上野アメ横が激変か 一斉摘発から1か月で居酒屋の路上営業に問われるマナー

路上営業で賑わうアメ横(撮影/編集部)
約1か月前の5月5日、東京・上野にある観光名所・アメヤ横丁で、『アメ横クリーンアップ作戦』が行われた。道路上にテーブルや椅子を出して営業していた店舗などを対象に、警察が一斉摘発に踏み切ったのだ。アメ横周辺の事情に詳しい関係者が話す。
「もともとアメ横は、店と通りの距離が近い街です。通行の妨げになるという指摘は以前からありました。ただ、コロナ禍には道路占用許可の基準が一時的に緩和された時期があったんです。 飲食店支援や三密回避のための特例でしたが、それもすでに終了しています。コロナ禍が落ち着いてからアメ横もインバウンドで人出が戻りましたし、通行の妨げになるケースが再び問題視されるようになったことが、今回の摘発につながったのでしょう」
警視庁は、緊急車両の通行の妨げになるとして、アメ横周辺の路上営業について直近半年間で1500件近くの指導・警告を行ってきたという。この摘発に対してX上では、
《通行の妨げになるなら仕方ない》
《警告されても改善しなかったなら当然》
と摘発に理解を示す声があった一方で、
《アメ横の外飲みはパラダイスだった》
と、あの雑多な雰囲気を惜しむ声も見られた。
アメ横は、上野駅と御徒町駅の間に位置し、約500メートルの中に400点舗以上が軒を連ねる商店街だ。カニやマグロを売る鮮魚店、スルメや昆布が並ぶ乾物店に、お菓子の叩き売り。革ジャン、デニム、スニーカーがあるかと思いきや、貴金属・ジュエリーまで現れる。さまざまな店が入り乱れる中、店先に並んだテーブルで酒を飲む人々の姿も、アメ横を象徴する風景の一つになっていた。
では、なぜアメ横で外飲み文化が根付いたのか。酒場めぐりマガジン『Syupo』を運営し、これまで1万軒以上の酒場を訪れた経験から『マツコの知らない世界』(TBS系)にも出演した酒場案内人の塩見なゆ氏は、アメ横の成り立ちに理由があると話す。
「戦後のヤミ市を起源とするアメ横は、店先や半屋外に小さな店が密集する独特の構造を持っています。鮮魚店や乾物屋が路上にせり出して商売をしてきた歴史的背景があり、店舗と通路の境界線が曖昧な空間でした」
そうした歴史の中で育まれてきた外飲みの風景は、現在では、新たな観光資源のようにもなっている。
「近年はインバウンド需要の増加に伴い、異国情緒あふれる屋台街の雰囲気が海外観光客や若い世代の注目を集めました。狭い店舗を補うための店外利用と、その活気に惹かれる客層の増加が合わさって、現在の風景が形成されたと捉えています」(前同)
■アメ横に生まれた新たな秩序
しかし、今回の警視庁による摘発は、無許可の路上営業や通行の妨げを問題視する形で行われた。現場では、どのような声が上がっているのだろうか。
「常連客の間からは、昔ながらの雑多な雰囲気が薄れることへの寂しさが聞こえてきました。一方、店舗側や地元関係者においては、通行の妨げや安全面への配慮から、一定のルール整備はやむをえないとする受け止め方があるのも事実です。今回の取り締まりは行政のはっきりとした方針がみられました。売上への懸念を抱きつつも、安全な環境づくりと営業の継続を両立させる道を模索している様子が見受けられます」(同)
一斉摘発によって、外飲みの風景は消滅してしまうのか――。そこで、実際に本サイト記者はアメ横を訪れてみることにした。
向かったのは、6月上旬の週末の夜10時頃。閉店時間を過ぎた鮮魚店やお菓子店を通り抜けると、飲食店の明かりが目に入る。店先にはテーブルが並び、ビールジョッキを傾ける客の姿がある。料理の匂いが通りを漂い、店員の威勢のいい声も飛んでいた。
《アメ横で摘発あったっていうけど、なんか変わった?》
と、あるXユーザーが指摘するように、一見、路上営業はこれまで通りに行われていた。だが、以前とまったく同じというわけではないらしい。人が多くて歩きにくい瞬間はあっても、店のテーブルや椅子が邪魔で歩きにくいということはなかった。
よく見ると、店前の道路上にはオレンジ色の線が引かれていた。これについて別のXユーザーが、
《オレンジの線より道路にはみ出すとNGという決まりがあるらしい》
と指摘する。実際、多くの店でオレンジ色の線の内側にテーブルが収められているように見え、通りには一定の一体感が生まれていた。
ただ、この線が法的な境界線なのか、商店街側などによる目安なのかについて、関係先から明確な回答を得ることはできなかった。今後のアメ横の路上営業について、塩見氏はこう予想する。
「完全に消滅するのではなく、法規や商店街のルールの範囲内に収まる形へ変化していくと予想しております。すでに一部の店舗では、敷地内に客席を収める工夫や、立ち飲みスペースの明確な区切りを設ける動きが始まっています。アメ横特有の活気は残しつつも、歩行者の安全や衛生面をクリアした新たなスタイルの外飲みが定着していくはずです」
もちろん、路上営業をめぐる問題がなくなったわけではない。オレンジ色の線の内側に収まっていれば問題ない、という単純な話でもないだろう。だが、少なくとも現地では変化の兆しを感じた。アメ横は今、その過渡期にあるのかもしれない。
「酒場文化は時代とともに形を変えて生き残ってきた歴史を持ちます。アメ横の飲食店街もまた、現在の課題を乗り越え、独自の魅力をアップデートしていくと期待しております」(前同)
知り合い同士で飲む席もあれば、どうやら、知らない者同士が意気投合した席もある。アメ横で酒を飲む人々を眺めていると、彼らの顔は一様に明るい。その明るい表情を見る限り、アメ横の外飲み文化は、そう簡単には終わらないのかもしれない。
塩見なゆ(しおみ・なゆ)
酒場案内人。酒場めぐりマガジン『Syupo』を運営し、これまで訪れた酒場は1万軒以上。大手メーカーで製品開発や、企画・広報を経て2016年に独立。テレビ東京『TVチャンピオン極 大衆酒場・せんべろ選手権』での優勝や、TBS『マツコの知らない世界』への度重なる出演など、確かな知識と経験を活かして酒場の楽しさを発信中。
■【画像】雑然とした風景が一変 摘発で変化したアメ横の実態とは
オレンジ色の線の内側で営業する店舗

アメ横に秩序を生んだオレンジ色の線(撮影/編集部)

アメ横に秩序を生んだオレンジ色の線(撮影/編集部)
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