日本は、4種類の海底鉱物資源がそろっている世界唯一の国だった! レアアースとレアメタルの違いわかりますか?

スマートフォンや半導体など、さまざまな産業分野で需要が高まっている「レアメタル」。近年、コバルトやニッケル、マンガンなどのレアメタルが、日本近海の海底に蓄積していることがわかってきました。じつは、日本は「排他的経済水域(EEZ)」内に、海底鉱物資源として広く認知されている4種類の海底鉱物資源がそろっている、世界唯一の国です。なぜ、日本には4種類の海底鉱物資源がそろっているのでしょうか。そもそも海底鉱物資源はどのように形成されるのでしょうか。この記事では、その最新の調査・研究結果を紹介します。(取材・文:立山 晃/フォトンクリエイト)

レアメタルの定義を知っていますか?, 「レアアース」はレアメタルの一部, なぜ海で鉱物資源を探す必要があるのか?, 日本近海にある4種類の海底鉱物資源, マンガンクラスト、マンガンノジュール、レアアース泥, なぜ日本近海には海底鉱物資源が豊富に存在するのか, 4種類の海底鉱物資源ができる場所の特徴は

海洋研究開発機構(JAMSTEC) 物質地球科学研究部門 海底資源研究プログラム 鈴木勝彦さん(撮影:柏原 力/講談社写真映像部)

レアメタルの定義を知っていますか?

近年の調査によって、日本近海にはレアメタルが蓄積した4種類の海底鉱物資源がそろっていることがわかってきました。まずレアメタルとは何かから紹介しましょう。

レアメタルという言葉は、じつは和製英語です。これは、経済産業省が「産業に必須で備蓄しておくべき希少金属」として指定している元素の総称です。レアメタルは地殻中に占める割合すべてを合計しても0.8%ほどと、文字どおり「レア(希少)」な元素のことです。

レアメタルの定義を知っていますか?, 「レアアース」はレアメタルの一部, なぜ海で鉱物資源を探す必要があるのか?, 日本近海にある4種類の海底鉱物資源, マンガンクラスト、マンガンノジュール、レアアース泥, なぜ日本近海には海底鉱物資源が豊富に存在するのか, 4種類の海底鉱物資源ができる場所の特徴は

レアメタルとレアアース(図版提供:JAMSTEC)

ただし、希少性だけでレアメタルが指定されているわけではありません。採掘の難しさも重要な点になります。

たとえば、レアメタルであるバナジウムは、レアメタルに指定されていない銅よりも地殻中の存在量は豊富です。しかし、バナジウムは特定の場所に濃集せず、分散しているため採掘が困難です。そのためレアメタルに指定されています。

一方、銅は、バナジウムよりも存在量が少ないのですが、特定の場所に蓄積しているため採掘が比較的容易です。産業に必須な鉱物ですが、レアメタルには指定されていません。

また、資源として利用するには、高い純度で取り出す精製のしやすさも重要になります。そのため、存在量は多いものの精錬に手間やコストがかかるチタンなどの元素もレアメタルに指定されています。

「レアアース」はレアメタルの一部

レアメタルとともによく使われる言葉に「レアアース」があります。レアアースは学術用語で、周期表の第3族の元素です。そのうちの原子番号57〜71は「ランタノイド系列」と呼ばれます。ただし、原子番号89~103までの「アクチノイド」といわれる元素群は、第3族に属しますがレアアースには含まれません。

レアアースはランタノイド系列のみを指すと誤解している人もいますが、イットリウム(原子番号39)も含まれます。さらに、スカンジウム(原子番号21)を含める場合もあります。

レアアースは、その特殊な電子配置によって、磁石や電池、レーザーの高機能化をもたらします。たとえば、原子番号60のネオジムは、強い磁力を持つネオジム磁石に使われ、自動車用モーターから発電機、小型スピーカーなど、さまざまな高性能機器に欠かせないものです。さらに、ジスプロシウム(原子番号66)という元素などをわずかに添加することにより、高温でも磁力が低下しない耐熱性があらわれます。

このようにレアアースには、少量を添加することで高機能をもたらす特性を持つものが多くあります。

レアメタルには、レアアースのすべての元素が含まれます。さらにレアアース以外のマンガンやコバルト、ニッケルなど産業に必須の多数の元素が指定されています。つまり、レアアースはレアメタルの一部であり、レアメタルのほうがより幅広い元素を指すという違いがあります。

なぜ海で鉱物資源を探す必要があるのか?

