習近平氏、自ら望んでいた世界の指導者に 代償伴いつつ

北京の人民大会堂で行われた晩さん会で習近平国家主席の発言を聞くトランプ米大統領(14日)

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の今回の北京訪問は、中国の習近平国家主席にとって一つの分水嶺(ぶんすいれい)となる。これは習氏が2012年に政権トップの座に就いて以来追い求め、国家の未来を賭けて勝ち取ろうとしてきた瞬間だ。

中国は、ドナルド・トランプ米大統領の車列が首都を後にしたわずか数日後に、今度はモスクワからの統治者を迎えた。これは習氏にとって、米国との14年間にわたる容赦ない経済競争と、ウクライナ戦争を通じてロシアの戦略的囲い込むを図ったことが正当であったと証明するものだ。これまで、現職の米大統領と現職のロシア大統領による国賓訪問を同じ月に立て続けに演出した中国指導者はいない。

この二つの連続訪問により、「習氏は『私はトランプ氏と対等な立場を築いた。トランプ氏に一切譲歩せず、ロシア、イラン、北朝鮮を支持するという基本的外交方針も維持している』というメッセージを送っている」と、ジョージ・W・ブッシュ元米大統領の国家安全保障担当補佐官を務めたスティーブン・ハドリー氏は指摘する。

世界の舞台でのこの勝利には国内の代償が伴った。習氏が加速させた経済政策は、米国に対するレバレッジ(交渉力)を中国にもたらした。しかし同時に、それは工場の過剰生産を招き、中国製品に対する米国の需要をそぎ落とす米側の反発を引き起こした。習氏のロシア支持は、もう一つの巨大市場である欧州の離反を招き、同地で中国を友人扱いしようとする国は減っている。

米商工会議所と中国に特化したコンサルティング会社ロジウム・グループによる新しい調査によると、中国が世界全体の輸出の半分以上を支配する産業の数は、2021年から2024年の間に192から315へとほぼ倍増した。これは、世界全体が吸収できる量を超えて生産を増やすという、中国の戦略の徹底ぶりを物語っている。

同時に、中国政府は30年余りで最低となる年間成長目標を設定し、今年の国内総生産(GDP)成長率の目標を4.5%から5%の間としている。 ここ数年は約5%、10年前は7%から8%だった。

習氏が圧倒的な輸出力に固執することは、時に米国の反発を招いてきた(14日、北京)

習氏にとって、米国を打ち負かすことこそが唯一の重要な競争であり、その優先度は、アナリストらが中国経済をより安定した軌道に乗せられると考えるあらゆる経済改革よりも高い。同氏は国内で米国型消費主義の奨励を拒否し、部下たちに対して「怠け者」の世代を育ててはならないと警告している。

習氏は、ソビエト連邦の崩壊から何よりも一つの教訓を導き出している。それは、ソ連の経済構造が鉄鋼、エネルギー、兵器といった一握りの産業に依存しすぎており、超大国を維持するにはあまりに視野が狭すぎたということだ。

「習氏のビジョンでは、中国は事実上すべての重要なものを生産し、あらゆる重要プロセスを支配し、すべての主要なサプライチェーン(供給網)において脆弱(ぜいじゃく)性を回避しなければならない」と、1970年代にヘンリー・キッシンジャー元国務長官の首席経済顧問を務め、習氏と何度も面会しているロバート・ホーマッツ氏は述べている。

その結果、中国は経済の超大国として米国と対等に渡り合い、かつてのパトロンだったロシアを支えられる国となった。しかし同時に、国内で売れる以上にモノを製造し、海外に売らなければならないという構造的な弱さを抱える国にもなった。

19日から2日間にわたるプーチン氏の今回の中国訪問では、2022年2月にロシアがウクライナへの戦争を開始してから9回目となる習氏との直接会談が行われる。これはロシアの指導者としては異例の頻度であり、ロシア政府がいかに中国に依存するようになったかを示している。

プーチン氏は、ロシア国内で「強い指導者」というイメージが薄れる中で北京に到着した。しかも、戦略的収支(外交的優位性) は一方的に悪化している。ロシアはシリアのバッシャール・アサド大統領を救えなかった。イスラエルと米国がイランを攻撃するのを抑止することもできなかった。そして、米国がロシアの南の国境に位置するアルメニアとアゼルバイジャンの間で和平を仲介するのを、ただ見守るしかなかった。

