「100円稼ぐのに2万円」の衝撃! 赤字ローカル線を揺るがす「維持か廃止か」、その先にある地殻変動とは

地方ローカル線が迎える転換期

 地方ローカル線の先行きをめぐる議論が全国各地で本格化している。背景にあるのは、人口減少や過疎化、そして自家用車への依存が進んだことによる慢性的な利用者減少だ。

【画像】「えぇぇぇぇ!」 これが51年前の「三次駅」周辺です!(計8枚)

 実際の数字を見ると、移動インフラが置かれた厳しい現実がよくわかる。1996(平成8)年度から2025年度までの30年間に国内で役割を終えた鉄道路線は68区間、合わせて1366kmに及ぶ。これは全国の鉄道網(計約2万7000km)の約5%にあたる規模だ。時期ごとに追いかけると、最初の10年間(1996~2005年度)の廃止距離は387kmだったが、続く2006~2015年度は445km、直近の10年間(2016~2025年度)には534kmへと増えており、鉄路を手放す動きは近年さらに勢いを増している(『共同通信』2026年4月4日配信付け)。

 こうしたなか、これまでの形にこだわらず、自動車産業の技術進化を柔軟に取り入れた新しい移動手段へ乗り換える試みが始まっている。いま注目を集めているのが、鉄路の跡地などを活用するバス高速輸送システム(BRT)への転換だ。

 BRTは公共交通に代わる効率的な仕組みとして期待されるだけでなく、自動運転やデジタル技術と組み合わせることで、地域のインフラを持続可能な形へと広げていける可能性を秘めている。鉄道からBRTへの移行は乗り物の種類を変えるだけの話ではない。人口減少が進む社会で自動車の進化と同調しながら、地域全体の移動の枠組みをより強固なものへ変えていく新たな展開が、すでに足元で始まっている。

鉄路が直面する経済的限界

地方ローカル線が迎える転換期, 鉄路が直面する経済的限界, 次世代移動システムの実験場, 生活圏へ歩み寄る車の機動力, 大量輸送の課題と技術的補完, 観光客需要と生活路線の両立, 二項対立を超える地域交通

線路補修工事(画像:写真AC)

 鉄路をいかに残すか、あるいは手放すか。議論がここまで切迫している理由は、鉄道特有の固定費の重さに集約される。

 一度レールを敷き、鉄橋やトンネル、信号を整えると、それらの設備は維持し続けなければならない。乗客が何人まで減ろうとも保守にかかる費用はほとんど変わらないため、利用者の減少がそのまま収支の悪化へ跳ね返る。

 実際、JR東日本が公表したローカル線の収支を見ると、輸送密度2000人未満の区間では、100円の運賃収入を得るために2万円を超える経費を費やす例もあった。もはや一時的な赤字という話ではなく、仕組みそのものが限界を迎えている。地方では人口減少だけでなくマイカーの普及が利用離れに拍車をかけた。過疎地へ行くほど

「駅まで自家用車で行く」

というちぐはぐな状況も生まれており、移動手段のあり方を見直す時期に来ている。

 こうしたインフラの限界は、JRだけでなく大手私鉄にも押し寄せている。2026年5月、名古屋鉄道(名鉄)は広見線の新可児駅~御嵩駅間(7.4km)の運行について、事実上の廃止へ向かう方針を明らかにした。

 この区間では、沿線の市や町が設備の維持費を受け持つ「みなし上下分離方式」による存続を模索してきた背景がある。しかし、年間3億4000万円にのぼる自治体側の負担は重く、他の住民サービスへのしわ寄せを避けるために協議は打ち切られた。乗客が増える見込みが立たないうえに、昨今の物価や人件費の高騰が重なったことも影響している。さらに災害が起きた際、復旧費用を自治体がどう工面するかという問題も超えられなかった。

 地域を支えてきたローカル線は、企業の努力や自治体の場当たり的な支援だけでは支えきれず、新しい移動の形へと移り変わる過渡期にある。名鉄広見線の沿線自治体も2028年度末までの運行を要望しながら、バスなどを活用した次の交通網の準備を見据え始めた。設備負担の重い鉄道から小回りの利く自動車の手法を取り入れた仕組みへの移行は、持続可能な地域インフラを各地で模索していくきっかけとなっている。