レアメタルを採取する場所として、近年、海底鉱物資源に注目が集まっています。

現在、世界で商業生産されている海底鉱物資源は存在せず、レアメタルはすべて陸上で採掘されています。それは、陸上の方がアクセスしやすく、採掘や輸送のコストも安価なためです。

ただし、陸上の鉱物資源は、いつかは枯渇するという課題があります。また資源の中には、産出が特定の国に集中しているものや、政情不安を抱える国に資源が偏在しているために、安定的に供給されるかどうか懸念されるものもあります。さらに、資源採掘のさいの環境汚染や児童労働などが問題になっているケースもあります。

ところが、近年の海洋調査により、海底には陸上よりもはるかにたくさんの鉱物資源が存在することがわかってきました。そこで今、海底鉱物資源に注目が集まっているのです。

ただし、日本の近海において、海底鉱物資源がどこにどれくらい存在しているのか、どのようなメカニズムで形成されているのかは、まだよくわかっていません。そのため、私たちJAMSTEC海底資源研究プログラムでは、海底鉱物資源を調査してその成因を科学的に明らかにする研究を進めています。

日本近海にある4種類の海底鉱物資源

海底鉱物資源には、おもに4種類あります。「海底熱水鉱床」「マンガンクラスト(コバルトリッチクラスト)」「マンガンノジュール(マンガン団塊)」そして「レアアース泥(でい)」です。この4種類それぞれについて、まず簡単に紹介しましょう。

レアメタルの定義を知っていますか?, 「レアアース」はレアメタルの一部, なぜ海で鉱物資源を探す必要があるのか?, 日本近海にある4種類の海底鉱物資源, マンガンクラスト、マンガンノジュール、レアアース泥, なぜ日本近海には海底鉱物資源が豊富に存在するのか, 4種類の海底鉱物資源ができる場所の特徴は

4種類の海底鉱物資源(図版提供:JAMSTEC)

●海底熱水鉱床

海底熱水鉱床は、海底火山の活動があるところに形成されます。

まず、海底下にしみ込んだ海水が、マグマの熱で温められて高温の熱水となります。地上ならば水は100℃で沸騰し気体になりますが、水圧の高い深海では300℃といった高温の熱水になることもあります。さらに、酸性の熱水となるので、海底下の岩石から効率的に金属を溶かし出しながら上昇します。

レアメタルの定義を知っていますか?, 「レアアース」はレアメタルの一部, なぜ海で鉱物資源を探す必要があるのか?, 日本近海にある4種類の海底鉱物資源, マンガンクラスト、マンガンノジュール、レアアース泥, なぜ日本近海には海底鉱物資源が豊富に存在するのか, 4種類の海底鉱物資源ができる場所の特徴は

沖縄トラフの熱水噴出孔。海底から熱水が噴き出している(写真提供:JAMSTEC)

海底は低温です。熱水は海底へと上昇しながら冷やされ、水圧も下がります。すると、熱水に溶けていた金属は硫黄と結合して固体の金属硫化物となり、沈殿して「チムニー」と呼ばれる煙突状の構造をつくったりします。

レアメタルの定義を知っていますか?, 「レアアース」はレアメタルの一部, なぜ海で鉱物資源を探す必要があるのか?, 日本近海にある4種類の海底鉱物資源, マンガンクラスト、マンガンノジュール、レアアース泥, なぜ日本近海には海底鉱物資源が豊富に存在するのか, 4種類の海底鉱物資源ができる場所の特徴は

