「実は世界で日産だけなんですよ」3代目リーフ開発陣が「世界唯一」と胸を張る自慢ポイント
- 宮崎に届いた「最後の公道2スト」ハスクバーナTE150
- 「EVを3代続けた会社は、世界で日産だけ」
- 最初からBセグのクロスオーバーEVとして企画がスタートした
- ボクシーなSUVでなく、シュッとした姿である理由
- 3代目にして初めて採用した“真のEV専用プラットフォーム”
- エンジン用の「大穴」がなくなった──サブフレームが静けさを生む
- 磁石の位相をずらす~新モーターユニットの静粛技術
- 「3段折れ」制御~1万分の1秒、3ミリ刻みのトルク管理
- EVの進化は「何秒で何キロ」ではない~日産が積み重ねた技術思想
- 「普通にするための努力が、まったく普通ではありません」
- リーフは「世界初の量産型EV」なのか?
- EVの歴史は19世紀に始まった
- 「たま電気自動車」~日産のルーツが生んだ戦後のEV
- オイルショックが再点火したEV開発の火
- 90年代、リースプログラムで実用化へ
2010年、世界に先駆けて量産型電気自動車として登場・販売された日産「リーフ」。あれから16年、EVをめぐる世界&日本の環境は大きく変わりました。さまざまなメーカーがEVを出すようになった今、他社製EVとリーフの違いとは?新型リーフを開発するにあたり、エンジニアがこだわったポイントとは?3代目開発責任者に聞きました。(コラムニスト フェルディナント・ヤマグチ)
宮崎に届いた「最後の公道2スト」ハスクバーナTE150
みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
今週も明るく楽しくヨタ話から参りましょう。
友人から譲ってもらった2024年式ハスクバーナTE150が、宮崎の家に届きました。

2024年式ハスクバーナTE150。東京から遠路はるばる宮崎まで届きました Photo by Ferdinand Yamaguchi
2024年モデルのTEは、ハスクバーナで公道走行可能な最後の2ストバイク。クルマ同様、バイクに対する排ガス規制は年々厳しくなっています。2ストのエンジンは、構造上ガソリンと一緒にエンジンオイルを燃焼させるため、4ストに比べて有害な未燃焼ガスが多く排出されてしまいます。
ハスクはこれまで様々な技術を投入して規制をクリアしてきましたが、コストと性能を両立させながら、これ以上環境基準をクリアし続けるのは難しい……と判断したのです。2025年以降は「競技専用車」として販売を継続しています。

早速宮崎の友人と林道へ行ってきました。拙宅の改装工事を施工してくれたスリーハウス( https://three-haus.com/ )の北原渉くん Photo by F.Y.
いやはや、2ストのパンチ力は何とも素晴らしい。回転が乗ってくると、とても150ccとは思えぬ大きなパワーを絞り出します。いささかピーキーなのが難点で、急な坂道でエンストすると難儀しますが、ともかく楽しい。

林道で泥だらけになったバイクは速やかに清掃して室内へ Photo by F.Y.
腱板断裂で当分サーフィンはできそうにありませんから、しばらくはバイクで遊ぼうと思います。
という訳で本編へと参りましょう。

日産3代目リーフ(広報写真)
新型日産リーフの開発者インタビューです。
「EVを3代続けた会社は、世界で日産だけ」
2010年にデビューし、3代目となった日産リーフ。
EVらしい、ガッと力強い加速感が良い。低重心でドライバビリティにも優れている。なにより静寂性が素晴らしい(参考記事)。このクルマは何を目指し、いかなる思想で造られたのか?開発エンジニアにお話を伺った。

