が600万円から市場に投入された。このシステムは、これまでの内燃機関を主体とした構成とは一線を画している。PHVとしての活用を念頭に置いた作り込みやバッテリーの大容量化によって、日常の走行を電気のみで広くカバーする性能を備えており、電動化の恩恵を最大化する新たな選択肢となっている。
ホンダの戦略も明確だ。2025年5月の事業説明会において電動化戦略を修正し、2027年から2030年にかけて次世代「e:HEV」搭載車を13モデル投入する計画を公表した。この次世代e:HEVは、燃費を10%以上向上させつつ、コストを30%以上低減することを目標に掲げる。2030年のHVグローバル販売台数を現状の2倍超となる220万台へと拡大し、四輪事業の中核へと据える方針だ。三部敏宏最高経営責任者(CEO)は、EV市場の成長が予測を下回る一方でHVの需要が増加している実態を指摘しており、ハードウェアの進化とソフトウェア制御を組み合わせた価値の向上を急いでいる。
市場が促すHVへの戦略転換

日産 キャシュカイ e-POWER(画像:日産自動車)
日産自動車は2025年9月、第3世代「e-POWER」を欧州向けの「キャシュカイ」に採用し、市場へ導入した。発電専用エンジン「ZR15DDTe」には、独自のSTARC燃焼技術が盛り込まれ、熱効率42%を達成している。これにより、課題であった高速走行時の燃費を約15%改善した。日産はさらにエンジンの熱効率を50%まで高める目標を掲げ、2026年度には新型「エルグランド」や、同社として初めて北米市場へ投入する「ローグ」にもこの技術を搭載する。
日系各社が同時期に戦略の軸足を移した背景には、EV市場の成長速度が当初の予測に届かなかった実態がある。とりわけ米国において、政策方針の変更にともない排出規制やEV販売目標が緩和された。北米市場ではトヨタ、ホンダ、現代自動車のHVシェアが過去最高水準を記録し、一部の車種では数か月の納車待ちが発生するなど、消費者の選択がHVへの回帰を経済的な側面から支えている。
価格面においても、同クラスのHVに比べてEVの初期費用は平均で1万ドル以上高く、中古車価格が大幅に下落するリスクも表面化した。こうした状況により、メーカーは収益性の高いHVへの投資を強化しやすい。20年以上に及ぶHVの量産実績を持つ日本勢にとって、内燃機関と電動技術の双方を磨き続けてきたマルチパスウェイ戦略は、現在の競争環境において優位性を発揮するための源泉となっている。
欧米中メーカーのHV回帰加速

VW T-Roc / Golf eHybrid(画像:フォルクスワーゲン)
日本勢の動きに呼応するように、欧米中のメーカーも相次いでHVへの回帰を進めている。中国の吉利汽車(ジーリー)は2026年4月、熱効率48.41%を達成した新世代ハイブリッドシステムを発表し、これまでのEVを主軸とした姿勢からの転換を鮮明にした。
米国ではフォードが2025年末、EV部門の赤字を主な要因として195億ドル規模の特別損失を計上した。これを受けて関連する開発計画を大幅に後退させる一方、収益性の高いHVへの投資を強化する方針を打ち出した。需要の不透明さに対する経済的なリスク回避として、既存の生産基盤を活用できるHVが改めて評価された形だ。
欧州においても変化は顕著である。フォルクスワーゲンは2026年に発売する新型車から、本格的なストロングHVシステムを採用する。環境規制への対応と、インフラに不安を感じる利用者の利便性を両立させるための判断といえる。欧州におけるCO2規制(CAFE)の運用緩和や米国でのインフレ抑制法(IRA)の見直しを巡る議論など、規制環境の変化も、内燃機関と電動化を高度に融合させる流れを世界的に後押ししている。
資源リスクを抑える技術的合理性

ホンダ ヴェゼル e:HEV(画像:本田技研工業)
ストロングHVが市場で高く評価される背景には、技術的な合理性と経済的な妥当性が存在している。高効率な内燃機関と電動機能を組み合わせることで、充電インフラの整備状況に左右されずに、排出ゼロの走行領域を確保できる。これは、エネルギーインフラの発展途上にある地域においても、即座に導入可能な現実的な解決策としての価値を有している。
さらに、HVにおけるバッテリーの搭載量は、一般的にEVの10%から20%程度に収まる。フォルクスワーゲンの新型フルハイブリッドシステムを例に見れば、そのバッテリー容量は1.6kWhであり、同社のEVと比較して1.5%から3%ほどの規模に留まっている。この特徴は、重要鉱物資源への依存度を抑制することにつながり、原材料調達における地政学的なリスクを分散する効果をもたらしている。
世界のHV市場規模は、2025年の1850億ドルから2026年には1950億ドル(31兆1151億円)へと着実に拡大する見通しであり、年率5%を超える成長を維持している。高額な初期費用や中古車価格の不安定さを避け、資産価値を重視する消費者の動向が、ハイブリッド技術の開発を後押ししている。
中国市場でも変化の流れは顕著だ。PHVやレンジエクステンダー型を含む「新エネルギー車」のなかで、純粋なEV以外の比率が2025年以降に拡大を続けている。中国メーカーはこれらの技術を土台に、欧州の関税障壁を回避するための現地生産や、新興国市場への展開を加速させており、域内競争をグローバルな市場拡大へとつなげている。
知能化で挑むHV先進国の維持

プリウス(画像:トヨタ自動車)
HVへの回帰という潮流は、自動車産業に新たな構造の変化をもたらしている。各社がこの流れを強めることで、これまでのEV投資、すなわち電池工場や専用の車体構造、充電ネットワークといった資産の稼働率が低下し、減損の対象となるリスクが浮き彫りになった。フォードによる195億ドルの巨額損失は、産業全体が直面するこの変化を象徴している。
ストロングハイブリッドは内燃機関と電動系を高度に連携させる複雑な仕組みを必要とし、製造コストの面で課題を抱える側面もある。また、2035年前後を目標とする欧州や米国カリフォルニア州などの規制との整合性を保ちながら、いかに長期的な投資を継続するかが問われている。この歩みが加速することで、脱炭素に向けた工程表に影響が及ぶという見方もあり、環境への取り組みと事業継続の両立が求められる局面といえる。
日本勢はハイブリッドの先駆者として培った知見を、製品の付加価値へと結びつけようとしている。その成果が評価される重要な時期は、2027年前後に訪れる。トヨタの第6世代、ホンダの次世代e:HEV、日産の第3世代e-POWERという三つの技術が世界市場でどのように受け入れられるかが、今後の勢力図を左右する。中国勢の追い上げが激しさを増す中で、日系メーカーは車両の魅力に加えて、ソフトウェアによる車両制御(SDV)や高度な運転支援システム(ADAS)を融合させることで差別化を図っている。
ハイブリッドが一定期間の役割を果たす存在となるのか、あるいは2030年代以降も主流の座を保ち続けるのか。その行方は、電池価格の推移、インフラの広がり、そして各国の規制動向という三つの要素に左右される。脱炭素という目的と、経済性という現実が交差する中で、日本発のマルチパスウェイ戦略が世界的な標準として浸透するかどうかは、今後数年の競争を通じて明らかになっていくだろう。