次世代移動システムの実験場

地方ローカル線が迎える転換期, 鉄路が直面する経済的限界, 次世代移動システムの実験場, 生活圏へ歩み寄る車の機動力, 大量輸送の課題と技術的補完, 観光客需要と生活路線の両立, 二項対立を超える地域交通

気仙沼線BRT(画像:写真AC)

 こうした逆風のなか、現実的な選択肢として視線が集まるのがBRTへの移行だ。

 鉄路の跡地をバスの専用道路へ切り替えることで、維持にかかる費用を大きく抑えることができる。線路の補修や信号、電気設備の管理から解放されるため、鉄道と比べればコストはぐっと軽くなる。乗客の増減に合わせて走らせる本数を変えられるなど、固定費に縛られていた交通網を無理のない運用へ移していく効果は小さくない。

 実際の先進例として知られるのが、東日本大震災のあとに運行が始まった気仙沼線BRTだ。

 ここでは、専用道の強みを生かした自動運転の試みが進んでおり、代わりの乗り物という枠を超えて、次世代の移動システムを育てる現場としての性格も帯びてきた。地方の交通が直面する壁は乗客の減少だけではない。各地で深刻さを増す運転士不足も路線の持続性に直結する難題だ。その点、BRTは自動運転や連なって走る技術を取り入れやすく、人手不足への備えと効率化を一度に進められる可能性を秘めている。

 この動きに合わせるように、自動車メーカーの立ち位置も変わりつつある。これまでは車両をつくって売ることが中心だったが、いまや運行管理や自動運転の手法までまとめて手掛けるなど、移動インフラを陰で支えるプレイヤーとしての役割が目立つようになってきた。BRTへの転換は、後ろ向きの縮小というより、コストを抑えながら持続可能な移動の形を各地へ広げていく

「地道な進化のプロセス」

と捉えるほうが実態に近い。

生活圏へ歩み寄る車の機動力

 こうした流れのなかで、ひとつの形を示したのが2023年に開業した、JR九州バスが運営する日田彦山線BRTひこぼしラインだ。

 この路線がもたらしたのは、鉄路の時代には難しかった運行経路の柔軟さである。BRTは専用の道だけでなく一般の道路もそのまま走ることができる。その利点を生かし、病院や学校、買い物をする場所の前に合わせて36の乗り場を設け、生活の場へ直接行き来できるようになった。決まったレールの上しか走れない鉄道には真似できない、車ならではの良さが生きている。

 これまでの鉄道は「駅まで人が来る」のが当たり前だった。しかし、車の機動力を取り入れた仕組みは人が集まる場所のほうへ近づいていける。インフラの側から住民の生活圏へ歩み寄る形をつくったことで、使い勝手はぐっと良くなった。

 実際、開業したあとの1日平均の乗客数は約270人を数え、鉄道時代を上回る水準を記録している。たんに効率よく人を運ぶだけでない、地域の暮らしに寄り添う移動手段へと姿を変えた。この事実はデータやデジタル技術の活用がもたらす新しい交通の可能性を物語っている。

 地方の交通網を守るうえで本当に大切なのは、昔ながらの固定された形にこだわることではなく、移動という機能そのものを日々の暮らしに合わせて維持していくことではないだろうか。

大量輸送の課題と技術的補完

 もちろん、新しい仕組みへの移行がすべて円滑に進むわけではない。大量の人を一度に運ぶ力という点では、まだ鉄道に分がある。とりわけ通学の時間帯や行楽シーズンといった特定の時間に人が集中するときの対応力は鉄路の大きな強みだ。

 これに対して普通のバスは乗れる人数に限度があり、道路の渋滞に巻き込まれる心配もついてまわる。加えて、路線の一部が切り替わることでこれまでの乗り継ぎの形が崩れ、広い地域を行き来する交通網全体の魅力が薄れてしまう懸念も無視できない。

 レールを一度剥がしてしまうと元の姿へ戻すには莫大な費用と土地が必要になるため、インフラの行く末を決める判断には息の長い視線が欠かせない。だが興味深いのは、こうした輸送力や乗り継ぎの壁こそが新しい移動システムの開発を促す原動力になっている点だ。

 いまや複数の車両を繋いだ連節バスの活用や、自動運転による隊列走行といった技術の磨き上げが急ピッチで進んでいる。これまで鉄道が引き受けてきた大量輸送の役割を補い、さらに柔軟な形で未来へ繋げていこうとする現場の熱量は確実に高まりつつある。

