日本人の精神疾患が約20年で倍増以上 専門医は「寄り添うことをゴールにしてはいけない」と“休職連鎖”に警鐘

日本人の精神疾患が約20年で倍増以上 専門医は「寄り添うことをゴールにしてはいけない」と“休職連鎖”に警鐘
世界で精神疾患を抱える人の数は過去30年でほぼ倍増し、日本国内でも患者数が急増している 。受診のハードルが下がり多くの人が救済される一方、一部の職場では休職者の穴埋めによる疲弊や「休職の連鎖」が深刻な課題となっている。メンタル不調を抱える当事者と周囲の人間が無理なく共生するための向き合い方について「ABEMA Prime」で意見が交わされた。
■精神疾患、日本でも20年余りで倍増以上

医学誌「ランセット」掲載の論文によると、2023年時点の世界の精神疾患患者数は約11億7000万人に達し、1990年比で95.5%増加した。特に「不安障害」や「うつ病」の増加が顕著だ。日本国内でも患者数は20年余りで2倍以上に急増している。
この現状について、精神科医で産業医の堤多可弘氏は「特にコロナ禍で社会的つながりが断たれ、不調を訴える人が非常に増えた」と体感を語る。一方で、生物学的に疾患自体が急増したわけではないとし、次のように分析した。「うつ病や不安障害は症状ごとに区別されるため、ある種ファジーに診断されてしまう。日本でADHDの薬が出た時期に診断が急増した例もあるように、概念を知ることで医師の目が向きやすくなり、診断される閾値が下がったという背景がある。周知が広がり受診しやすくなったことは事実であり、増えたから悪いというわけではない」。
精神疾患への理解が進む一方、中小企業や少人数の現場を預かる経営者からは綺麗事だけでは回らないという悲鳴が上がる。テレビ制作会社代表のウエムラ氏は、現場の過酷な現実を明かす。
「大手は人が多いから、1人休んでも仕事は回る。ただし(企業が)少人数になればなるほど、1人休むといきなり(ダメージを)食らう。朝の番組に社員を派遣したが、出勤予定時間に、本人が来ないことがあった。突如、親などから電話がかかってきて『行けない』と言われたが、朝5時では代わりの人を派遣できないので自分が現場に行くしかなかった。誰か無理をして頑張る人がいるから現場が回っている。また、入社して1カ月も経たないうちに突発的に来なくなり、後からうつ病を抱えていると明かされることもある。中には今の部署が嫌だからと、とりあえず診断書をもらいに行って異動の対処を迫る利用のされ方もある。疾患の人を責めたいわけではないが、こっちがそれを全部引き受けて疲弊している」。
これに対しEXIT・兼近大樹は、社会構造そのものの限界を指摘する。「いろいろなつらさに名前がついて、理解できる社会にはなってきた。だから無茶をしてきたことに気づくハードルが下がった。ただ、今も名前がついていないつらさを抱えて無茶をして苦しい人がいる。いっそ、全員が何かしらの疾患を持った状態になれば、そこから線引きが始まって『このぐらい頑張れるよね』となり、『お前は大丈夫だろ、頑張れるだろ』という押し付けがなくなり、分かり合う社会がやってくるのではないか」。
また、コラムニスト・河崎環氏は「精神疾患で休職する人だけではなく、育休や産休、それから介護休など、いろいろな理由で人は365日、同じ組織には居続けられない。労働者一人ひとりが、オン(働く)になったりオフ(休む)になったり、ある程度の自由や『のりしろ』が保証されていれば、安心して働けるのではないか」と、組織側の受け入れ態勢の必要性を唱えた。
■診断されて症状悪化のケースも

議論の中では精神疾患を疑い、診断書が出た後の心理的変化や、周囲への二次被害についても焦点が当てられた。
OVER ALLs代表・赤澤岳人氏が「調子が悪くて病院に相談に行き『2週間程度の加療を要する』という診断書をもらった瞬間に、急に『私はうつなんだ』と症状が激化するように見える場面がある」という問いに対し、堤氏は次のように解説した。
「緊張の糸が切れて、蓄積していたダメージが一気に出てしまう『レッドダウン効果』というものがある。連休明けに仕事に来られない人がいるのは、まさにそれだ。また自分を洗脳してしまうような面もある。おそらく両方あり、仕事を休むくらいなので、もともとダメージが蓄積している証拠だ」。
こうした突発的な休職は、周囲の従業員へ確実にしわ寄せを生んでいる。データによると、過去3年以内に休職者が出た企業の71.5%が「他の従業員で分担」して業務を対応している。その結果、業務をカバーした人の41.6%で「残業・休日出勤が増加」し、16.9%が自らも「メンタル不調で休職」に至るという「休職の連鎖」が起きている。さらに、メンタル不調に伴う健康保険の傷病手当金は、5年間で1.6倍に膨れ上がっている実態も示された。
■企業における具体的な解決策とは

周囲や経営者が共倒れせず、組織を持続可能にするためのアプローチとして、産業医の堤氏は具体的な解決策を提示した。
堤氏はまず、不調者が現れた際は「交通事故のようなものなので、まずは一回諦めて、そこから立て直しを考えるべきだ」とした。その上で、周囲が最も陥りやすい誤りとして「一番してはいけないのは、周りの人が寄り添うことをゴールにすることで、それは絶対ダメ。当事者が理解をしてもらおうとすることが危険」と強く主張する。
「寄り添うことをゴールにすると行動に移せない。何が正解なのか分からず、お互いに過剰な気遣いから気疲れし始めてしまうのが一番しんどい。『理解してほしい』ということは、その先に何かしてほしいということ。『理解してほしい』『寄り添おう』だけだと、絶対に行動がずれる」。
堤氏が提言するのは、感情論ではなく、業務における具体的な「目線合わせ」と「対話」だ。
「みんなが、『自分にはこういうつらさがあるから、ここはよろしく、ここは担保して』という取扱説明書を持てるようにする。腹を割って対話し、『あなた、これはできますか?できないなら評価はこうなるけど、代わりにこの仕事をやってください』という明確な合意を取るべきだ。空気を読む日本の忖度文化では苦手な部分だが、一歩踏み込んだ対話が必要になる」。
さらに、ウエムラ氏のような中小企業が抱える「1人抜けたら代わりがいない」というリソースの課題に対しても、堤氏は合理的な配置を促した。
「バックアップを常につけるというのは過剰な配慮。そうではなく、そもそも最初から、突発的に抜けるバックアップが必要そうな仕事に、リスクを抱えている人員をつけるべきではない」。
また、専門家にすぐアクセスできない中小企業への防衛策として、「多くの企業は予防から入ろうとするが、火事が起きているのに消火部隊がいない状態で予防を考えるようなもので一番やってはいけない。まずは負傷者が出たときの最低限の対応ルート(事後対応策)を考えてから、次に予防へ移るべきだ」と順序を整理し、実践的なマネジメントの重要性を訴えていた。
(『ABEMA Prime』より)
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