推し活にのめりこんだ20代の女性が、「転売ヤー」に…その先に思わぬ制裁 なくならない高額転売、実はファン全体にとっても「落とし穴」

取材に応じる、転売を繰り返していた20代の女性=3月、東京都内

 東京都在住の20代の女性が、「STARTO ENTERTAINMENT(スタート社)」に所属する男性アイドルグループのファンになったのは中学生の頃。ファンクラブに入会し、ライブの度に抽選に申し込んだが、人気は年々高まり、ほとんど当選しなくなっていった。

 ネットで取引されているのを知ったのは社会人になってから。転売サイトには「どうしても行きたかったライブ」のチケットがあり、高値で購入。その後、自らも転売するようになった。その先に、「制裁」が待ち受けているとは思いもしなかった。

 音楽ライブやスポーツの公演チケットの不正転売が社会問題になって久しい。1回の転売でも違法で、主催者側は公認リセールサービスの利用を促すが、現在も転売サイトでは高額な出品が後を絶たない。関係者はファン全体に負担が生じかねない「落とし穴」の存在を指摘する。(共同通信=助川尭史)

「STARTO ENTERTAINMENT(スタート社)」が入るビル

 

 ▽「安心安全」信じて転売

 女性が利用した転売サイトでは、利用者の本人確認を徹底するなど「安心安全」がうたわれていた。「詐欺の心配は無いと思った」。価格は定価より高いが、それだけの価値があると思えば気にならなかった。

 その後も何度か転売サイトでチケットを購入したが、ある時、風邪をひいてライブに行けなくなった。そのチケットを出品したのを機に、転売にも手を出すようになった。

「当時は公認リセールも無く、正規ルートで交換したり譲ったりすることができなかった。空席を作って会場に穴を空けるぐらいなら、自分が買ったチケットみたいに売ればいい。みんなやっていることだと気軽に考えてしまった」

 出品価格は他のチケットを参考にして付け、定価の10倍で売れたこともあった。得た利益は次の公演の抽選購入に充てた。行けなくなれば再び転売し、最終的に取引回数は90回近くに及んだ。

取材に応じる女性=3月、東京

 ▽大好きなグループに迷惑かけ「反省」、でもなぜ違法かは「分からない」

 ところが昨年、スタート社側の弁護士から突然、メールが送られてきた。「不正な転売情報を調査した結果、あなたが出品者だと判明した」。文面には硬い言葉が並び、最後には法的措置を取ることが示唆されていた。

 「突然のことでびっくりして、メールを送ってきた弁護士事務所の名前を検索する中で、転売が違法だと知った」

その後、協議の末に和解したが、女性が数百万円に上る解決金を支払わなければならなくなった。

 女性は取材中、利ざやを得ることを目的した「転売ヤー」とは違うと何度も否定した。

「もうけるためにチケットを買ったことは無い。同じライブは二度と無いし、できることなら全て行きたいという思いで応募している。どうしても行けなくなったチケットを交換するような感じで利用していただけ。大好きなグループにも迷惑をかけてしまい、反省している」

 取材の最後に、なぜチケットの転売が法律で禁止されているかを尋ねた。女性は当惑した表情で語った。「法律でいけないとは知ったけど、なぜかはちょっと分からない」

入場券不正転売禁止法違反容疑で押収されたチケット=2023年5月、警視庁赤坂署

 ▽転売行為は厳罰化も、摘発は年間十数件

 希少価値の高いチケットを買い占め、高額で売りさばく転売行為は、長年問題視されてきた。ファンにとって正規価格での入手が困難になるばかりか、発生した利益は主催者に還元されず、双方にとって大きな不利益となるためだ。

 かつての「ダフ屋」は主に会場の周辺で取引が行われていたため、都道府県の迷惑防止条例で取り締まりの対象とされてきた。だが、インターネットの普及で、誰もがサイトを通して手軽に転売できるようになり、条例で取り締まれないケースが増加。こうした状況を踏まえ、2019年に主催者の同意なく定価を超えて転売する行為を繰り返す行為を禁じる「入場券不正転売禁止法」が施行された。