習氏は今回、プーチン氏を対等な同盟者というよりも、「格下のパートナー」として迎える。

アナリストらによると、プーチン氏は習氏に対し、自分が依然として習氏が当初支持した強い指導者であることを証明しなければならない。また、習・トランプ間に開示されていない合意がないこと、特に習氏がイランに圧力をかけてワシントン(米国)に明確な勝利をもたらすような合意がないことを確認する必要がある。さらに、原油の購入や軍事部品の調達を含む、ロシアの戦争に対する中国の物資支援の維持を確実にする必要がある。

プーチン大統領の中国訪問は昨夏以来(写真は昨年8月、上海)

習氏がプーチン氏とのパートナーシップにおける明確なリーダーである一方で、トランプ氏との首脳会談は、自身が対等な存在であることを示す試みだった。昨年末、中国を世界主要7カ国(G7=グループ・オブ・セブン)に匹敵する経済大国になぞらえ、中国との会談を「G2」と呼んだのは、習氏ではなくトランプ氏の方だった(中国はG7に含まれていない)。

トランプ氏は今回の米中の北京サミットを再び「G2」と呼んだ。中国は対等なパートナーという地位を歓迎しているものの、この呼称を公に受け入れてはいない。中国の政策顧問らは、そうすることは習氏が中国政府に有利な世界秩序の再編を目指す上で、その中心となっている「グローバル・サウス」諸国の聴衆を遠ざけることになると指摘する。

習氏は先週のトランプ氏とのサミットを利用して、米政権をより予測可能な枠組みに閉じ込めようとした。その手段となったのが、北京側が会談の総括に盛り込んだ「建設的な戦略パートナーシップ」という文言だ。

米シンクタンク「スティムソン・センター」の中国プログラム担当ディレクター、孫韻(スン・ユン )氏によると、この表現には背景がある。昨年、マレーシアで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)会議の傍らで、マルコ・ルビオ国務長官が中国の王毅(ワン・イー)外相と会談した際、ルビオ氏は目標が「戦略的安定」であると述べた。中国側はそこに「建設的な」という言葉を付け加えた。これは、当時のビル・クリントン大統領と江沢民国家主席が1997年の米中首脳会談で採択した共同声明の文言 「建設的な戦略パートナーシップ」を意図的に模したものだ。当時、米政府の中国に対する姿勢はライバルではなくパートナーシップであり、それは経済統合が進めば中国はやがて政治的に開放されるという、のちに放棄された賭けに基づいていた。

ホワイトハウスは17日に発表した北京での米中首脳会談に関するファクトシートで、「公平性と互恵主義に基づく」という言葉を付け加えつつも、「建設的戦略安定関係」の構築という枠組みを採用した。

それでも、テクノロジー、イラン、台湾を巡る根本的な緊張は何一つ解決していない。

前出のハドリー氏は次のように語る。「われわれは戦略的安定と戦略的競争の両方を抱えることになる。課題は、中国との衝突や戦争に発展しないよう、戦略的安定を維持しつつ、いかに戦略的競争を管理できるかだ」

習氏は昨年、トランプ氏による新たな関税措置への対抗として、中国の経済力を初めて武器として解き放った。ノートパソコンや携帯電話、半導体から戦闘機に至るまで、あらゆるものの製造に必要な重要鉱物へのアクセスを遮断できることを証明した。それは、習氏の産業政策が国内にどれほど問題をもたらそうとも、中国は世界で最も強力な国と渡り合い、自らの最も重要な地政学的目標においてレバレッジを確保できることを示した。

習氏は、多くの経済部門にわたり中国を凄まじい工業生産の時代へと導いてきた(写真は今月、上海港で輸出を待つ電気自動車)

それらの目標の中で、習氏にとって、中国が自国領土への統合を誓う台湾ほど重要な議題はない。トランプ氏は台湾について、中国政府が歓迎する姿勢を示している。米中会談翌夜のFOXニュースのインタビューで、トランプ氏は海峡の緊張の高まりについて台湾当局を非難し、「米国の後ろ盾があると思って、誰かが独立を宣言したり、独立に突き進んだりするのを許すつもりはない」と述べ、保留されている台湾への武器売却計画を「交渉のカード」として扱う考えを示唆した。

米国の台湾への関与に対する試金石は、トランプ氏がこの保留中の武器売却を承認するか、あるいは台湾から譲歩を引き出すために武器売却を利用するかどうかだ。もし後者の動きに出れば、台湾への武器売却に関して中国政府と協議しないとした1982年以来の米国の「保証」に違反することになる。

習氏の外交的演出の根底には、一つの賭けがある。それは、米国との競争は工場とサプライチェーンで最終的に決着がつくということだ。そして、その競争に勝つために国内でいかなる痛みを伴おうとも、最終的には米国が封じ込めるのが難しく、世界がそれなしでは生きていけない中国が誕生する、という賭けだ。