海底熱水域にできるチムニー(撮影:柏原 力/講談社写真映像部)

この海底熱水鉱床には、銅や亜鉛、鉛が豊富です。それらの金属は「ベースメタル」と呼ばれ、さまざまな材料に使われています。また海底熱水鉱床には、金や銀も少量含まれます。

マンガンクラスト、マンガンノジュール、レアアース泥

あとの3種類、マンガンクラスト、マンガンノジュール、そしてレアアース泥は、いずれも鉄・マンガン酸化物が海水中のコバルトやニッケル、レアアースなどのレアメタルを吸着・濃集して、数百万から数千万年のきわめて長い年月をかけて成長したものです。

●マンガンクラスト

マンガンクラストは、金属が濃集した鉄・マンガン酸化物の層が積み重なってできた鉱物です。クラストとは「殻」を意味し、海山と呼ばれる活動していない海底の静かな山の斜面などを、殻のように覆う様子で発見されているため、そのように呼ばれます。

マンガンクラストの中には、蓄電池の材料などとして重要なコバルトを多く含むものがあり、それは「コバルトリッチクラスト」とも呼ばれます。コバルトの含有量が約0.5%以上のものをコバルトリッチクラストと呼ぶ場合がありますが、定まった基準はありません。

レアメタルの定義を知っていますか?, 「レアアース」はレアメタルの一部, なぜ海で鉱物資源を探す必要があるのか?, 日本近海にある4種類の海底鉱物資源, マンガンクラスト、マンガンノジュール、レアアース泥, なぜ日本近海には海底鉱物資源が豊富に存在するのか, 4種類の海底鉱物資源ができる場所の特徴は

上:拓洋第5海山の平頂部にある「マンガンクラスト」(写真提供:JAMSTEC)。下:採取されたマンガンクラストの断面。房総半島沖約350キロメートルにある拓洋第3海山で採取(撮影:柏原 力/講談社写真映像部)

●マンガンノジュール

マンガンノジュールは、深海の海底に分布する球状の金属鉱物です。

マンガンクラストとマンガンノジュールの大きな違いはその形状にあるといえます。

ノジュール(団塊)とは、おもに堆積岩中に写真(左下)のように半分埋まっている、周囲の岩石より硬く丸い石の塊のことです。マンガンノジュールは、ごろごろとした丸みを帯びた形をしています。マンガンノジュールが存在する場所では、一面にこの団塊がごろごろと転がっています。マンガンクラスト同様に、レアメタルを濃集していますが、レアメタルの濃度は水深や海域で異なります。

レアメタルの定義を知っていますか?, 「レアアース」はレアメタルの一部, なぜ海で鉱物資源を探す必要があるのか?, 日本近海にある4種類の海底鉱物資源, マンガンクラスト、マンガンノジュール、レアアース泥, なぜ日本近海には海底鉱物資源が豊富に存在するのか, 4種類の海底鉱物資源ができる場所の特徴は

左:小笠原諸島 天保海山付近のマンガンノジュール(写真提供:JAMSTEC)右:海底から採取されたマンガンノジュールの断面。拓洋第3海山で採取(撮影:柏原 力/講談社写真映像部)

●レアアース泥

レアアース泥は深海の海底下の堆積物中にあり、レアアースが高濃度で濃集した泥です。

最近の調査によって、マンガンノジュールとレアアース泥の分布域は、重なっていることがわかってきました。堆積物なので、海底に堆積した順番に層になっています。

レアアースはどの層にも満遍なく入っているわけではなく、数千年前の特定の層に濃集していることがわかっています。つまり、海の歴史と深くリンクしていることを意味していることが想像されますが、その解明にはさらに研究が必要となります。

レアメタルの定義を知っていますか?, 「レアアース」はレアメタルの一部, なぜ海で鉱物資源を探す必要があるのか?, 日本近海にある4種類の海底鉱物資源, マンガンクラスト、マンガンノジュール、レアアース泥, なぜ日本近海には海底鉱物資源が豊富に存在するのか, 4種類の海底鉱物資源ができる場所の特徴は