 ネットでの取引も規制対象となったほか、100万円以下の罰金や懲役刑が科されるなど重い罰則も設けられた。所管する文化庁は今年に入り、法律の内容を解説するショート動画や啓発ポスターを公開するなど、若年層に向けた周知に力を入れる。

 だが、摘発件数は毎年十数件にとどまり、転売サイトでは現在も高額なチケットが大量に取引されている。個人を刑事罰に問うには「業として」転売を行っていることを立証する必要があり、場を提供するサイトについても1件ごとの取引について積極的に関与し、犯罪を手助けしていると追及するには高いハードルがあるとされる。

 ▽1万件の情報開示に高額賠償請求も、不正転売後絶たず

 こうした状況下で、スタート社は法的措置を通した責任追及の姿勢を強めている。

 これまでにタレントが出演するライブの主催会社と共に、複数の転売サイトに1万件以上の出品者の情報開示を実施。今年3月にはサイトの運営会社に手数料の利益の返還を求める訴訟と、悪質な「転売ヤー」と判断した東京都の男性に約2300万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁にそれぞれ起こした。

 スタート社の和田美香取締役は憤りを隠さない。

「設営費や人件費を負担するだけでなく、公演がキャンセルになった時のリスクを負いながら、ファンがお小遣いをためてライブに行ける価格を目標にチケットの定価を設定している。そんな努力が公然と踏みにじられている」

 一方、急用などで行けなくなった際の救済策として、チケットを定価で譲れる主催者公認のリセール制度も広がっている。スタート社でも昨年6月に所属タレントが出演する公演チケットの公認リセール「RELIEF Ticket」が始まったが、和田氏は「不正転売の件数はサービス開始後もほとんど変わっていない」と声を落とす。

 RELIEF Ticketの利用期間は公演の2日前までで、出品時にはチケット額面の10%超、購入時には15%超の手数料をそれぞれ課している。こうした取引期間の制限や手数料を設ける仕組みは、適正なチケット流通を守るために多くの公認リセールで取り入れられている。

 だが、ネット上には「出品できる期間が短い」「ライブに行けない上に、手数料まで取られるのはあんまり」との不満も漏れる。

 ▽「リセール整備は主催者の義務?」裁判所の判断は

 過去には転売を禁止する以上、主催者がリセールの仕組みも整えるべきか否かが争点になった訴訟もあった。

 2023年、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのチケット転売を禁じる規約は無効として消費者団体が差し止めを求めた訴訟の判決で、大阪地裁はキャンセルや転売を認めないことは「チケット価格の高額化を防ぐ目的で合理的」と指摘。リセールの整備については主催者の「裁量判断によるべき性質のもの」だと判断した。

 さらに、団体側の控訴を受けた2024年の大阪高裁判決ではリセールについて「救済効果には限界がある」と踏み込み、仕組みがないことが「直ちに消費者の利益を一方的に害するというのは困難」と結論づけている。

  スタート社のチケット転売を巡る訴訟で代理人も務める中島博之弁護士は、この判例を踏まえ「そもそもリセール制度の整備は法的には努力義務でしかない」と強調する。「購入者の自己都合でチケットのキャンセルが発生しても、公演を中止にできるわけではなく、開催費用は主催者が持つ。自己都合で行けなくなったごく一部の人を救済する制度を設けるかどうかは主催者の判断に委ねられていると理解してほしい」

 リセールの運営には専用サイトの維持費や、人件費など多額の費用もかかる上、不正転売対策の費用も発生している。中島弁護士は、こうした負担が主催者の重荷になっていると指摘し、こう警鐘を鳴らす。

「主催者によっては、不正転売がなくならなければ、対応強化の費用をチケット代に転嫁する判断もあり得る。結果的に一部の悪質な『転売ヤー』のために、ルールを守る大勢のファンが不利益を被ることになりかねない」