日本はなぜコスパの悪い「コンテナ」で大豆を輸入するのか? 「そういうことか!」と思える意外な理由

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納豆や味噌の原料となる大豆の多くは、実は「コストが高く、輸送にも時間がかかる方法」で日本へ運ばれている。本来なら、もっと安くて効率的な輸送手段がある。にもかかわらず、なぜ日本は“非効率”な方法を選ぶのか。そこには、日本人の食文化とも深く関わる理由があった。※本稿は、経済学者の松田琢磨『コンテナ海運が世界を動かす』(KADOKAWA)の一部を抜粋・編集したものです。
大豆の需要に対する
国産比率はわずか24%
みなさんの身近にあるものの動きを通して、コンテナ輸送がどのように行われているか、そもそもどうしてコンテナ輸送が利用されているかを概説してみましょう。取り上げるのは、納豆の原料となる「大豆」です。
大豆は東アジア原産であり、20世紀初めごろまでほとんどアジア地域でのみ栽培されていました。
欧米諸国でも搾油用や飼料用として栽培が増えたのは、20世紀以降のことです。現在では米国やブラジルが主要な生産国で、原産地側の日本や中国は輸入国となっています。
国産大豆よりも輸入大豆のほうが生産量も多く、価格も低いため、納豆用大豆は多くが北米からコンテナで輸入されています。
まず、生産量から見ていきます。【表0-1】は日本における大豆の需給状況を示しています。

同書より転載
2023年における大豆の国内需要量は356万トンで、うち納豆や醤油、味噌に使われる分(食品用)への需要は103万トンです。しかし、国産大豆の生産量は25万トンにとどまり、需要に対する国産比率は24%にすぎません。
しかも、納豆の消費量は近年増加傾向にあります。『日本食糧新聞』の記事によると、2024年時点で1世帯当たりの納豆への消費金額は4770円で10年前に比べて約1000円増加し、大豆使用量も約8万トン増えています。
需要と供給の差を埋めるべく、日本向け輸入大豆のほとんど、2023年では87%に当たる68.3万トンがコンテナで輸送されています。
輸送費用がかかっても
輸入大豆のほうが安く済む
近年の円安を受けて利点は失われつつあるものの、価格の低さも輸入大豆の優位点でした。2021年における国産大豆の価格は1キログラム当たり188.3円(農林水産省ウェブサイトより)ですが、輸入大豆の価格は114.5円にとどまっていました。
輸入運賃を追加し、国内輸送費用を高めに見積もっても輸入したほうが安くついたのです。
たとえば、輸入運賃をコンテナ1箱当たり1000ドル追加し、陸上輸送費用を1箱当たり1000ドルと仮定しても、輸入価格は125.5円となり、国産大豆との価格差は大きいままでした。
輸入価格差の大きさは商品価格にも反映されています。同じメーカーの納豆であっても国産大豆を使ったものは40グラム×3パック132円で売られていたのに対し、輸入大豆で作ったものは50グラム×3パックで94円でした。
2022年8月に実施された拓殖大学のオープンキャンパスで、国産大豆か輸入大豆かを言わず「どちらを買いますか?」と聞いた際には、受講者全員が価格の低い輸入大豆製のものに手を挙げました。
このようにコンテナ輸送は、「供給が十分にあり、価格も低い海外大豆の輸入を促進する」役割を持っているのです。
コスパだけなら圧勝の
「ばら積み輸送」
国際貿易で船を使って大豆を輸送する場合、穀物を運ぶばら積み船での輸送(ばら積み輸送)と、コンテナ船を使うコンテナ輸送とのいずれかを使用します。
【図0-1】は穀物を運ぶ場合の、ばら積み輸送とコンテナ輸送の貨物の流れの簡略図です。