日産オートモーティブテクノロジー 副社長執行役員 磯部博樹氏 Photo by AD Takahashi
フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):日産リーフが、世界に先駆けて量産EVとして世に出てから既に16年。ついにリーフも3代目となりました。
日産オートモーティブテクノロジー 副社長執行役員 磯部博樹さん(以下、磯):そうですね。EVを3代続けて同じ車名で出している会社は、実は世界で日産だけなんですよ。
F:そうでしたか。テスラもBYDも実現していない。
磯:テスラは「モデル3」と「モデルY」がマイナーチェンジしたくらいですかね。
F:多くのメーカーがEVを立ち上げましたが、実は1台限りで消えてしまうことが多いんですね。なるほど、リーフは「世界唯一の3代目EV」である、と。
冒頭から記事のタイトルになるようなキーワードをいただきました。まずは、この3代目は何を目指してどう造ったのか。そこから教えてください。
最初からBセグのクロスオーバーEVとして企画がスタートした
磯:目指したのは「フューチャースタンダードEV」です。とにかく、“ど真ん中のEV”を造ろうと思いました。いかにもEV然とした、例えば空力優先で使い勝手を犠牲にするようなことのないクルマを造る。
普通のお客様が、普通に乗って、不満が出ないクルマにするよう心がけました。室内の広さをしっかり確保して、航続距離も長く取る。例えばもっとスポーツカーライクな、全高を低くしてヌルっと滑らかなセダンにしてしまえば空力は当然良くなります。空力を良くすれば、それだけ航続距離も延びる。そこだけを目指せばセダンにしてしまった方が性能的には良くなるのですが、今はセダンの市場がどんどん縮小している上に、やはり居室空間が犠牲になってしまう。
F:いまさらですがセダンは絶滅危惧種。やはり主流はSUVなんですね。
磯:はい。セダンだけでなくハッチバックの市場もかなり厳しくなっています。グローバルで見ても、ハッチバックで今もしっかり売れているのはゴルフくらいですね。かつてはセダンやハッチバックが乗用車の中心でしたが、今はもう明らかにクロスオーバー、SUVの時代です。ですから今回のリーフは、企画の最初からBセグのクロスオーバーEVとしてスタートしました。
F:なるほど。3代目リーフは計画当初からクロスオーバーとしてスタートした。
ボクシーなSUVでなく、シュッとした姿である理由
磯:はい。ですが最初のコンセプトは「もっと四角いクルマ」でした。3代目の初期デザインは、実はもっとSUVっぽいボクシーな形状だった。でもそれはリーフじゃないだろうと。市場性を考えればクロスオーバーにしなければいけません。しかし単に背を高くしてカクカクと四角くすれば良いという訳でもありません。“リーフとしての滑らかさ”が必要ですし、やっぱりEVとして空力も良くしたい。空力は航続距離に直結しますから、そこは無視できません。
3代目リーフはクロスオーバーでありながら、できるだけ空気をきれいに流す形にしています。最初のボクシーな案から、リーフらしい滑らかなシルエットへ寄せていった。市場が求めるクロスオーバーでありながら、EVとしての効率も落としたくない。その折り合いをどこでつけるか。そこはかなり議論しました。
F:なるほど。今のリーフがいわゆる四角いカクカクのSUVではなく、シュッとした姿である理由がよく分かりました。ところでその「フューチャースタンダードEV」なる考え方は、走りにも表れているのでしょうか。私が試乗してまず驚いたのは静寂性でした。前のリーフも十分に静かなクルマでしたが、今回の静けさは文字通り桁違いです。どこがどのように効いているのでしょう。
3代目にして初めて採用した“真のEV専用プラットフォーム”
磯:いくつか要素があるのですが、第一に挙げられるのが“EV専用プラットフォーム”を採用したことですね。
F:えーと、あれ……リーフは初代からEV専用プラットフォームじゃありませんでしたっけ?
磯:外向けにはそういう言い方をしてきた部分もありますが、開発現場の感覚でいうと、初代と2代目はEV専用と言い切るにはちょっと無理があります。初代リーフは、ティーダなどで使っていたBプラットフォームをベースに、EV向けに大改造したものです。2代目も基本的にはその流れを引き継いでいます。もちろんEVとして成立するように大きく手を入れていますが、EV専用としてゼロから起こしたものではありません。
F:や、そうでしたか。世界初の量産EVと言われたリーフも、最初から完全なEV専用構造だったわけではない。
磯:はい。始めた当初は、そもそもEVがどれくらい売れるのかもまったく見当の付かない時代でしたからね。だから既存のプラットフォームをベースに設計したんです。今回はアリアにも使っているEV専用プラットフォームをベースに、ホイールベースを短くして使っています。
F:つまりリーフは3代目にしてようやく“EV専用プラットフォーム”を採用したと。そしてそれが静寂性にも効いているということですね。
エンジン用の「大穴」がなくなった──サブフレームが静けさを生む
磯:効いています。エンジン搭載前提のプラットフォームは、どうしても重くて大きなエンジンを収めるための大きな空間が必要になります。サブフレームにも大きな開口がある。そうすると、モーターを支えるための“手”がどうしても長くなります。手が長いと、振動の伝わり方としては不利になります。
でも今回はEV専用ですから、エンジンを載せるための大きな穴が必要ありません。モーター専用だから、サブフレームそのものをコンパクトにできる。モーターを支える部分も短くできる。その結果、モーターから出る振動が車体に伝わりにくくなるんです。
F:なるほどこれは興味深い。EV専用プラットフォームというと、床下にバッテリーを敷く事ばかりを考えてしまいますが、音や振動にも効いてくる訳ですね。エンジン用の大穴がなくなる。モーターを支える手が短くなる。だから振動が伝わりにくくなる。いや勉強になります。
磁石の位相をずらす~新モーターユニットの静粛技術
磯:さらに今回はモーターユニットそのものも新しくしています。今回のリーフは、モーターをうんと静かにしました。まずモーターをコンパクトにする。そしてひとつの筐体の中に、減速機、ローター、インバーターを全部収めました。ユニットをコンパクトにまとめると、筐体の剛性を高めることができます。剛性が上がれば、余計な振動が出にくくなる。まずそこが大きい。

