月2970円の携帯料金で「年1回の国内往復航空券」──JALとドコモが仕掛けるJALモバイルの破壊力と提携の狙い

月額2970円(税込み)の携帯料金を払い続けるだけで、年に1回、国内線の往復航空券が手に入る。日本航空(JAL)とNTTドコモが6月5日に発表した「JALモバイル powered by ahamo」は、そんなサービスだ。6月25日午前10時に提供を開始する。

【写真で見る】「JALモバイル powered by ahamo」の発表会でフォトセッションに臨む西田氏と坪谷氏

ahamoはNTTドコモが2021年に始めた携帯電話の料金プランだ。申し込みやサポートをオンラインに限定することで、ドコモの通常プランより大幅に安い月額2970円を実現した。データ容量30GB、5分以内の国内通話無料がセットで付き、契約数は800万回線を超える。今回の新サービスはこのahamoにJALマイル特典を加えたもので、月額料金はahamoと同額だ。追加の月額負担は一切かからない。

追加料金ゼロで年1回の航空券, 他社からの乗り換えでも飛行機に乗るなら得, JALとドコモ、それぞれの思惑, 提携の先に何があるか

ahamoの料金そのままにJAL特典が上乗せされる(写真:筆者撮影)

追加料金ゼロで年1回の航空券

ポイントは「追加の月額料金なしでマイルが貯まる」ことだ。契約者には毎月125マイルが付与され、年間で1500マイルになる。

この1500マイルで利用できるのが「どこかにマイル」だ。JALが16年に始めたサービスで、4つの行き先候補からランダムに決まる国内線往復航空券にマイルで交換できる。行き先を自分で選べない代わりに、訪れたことのない土地との出会いがある。これまでに累計80万人が利用し、リピート率は7割を超える。JAL執行役員の西田真吾氏は「ワクワク感を提供できている」と手応えを語った。通常の特典航空券は路線によって往復9000マイル〜2万1000マイルかかるが、どこかにマイルなら行き先を問わず一律7000マイルで済む。JALモバイル契約者ならさらに78%オフの1500マイルで使えることになる。

追加料金ゼロで年1回の航空券, 他社からの乗り換えでも飛行機に乗るなら得, JALとドコモ、それぞれの思惑, 提携の先に何があるか

グッドデザイン賞など3つの賞を受けた「どこかにマイル」は2026年で10周年を迎えた(写真:筆者撮影)

海外でもSIMの差し替えなしでデータ通信が使える。月額2970円にマイル特典と海外ローミングが付いて、追加料金はゼロ。ahamoの料金はそのままにJALの特典だけが上乗せされる構造だ。

最も恩恵が大きいのは、すでにahamoを使っていてJALマイレージバンク(JMB)の会員でもある人だ。通信契約はドコモのまま変わらず、JALのサイトから「JALモバイルオプション」を申し込むだけでいい。手数料は2200円かかるが、月額料金の上乗せはない。年に1回でもJALの国内線に乗る人や「どこかにマイル」で旅行を楽しみたい人なら、初年度から手数料の元は取れる。ahamoの「大盛り」オプション(月額1980円で計110GB)やポイ活オプションもそのまま使え、ファミリー割引グループにも残れる。

ahamo回線の料金支払いでdポイントが付く仕組みも維持されるため、JALマイルとdポイントを月額2970円で両取りできる。

他社からの乗り換えでも飛行機に乗るなら得

他社からのMNP乗り換えでは、通常のahamoならdポイント2万ポイント(2万円相当)がもらえるキャンペーンが実施されている。JALモバイル版ではこのキャンペーンは対象外で、代わりにJALマイル5000マイルが付与される。さらに申込手数料2200円を免除するキャンペーンも実施しており、終了時期は未定だ。

dポイントは1ポイントが常に1円だが、JALマイルは使い方で価値が大きく変わる。ポイント交換なら1マイル1〜1.5円にとどまるが、特典航空券に充てると路線や運賃次第で数倍に跳ね上がる。マイルを航空券に使う人にとっては5000マイルの実質価値が2万円を超える場合もあり、dポイント2万との差は見た目ほど開いていない。搭乗ごとにボーナスマイル(国内線50、国際線100)も付くため、飛ぶほど積算が加速する。行き先にこだわらない人なら、MNPの5000マイルだけで「どこかにマイル」に必要な1500マイルを超えており、最短4カ月で利用できる。

飛行機に乗る予定がなくdポイントを重視する人だけは、通常のahamoの方が得だ。

JALは25年4月、IIJ(インターネットイニシアティブ)の格安スマホサービス「IIJmio」の回線を借りる形でJALモバイルを始めている。IIJmio版は月額440円(2GB)からの柔軟な料金体系が特徴で、データ利用が少ない人に向く。