同書より転載
ばら積み輸送では、まず生産地からコンソリデーションセンターと呼ばれる保管施設まで貨物を運びます。次に、内陸輸送業者、鉄道会社、内航輸送業者が、トラック、鉄道、バージ(はしけ)で出発港の岸壁近くにある保管場まで輸送します。大豆や油を搾った後の大豆かすなどは、大量保管可能な輸出エレベーターやサイロなどの専用施設で保管します。
荷役業者が岸壁で荷役を行う際は、船についているクレーンのほか、“積み”では陸上のベルトコンベア、“揚げ”では陸上のアンローダー(ばら積み貨物を陸揚げする機械)を使用します。
貨物は到着港の岸壁や保管施設でトラックや鉄道に載せられ、内陸輸送業者が最終目的地へ運びます。最終目的地とエレベーターやサイロが直結していることも多いです。
手間もコストもかかるのに
コンテナ輸送が選ばれる理由
一方、コンテナ輸送では、生産者が工場や生産地でコンテナ詰め(バンニングといいます)するか、積み替え施設まで貨物を運んで送荷主がバンニングします。イリノイ州など米国中部産穀物の場合、鉄道でカリフォルニア州の積み替え施設まで運んでから貨物をバンニングすることもあります。コンテナ船で運ばれた貨物は、最終目的地で荷物が取り出されます(デバンニングと言います)。
ばら積み輸送は同一品目を大量に運べるため、大規模市場への供給に適しています。しかも、ばら積み船の輸送運賃はコンテナ船の数分の1です。約14ノット(時速26キロメートル)で航行するコンテナ船に比べ、約11ノット(時速20キロメートル)程度で運航され、速度にも少し差があります。
しかし、海上輸送にしては距離が長くないため輸送日数の差はそれほど大きくならず、北米西岸から日本への輸送は、ばら積み船でも約2週間で着きます。
加えて、到着港からの輸送日数はばら積み輸送のほうが短くなります。ばら積み輸送では、港と工場が直結していることが多く、港からの輸送日数はほぼ考慮しなくてよい一方、コンテナ輸送の場合は港から工場までの輸送時間を考慮しなければならないためです。コンテナ船の寄港順や積み替えの状況によっては輸送日数が逆転する場合すらあります。
食の安全を守るためには
コンテナ輸送が最適だった
国際物流において、どのような輸送手段をとるかを決める要因には様々なものがあります。輸送による環境への影響や、製品が発売されてから経った期間(ライフサイクル)なども挙げることができます。とはいえ、圧倒的に重要な判断基準は、運賃と(単位当たりの)輸送コスト、そして輸送時間(リードタイムといいます)です。
では納豆用大豆の輸入において、コストが高く、輸送日数でも有利とはいえないコンテナ輸送が選ばれているのはなぜでしょうか。
その大きな理由は、日本の消費者が非遺伝子組み換え作物であることを重視しており、日本に向けて輸出される納豆用大豆が非遺伝子組み換えであることです。
世界で栽培されている大豆の約75%は遺伝子組み換えですが、それらと混ざることなく非遺伝子組み換えの大豆を輸送する必要があるのです。
ばら積み船で大豆を運ぶには少なくとも数千トン単位の量を必要とします。そのため、出発港にたどり着くまでに、別々の農場で生産された大豆が一緒にまとめられることが一般的です。ところが非遺伝子組み換え大豆の生産量は少ないため、一度に数千トン単位で用意することは簡単ではありません。用意できたとしても、1年を通して世界中を動くばら積み船を非遺伝子組み換え大豆専用にすることは難しいのです。専用船にしようと思えば、日本中の輸入量を全部一括して行うとしても、少なくとも年に10往復程度は行える量の取引が必要になります。
したがって、状況に応じて遺伝子組み換え大豆輸送と併用しなければなりません。この場合、前に運んでいた大豆が混入するリスクを防ぐために徹底した清掃が必要になるなど、輸送にかかる手間も大きくなり、それだけ輸送コストも高くつきます。
一方、コンテナ輸送であれば、約20トンずつ1箱単位で運ぶことができます。

『 コンテナ海運が世界を動かす 』(松田琢磨、KADOKAWA)
さらに、バンニングしたあとは、ドアに封印がなされて最終目的地までほかの貨物と混じりません。したがって、非遺伝子組み換え大豆のように、生産地や品種を指定したIdentity Preserve(分別生産)貨物の輸送に適しています。これが納豆用大豆の輸送にコンテナ輸送が用いられている大きな理由となっているのです。
これまでの話をまとめると、以下のようになります。
(1)原料を安価かつ安定的に供給するため、輸入大豆を使用する
(2)非遺伝子組み換え大豆を運ぶため、コンテナを利用する
納豆用大豆は「安価に」「箱単位で」運ぶ必要があるためにコンテナが利用されているわけです。同じように、身近にある様々な品物を輸入するためにコンテナ輸送は用いられていますし、工業製品の輸出にも用いられています。