新型リーフが静かな理由 Photo by A.T.
磯:もうひとつは、ローターの中にある磁石の配置です。モーターは非常に滑らかに回っているように見えますが、実際には磁石の力が切り替わる瞬間に、細かな引っかかりのような振動が発生します。感覚的に言えば、コキコキコキッという感じです。
F:ドンドンドンと押すのではなく、スッスッスッと受け渡していく。力のバトンリレーみたいなものですね。
磯:そうですね。それを実現するために、今回はローター内部の磁石の配置を少しずつずらしています。6分割して位相をずらすことで、力の出方を滑らかにしているんです。
モーターそのものが滑らかに回れば、発生する音や振動も小さくできる。さらに、先ほどのEV専用サブフレームによって、その振動を車体に伝えにくくしている。発生源を抑えることと、伝わる経路を抑えること。その両方をやっています。
F:なるほどなるほど。「エンジンがないからEVは静かだよね」で話が終わってしまいがちですが、実際には、モーターには音も振動もある。減速機にも音と振動もある。それを筐体の剛性、磁石の配置、サブフレームの構造でひとつずつ潰しているわけですね。
運転していても、モーター音はほとんど気になりませんでした。代わりに目立つのはタイヤの発生する「ゴー」というロードノイズです。これが一番気になりました。それとミラーの風切り音。
磯:そうなりますよね。静かになればなるほど、残った音が目立つんです。
F:贅沢な悩みですね。昔ならエンジン音に隠れていたものが、EVだと表に出てきてしまう。リーフはそこまで静かになった。
磯:静粛性は、どこかひとつをやれば終わりというものではありません。モーター、減速機、マウント、サブフレーム、ボディ、タイヤ、空力。全部がつながっています。
F:遮音材を詰め込んで音を閉じ込めるのではなく、音の発生源と伝達経路を順番に詰めていく。3代目リーフの静けさには、ちゃんと構造的な理由があるわけですね。
磯:はい。そこはかなり造り込んでいます。
「3段折れ」制御~1万分の1秒、3ミリ刻みのトルク管理
F:もうひとつ試乗して強く印象に残ったのが、加速の出方です。EVらしいガッとした加速感がある。でも決して乱暴ではない。力強いのにスムーズにスッと出る。あの滑らかさはどのように造っているのでしょう。
磯:モーター制御の造り込みです。モーターはトルクの立ち上がりを細かく制御できます。単に速く走らせるだけなら、トルクを一気に立ち上げればいい。でもそれをやると、車体に振動が出たり、ギアのバックラッシュによる“歯打ち”が出たりするんです。
歯車には必ず“遊び”の部分があります。これがないと歯車は回りません。そこにいきなり大きなトルクを掛けると、コツンと当たるような動きが出てしまう。それを避けるために、トルクを一度なまして優しく当ててから、滑らかに立ち上げています。
我々はこれを「3段折れ」と呼んでいるのですが、トルクを直線的にドンと立ち上げるのではなく、途中に一瞬の“ため”をつくる。力の出方を少し整えてから、加速につなげるんです。そうすると、ギアの歯打ちを抑えながら、スッと前に出る加速になります。

3代目リーフは、パワフルかつなめらかに加速できる Photo by A.T.
F:なるほど。踏んだ瞬間にドカンと出すのではなく、一瞬だけ整えてから前に出す。だから速いのに、動きが荒くならない。
磯:はい。それこそが制御です。モーターのトルクをどう出すか、ここは非常に細かく見ています。実際に1万分の1秒単位でトルクを制御しています。たとえば時速70キロで走っている時なら、車が3ミリ進むごとにトルクを制御しているようなイメージです。
F:3ミリ! クルマが3ミリ進むごとに制御を! もはや人間には感じ取れない世界ですね。
磯:もちろん人間が感じることはできません。ただ、その細かい制御の積み重ねが、最終的な滑らかさに繋がるんです。ドライバーは単に「なんとなく滑らかだな」「変なショックがないな」と感じる程度ですが、その裏では極めて微細な制御を行っているのです。
EVの進化は「何秒で何キロ」ではない~日産が積み重ねた技術思想
F:良いお話です。EVの加速というと、つい「何秒で何キロに達する」なんて話になりがちです。でもリーフが狙っているのは単に人を驚かせる加速ではない。踏んだ分だけ自然に出る。しかもショックが少ない。そこにEVのパイオニアたる日産が積み重ねて来た技術の蓄積がある。
磯:初代リーフでは、ペダルを踏んだ時の加速をリニアにすることを大切にしました。2代目ではe-Pedalによって、減速も滑らかにしました。そして今回は、走る、曲がる、止まるという3つをパッケージとして、EVらしく滑らかにしようとしています。
加速だけが滑らかでもダメですし、減速だけが自然でもダメ。ハンドリングも含めて、クルマ全体の動きがつながっていないと、普通のお客様が違和感なく乗れるEVにはなりません。リーフは3代続けてEVを造ってきました。そこは我々の最大の強みだと思っています。
「普通にするための努力が、まったく普通ではありません」
F:ここまで来ると、EVというよりも、よく調律された機械に乗っている感覚に近いです。
磯:そう言っていただけると嬉しいです。EVらしい加速感はありながら、日常で扱いやすいことを大切にしています。