観光客需要と生活路線の両立

地方ローカル線が迎える転換期, 鉄路が直面する経済的限界, 次世代移動システムの実験場, 生活圏へ歩み寄る車の機動力, 大量輸送の課題と技術的補完, 観光客需要と生活路線の両立, 二項対立を超える地域交通

栗木野橋梁(金剛野橋)を通るバスの光跡(画像:写真AC)

 日田彦山線BRTが鉄道のころをしのぐ実績を上げるなか、この動きを一過性のものにせず地域に深く根づかせるための模索が始まっている。いまの利用を引っ張っているのは観光客の姿だが、これからは

・高齢者

・免許を返納した人

・通学する学生

といった日々移動せざるを得ない住民の足として、いかに浸透させていくかが次の課題だ。

 観光による人流は交通網を支えるお金を地域にもたらしてくれる。その果実を生かしながら暮らしに寄り添う役割を強めるために、走らせる本数や病院・買い物場所への行きやすさ、天気が悪い日の安定性など、日常の目線に立った細かな手直しが欠かせない。

・旅の需要

・生活の需要

というふたつの異なる動きをさばくために、データ分析を手がけるIT企業などの存在感が増してきた。いつどこで人が乗り降りしたかを細かく解析し、いまの混み具合を確かめながら状況に合わせて柔軟に走らせる仕組みづくりが進んでいる。

 移動にかかわるサービスが使いやすくなれば、住民の暮らしを支える網の目のような交通へとその姿は確実に育っていくだろう。

二項対立を超える地域交通

地方ローカル線が迎える転換期, 鉄路が直面する経済的限界, 次世代移動システムの実験場, 生活圏へ歩み寄る車の機動力, 大量輸送の課題と技術的補完, 観光客需要と生活路線の両立, 二項対立を超える地域交通

駅から道路を走るBRT(画像:写真AC)

 本当に見つめるべきは、地域全体の暮らしを支える移動の網の目を、どのような枠組みで組み立てていくかという視点だ。

 こうした古い押し問答を超えた試みが2026年5月に動き出している。脱線事故のあと全線で運休が続く第三セクターの「いすみ鉄道」(千葉県、総延長約27km)の行く末を話し合う検討会議がそれだ。

 ここでの議論は「すべて直す」か「すべて諦める」かという極端な二択に縛られず、一部の区間をバスへ切り替えるやり方を交えた三つの形を軸に現実的な落としどころを探っている。座長を引き受けた板谷和也教授が

「廃止か維持かという前提を置かず、さまざまな選択肢を比較考量し、最も地域に良い方を選びたい。タブーなく議論したい」(『産経新聞』2026年5月27日付け)

と語ったように、硬直した存廃論争から離れ、地域の身の丈に合ったインフラを柔軟に整えようとする空気が現場で生まれつつある。

 こうした歩みを後ろから支えるのが、自動車産業の技術やデジタルツールの進化にほかならない。いつどれだけの人が乗り降りしたかというデータやAIによる需要の予測を生かせば、曜日や時間帯に合わせた無駄のないダイヤを組むことができる。さらに呼び出しに応じて走る乗り合い交通やデマンドバスを組み合わせることで、従来の路線バスでは手が届かなかった、家の玄関口から目的地までをつなぐ細かな移動の求めにも応えられるようになってきた。

 これから先、地方の交通網は鉄道やBRT、デマンド交通に自動運転の技術を織り交ぜた

「統合型モビリティ網」

へと姿を変えていく可能性が高い。そこでの仕事は、儲かるか否かだけを見て一律に路線を切り捨てる引き算のやり方ではなく、限られた財源や人手をやりくりしながら地域全体の移動の枠組みをいかに広げていくかという“足し算”の思考になる。

 人口が減り運転士の確保も難しくなるなかで、すべての線路を昔の形のまま守り続けるのは土台無理な話だ。とはいえ効率ばかりを追い求めてしまえば、お年寄りや学生たちの出かける機会が奪われ、地域の衰退に拍車をかけかねない。

 交通インフラを会社の採算問題として突き放すのではなく社会の根底を支える土台として捉え直し、多様な技術や新しいプレイヤーの力を借りながら、誰もが安心して移動できる仕組みを各地へ広げていくことこそが、これからのモビリティ産業が進むべき道筋を語っている。