レアアース泥。南鳥島周辺の水深5500m付近の海底下から掘削(撮影:柏原 力/講談社写真映像部)

なぜ日本近海には海底鉱物資源が豊富に存在するのか

その国の主権が及ぶ「領海」の外側に広がる、資源の採掘や科学的な調査を自由に行える海域を「排他的経済水域(EEZ)」と呼びます。

日本は世界第6位の広さの領海・EEZを持ちます。そのEEZ内にこの4種類の海底鉱物資源がそろう唯一の国であることが、最近の海洋調査によって明らかになりました。

日本の近海には、産業に重要なベースメタルとレアメタルの両方が蓄積した資源ポテンシャルの高い場所が存在するのです。

なぜ世界でも日本の近海にだけ、4種類の海底鉱物資源がそろっているのでしょうか。

そのおもな理由は、日本の近海にプレートの沈み込み帯があること、さらに年代の古い太平洋プレートの海洋地殻があることの二つにあります。

レアメタルの定義を知っていますか?, 「レアアース」はレアメタルの一部, なぜ海で鉱物資源を探す必要があるのか?, 日本近海にある4種類の海底鉱物資源, マンガンクラスト、マンガンノジュール、レアアース泥, なぜ日本近海には海底鉱物資源が豊富に存在するのか, 4種類の海底鉱物資源ができる場所の特徴は

日本近海の海底鉱物資源の分布域( 図版提供:JAMSTEC)

地球の表面は十数枚の硬い岩板(プレート)で覆われています。プレートは地殻とマントルの最上部を含み、大陸を載せた大陸プレートと、海底をつくる海洋プレートがあります。海洋プレートは中央海嶺と呼ばれる海底火山列で生まれ、移動し、ほかのプレートの下に沈み込んでいます。

レアメタルの定義を知っていますか?, 「レアアース」はレアメタルの一部, なぜ海で鉱物資源を探す必要があるのか?, 日本近海にある4種類の海底鉱物資源, マンガンクラスト、マンガンノジュール、レアアース泥, なぜ日本近海には海底鉱物資源が豊富に存在するのか, 4種類の海底鉱物資源ができる場所の特徴は

プレートテクトニクスの模式図。大陸地殻を含む大陸プレートの下に、海洋地殻とその直下のマントルを含む海洋プレートが沈み込みます。それによって、日本のような島弧では地震が起き、火山帯ができて熱水鉱床が形成されます。(図版作成:酒井春)

4種類の海底鉱物資源ができる場所の特徴は

熱水鉱床ができる海底の火山活動は、中央海嶺や沈み込み帯で見られます。

日本ではおもにフィリピン海プレートが沈み込む沖縄海域や、太平洋プレートが沈み込む伊豆・小笠原海域の水深500〜3000メートルの海域で海底熱水鉱床が発見されています。

太平洋プレートは、南北アメリカ大陸の西側を縦走する「東太平洋海膨(かいぼう)」という中央海嶺で生まれ、東西へそれぞれ移動しています。西側へ移動する方は、長い年月を掛けて日本列島の沖までやってきます。そのため日本近海の太平洋プレートは世界でももっとも年代が古く、1億数千万年前の海底が広がっています。

マンガンクラスト・マンガンノジュール・レアアース泥は、数千万年というきわめて長い期間をかけて成長するので、年代の古い海底ほど形成に有利です。

年代の古い太平洋プレートが沈み込む手前の海山にはマンガンクラストが、南鳥島の周辺ではマンガンノジュールやレアアース泥が発見されています。

具体的に4種類の海底鉱物資源はどこにどのように分布しているのでしょうか。なぜその場所に海底鉱物資源が存在し、どのような仕組みで金属を濃集しているのでしょうか。以降の記事では、この4種類それぞれの研究最前線を紹介していきます。

●取材・文:立山 晃/フォトンクリエイト 

●撮影:柏原 力/講談社写真映像部 

●図版・取材協力:国立研究開発法人海洋研究開発機構