「誰のための探究学習か」を問い直す 高校生が"評価する側"に回って見えたこと

河合塾が高校生向けに開発した進路選択プログラム「ミライの選択」が注目を集めている。すでにのべ30以上の学校が授業の一貫として導入している。前編はミライの選択を導入した立命館慶祥中高(北海道)の例を紹介したが、「ミライの選択」の開発者であり、『人生で必要な決め方はすべて「進路選択」で学べる』を上梓した山本尚毅氏らは、「『ミライの選択』は生徒たちが自分で評価基準を構築した、1つの高度な探究学習になっている」と指摘する。そのヒントを、山本氏らは立命館慶祥で開催された「Rising Teenager Award 2026」に見出している。

生徒たちによる生徒たちのためのイベント

生徒たちが「自分たちの世代を牽引する若者」を選ぶ「Rising Teenager Award 2026」は、一体どのような審査基準で候補者を選ぶのだろうか。

審査委員(生徒)たちによると、自分たちの世代にとって本当に価値あるものは何かを徹底的に議論し、何で判断するかを定義していったという。

「これまで学校の授業や探究活動では、あらかじめ大人が用意した『正解』や『良い評価』を探してきたように思います。今回、『なぜこの候補者がすごいのか』を言語化し、メンバーと意見をぶつけ合うプロセスは、大人の顔色をうかがうのをやめ、自分自身の生き方を問い直す作業でもありました」(学生審査委員の1人)

若者審査委員たちの議論は、「自分たちの世代はどう生きていくべきか」という哲学的な問いに発展し、最終的には「リスクとワクワク」という判断基準に行き着いたという。

「最初は、社会的に正しそうな活動や、大人が褒めそうな実績に目が行きがちでした。でも、表を使ってメンバーと何時間も議論するうちに、『私たちが本当にすごいと思うのは、リスクをとってでも心がワクワクする挑戦をしている人だ』と気づいたんです」(別の委員)

こうして若者たちによって選ばれた受賞者たちは、リスクとワクワクという審査基準において突出している。例えば、ファッション部門で受賞したモデルのKAHOさん(高校3年生)は、前例も経験も、コネクションも無い中で、パリ・コレクションのモデルに応募し、出演を果たした。

平和部門で全体のグランプリも受賞した二ノ宮リム虹さんは、気候変動問題の解決に向けて、日本や世界の各地でデモ活動の前線に立ち続けてきたが、その根底にあるのは、自分と遠く離れた人びとの暮らしを想像し、連帯して動くことへの好奇心だった。

生徒たちによる生徒たちのためのイベント, 経営の真髄とも重なる意思決定, Awardの内容もさっそく教材に反映, 雪まつりに肩を並べるイベントにしたい

アワードのファッション部門では個性的な作品が紹介された(写真:Rising Teenager Award 実行委員会)

自分たちが「すごい」と思う人は、なぜ「すごい」のかを言語化し、選ばれた受賞者たち。それは、若者審査委員自身が、同じ若者として、心の内で、「自分も同じようになりたい」と憧れる対象でもあった。

経営の真髄とも重なる意思決定

「直感で発想・探索し、論理で検証・判断し、哲学で跳躍する」。これは、伊丹敬之・一橋大学名誉教授が言う「優れた経営者やリーダーが行う意思決定の真髄」だが、若者審査委員たちはこの高度な経営判断に値するほどの意思決定を行ったといえる。

30の候補者を選ぶときは、「なんだか面白そう」「この人はヤバいぞ」という直感を働かせながら、全国からくまなく候補者をリサーチ。

そこから、受賞者を選ぶときは、「進路選択の教室」で学んだ「進路選択表」を応用することで、明確な判断基準に基づいた論理的な意思決定を目指した。

そこから飛躍して生まれた「リスクとワクワク」という審査基準は、若者審査委員の哲学そのものだったのだ。

ゲストとしてアワードの様子を見守ったウスビ・サコ氏(東京都立大学理事・2025年日本国際博覧会副会長)も、最後の講話で若者たちの独自の視点と評価軸を高く評価した上で、「このアワードを、10年以上続けていきなさい」と、力強いアドバイスとエールを送った。

生徒たちによる生徒たちのためのイベント, 経営の真髄とも重なる意思決定, Awardの内容もさっそく教材に反映, 雪まつりに肩を並べるイベントにしたい

ゲスト審査員にはウスビ・サコ氏(東京都立大学理事・2025年日本国際博覧会副会長)も参加した(写真:Rising Teenager Award 実行委員会)

立命館慶祥の高校生らが主体となって起こした今回のアクションは、同校の中学生のキャリア教育にも、思わぬ波及効果をもたらしている。

同校では、中3生のキャリア教育で「未来洞察」というプログラムを試験導入した。この授業で生徒は、高校に進学していきなり自分の将来を考える前に、まずは自分を取り巻く未来の社会について考える。

医学部に進学して、医師免許を取り、自らの病院を持つ……。例えばそんな固定的なイメージを持つ生徒の目の前には、「気候変動による体調不良専門の気候医師」「食べられるスマートデバイスで健康管理」「冷凍保存した遺体を未来で蘇生」など、未来で起こり得る変化の可能性が書かれたカードが200枚並べられる。

200通りの未来シナリオに、たった5時間の授業で触れることで、未来を想像する可動域を一気に広げることが狙いだ。

Awardの内容もさっそく教材に反映

この200枚の未来シナリオの中には、今回のRising Teenager Awardを受賞した同世代の活動に関するものも書かれていた。ここで重要なのは、単に「すごい若者」を大人が教材として並べているわけではない、という点である。教材化されているのは、高校生の先輩たちが、自分たちなりの哲学と判断基準で選び抜いたロールモデルたちだ。

生徒たちによる生徒たちのためのイベント, 経営の真髄とも重なる意思決定, Awardの内容もさっそく教材に反映, 雪まつりに肩を並べるイベントにしたい

アワードの委員たちは貴重な経験を得た(写真:Rising Teenager Award 実行委員会)

つまり後輩たちは、「何を目指すべきか」という答えを上から与えられるのではなく、先輩たちが何にワクワクし、何をリスクとして引き受けるに値すると考えたのか、その判断の跡そのものに触れることになる。ここでもまた、探究の主語は大人ではなく若者である。

前半で見たように、これまでの探究の循環は、入試という評価のまなざしに子どもがさらされ、進学実績に責任を負う教員がその圧力を媒介し、子どもが大人に忖度していく、というものだった。だが今回のアワードは、その流れをひっくり返した。生徒が評価する側に立ち、そこで生まれた価値観が教材となって後輩へと受け継がれていく。

リスクとワクワクという、高校生の先輩たちが自分たちの哲学で選び抜いたロールモデルたちについて、今度は中学生の後輩たちが教材として学び、進路選択に活用する。この連鎖は、単なるイベントの継承ではない。評価されるために探究するのではなく、自分の価値基準で世界を見立てるために探究する。その新しい循環の始まりである。

雪まつりに肩を並べるイベントにしたい

学生審査委員の1人は、熱を込めてこう語ってくれた。

「このアワードを今後『さっぽろ雪まつり』と並ぶようなものにしていきたい。ほかの高校にも声を掛けて、全道の10代を巻き込んでいきたいですね」

もしそんな未来が実現するなら、それは単に一つのイベントが大きくなるという話ではない。大人に評価されるための「忖度探究」から、若者が自分たちの価値基準で世界を選び取り、その価値観を次の世代へと手渡していく探究へ。北海道から始まったこの小さな実践は、形骸化しつつある探究学習を、若者の手に取り戻すための具体的なヒントになるのではないか。