追加料金ゼロで年1回の航空券, 他社からの乗り換えでも飛行機に乗るなら得, JALとドコモ、それぞれの思惑, 提携の先に何があるか

2025年4月に始まったIIJmio版JALモバイルの特徴。月額440円からの料金体系を打ち出している(写真:筆者撮影)

ahamo版はドコモの回線をそのまま使う点が大きく異なる。IIJmio版のようなMVNO(大手から回線を借りる事業者)は、昼休みや夕方など利用が集中する時間帯に速度が落ちやすい。ahamo版にはこの制約がない。

海外利用の差はさらに大きい。IIJmio版は海外でのデータ通信に対応しておらず、渡航先でネットを使うには別途「海外eSIM」を購入・設定する手間がかかる。ahamo版は追加料金なしで海外91の国・地域のデータ通信にそのまま対応しており、JALの利用者にとっては実用面でのメリットが大きい。

追加料金ゼロで年1回の航空券, 他社からの乗り換えでも飛行機に乗るなら得, JALとドコモ、それぞれの思惑, 提携の先に何があるか

ahamo版は通信品質と海外利用、IIJmio版は料金の柔軟さをそれぞれ訴求している(写真:筆者撮影)

IIJmio版との食い合いについて問われた西田氏は「ahamoにもIIJmioにも契約がないお客様をお連れするのが狙いだ」と述べ、IIJmio版のプラン体系は「にわかにいじることは考えていない」と明言した。両方を契約すれば「どこかにマイル」の割引が年2回使えるなど特典も重複するが、当然2回線分の料金が発生する。

JALとドコモ、それぞれの思惑

JALは26年に経営ビジョン「ビジョン2035」を掲げ、マイルライフ事業の拡大に動いている。西田氏は「コロナ禍やホルムズ海峡の封鎖を経験し、航空以外の事業を伸ばす必要がある」と語った。通信、金融、電力と非航空領域への参入を進める中で、モバイルは生活に最も近い接点だ。

その提携先にahamoを選んだ決め手は海外ローミングだった。囲み取材でJALの杉山寿英マイレージ事業部長は「IIJmioを始めた時から海外が足りないという声はあった」と明かし、ahamoについて「そのままローミングできるのが最大の魅力だ」と評価した。杉山氏は「若年層の拡大が長年の課題だ」とも語った。ahamoの主力ユーザー層は20〜30代で、ここにマイルの魅力を届けたい考えだ。

追加料金ゼロで年1回の航空券, 他社からの乗り換えでも飛行機に乗るなら得, JALとドコモ、それぞれの思惑, 提携の先に何があるか

囲み取材に応じるJALの杉山寿英マイレージ事業部長(左)とドコモの横山豪経営企画部担当部長(写真:筆者撮影)

ドコモ側の事情は「守り」に近い。25年度決算でドコモは顧客基盤の維持を重点方針に掲げ、前田義晃社長は「短期解約を前提とした流入を抑止し、獲得効率化との両立を図る」と述べた。JALとの提携はこの方針に合う。回線契約はドコモのまま維持され、マイル特典が解約の抑止力になる。囲み取材でNTTドコモの横山豪経営企画部担当部長は「JALがMVNOになるわけではない。顧客流出にはならない」と説明した。ドコモの坪谷寿一常務執行役員はこの形を「通信をas a Serviceとして提供する」と表現し、パートナー企業にahamoを提供する初の試みだと語った。

dポイント経済圏のドコモとマイルを軸にしたJAL。異なる経済圏が手を組んだ理由を、西田氏は次のように語った。「経済圏がきれいに分かれている方が見ている分には美しいと思う。でも実際、私はマイラーだが生活の中でdポイントを貯めるシーンもある」。重なる部分で互いを強化する発想だ。

提携の先に何があるか

懸念がないわけではない。囲み取材で横山氏は「物価や半導体の値上がりといった事業環境がある」と述べた。ahamoの料金改定は一義的にはドコモが判断するが、JALモバイル版への反映については「JALとも話した上で決める」とした。ahamoが値上げすれば、JALモバイル版も連動する可能性が高い。

一方、提携の広がりを期待させる場面もあった。発表会でJALカードとdカードを組み合わせた提携クレジットカードの可能性を問われた西田氏は「ワクワクしてしまう」と笑い、坪谷氏は「ドキドキしながら持ち帰る」と応じた。両社はdポイントとJALマイルの相互交換やJAL NEOBANKなどすでに複数の接点を持つ。坪谷氏はドコモが26年夏に正式提供を予定するパーソナルAIエージェント「SyncMe」にも触れ、「AI分析の基盤としてデータが何よりも重要だ」と語った。JMB会員とdアカウントのデータ連携が実現すれば、両社の顧客理解は一段深まる。