Photo by A.T.
刺激だけならもっとハデにできる。しかしそれでは毎日乗るクルマにはなりません。
“日常の足”として、どう整えていくか。「フューチャースタンダードEV」という言葉が、腑に落ちてきました。未来っぽさを誇示するのではなく、未来のクルマを普通に扱えるようにする。そのために、1万分の1秒単位でトルクを整えている。
普通にするための努力が、まったく普通ではありません。
このお話は次週に続きます。お楽しみに!
リーフは「世界初の量産型EV」なのか?
こんにちは、AD高橋です。
先週お届けしたリーフ試乗編の原稿内に、フェルさんのこんな発言がありました。
「ところでリーフは世界初の量産型EVなのか」
フェルさんも書いていたように、正解は「否」。リーフは世界初の量産EVではありません。初代リーフが発売された前年に三菱がi-MiEVを発売。さらに歴史を紐解くと、さまざまなEVが世に送り出されているのです。
EVの歴史は19世紀に始まった
アメリカ・エネルギー省のWEBサイトによると、19世紀初頭にはハンガリー、オランダ、アメリカで最初の小型電気自動車がいくつか開発されていたと言います。自動車の黎明期は、さまざまなパワートレインが採用され、その結果自動車に適したパワートレインとしてエンジンが生き残ったのでしょう。
日本でも1900年代初頭から電気自動車の開発が行われていたそうですが、大きく注目されたのは戦後のこと。当時はガソリンの入手が困難だったことに加え、敗戦後すぐで工場が稼働していないことから電力に余裕があった時代。そのため電気自動車への注目が高まり、いくつかの会社が開発に乗り出しました。
「たま電気自動車」~日産のルーツが生んだ戦後のEV
そして1947年、後に日産と合併するプリンス自動車工業の前身である東京電気自動車が「たま電気自動車」を発売しました。たまは発売翌年に行われた政府主催の性能試験でカタログ値を上回る航続距離96km、最高速度35km/hを記録。その性能の高さが評価され、タクシーとしての需要が高かったそうです。
しかし1950年に朝鮮戦争が勃発したことで鉛の価格が高騰。またガソリンの統制が解除されたことで電気自動車からガソリン車に入れ替わっていきました。

東京電気自動車が開発した「たま」。日本機械学会「機械遺産」に登録されている
オイルショックが再点火したEV開発の火
1970年代に発生したオイルショック以降、自動車メーカーはEVの研究開発を進めていきます。日産は1985年に開催された第26回東京モーターショーにコンセプトカー「EVリゾート」を出品。これは高原のリゾートホテルなどで、ホテルとコテージの間を移動する送迎車としての用途を想定したものになります。

日産 EVリゾート(広報写真)
そして1987年の東京モーターショーではマーチをベースに開発した「マーチ EV-2」を参考出品しています。

日産 マーチEV-2(広報写真)
90年代、リースプログラムで実用化へ
90年代もモーターショーにおいてEVのコンセプトモデルを出品。そして90年代後半になると将来の実用化に向けて地方公共団体などへのリースプログラムが動き出します。
1997年2月、世界初のリチウムイオンバッテリーを採用した電気自動車として「プレーリージョイ EV」のリース販売を開始。同年12月のロサンゼルス・オートショーでは新型電気自動車「アルトラEV」を発表し、カリフォルニア州の官公庁や法人向けにリース販売を開始しました。

プレーリジョイEV(広報写真)
2000年代に入ってもさまざまなEVのコンセプトカーやテスト車両を公開。そして2010年末、量産EVである初代リーフが発表されました。初代リーフの発売から15年以上。しかしEVにはさらにもっと長~い歴史があるのです。
(AD高橋)